※リクエスト
紬(26)珈琲屋店主、昔の仲間が来店。卒業後のメンバーのその後と悩みを聞く。





紬「いらっしゃい」

澪「こんにちはムギ。ここいいかな?」

紬「ええ」

澪「……」トン

紬「はい、お冷どうぞ」

澪「ありがとう。いつもの頼むよ」

紬「畏まりました」

澪「……あっ、そうだ」

紬「どうかしたの?」

澪「さっきまで直ちゃんいた?」

紬「ええ、お店に来てたわ」

澪「やっぱりあれ直ちゃんだったんだ。声かければ良かったよ」

紬「すれ違いになったんだ?」

澪「うん。スーツ着てたし、ちょっと自信がなかったから声かけそびれちゃった」

紬「ふふっ、そうなんだ」

澪「直ちゃんもよく来るんだ?」

紬「ううん。まだ3回目かな。今日はお礼を言いに来てくれたの」

澪「お礼?」

紬「うん。人事の人を紹介してあげたから」

澪「あぁ。直ちゃん留学で一留してるから、今が就活真っ盛りなんだな」

紬「うん。それで何人か紹介したの」

澪「ムギの家って横の繋がり強そうだもんな」

紬「ううん。この店の常連さんを3人ほど紹介してあげたの」

澪「へぇ~。そういうのもありなんだ」

紬「うん。直ちゃんなら自信をもってオススメできるし」

澪「でも、お客さん嫌がらない?」

紬「大丈夫。その分これをサービスしちゃうから」

澪「あぁ、無料コーヒー券」

紬「うん」

澪「結構儲かってるんだな。この時間なのに8人もお客さん入ってるし」

紬「うんう。最近珈琲豆の原価があがって結構大変なの」

澪「じゃあ大丈夫なの? 無料コーヒー券なんて発行して」

紬「ねぇ、ここの常連さんってどういう会社に勤めてるかわかる?」

澪「うーん……わからない」

紬「この喫茶店の近くの会社に勤めてるの」

澪「……どういうこと?」

紬「つまり、直ちゃんが紹介した会社に勤めたら、常連さんになってくれるかもしれないでしょ」

澪「……なるほど」

紬「ふふっ、ちょっと悪い考えかな」

澪「ううん。そういうのをwin-winって言うんだと思うよ」

紬「そういうことにしておきましょうか」

澪「うん」

紬「はいっ、フレンチトーストと珈琲」

澪「ありがとう」

紬「それで、今日は澪ちゃんどうして来たのかしら」

澪「今日は珈琲飲みに来ただけだよ」

紬「あら、そうなの」

澪「あぁ、私だっていつも頼みごとでくるわけじゃない」

紬「そうなんだ」

澪「そうだぞ」

紬「うーん。それじゃあ、どうしようかしら」

澪「……なにが?」

紬「あの窓際のお客さんいるでしょ?」

澪「眼鏡の人かな?」 

紬「うん、この前お話したの。あの方、保険に興味あるって」

澪「……ありがとうムギ。ちょっと話してくるよ」

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紬「どうだった?」

澪「契約成立!」

紬「さすが敏腕営業さんね」

澪「いやいや、今回のはムギのおかげだよ」

紬「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいわ」

澪「でもいいのか? また無料コーヒー券あげるつもりだろ?」

紬「そうねぇ。このままじゃ経営苦しくなっちゃうかも」

澪「少しだけバックマージン出そうか?」

紬「それは遠慮しておくわ。その代り澪ちゃんが沢山来て売上に貢献してくれると嬉しいな」

澪「週3回じゃ足りない?」

紬「うんっ!」

澪「……もう、ムギは仕方ないな。わかった。できるだけ毎日来るよ」

紬「ふふっ、嬉しいな」

澪「そろそろ会社に戻らなきゃ」

紬「はい、780円になります」

澪「はい」つ千

紬「どうぞ」つ220

澪「それじゃあもう行くよ」

紬「ありがとうございました」

澪「……なぁ、ムギ」

紬「なぁに?」

澪「ありがとう」

紬「どういたしまして」

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唯「ごめん!」

紬「気にしないで、まだそんなに忙しくないから」

唯「でも、遅刻は遅刻だよ」

紬「給料から引いておくから安心して」

唯「えぇ~。それじゃあぜんっぜん安心できないよ~」

紬「うふふ~」

唯「はぁあ……」

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唯「着替え終わったよ」

紬「これ3番テーブル、そっち6番テーブルにお願い」

唯「はい」

紬「いらっしゃいませー」

紬「こちらへどうぞ」

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唯「ご注文はおきまりでしょうか?」

お客「――――――」

唯「はい。はい。では繰り返させていただきます――――」

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唯「カルボ2、チーズ抜きマルゲリータ1、ロゼグラス3」

紬「チーズ抜き? 本当にいいのかもう一度聞いてきて」

唯「はい」

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唯「はぁ、やっと終わったね」

紬「ええ、今日もなかなか繁盛してたね」

唯「うん。順調に常連さんがついてきたね~」

紬「ありがたいわ~。これも唯ちゃんのおかげかしら」

唯「へっ。ムギちゃんの料理が美味しいからじゃないの?」

紬「そんなことないわ。唯ちゃん目当てのお客さんもいるのよ」

唯「えっ、どの人?」

紬「教えてあげない」

唯「う~ん。プライパシーに関わることだから仕方ないねぇ」

紬「ええ」

唯「ムギちゃん目当てのお客さんもいるの?」

紬「どうだろう。でも、私と唯ちゃん目当てのお客さんはいるみたい」

唯「……どういうこと?」

紬「こうすると喜ぶってこと」フ-ッ

唯「……ひゃ///」

紬「うふふ」

唯「突然耳に息を吹きかけるなんて酷いよ!」

紬「ごめんなさい」

唯「いろんなお客さんがいるんだね~」

紬「でもみんなありがたいわ。ねぇ、唯ちゃん。今日は時間ある?」

唯「うん。大丈夫だよ」

紬「それじゃあケーキの試食お願いできるかしら。それで遅刻はチャラにしてあげるから」

唯「うん! チャラにしてもらわなくても試食はやるよ」

紬「あら、じゃあ給料から引いても――」

唯「駄目!」

紬「わかってるって」

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唯「ちょっと酸味が弱いかも」

紬「それじゃあこっちは」φカキカキ

唯「甘さはちょうどいいんだけど、食感にもう一工夫あるといいかな」

紬「ふむふむ。ナッツでも入れてみようかしら」φカキカキ

唯「う~ん、ナッツだと風味が強すぎるからフレークとかどうかな」

紬「そうねぇ、ためしてみるわ」φカキカキ

唯「こんなものでいいかな」

紬「ええ。助かったわ」

唯「満足満足」

紬「ふふっ、唯ちゃんの感想は適切で助かるわ」

唯「私の天職かな~」

紬「本職の方は?」

唯「それが……今月もあんまり仕事入ってないんだ」

紬「そうなんだ。イラストレーターも大変ねぇ」

唯「うん」

紬「お昼もたまにはシフト入れてみる?」

唯「お金は大丈夫?」

紬「うん。唯ちゃんがお昼も入ってくれれば、それ目当てのお客さんも来てくれると思うし……」

唯「……う~ん。でもお昼もバイトしちゃうと本業が益々疎かになっちゃうから、もう少し頑張ってみるよ」

紬「そう。でも私の方はいつでも大歓迎だから」

唯「うん。仕事が全くなくなったら再就職はお願いするね」

紬「永久就職でもどんと来いです!」

唯「ムギちゃんその冗談好きだね」

紬「ええ、大好きなの」

唯「それじゃあムギちゃん、おやすみなさい」

紬「おやすみなさい、唯ちゃん」

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ガラッ

紬「いらっしゃい」

梓「…」

紬「…」

梓「…」

紬「…」

梓「…」

紬「…」

梓「…」

紬「エスプレッソおまたせしました」

梓「…」ゴクッ

紬「…」

梓「…!」パチッ

紬「おはよう、梓ちゃん」

梓「あっ、おはようございます、ムギ先輩」

紬「はい、トーストとゆで卵」

梓「ありがとうございます」ハムッハムッ

紬「まだ仕事忙しいんだ」

梓「今週は寝る間もないですね」

紬「体だけは大切にしてね」

梓「はい、気をつけます」

紬「うんうん」

梓「ところで、このお店大丈夫なんですか?」

紬「どうして?」

梓「いつ来ても私以外お客がいませんよね」

紬「まだ朝の五時半だもの」

梓「そうでした」

紬「ふふっ、まだ頭が回ってないみたい」

梓「でも、いいんですか? こんな時間から店を開いても赤字なんじゃ……」

紬「開いてないよ」

梓「えっ」

紬「【準備中】って表にはかかってるよ」

梓「えっ」

紬「いつも梓ちゃんは気づかないみたいだけど」

梓「……全く気づきませんでした」

紬「ふふっ、いつも眠ったままお店にくるものね」

梓「……すいません。迷惑でしたか?」

紬「ううん。大歓迎。この時間にはもう開店準備はじめなきゃならないから」

紬「でも、梓ちゃんのアパートがお店の横になかったら、どうなってたのかしら」

梓「それは困ります」

紬「そうよねぇ……」

梓「忙しいとは知っていましたが、ADがこれほど忙しいとは……ちょっと予想外でした」

紬「体だけは壊さないように」

梓「あのっ、このお店本当に大丈夫なんですか?」

紬「心配?」

梓「はい。もしもお客さんが少ないなら、特集ぐらい組みますから」

紬「心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。今年はちゃんと黒字だし」

梓「ほっ……」

紬「心配してくれてありがとう」

梓「困ったことがあったらなんでも言ってくださいね」

紬「梓ちゃんは頼りになるわ~」

梓「はい。頼りになる後輩中野梓です」

紬「ふふっ。あっ、そろそろ時間じゃない」

梓「もうそんな時間ですか」

紬「ええ。じゃあいってらっしゃい。あっ、来週のことだけど」

梓「それなら大丈夫です。既に有給申請してありますから」

紬「ふふっ、楽しみね~」

梓「はい。とっても楽しみです」

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律「ちーっす、ムギ」

紬「いらっし……」

律「……ムギ?」

紬「おかえりください!」バタン

律「ムギィイイ!!!!」ガラッ

紬「もうりっちゃん。また会社サボって来たでしょ」

律「だってつまんないし……」

紬「澪ちゃんも唯ちゃんも梓ちゃんも必死に働いてるのに……」

律「あいつらはあいつら、私は私だ」

紬「もう……」

律「カフェラテと葡萄のタルトを頼む」

紬「はい」

律「あっ、このポスター」

紬「ええ、りっちゃんが企画してくれた演奏会」

律「もう来週だっけ」

紬「練習してる?」

律「大丈夫だって」

紬「うーん。ちょっと心配ねぇ」

律「楽しみだな。HTTと若葉の合同演奏会」

紬「ええ、楽しみねぇ~」

律「でも良かったのか? ムギの店を貸し切っちゃって」

紬「大丈夫よ。ちゃんとお客さんからお金は頂くから」

律「でも、打上げ代で消えるだろ」

紬「うん。だけど楽しんでくれたお客さんはまたお店に来てくれるようになるから」

律「ふぅん。そういうものか」

紬「ええ、そういうものなの。はい、カフェラテと葡萄のタルト」

律「うん。美味しい」パクパク

紬「りっちゃん仕事の方は大丈夫なの?」

律「あぁ。自分で言うのもなんだけど、私は要領いいから」

紬「クビにならなきゃいいけど」

律「……たぶん大丈夫」

紬「たぶんなんだ」

律「まぁクビになったらムギのところで働かせてもらうよ」

紬「そうね。店の前で客引きでもしてもらいましょうか」

律「おいっ!」

紬「ふふふ」

律「ムギ……? 突然笑い出してどうしたんだ?」

紬「うん。幸せだなって」

律「……頭でも打ったか?」

紬「こうして軽音部のみんながお店に来てくれて嬉しいなって思ったの」

律「あぁ、唯はバイトしてるんだっけ。澪と梓も来るのか?」

紬「ええ。二人とも良く来てくれるわ」

律「ふぅん。ちょっとだけあの頃を思い出すな」

紬「あの頃?」

律「高校時代のこと」

紬「そうね……あの頃は本当に楽しかったわ」

律「あぁ、楽しかったな。でも、今だって楽しいんじゃないか?」

紬「そうね。特に来週の演奏会は本当に楽しみだわ~」

律「そう言ってくれると企画した甲斐があったよ」

紬「りっちゃん偉い!!」パチパチ

律「そうだろ、そうだろ。それにさ、ムギとお茶を飲んでると感じるんだ」

紬「……なにを感じるの?」

律「それはだな……」

ガラッ
紬「っと、お客さんね。りっちゃんちょっと待ってて。あらあらあら……」

梓「収録の合間に時間が出来たので来ちゃいました。その途中でお二人に会って……」

唯「うんうん。仕事が無いから私も来ちゃった」

澪「あっ、律! またサボってムギのところに!!」

律「……放課後ティータイム延長戦って感じ」

紬「ええ、ほんとうに!」



おしまいっ!



最終更新:2014年04月02日 08:08