‐外‐


純「おっ?」

憂「……」

純(憂がケーキ屋の前にいる)

憂「うーん……」

純(ケーキ買うのかな? いやでも待てよ)

憂「どうしようかな……」

純(……近々あるケーキの必要なイベントって)

憂「やっぱり自分の誕生日だし、自分で作っちゃおうかなあ」

純「待てい!!」

憂「あっ、純ちゃん。どうしたのこんなところで?」

純「いやー、入試も終わったことだし、ここは一つ散歩でもと……じゃなくて!」

純「なんで自分でケーキ作る流れにしちゃってるの!」

憂「おかしいかな?」

純「自分の誕生日に自分でケーキ作るなんて、そんな寂しい誕生日は純ちゃん許さないぞ」

憂「寂しくなんかないよー」

憂「お姉ちゃんも寮から帰ってきてるし」

純「それがケーキの原因か」

純「いい、憂? 誕生日のケーキは自分で用意しちゃいけないの」

憂「でも純ちゃん、一回自分で自分の誕生日ケーキ買ってたよね?」

純「……誰も私の誕生日知らなかったみたいだしね」

憂「あっ、ごめん……。でも、もうちゃんと覚えてるから」

純「ほんと?」

憂「うん。四月上旬でしょ?」

純「アバウト!」

憂「もう、冗談だって。前はケーキ焼いたでしょ?」

純「そうだけどさー。まあ四月上旬って祝いにくいよね、タイミング的に」

憂「そうだね〜」

純(……にしても憂の誕生日か。軽音部で色々計画してはいるけど、
 出来れば平沢家の誕生日パーティーも、より良いものにしてあげたい)

純(そのためには……)


 ‐平沢家‐


純「さあ唯先輩、ケーキを作りましょう!」

唯「うぅ、いきなり純ちゃんが遊びに来たと思ったらこれだよ……」

純「憂は自分でケーキを用意しようとしたんですから。これは由々しき自体です」

純「いくら自立したとしても、唯先輩にはまだ出来ないことがあります。
 それを一つだけでも埋めることが、憂にとっての喜びでもあると思うんです」

唯「ごもっともだけど純ちゃんのキャラじゃないよー……」

純「あとついでにケーキを分けてもらえれば、私も喜びます」

唯「それでこそ純ちゃん!」

純「さあ、早速作りますよ。唯先輩はお菓子作りの経験はありますか?」

唯「前にチョコを固めて溶かしたことならあるよ〜」

純「多分順序が逆ですけど、わかりました」

純「とはいえケーキは溶かして固めるわけにはいかないので、
 そのぐらいの経験は役に立ちませんね」

唯「残念。純ちゃんは作ったことあるの?」

純「こう見えても、クッキーぐらいなら焼いたことあります」

唯「おお、やるねえ純ちゃん」

純「というわけで、今回は私が料理の先生ですね」

唯「よろしくお願いします」

純「いえいえ」


  *  *  *


純「では始めますよー」

純「鈴木純の、三分クッキングー!」

唯「いえーい!」

純「今回は憂の誕生日ケーキを作ろうと思います」

唯「では材料を!」

純「まずはこちら市販のスポンジケーキです」

唯「えっ?」

純「えっ?」

唯「生地は自分で焼かないの?」

純「別に焼いてもいいですけど、一発勝負で失敗してもいいんですか?」

唯「なるほど」

純「ちなみに評判の良いものを買ってきましたから、味は確かですよ。
 安物だとスポンジの時点で不味いので、注意が必要です」

純「では続いてシロップです。これを先に作っておきますよ」

唯「お、これはお酒かな?」

純「今回は洋酒を使ったシロップにしたいと思います」

純「どんな洋酒がいいのかはわからないので、
 とりあえず聞いたことあるラム酒を用意しました!」

唯「変なところで適当だね!」

純「まず水と砂糖を火にかけ溶かし、そこにラム酒を加えて混ぜます」

純「冷ましたらシロップ完成です!」

唯「早いね〜」

純「次の作業は唯先輩にやってもらいますよ」

唯「任せて!」

純「まずスポンジケーキを三枚にスライスしましょう。
 ボロボロにならないよう、気をつけてくださいね」

唯「……が、頑張るよー!」

純「……」

唯「……」

純「……唯先輩って意外と包丁使えるんですね」

唯「それは私を舐めすぎだよ、純ちゃん……」

唯「でも均等に切るのって難しいね。憂はどうやってたんだろ?」

純「色々コツとか方法はあるみたいですけど、よく知らないんですよね」

唯「なんか純ちゃんの下調べって、どこか中途半端だね〜」

純「……自覚してます」


  *  *  *


唯「ほい、ちょっと不格好だけどできたよー」

純「じゃあ次はこの生クリームと砂糖をホイップさせましょう」

唯「よーし、行くよー!」

唯「うりゃりゃりゃりゃ!」

純「おお、勢いありますね!」

唯「おーりゃりゃりゃりゃ!」

純「これなら七分立てぐらい、すぐ出来そうです!」

唯「……疲れた。純ちゃん代わってー」

純「……」


  *  *  *


純「さあ、ついにデコレーションですよ」

唯「い、いえーい……」

純「……疲れてますね?」

唯「なかなかの相手だったよ……!」

純「でももうデコレーションだけです、頑張りましょう。
 さて、まずはスポンジにシロップを塗ります」

唯「塗り塗り〜」

純「そしたら生クリーム」

唯「塗り塗り〜」

純「最後にスライスしたイチゴです!」

唯「……純ちゃん。まだイチゴがスライスされてないよ?」

純「しまった」


  *  *  *


純「気を取り直して、スライスイチゴを乗せます」

唯「そうしたらスポンジを重ねて……」

純「二枚目も一枚目と同様にお願いしますね。
 そして三枚目のシロップも忘れずに」

唯「よし、あとは表面にクリームを塗っていくだけだね」

純「そしてそんなこんなして、イチゴ乗せたら完成です!」

唯「やったー!」

純「なんとか憂が来る前に作ることができましたね」

唯「純ちゃんのおかげだよ〜! ホントありがと!」

純「いえいえ、いつも憂にはお世話になってますから」

唯「えへへ、こんなお友達がいて、幸せだね憂は」

純「……えと、そう言ってもらえると、私も嬉しいです」

唯「照れてる純ちゃんも可愛い〜!」

純「あ、あの、そろそろ梓が憂を連れて、ここに来る頃です!
 お出迎えしましょう、唯先輩!」

唯「うん!」


  *  *  *


憂「ただいまー」

唯「おかえり、憂!」

純「お邪魔してるよ、憂ー」

憂「あれ、純ちゃん? 先に帰ったんじゃなかったの?」

純「まあ色々とね。それより、唯先輩」

唯「うん」

憂「どうしたの二人とも?」

唯「ふっふっふ〜……驚くよ〜!」

憂「お姉ちゃん?」

唯「いいからいいから! 早くあがってあがって!」

憂「ちょ、ちょっと引っ張らないでって〜!」

純「……じゃ、私は帰るねー」

憂「えっ? 純ちゃん、結局なんで家にいたの……?」

純「お邪魔しました〜」


  ‐外‐


純「……」

純「うー、寒……」

純「……」

純「あっ」

純(ちょっとぐらい味見しておけばよかったかな)

純(……なーんて。憂への誕生日プレゼントなんだし、そんなことしないっての)

純(つーか梓も、憂送ったらさっさと帰ってんじゃないよ……。
 私一人で帰ることになるじゃん……)


 「——ん!」


純「んっ?」


 「純ちゃーん!」


純(誰かが、こっちに来てる?)


憂「純ちゃーん!」


純「え、憂!?」

憂「もう! なにも言わずに行っちゃうなんてずるいよ!」

純「あ、いやー……ほ、ほらさ。誕生日プレゼントなら、部活で渡したじゃん?」

純「あれはあくまで、唯先輩からの誕生日プレゼントなんだし」

憂「純ちゃん、プレゼントは一人からいくつ貰っても嬉しいよ?」

純「んー……まあそうかもしれないけど……」

憂「大丈夫。純ちゃんの言いたいこと、ちゃんとわかってるから」

憂「……私、嬉しいんだ」

憂「お姉ちゃんがケーキを作ってくれるなんて、思ってなかったから」

憂「でも、私にはもう一つ嬉しいことがあるの」

純「……」

憂「純ちゃん、ありがとう。ケーキを作ってくれて。私の友達でいてくれて」

純「……な、なにさ今更。私だって好きで憂の友達でいるんだしさ」

憂「うん。私も、純ちゃんが好きだよ」

純「ん……」

憂「……大好きだよ」

純「えっ」

憂「えへへ……。それだけ。じゃあ、また明日ね」


  *  *  *


純「……」

純「……なんだったんだろ、憂」

純(とにかく喜んでたのは伝わってきたから、良かったかな)

純「……」

純「……てか、知ってるっての」

純(憂は、私や梓やスミーレに直、そして唯先輩……。
 他にも皆のことが好きなんだってこと)

純「……」

純(でも、あの笑顔は反則だった。心臓止まるかと思ったよ)

純「……大好き、か」

純「……」

純「あー……顔あっついわー……」

純(……でも本当に可愛いよね、憂ってさ)

純「……」

純(なんだよもう。……ドキドキが止まらないじゃん)



 ——この気持ちって、なんだろうね、憂。



 ‐おしまい‐




最終更新:2014年02月22日 21:57