澪「あくらば!」




自分達以外に誰も居ない部室。

そういうことをする場所では無いと理解しつつも行う『行為』は私達にとって、
得難い快感と小さな背徳感を増幅させるには充分だった。


「……ふっ……ん……」

「……ん……ぅ」


優しい口づけは最初だけ。

すぐに互いの舌を絡めあい求めあう。
触れ合えずにいた寂しさを飲み乾そうとするかのように。


「律……早く……」

「……分かってるさ」


せがむ澪の柔肌を軽く指でなぞる。

この感触を知ることが出来るのは自分だけ。
そんな優越感に浸りながらブラウスに手を掛け、ボタンを外す。


外は既に陽が落ちている為に二人を照らすものは無く、
それがまた私達を大胆にさせていた。


そっと胸に手を触れ、丁寧に愛撫する。


「いつ見てもでっかいよな……ムカつく」

「ん……律が揉むからだろ……」

「それだけじゃないだろ……ちゅ……」

「なんだよ……う……」


そのうち、その豊満な胸の上からでも分かるくらいに
澪の心臓がトクトクと高鳴っているのを感じた。


「下、触るぞ」


返答を待たずに澪のスカートの中に手を忍ばせ、
切なく湿り気を帯びた布の先に指を潜り込ませる。


中は溶けてしまいそうな程に熱くて、
時折、指を伝って落ちる雫が微かに揺らめき躍っていた。


「はぁ……! もっと優しく……」

「これくらい強引にされるのが好きじゃなかったっけ?」


緩急をつけつつ激しく指を動かす。
「馬鹿」、なんて言葉が何度か耳に入ったが気にも留めない。

考えることを放棄して甘い目眩を誘う。

ずっと君といたいから。


「今、一瞬凄くキツくなった」

「イきそうなの?」


からかうように舌を出す。


「んっ……く……!」


澪の瞳から涙がこぼれる。
哀しみのではなく悦びの。


指の動きを更に強めて反応を見てみる。
ひたすら入れては抜いてを繰り返し、その度に澪の吐息が滲むように漏れた。


そしてカラダは時に言葉より雄弁。
問いかけてから数分も経たない内に澪の膝が震え始める。


限界が間近なのは明らかだ。


「律、律……! 私もう……!」

「知ってる。……イきたきゃイッちゃえば?」


言い終えるか終わらないかの合間に指を一番深い所まで差し込む。


その瞬間、澪の嬌声が私達以外に誰もいない部室に響き渡った。


「はぁっ……はぁっ……」


澪が静かに目を閉じて寄り添う。

そのまま私の腰に手を伸ばして抱きついたかと思うと、
咬むように肌に爪を立てて紅い傷跡を残した。


「痛いよ」

「……ごめん。もう少しだけ……」


壊れモノを扱うかのように優しく髪を撫で、香りを吸い込んだ。


「そんなに気持ち良かった?」

「……馬鹿」


離すまいと一層強く抱きしめる澪。
躊躇せずに抱きしめ返す私。


ここで離したらそのまま消えてしまいそうで。


「こっち見て」


今日二回目の口づけを交わす。
今度は貪るようなキスではなく互いを確かめあうようなキスを。


「…………」


躯を委ねて息を止める。

気絶しそうな夢を見ながら。


「律……今度は私がする」


そう呟いて覆い被さる。

頬を赤らめ、首筋をなめるようにキスをするその姿は
普段の澪からはとても想像出来ない。


この姿を知ってるのも私だけ。
沢山の『私だけ』の一つ。


「律」


澪が一言断って私の股間に顔を埋める。

恥ずかしくて死んじゃいそうだけど、これは私が澪にだけ見せる一面。


澪にとっての『私だけ』。


「はむ……ん……じゅる……」

「ん……はぁ……澪……」

「沢山溢れて凄いな……感じてくれてるのか?」

「うん……もっと……」


良いよと言わんばかりに応える澪。
私の弱いトコを的確に責めてくる。


なぁ澪。

一緒にいたいよどこまでもずっと。

変わらないキミと。
変わらないワタシと。

この願いさえ叶うのならば、
他の全てをさらわれたって構わない。

これほどまでに君の存在は私にとって大きいんだ。


それを押しつけられるのは苦痛? それとも……


「じゅる……ちゅ……」

「み……お……!」

「ん……いつでもイって良いぞ……」

「違うの……一緒に……」


この昂ぶりを共有したい。
どんなことでも私は澪と一緒が良い。

虚ろな眼で見つめる私。


「うん……好きだ、律」


顔をあげて私に綺麗な笑顔を向ける。
そして、ほんの少し戸惑いながらも私と澪は重なった。


「動く……ぞ?」

「来て……」


ソファの上で蠢く二つの影。
美しいなんて言葉はきっと似合わない。

例えるなら性にしがみつく獣。


澪が動く度に生じる快感と跳ねる飛沫が堪らない。

それは澪も同じように感じているようで、
聞こえるのは互いに互いに名前を呼ぶ声と淫猥な愛の音だけ。


このまま君とどこかへ……。


どこか……?

こんな形の愛しか知らない私達がどこへ行けるというのだろう。


全てが怖くなる。

この訳の分からない恐怖に対抗するにはただただ快楽に溺れるしか無いのか。

暗闇の中で澪の手を捜し当て、握る。


言いようの無いキモチを澪にも理解して欲しい。
身勝手な懇願なのは承知の上だ。


「はぅ……律……」


本当は永遠なんてどこにも存在しない。
いつかどこかで区切りを付けなきゃいけない。


「澪……!」


でも、どうせいつか終わるのならばいっそのこと二人で堕ちようか。


「く……ああっ……!」


本当はそんな勇気無いけど。


「……律、ずっと一緒にいような」

「うん、一緒が良い……」


再び口唇を重ねる。


どうか今だけはこの余韻にしがみつかせて下さい。


おわり



最終更新:2012年10月28日 20:47