タロウ『!?』

唯「は、弾かれた……」

純「バリアー持ってるなんて……!」

律『とどめだキングオブモンス!クレメイトビームでタロウを消し去れ!!』

「キュルルルルルルルルルルル――」

バシュンッ!!

タロウ『ディアッ――』

梓「あっ――」


ピコン――ピコ――

澪「……嘘だろ」

ピコ――ピ――

紬「う、ウルトラマンが――」

タロウ『――』ユラッ

ドサァッ!!

唯「――死んだ」

タロウ『』シュワァァ……

梓「っ……ぁ……」

フッ

梓「イヤぁぁぁぁぁっ!!」

律『フハハハハハハハ!ウルトラマンタロウ――敗れたり!』

「キュルルルルル……キュルルルルル!」

律『地球人類よ!お前らの守護神、ウルトラマンタロウは死んだ!』

律『深夜0時!この地域より改めて人類の抹殺を始める!いかなる抵抗も無駄だと思え!』

シュワァァァァ……

紬「そんな……空が」

憂「暗闇に染まってく……!」

律『もう世界に朝は来させん!一日の終わりを、世界の終わりに変えてくれる……!』

梓「あぁ……ぁぅ……」ガクッ

純「あ、梓!?」

憂「梓ちゃん!しっかりして!」

律『ハッハッハッ!さぁ、一旦引き上げだ!』

律『人間どもめ!逃げ場のない恐怖に絶望し、我等の糧となるがいい!!』

澪「ま、待て――」

律『――』スッ

パリィンッ

唯「ひぃっ!?そっ空が……!」

律『――バイバイ」

澪「うそ……律っ――りつうぅぅぅっ!!」

……

………
……

(……ここは……)

何もない真っ暗闇。
目を開けても閉じても、視界には黒一色しか映らない。
そんな空間に、やけに軽く感じる身体がふわふわと浮かんでいて――

(あ――っ)

気づいた時には、その身体も見えなくなっていた。
ただそこにあると感じられるだけ。
文字通りの虚無な空間に、魂だけが取り残されている。


(あ、はは)

その魂ですら、強風に揺らぐ消えかけの灯火みたいなものだ。
『自分』と『虚無』。
その距離は、あまりにも近い。

(これが……終わり……)


『――終わりなんかじゃ――ない』


(っ!?)

突如、一筋の光が闇を貫いた。
光はそのまま、人のような形に収束していく。

『あなたは――まだ戦える――』

(この声――私!?)

『思い出して――本当のあなたを』

「思い出すも何も!本当の私って何!?」

『―――』

「そもそも!あなたは一体、何者なの!?」

『――それは、あなたが一番よく知ってる』

「えっ?」


『目を覚まして。それしか――方法は――』


「あ……」

梓「―――待って!!」

純「あずさっ!」

梓「はっ……はぁ」

唯「よかった……気がついたぁ」

梓「えっと……ここは?」

紬「唯ちゃんの家よ。梓ちゃん、ショックで倒れたの」

唯「本当に良かったよぉ……りっちゃんに続いてあずにゃんまでいなくなったらと思うと」

梓「はっ……律先輩は!?」

唯「わっ!」

梓「教えてください!律先輩は!あの怪獣はどこに――」

澪「――消えたよ」

梓「澪先輩」

澪「ウルトラマンも怪獣も、律も……みんな消えた」

梓「消えた……」

(『ディアッ――』シュワァァ……)

梓(そっか。光太郎さん――もう、いないんだ)

憂「それにしても、律さんが……まさか、世界を滅ぼすだなんて……」

紬「あの暗闇がドームみたいなバリアになってて、他の軍隊も助けに入ってこれないそうよ」

澪「なんだよそれ……それじゃあ、逃げ場なんかないじゃないか!」

紬「こんな状況で、また怪獣が来たら……」

唯「――みんなごめん!」

憂「お姉ちゃん?」

唯「本当にこんなことになるって思ってなくてっ……私が、あんな軽口叩かなかったら、りっちゃんはっ」

梓「それは違います!!」

唯「ひぅっ!?」

梓「ヤプールです!全部あいつがっ!あの悪魔がっ!!」

憂「あ、梓ちゃん!落ち着いてっ」

梓「律先輩をっ……タロウを……ぅぅぅ……うわぁぁぁぁんっ!」

紬「梓ちゃん……」

憂「……ねえ純ちゃん。私のいない間に何かあった?」

純「あのヤプールってやつが、梓を直接狙ってきたの」

憂「えっ!? い、いつ?」

純「たぶん、梓が頭痛起こす前。梓にしか聞こえないように、テレパシーでいろいろ吹き込んだみたい」

憂「ひ、ひどい……」

純「汚いよ!いくらウルトラマンが憎いからって、梓にまで手を出すなんて……!」

唯「ちょっ、ちょっと待って!?」

澪「その、話が全然見えないんだけど……二人は何か知ってるのか?」

紬「教えてほしいな。梓ちゃんがあんなになった理由」

純「……実は――」

……

唯「えぇーっ!?あずにゃんと!?」

澪「ウルトラマンタロウが、一緒にいた……!?」

純「ええ。昨日タロウが現れたあと、梓が行くとこない光太郎さんを助けてあげたみたいで」

紬「その、光太郎さんっていうのがウルトラマンタロウなのね」

憂「はい。私達も会ったんですけど、結構仲良かったみたいで」

純「梓にとってのウルトラマンタロウは、ただの正義のヒーローじゃないんです」

澪「そうだったのか……道理で、あんなになるわけだよ」

紬「なのに私たち、何も知らないで」

唯「あずにゃんのこと変だなんて、軽い気持ちで……」

梓「ひぅっ……ぅぅっ……」

唯「……助けようよ」

紬「唯ちゃん」

唯「詳しい事情とか全然知らなかったけど……このままりっちゃんとお別れなんて、絶対やだよ」

澪「……そうだな。私も、こんなので世界が終わるなんて認めたくない」

唯「りっちゃんだってきっと待ってるよ!ね、あずにゃん!」

梓「……無理ですよ」

唯「――え?」

梓「律先輩がどこにいるかもわからないのに、どうやって探すんですか」

唯「あぅ……」

梓「それに、怪獣が出たらどのみちみんな死んじゃいますよね。無駄ですよ」

唯「……そんな……」

梓「所詮、私たちはただの女子高生でしかないんです」

純「――梓」

梓「ウルトラマンタロウはもういないのに、今さら私達がそんなことしたところで――」

純「梓っ!!」パァンッ!

梓「っ……!」

純「いい加減にしなよ!あんた、光太郎さんになんて言われたか覚えてる!?」

梓「……」

純「君の手で、大切な人を守れって言われたんだよ!あのウルトラマンタロウに!」

梓「……っ」

純「実際、私のことも助けてくれたじゃん!あんたがいなきゃ私ここにいなかったんだよ!?」

純「それをあんたがっ……ウルトラマンタロウを一番知ってるあんたが無駄にしてどうすんのよ!」

梓「……でも」

純「デモもストもなぁぁーい!!」

梓「!?」

純「あんたさぁ……律先輩も光太郎さんも、所詮とかその程度の存在なわけ?」

梓「……それは」

純「違うでしょ!?だったら、ああもボロクソに言われて悔しくないの!?
  なんとかしたいとか思わないの!?」

梓「……しいよ……」

純「聞こえない!」

梓「悔しいよ!!私だって!!本当は――」

梓「――本当は……助けに行きたいよぉ……!」

純「……だったら」

梓「だったら何?私にあの化け物と戦えって!?」

純「そうだよ!光太郎さん言ってたじゃん、あんたが光太郎さんをこの世界に呼んだって」

純「この現状を変えられるのは、梓しかいないんだよ」

梓「変えるったって……私なんかじゃ、どうすることも……」

憂「――そんなこと、ないよ」

梓「……うい……?」

憂「確かに、梓ちゃんの言った通り……また怪獣が出てきたら、みんな死んじゃう」

憂「私達は、ただの女子高生でしかない」

梓「……うん」

憂「でもね。ウルトラマンタロウは、そんな会ったばかりのただの女子高生のために、命懸けで戦ったんだよ?」

梓「……!」

憂「今度は、梓ちゃんが光太郎さんのために何かをする番だと思う」

梓「何かを?」

憂「うん。だって光太郎さんは、梓ちゃんのこと、とっても大事に思ってたもん」

憂「ここで私たちが諦めたら、光太郎さんに申し訳が立たないでしょ?」

梓「それは……そうだけど」

憂「もちろん、ただの女子高生にウルトラマンの代わりなんて厳しいのはわかってるよ」

憂「それでも……私たちは、私たちなりに前を向くことが大事なんじゃないのかな」

梓「――前を――」

梓(そうだ……光太郎さんはいつも前を見てた)

梓(強い敵にも見えない壁にも、全部体当たりでぶつかってた)

梓(自分とは全く関係がない、この世界を守るために――)

『行き止まりよ!もう逃がさないんだから!』

梓(夢の中の私も……世界を守るため、戦っていた)

梓(もしあれも私だとしたら……今まで私に語りかけてきたあの声も……?)

(――気づいたのね)

梓「!?」


――

『こちらアズサ――これより目標を追跡します!』

梓(何これ……)

『いいかアズサ、深追いは禁物だぞ。黒幕の素性が掴めてないんだからな』

『わたしが暴いてやりますよ、隊長!』ピッ

梓(頭の中に、イメージが流れ込んでくる……?)

『さあて――やってやるです!』

タッタッタッ……

――

『――敗者の反対が……勝者だとは限らないぞ!』

「なっ……!」

『我らの怨念は不滅だ!!フハハハハハッ!!ハッハッハッハッ……!!』

「にゃあぁぁぁーっ!!」

梓(落ちていく私の身体)

梓(しかし、その先に見えたのは、絶望の暗闇ではなくて――)

「――ウルトラ、マン……?」

梓「――はっ!?」

梓(そうか……今はっきりわかった)

梓(ヤプールがなんで私を知っていたのか)

梓(そして、私を時々襲った既視感、聞こえてきた私自身の声)

梓(全部、光太郎さんの言った通りだった)

梓(私は――まだ、戦える)

梓「………」パンッ!

憂「梓ちゃん?」

梓「皆さん。取り乱してすみませんでした」

梓「私……もう、逃げません」

梓「光太郎さんの思い……絶対、無駄にしない」

純「あはは、その意気その意気!」

憂「やっと梓ちゃんらしくなったね」

梓「純、ありがと……ひっぱたいてくれて」

純「いいってことよ!」

憂「頑張ろうね!」

澪「でも、これからどうすればいいんだ?」

紬「私たちにもできることって――」

梓「――ライブですよ」

澪「え?」

梓「私たちの演奏を律先輩に届けるんです。そうすれば、律先輩も元に戻るかもしれません」

唯「おお~!あずにゃん、ナイスアイデア!」

紬「確かに……こんな時だからこそ、音楽なら心に響くはずだわ」

澪「でも、律は今異次元にいるんだよな?届くのかな……」

唯「絶対届くよ!だってりっちゃんは、軽音部の部長だもん」

梓「それにこのライブ、うまくいけば、ヤプールの撃退もできると思うんです」

憂「どういうこと?」

梓「ヤプールの餌は人の恐怖心とか絶望だって、ヤプール本人が言ってましたよね」

梓「逆に言えば、プラスの感情を徹底的に送り込めば奴らの餌はなくなるわけですよ」

梓「しかも、怪獣を呼び込むエネルギーもそのマイナスなエネルギーを糧にするって言ってましたし」

澪「なるほど。奴らの思い通りに進ませないってことか」

梓「わざわざ律先輩を依り代にしてるってことは、ヤプールにもそこまで余裕がないんでしょう」

梓「律先輩の短気な性格を思うに、こちらの仕掛けでイライラしてきたら、必ず私たちの前に出てくるはずです」

梓「そこで私たちが説得して、律先輩をヤプールから解放すれば、怪獣だって呼び出せませんから――」

純「世界を救えるかもしれない、ってことね」

澪「そっか、そうだな。何より、これしかやれそうにないもんな」

梓「私たちの放課後で、世界を救ってやりましょうよ!」

唯「いぇっさー!」

澪「なんか、正義のチームって感じだな」

紬「そうね。ほんとに、音楽で世界を救えるなんて……夢みたい」

憂「澪さん、紬さんも!円陣組みましょう!」

澪「ああ!行こう、ムギ」

紬「ええ。必ず、りっちゃんを助けましょう」

梓「それじゃあ、作戦を説明します」

梓「決行は今夜11時!場所は桜ヶ丘女子高校屋上!」

梓「私と澪先輩は楽器を取りに行って後で合流、セッティングが終わり次第演奏を開始します」

純「私と憂はどうしたらいい?」

梓「とにかくノリノリで歌って。とにかくポジティブに、テンションを爆発させるの」

憂「任せて!」

純「かっとばしていくよ!」

梓「私たちの演奏、大空の律先輩に届けましょう!」

「「「ラジャー!」」」

梓「いきますよ!
  作戦名――放課後・ティー・タイム!!」

―――
――


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最終更新:2014年03月28日 07:50