部室

純「そういえばさ、スミーレはムギ先輩と一緒に暮らしてたんだよね?」

菫「あっ、はい。でも、暮らしていたというよりは居候させていただいている、と言うべきかもしれません」

純「細かいことはまあいいよ。とにかく、小さい頃からずっと一緒だったんだよね?」

菫「はい、そうですよ。それがどうしたんですか?」

純「いやあ、ちょっと」

ガチャ

純「あっ、三人とも来た」

憂「遅れてごめんね〜」

直「掃除当番してました」

梓「……どうしたのよ、純。そんなにニヤニヤ笑って……」

純「ニヤニヤって失礼でしょ! あのね、スミーレとムギ先輩の昔話を聞こうと思ってさ!」

憂「あっ、わたしも聞きたーい!」

梓「二人の昔話は私も気になるなあ……」

菫「そ、そうですか?」

直「気になりますね。新しい歌詞の参考になるかもしれません」

純「だってさ!」

梓「まあ、菫がよければだけどね」

菫「話すのは別に構わないですよ。 ……そうですね、順を追って話しましょうか」

~~~

わたしは小さい頃、遊園地で迷子になったことがありました。
観覧車を見上げるのに夢中になっていると、いつの間にか一人になっていたんです。どれだけ周りを見渡しても、わたしの知っている人はもういませんでした。
怖くて泣いていると、どこからかお姉ちゃんが駆けつけてくれました。

紬「迷子になってたの?」

菫「……うん」

お姉ちゃんがわたしを見つけてくれたのがうれしくて、また大声で泣いたのを覚えています。

紬「もうだいじょぶだからね。泣かないで、菫」

そう言ってから手をつないでくれて、なんとかみんなのところへ帰ることができたんです。
いつまでも泣いているわたしの頭をお姉ちゃんは優しく撫でてくれました。
結局、わたしたち二人が迷子になったと大騒ぎになってしまって大変でした。わたしもお姉ちゃんも二人揃って怒られてしまいました。わたしが怒られて落ち込んでいると、お姉ちゃんはいつも優しく慰めてくれます。
あの時のお姉ちゃんの握ってくれた手はあたたかかったです。

次に、小学生の頃の話になります。
今もそうですけど、わたしは金髪です。低学年の時だったんですけど、髪の色でからかわれたことがあります。
わたしも一人だけ目立ってしまうので、髪の色について気にしていました。

菫「この髪の色、からかわれるからいやだなぁ……」

紬「気にしなくていいわ」

菫「お姉ちゃんは気にしてないの……?」

紬「うん。気にならなかったわけでもないけど、これがわたしたちだから!」

菫「わたしたち……?」

紬「そうよ、これがわたしたちの自然なんだから。もっと堂々としていいわ!」

後から聞けば、お姉ちゃんもからかわれたことはあるそうです。
けど、胸を張って堂々としていれば何も言われなくなっただけでなく、「綺麗だね」とまで言われるようになったと話してくれました。
事実、わたしも同じようなことを言ってもらえる時があります。
そのことをお姉ちゃんに言うと、髪を梳いてくれました。それから、わたしのこの髪の色は少し自慢です。

~~~

菫「ふう……」

憂「はい、お茶淹れたよ!」

菫「あ、すいません。いただきます」

憂「はい、直ちゃんも!」

直「ありがとうございます」

梓「やっぱりムギ先輩は昔から変わらないんだなあ……」

憂「紬さん、ぽわぽわして優しいもんね〜!」

純「ちょっと不思議なとこもあるけどね」

直「どんな人なのか一度会ってみたいです」

菫「まあたしかに、根本の優しさは変わってないかもしれません。けど、高校に入ってお姉ちゃんは変わりましたよ」

純「そうなの?」

菫「はい。じゃあお姉ちゃんが高校生になった時のことを。わたしが中学一年生の時です」

~~~

わたしが中学一年生の時、お姉ちゃんはこの高校に入学しました。
高校を卒業するまでは自分たちのお父さんの言う通りにすると私たちは決めていたんです。

菫「お姉ちゃんは何か部活に入るの?」

紬「うん、合唱部にしようかなって」

菫「そっか」

紬「明日、部室に行ってから決めようと思うの」

菫「いい部活だといいね」

紬「うん! 高校の部活がどんなものなのか楽しみ♪」

翌日、お姉ちゃんが学校から帰って来ました。とてもうれしそうな表情でした。どうしてなのか気になったので、何かいいことでもあったのか訊いてみました。

菫「合唱部そんなによかったの?」

紬「菫! 私、軽音部に入ることにしたの!」

菫「えっ! 合唱部じゃなかったの?」

紬「軽音部の方が楽しそうだったから!」

菫「そっか……」

本当に楽しそうな笑顔でした。お姉ちゃんは普段からにこにこと笑っています。でも、あんなによろこんでいるお姉ちゃんの顔は久しぶりでした。
それからは卒業まで毎日、その日に何があったのかを聞かせてくれました。
友達の楽器を買うためにバイトをしたとか、友達の家に行ったとか、合宿に行くことになったとか、学祭の練習が楽しいとか……。
たぶんお姉ちゃんにとって、高校生活は本当に楽しかったんだと思います。

~~~

純「それからムギ先輩はN女子大に行って、スミーレがここに入学したと」

菫「はい」

梓「ムギ先輩、そんなに楽しかったんだなあ……」

純「梓は楽しくないの?」

梓「楽しいよ! じゃなかったら、わざわざ毎日部室に来てお茶しないよ!」

純「そ、そっか」

梓「私が言いたいのは、人一倍楽しんでたんだなってこと」

憂「いつも笑顔で楽しそうだったよね」

梓「あ、そういえば……。思い浮かぶムギ先輩の表情はいつも笑ってるかも……」

純「スミーレと直は軽音部に入ってよかったと思ってる?」

菫「はい、もちろん」

直「毎日いろんな人間模様が楽しいですね。先輩方はどうですか?」

憂「ここに来ればみんなと会えるし!」

純「ジャズ研からこっちに来たけど、後悔はしてないよ」

梓「かわいい後輩にも会えるしね」

菫「みなさんが楽しんでいるのならよかったです」

梓「菫はムギ先輩に誘導してもらう形で入部したわけだけど、他の部活じゃなくてもよかったの?」

菫「いえ、ここが一番ですよ。お姉ちゃんが毎日あんなに楽しそうに話してくれた軽音部にわたしも入部できてうれしいです!」

純「私も軽音部後輩として、早く澪先輩たちにも会いたいな〜」

憂「わたしもお姉ちゃんに会いたいな〜」

直「もし会ったら、演奏の披露とかあるんですか?」

純「おっ、もし会うならどこかのスタジオでやりたいね……スミーレの家ってスタジオとかあるの?」

菫「わたしの家じゃなくて、琴吹家です……スタジオはありますよ。一ヶ月くらい前からちゃんと話しておけば、なんとかなるかと思います!」

純「おっ、じゃあ決まりだねー!」

梓「だとしたら先輩たちに聞かせても恥ずかしくない演奏をしないとね!」

菫「え〜! そんな急に無理ですよ〜……」

憂「だいじょうぶだよ、スミーレちゃん! それまでにしっかり練習すればいいんだから。ね、直ちゃん?」

直「はい、新しい曲も考えておきます」

純「おおっ! というか、せっかくだから直にもボーカルやってほしいなー。 ……梓だけじゃ不安だし」

梓「ちょっとそれどういう意味よ!」

菫「ふふ……」

お姉ちゃんへ。
しばらく会っていないけど、お元気ですか?
わたしは軽音部で楽しい時間を過ごしています。お姉ちゃんも先輩たちと同じ寮に暮らしているから、今まで以上に楽しんでいるのかな? もしそうなら、わたしもうれしいです。
わたしたち『わかばガールズ』はこれからもお姉ちゃんたちに負けないくらい楽しく部活をしていくつもりです。
冬休みの間、もし時間があれば『放課後ティータイム』のみなさんの演奏を聞きたいです。その時に、わたしたちの演奏も聞いてもらえたら、と思っています。
もしできるなら、琴吹家のスタジオを使わせてもらえれば……と思います。迷惑だろうけど、お姉ちゃんの方から話してくれれば幸いです。
返信待ってます。

わたしを軽音部まで連れていってくれてありがとう、お姉ちゃん。



おわり