……
カ・ディンギル最上階
きぼうのかけら、復活
――バシュン!!
唯「――ほっ! みんな、ただい――」
憂「お姉ちゃーーーんッ!!」ガバッ
唯「わ!? 憂、くるしい……」
律「唯、すげーじゃん! このこの!!」
澪「唯、私たちの演奏、届いてたよな?」
紬「唯ちゃん、ありがとう♪ 戦いだなんて思えないぐらい、とっても楽しかった!」
梓「ふふ、大人気ですね、唯先輩」
純「梓もお疲れ! いや~キャサリンが急に起き上がってエレベータで追いかけていったときはどうしようかと思ったよ」
菫「でも、その後すぐにみんなの心がつながったみたいになって……」
直「すぐに状況は理解できました。ほとんど、確信みたいなものが……勝てる、って」
梓「うん。私もそう思ってたよ! 菫も直も、よくがんばったね。ちゃんと二人の演奏も届いてたよ?」
菫直「「はい!!」」
晶「……まぁ、最後のギター対決は私が勝ってたけどな」
梓「……え? 私も全然負けてなかったと思いますが」
唯「あ、私も負けてないよ!!」
晶「どこがだ! お前は攻撃の威力はともかく、演奏そのものはしょぼかっただろ!!」
唯「ぶーぶー、違うよ晶ちゃん。気持ちがこもってるかどうかだよ!」
梓「そうですよ、技術力だけにこだわってると絶対たる誰かさんみたいになっちゃいますからね」
晶「言わせておけばこの――」
菖「はいはいそこまでー!」ゲシッ
晶「ぐはっ!? なんで私だけ……」
幸「せっかくみんなの心が一つになったんだから、仲良くしなきゃ」
晶「わかったよ……でも唯に梓。あんたらは渡り鳥として、バンドとしてライバルだからな!」
梓「負けません!」
菖「もー、結局こうなる……ま、面白いからいいけど!」
律「そういや、さわちゃんは?」
唯「……マルドゥークに残ってるよ、やらなきゃいけないことがあるんだって」
ジャニス「――でしょうね。私も、行かなきゃ」
梓「ジャニスさん……」
ジャニス「唯ちゃん、ありがとう。さわ子たちを救ってくれて」
唯「ううん、みんなが助けてくれたんだよ」
ジャニス「……そうね。さ、ここの後始末は私たちに任せて。若者たちはこれからたくさんやることがあるでしょ?」
唯「……うん……私、まだまだたくさん旅がしたいな、みんなと一緒に!」
律「そもそも旅の途中にこんなことに巻き込まれたんだしな。よし、行こうぜ!」
晶「私たちも行くぞ! 私たち渡り鳥には荒野がお似合いだしな。こんな不気味な塔にはいたくない」
梓「私も、みんなと一緒にこれからやりたいことがたくさんあります。さあ、帰りましょう!」
一同「「お~!!」」
……
唯「そのあとのことをちょっと話すよ」
唯「さわちゃんたち七人委員会の人たちは、マルドゥークとか、あの塔とか、もういらなくなったものを封印するためにみんなの知らないところでがんばるんだって」
唯「ずっと前からファルガイアを守るためにがんばってくれてたんだから、そんなにコソコソしなくてもいいと思うけどなぁ」
唯「でも、さわちゃんはたまに顔を出すって言ってくれてたし……きっと、またあの酒場に戻ってきてくれるのかな?」
……
キャサリン「――ふぅ~、こんなもんかしら。これでもうマルドゥークは誰の手にも動かせないわ」
クリスティーナ「できればまた地中深くに埋めちまいたかったけどねぇ。ファルガイアに新しい月ができちゃったわね」
デラ「まぁ、そのほうが記憶を風化させずにすむんじゃないか。罪の象徴、としてこいつが浮かんでれば忘れることもないだろう」
ジェーン「よーし、次は魔塔をなんとかしなきゃ! まだまだ封印しなきゃいけないロストテクノロジーはたくさんあるね~……急ごうよ」
キャサリン「まぁ、そう焦らなくても……ジャニスが表の対処はしてくれてるし、すぐに誰かに悪用されることはないでしょ。それと、ちょっと私、寄りたいとこがあるんだけど――」
……
唯「和ちゃんは、隊長の恵さんと一緒にARMSを続けることにしたんだ」
唯「なんか、渡り鳥の人たちがたくさんARMSに入ってくれたみたいだよ! これからは、モンスターとかから街を守るための部隊になるんだって」
……
恵「――郊外の洞窟に強力なモンスターが住み着き、付近の町に被害が出ています。今回の任務はこのモンスターの討伐。それでは、行動を開始してください」
隊員「「はっ!!」」
和「……荒くれ者だったはずの渡り鳥が……変わりましたね」
恵「ええ。あの日以来、みんなでこのファルガイアを守ろうという気持ちが高まっているわ。いいことね。私たちはその手助けをするため、頑張りましょう」
和「はい!」
和「……唯のおかげね。まぁ、それでもあの子おっちょこちょいだから心配だけど……気が向いたらいつでも戻ってきなさい、唯」
……
唯「それでね、あずにゃんはやっぱりあずにゃんのバンドで旅立つことになったんだ。しょうがないよね、五人でひとつのバンドだもん」
唯「すごいんだよ、あずにゃんたち……『空の渡り鳥』になるんだよ! あの飛行機で空を飛び回って、空飛ぶ遺跡を探すんだって」
唯「本当に、鳥になるんだね! いやー、憂の姉として、あずにゃんの先輩として鼻が高いですなぁ~」
唯「飛行機が飛んでるのを見かけたら、手を振ってみようかな。きっと、気づいてくれるよね?」
……
純「……梓、憂、寂しいんでしょ?」
梓「そ、そんなことないもん!」
憂「寂しくないって言ったら、嘘になるかな……」
純「二人とも分かりやすい反応だこと……まったく、しんみりしてないで楽しもうよ! 初の空の渡り鳥になるんだよ? 歴史に名を刻んでやるぐらいの意気込みで行かなきゃ」
菫「そうですよ! 私、すっごく楽しみなんですから!!」
直「私もです!!」
梓「二人の輝きがまぶしい……!」
憂「ふふ、そうだね、ごめんね? でも私も楽しみなのは同じ。ほら梓ちゃん、がんばって? 梓ちゃんがリーダーだよ!」
梓「うん。ありがとう……私もまだまだみんなで一緒に旅したい。それで、このガル・ウイングで世界中を見に行きたいな。あの日から変わったファルガイアを」
純「目指すは空飛ぶ遺跡! お宝が私を待ってるぜ~!」
梓「もう純ったら、話の腰を折らないでよ! ……ふふ、まぁいいか。よーし、みんな行こう! 直、お願い!」
直「はい! ガル・ウイング……発進ッ!!」
……
唯「晶ちゃんは、『いつかお前と対決して倒す!』って言い残して行っちゃった」
唯「うーん、対決って演奏のことだよね? 練習しなきゃダメかなぁ……ずっと攻撃ばかりで曲の練習してなかったから忘れちゃったよ~」
唯「あ、幸ちゃんと菖ちゃんが言ってたけど、晶ちゃんは『これからはこの力で何ができるか探しに行きたい』って旅に出るらしいよ?」
唯「二人はおもしろそうだからついていくんだってさ。変なの~」
唯「よーし、次に会った時のために練習しとこー! ……うーん、でもしばらくはのんびりしたいかな? なんて」
……
菖「いや~、まさか晶の口から人助けなんて言葉が出るとはね~」イシシ
幸「変わったね……」ウルウル
晶「だからお前ら私のことをなんだと……別にいいだろ! もう力は手に入れた。この力を使って倒すべき奴もいない。だったらこの力は……」
幸「ふふ。わかってるよ? いいことだと思う。晶、これからもついていくから」
菖「私も! なんだかんだでこの三人が一番いいもんね~」
晶「な、何だ急に……ま、まぁ、私も、そう思う……」
幸「そこはボケるとこだよ晶」
晶「なッ!?」
菖「まだまだ甘いね、こんなんじゃ唯ちゃんたちに勝てないよ?」
晶「何の勝負だよ!?」
晶「……唯のやつ、ちゃんと楽器練習してんのか? 次会った時にいい勝負になるようにしてくれよな」
……
唯「みんなが違う道に進むことになっちゃったけど……でもね、私は今日の『さよなら』を寂しいなんて思ってないよ」
唯「どこにいたって、心を一つにつなげればずっと仲間だもん!」
唯「あの日、みんなで心をつなげることができたんだから……ファルガイア中の人がみんな仲間だよ、きっといつまでも」
唯「あ、そうそう。それでね、私たちは――」
……
律「……なぁ、唯。寂しいなんて思ってないよって言ってたさっきまでの唯はどこいった」
唯「……」
澪「しょうがないよ、唯。いくらムギが一緒に来たがってくれてても、家のこともあるんだから……今はコトブキ家が忙しい時期なんだろ?」
律「大丈夫だって、そのうち終わって私らと合流してくれるだろ。それまでは三人で適当に旅してようぜ」
唯「……違うよ。寂しいんじゃないよ? 待ってるんだよ」
澪「待ってるって……? ここで待ってても……」
唯「実はムギちゃんに手紙もらったんだ。これ!」
律「どれどれ……?」
澪「……コトブキ家はあの日以来、ファルガイアのために休みなく動いています、か」
律「各地で現れたモンスターの対処、ロストテクノロジーの封印、バスカーの民との和解、各地にARM機械を導入……こりゃ大変だな」
澪「……ん? 『追伸、そろそろみんなの忘れ物が届く頃じゃないかしら。ちゃんと受け取ってね』って……律、何か忘れたのか?」
律「いや私じゃないって!? 唯だろ?」
唯「違うよ! あ、いや、違わないかな……私の、りっちゃんの、澪ちゃんの、三人の忘れ物だよ」
澪「何だそれ――」
紬「――わっ!!」
澪「――ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!?」カチーン
紬「あ、ごめんなさい澪ちゃん! やりすぎちゃった……」
律「ムギッ!? なんでここにッ!?」
紬「もう、りっちゃん! なんではひどいんじゃない?」
律「いや、すまん……じゃなくて! コトブキ家のことはいいのかよ!?」
紬「うん! 今回は説得に時間がかかったけど……でもいいの。私は私の思いに正直に生きたいから」
紬「ファルガイアのために何かしたいのは、私も家の者も同じ。私は……みんなと一緒に旅がしたい。その旅先で、できることはきっとたくさんあると思うの」
律「……そっか、そうだな」
唯「おかえり、ムギちゃん! 私信じてたよ!」
紬「ただいま、唯ちゃん♪」
律「くそ、仲間はずれ感が……ほら澪、いつまで固まってんだ、ムギが来てくれたんだぞ?」
澪「――はっ!? え、ム、ムギ!?」
紬「澪ちゃん、おかえり♪」
澪「た、ただい……いや、おかえり……?」
唯「澪ちゃん落ち着いて! またみんなで旅ができるんだよ?」
澪「……そ、そうか。ムギ、家のことは……いいみたいだな。ありがとう、嬉しいよ」
紬「ええ♪」
律「ま、めでたしめでたしってか! よーし、こうなったらたまに梓のやつを確保しに行こうぜ」
唯「あ、いいねそれ!」
澪「そうだな。また五人で演奏できたらいいな……いや、その前に、もっと練習するぞ! ずっと戦いばかりで全然弾いてなかったんだからな!」
律「えーと……ムギ、お菓子期待してるぞ!」
唯「私も!」
澪「こら、お前ら~!」
紬「ええと、ごめんなさい、もうスイートティータイム号は使えないの……他の事に使ってるから。だからお菓子を保存しておけるところはなくて……」
唯「そ、そんなぁ~……」ヘナヘナ
紬「大丈夫よ! 私、節約術勉強するから! 荒野を生き抜くには必要だもの」
澪「ムギもすっかり渡り鳥らしくなったな……」
律「ちぇ~、まぁいいや。よーし、当ての無い旅に、出発だ!」
唯澪紬「「「お~!!!」」」
……
唯「あ、見て見て! ここから崖の下が見えるよ!」
紬「広い……いい景色ね」
澪「ほとんどが荒れ果ててるけど……それでもこのファルガイアが好きだな」
律「このでっかい星を私たちが守った、のか……」
唯「私たちだけじゃないよ。あずにゃんたちも、晶ちゃんたちも、さわちゃんたちも……ファルガイアのみんなで」
唯「――いつかこの景色を、緑でいっぱいにしたいな」
律「そういやそんなこと言ってたな、唯。でもどうするんだ? またユグドラシル……はないよな」
紬「あれには頼らなくても、もう大丈夫……七人委員会の人たちはそう言ってたわ。それを信じましょう」
澪「どうやったらできるのか、わからないけど……それをこの旅で探しにいくんだろ?」
唯「うん! みんな……これからもよろしくね!!」
おわり
最終更新:2012年10月24日 22:49