それは、僕が小学校三年の頃。
仲が良い友達がいて、その友達の家はちょっと遠かったが、自転車で初めて遊びに行った。

その通り道に、とても大きな家があり、僕はその家を見てこんな家に住んで見たいと思いながらペダルを回していた。

その家は庭には噴水があり、ロールスロイスの車がよく噴水近くで洗車されていた。

門もかなり大きくて形もいかにも豪華な形をしていた。

この家は普通の人が大金を手にしたらこう言う家を建てるという想像の結晶だ。

僕にはこんな家建てる事は到底無理だろうなぁと子供の僕は現実を見せ付けられた。

秋のある日、僕よりも何歳か年上の女の子が大きな門に捕まり空を見上げていた。

彼女の目は見上げてた空を反射しているかのように青く。

肌は雲のように真っ白で、金色の髪は日光を反射し彼女は輝いてた。

大きな眉毛もチャームポイントの一つだ。

一目惚れをした。
僕の胸は大きく高鳴り、彼女とお話をしてみたい。

彼女がどんな声をしてどんな声をしていて、どんな性格をしているのか知りたい。

僕は彼女を長い時間見つめていた。
彼女は僕の目線に気付き、こちらを見た。

もっと彼女の瞳に僕を写していたかったが、不意に目を逸らしてしまい。
なんだか、恥ずかしくなって僕はその場を去った。

それから、僕は毎日友達の家へ遊びに行った。

勿論、友達が目当てではなく彼女を見る為だ。
彼女のおかげでこの友達とは親友になった。

春のある日。
その日、雨が降っていて僕は片手で傘を差しながら自転車を漕いで彼女を見る。

雨の日も彼女は傘を掲げて空を見上げていた。

彼女は僕を見て、ニコリと笑った。

いつの間にか、彼女は僕を見て笑うようになった。

それは、僕に興味があって笑っているのか、それともただ何も興味が無く毎日家を通る人だから挨拶のつもりで笑っているのかわからない。

けど、彼女の笑顔を始め見た瞬間。
僕の心臓は高鳴りドンドンと身体中に響いていた。

ひょっとしたら彼女は僕のことを好きになったんじゃないか・・・。
そんな、甘い期待が思考を遅らせ目線も彼女から離れず。

僕は電信柱にぶつかった。

自転車に放り投げられ、濡れたアスファルトの地面に強く倒れる。

まずは痛みが走り、その次に服越しに冷たい感触を感じる。

すぐ近くで自転車が倒れる音。
それでもまだ車輪は中を走り続け、回っている。

傘をボロボロでもう使い物にならない。

僕は立ち上がり、擦りむいた腕を見れば腕中が真っ赤で何処に傷があるのかもわからなかった。

大丈夫?

綺麗な声が聞こえた。
声がした方向を見ると、彼女とスーツを着たおじさんいた。

今度はスーツのおじさんが声を掛けてきて、傷の手当てをするから中へどうぞ。
そう言って、僕はお城に招待された。

おの大きな家はやっぱり中もすごく大きくて、見た事のある絵画や銅像が玄関に飾られていた。
凄くボロいギターもあり、何故かそれだけはガラスのケースに厳重に入れられていた。

「大丈夫?」

また彼女が僕の傷をマジマジと見た。

「痛そうね。凄く」

僕は緊張して何も答えられない。

まさかこんな形で、彼女の声を聞けるとは思わなかったし、家に招待されるとも思ってなかった。

「こちらです。どうぞ」

小学生の僕にも丁寧に敬語で話すこの人は彼女の執事なのか?
執事はドアを開いて僕を招き入れた。

「今、傷の手当てをします」

「斎藤、私やりたい!」

彼女は目を輝かせてそう言った。

「そうですか、紬お嬢様は何にでも興味をお持ちで偉いですな」

彼女の名前が紬と言う事がわかった。

「そうね。何事も経験しておかないと後から損しちゃうかも」

「では、終わったら呼び出して下さい」

「えぇ」

そう言って斎藤と言われた執事はドアの向こうへ去って行った。

「さぁ、やるわよ!」

彼女と二人っきり・・・。
何も考えられない。彼女に頭や体を支配されたみたいだ。

「まずは消毒ね!」

そう言って彼女は消毒液を僕の腕にぶち撒ける。

「あっ・・・!」

「あ、ごめんなさい。痛かった?私、保健室の先生がちょっと染みるわよーって言ってたけど・・・言うの遅かったわね。って言うか忘れてた。それ言いたかったのに・・・」

彼女はしょんぼりしてガーゼを幾つか取ると僕の腕を掴んだ。

白く柔らかい腕は暖かく心臓はこれ以上に無いくらいに飛び跳ねた。

「じゃあ血を拭き取るわね」

彼女は優しく腕の血を拭う。

痛みは感じたが、それよりも彼女の手の温もりの方が強い。

「後は、包帯巻くだけね!」

傷なんかもうどうでも良く、恥ずかしくてずっと外を見た僕は彼女がどんな顔をして手当てをしてくれてるのか見たかったので、恐る恐る彼女の顔をを見る。

「・・・ん?」

「あっ・・・」

目が合った。
また心臓が飛び跳ねた。
でも、また見たいと思った。

そして、この状況に少し馴れて来たせいか、僕は考えた。

もしかしたら、これはチャンスなのではないかと。
今を逃したらまた何時ものように空を見上げる彼女を見る生活に戻るのではないのか?

勇気を出し僕は彼女に話し掛ける。

「あ、あの・・・いつも外を見てましたよね?」

「えぇ、見てたわ。そしてあなたは私を見てたわね」

彼女はいたずらっぽく笑った。

その一言で僕は再び黙り込んだ。
あぁ、彼女は僕の事気持ち悪いと思ってたんだ。

「あ、嫌味で言った訳じゃないのよ?」

「あ、はい。その・・・お綺麗だなと思ったから・・・」

「ふふ。ありがとう。ねぇ、私がいつも空を見ているって言ったよね?何でだか分かる?」

「あ、空が好き・・・だから?」

「そうよ。正解!でもね鳥も好きなの。凄くベタなんだけれど私は鳥なの。籠の中の鳥」

「・・・」

「私は空は上手く飛べない。大きく羽ばたきたいけど羽の使い方も知らない。この家は籠で私は鳥。ずっと私は籠の中に閉じこもってる。自由が無いって訳じゃないの。ただ私が臆病なだけ、だからいっつも待ってるの。私よ籠を開けてくれる人。あ・・・ねぇ、知ってる?鳥は歌うのよ」


「たまに、鳥の声に耳を傾けてみてそうしたら素敵な歌が聞けるわよ。はい、終わったわ」

「あ、ありがとうございます!」

「ううん。ねぇ、最後に・・・私の籠を開けてくれる人は見付かると思う?」

僕は彼女の籠を開けられない・・・それを感じ取れるような質問だった。
勿論、彼女にはその意味を込めて言ったんじゃないと思うけど、僕は彼女の籠を開けられない。

理由は分からないが、彼女は何だか凄く遠い。
一生歩いても無理だ。

「はい、居ると思います」

「ありがとう・・・私、あと二年で高校生なの。凄く楽しみ!あ、ごめんなさい。一通り治療はしたから、もう大丈夫よ!また会いましょうね!」

「はい・・・」


僕は彼女と執事に見送られながら友達の家へは行かず帰宅した。

それから、僕は彼女の家の前を通らなくなった。
遠い道を避けて近い道を行く事にしたのだ。

そして、現在。
彼女が僕の家に来た。

姉ちゃんの友達みたいで彼女は昔よりもずっと輝いていた。
籠を開けたの姉ちゃんかよ・・・。
そう感覚的に感じた。

僕は姉ちゃんに挨拶しろと言われ挨拶する。

あの日の事を覚えていると思い始めましてとは言わず澪姉と彼女にだけこんにちはと言った。

「始めまして」

遠い道が音を立てて消えた。


おわり



最終更新:2014年04月07日 23:23