朝の映画館。
なにやら割引きが効く日だったみたいで、1000円でチケット購入できた。

ちょうどいい時間帯のやつがあって、それを観ることにする。

『世界の終わりに』

全米が泣いたらしい。
いい加減にしろ、って言いたくなるくらい恒例の謳い文句。

「映画館と言えばポップコーン?」

「今の、唯が言ってそうだな」

そう返すと、あからさまな作り笑いをされた。

ポップコーンのLを1つと、飲み物を2つ買って、指定されたシアターに入ると、他に客は居らず貸し切り状態だった。

「朝早いと人少ないね」

「少ないなんてもんじゃないぞ、これ。2人って。経営とか大丈夫なのか」

「ダメなんじゃない?」

「こらこら、身も蓋もない」

「指定席にしたけど、他に誰も来ないなら中央で見ちゃおうか」

「私、映画館の中央の席って初めて」

私も、って言おうとしたけどそこで劇場内の明かりがフッと消えて、闇に包まれて、会話が続くことはなかった。

映画の内容は、タイトルからの予想通り、恋愛ものだった。

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主人公とその友人である少女にはそれぞれ別に想い人がいる

2人は協力して互いの恋愛が成就することを目的にタッグを組み、
様々な方法を試みるがそのどれもこれもが敢えなく失敗に終わる

皮肉なことに、それらの自分と想い人をくっつける作戦により物語の中盤、
2人のそれぞれの想い人が同士恋に落ちてしまう

そのことを知ってしまった2人は互いの人生に絶望し、
真夜中に鉄道路線の上を手を取り合って歩く

そこで2人は、ようやく相手こそが自分の運命の人であるということに気がつく

自分の気持ちと運命というものは釣り合わない

まるで、相手を受け入れたかのように打ち解け合い笑い合う2人だが、

奇しくも後ろから特急列車が近づいてきて---

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2人の席の間に置いたポップコーンを左手で2、3粒摘み、口に放り込む。

サクサク、サクサクとそれは心地よい音を出して砕け散っていく。

たまに、ポップコーンのカケラが歯ぐきに刺さり痛い思いをするけど、放り込む手を止められない。

サクサク、サクサク

左側からも映画の音に紛れて、
よっぽど現実味を帯びてそれは聞こえてくる。

サクサク、サクサク

映画が涙を誘うテーマソングと共に締められる。
CMで流れていたやつで、聞いたことがあると思ったら
それは唯がたまに鼻唄している曲だと気づいた。

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照明が明るいオレンジに劇場全体をゆっくりと照らした。

席を立つ時、誤ってポップコーンの容器をひっくり返してしまって
辺りにポップコーンの残りが散らばった。

それを慌てて拾っている時に言われた。

「これじゃ、まるで私たちが運命の人同士みたい」

って。

泣きはらした目で、笑うから、そんな風に笑ってほしくなくて、少しでも慰めることができるよう、
誰もいないことをいいことに、
くちびるを重ねた。

近づくと、足元からサクサクと音がした。
腰に手をやり、こちらに引き寄せるとさらにサクサクと、なにかが崩れていく音がする。


[そこで2人は、ようやく相手こそが自分の運命の人であるということに気づく

自分の気持ちと運命というものは釣り合わない

まるで、相手を受け入れたかのように打ち解け合い笑い合う2人だが、

奇しくも後ろから特急列車ご近づいてきて---]

運命という二文字が頭をよぎった。

この気持ち、そんな二文字で簡単に片付けられそうになんかない。

拒むでも受け入れるでもなく、頬にまた別の涙が伝っていく。

劇場の中央で、2人きり。

それはまるで、世界の終わりみたいだった。

case 6 『世界の終わりに』

終わり。



最終更新:2014年03月10日 22:55