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―――
タタタタタ

バン

ドタッ

ガッシャーン

梓「っ……いたたた」

和「派手に転んだみたいだけど大丈夫? あら、あなたは」

梓「えっと……真壁先輩?」

和「真鍋よ」

梓「すいません。真鍋先輩」

和「ところでその荷物だけど……あら、これ…」

梓「割れてますね……」

和「梱包が甘かったみたいね」

梓「……」

和「これ、もしかしてムギへのプレゼントだったのかしら?」

梓「えっ、なんで……」

和「ムギからある程度聞いてるから」

梓「そう…ですか」

和「ねぇ、ちょっと移動しない。ここは人通りも多いし」

梓「……はい」


―――
純「紬先輩!!」

紬「は、はい」

純「好きな人へのプレゼントを何処の馬の骨とも知らない奴にやっちゃ駄目ですよ! 美味しかったですけど」

紬「馬の骨って…」

純「紬先輩は梓のことが好きなんですよね?」

紬「う、うん」

純「そして梓も紬先輩のことが好き」

紬「そうかな?」

純「そうです。そして、好きな人からプレゼントを貰って嬉しくない人なんていません」

紬「私からでも?」

純「もちろん。絶対梓のやつ喜びます。だからちゃんと渡すべき人に渡してください」

紬「…ごめんなさい」

純「私に謝っても意味無いです」

紬「そうね……」

純「あっ、そんなに落ち込まないでください」

紬「でも……」

純「いざとなったら自分がプレゼントですって言って迫れば」

紬「それは流石に…」

純「ですよねー」

紬「でもそうね。プレゼントはちゃんと渡さないと。だけど…」

純「だけど?」

紬「困ってる梓ちゃんの友達を放ってはおけないから」

純「……」

紬「純ちゃん?」

純「ちょっとだけ、梓が惚れた理由がわかった気がします」

紬「そう?」

純「…良かったら二人の馴れ初めを教えてくれませんか?」

紬「梓ちゃんから聞いてないの?」

純「梓はあんまり教えてくれないんです」

紬「うーん。それじゃあ少しだけね」

純「はい、それでいいです」

紬「実はね、梓ちゃんにこの公園に呼び出されたのがきっかけだったの」

純「この公園ですか?」

紬「ええ。最初は本当に些細な理由で呼び出されたの」

紬「あの頃の梓ちゃんは私のことが苦手だったみたい」

純「梓が、紬先輩のことを苦手だったんですか?」

紬「たぶんね」

紬「たぶん私が悪かったの」

紬「梓ちゃんは真っ直ぐな子だから。だから嫌われちゃったんだと思う」

純「でも今は…」

紬「ええ。梓ちゃんは毎週私をこの公園に呼んでくれたの」

紬「ちょっとずつお話して、互いのことがちょっとずつわかってきて」

紬「いつの間にか私は梓ちゃんのことを好きになっていたの」

紬「ほら、梓ちゃんって、小さな体でまっすぐに体当たりしていくでしょ」

紬「そういうところを好きになったのかもしれない」

紬「たぶん、正確な理由なんてないんだけどね」

紬「この公園で会ってるうちに、本当に知らないうちに好きになってたの」

純「いいですね」

紬「えっ」

純「二人はとってもいい恋してると思います。今の話を聞いてそう感じました」

紬「ええ、そうなの!」

純「それじゃあ私はそろそろ行きます」

紬「そうなの? ねぇ、今度部室に来てくれる? お菓子を用意して待ってるから」

純「考えておきます」

紬「絶対に来てね。話を聞いてくれたお礼をしたいし」

純「お礼をしなきゃいけないのは私なのに……。あっ、じゃあ一つお願いしてもいいですか」

紬「なぁに?」

純「二人が付き合ったら、ツーショットで写真を撮らせてください」

紬「もちろんいいわ」

純「紬先輩、ご武運を」

紬「さようなら。また会いましょう」


―――
和「へぇ、じゃあこれはプレゼントだったんだ」

梓「はい。澪先輩と律先輩に協力してもらって選んだのに…」

和「それは残念だったわね」

梓「でも、これからどうしよう……」

和「プレゼント交換のこと?」

梓「今からプレゼントを選ぶわけにも……あっ、そうだ。明日にしてもらえば……」

和「ねぇ、中野さん」

梓「なんですか?」

和「ムギはね、きっとあなたが隣にいるだけでいいのよ」

梓「えっ」

和「確かにプレゼントは嬉しいだろうけど、そんなことより一緒にいてあげなさい」

梓「……」

和「ご、ごめんなさい。お説教をするつもりはなかったの。だけれど……」

梓「いえ…そうかもしれません」

和「そう?」

梓「ちょっとだけ話、聞いてもらえますか?」

和「えぇ、いいわ」

梓「私とムギ先輩がいつも公園で会ってたことは知ってますか?」

和「ムギから聞いたわ」

梓「最初は謝ろうと思ったんです」

梓「私、軽音部に入部してすぐ、ティーセットなんて撤去してしまえって言っちゃったんです」

梓「でも、後になって、お茶の時間がムギ先輩にとってとても大切な時間だとわかって」

梓「自分はものすごく酷いことを言っちゃったんじゃないかって思って」

梓「だから公園にムギ先輩を呼び出して、ごめんなさいって言おうと思って」

和「そうなんだ」

梓「はい。でも、ムギ先輩は気にしなくていいとしか言わないんです」

梓「悪いのは自分だからって」

梓「私はそれにとても苛ついたんです」

和「苛ついた?」

梓「はい。怒ってくれてもいい。叱ってくれてもいい。それなのにムギ先輩は何もしてくれなかったんです」

梓「だから最初はムギ先輩のこと、少しだけ嫌いでした」

梓「私は意固地になって何度も何度も呼び出したんですよ」

梓「そのたびいろんなお話をして、いろんなことを聞いて」

梓「ムギ先輩の考え方がわかってきたんです」

梓「ムギ先輩はきっと、私達と一緒にいることが一番大切で」

梓「そのためならなんだって犠牲にできちゃう人なんです」

梓「そんなムギ先輩だから、私は……」

梓「私はちょっずつ惹かれていったんです」

和「そうなんだ」

梓「だから私は、ムギ先輩が何も犠牲にしなくていいように、ずっとそばで支えたいなって」

梓「そう思ったんです」

和「そう」

梓「だから、きっとプレゼントなんていらなかったんだと思います」

和「…心は決まったみたいね」

梓「はい」

和「それじゃあ、行ってきなさい。あっ、この割れた湯呑は私が持って帰っていいかしら?」

梓「あっ、お願いします。ゴミを押し付けちゃってすいません。」

和「いいのよ」

梓「いろいろありがとうございました」

和「ええ、頑張ってきなさい」


―――


和「ふふっ、今夜は徹夜ね」




―――
梓「プレゼント、なくなっちゃいました」

紬「私も」

梓「ムギ先輩も?」

紬「うん」

梓「そうですか」

紬「そうなの」

梓「残念ですね」

紬「そうね。だけど――」

梓「ムギ先輩、好きです」

紬「私も」

梓「…」

紬「…」

梓「あれ?」

紬「どうしたの?」

梓「告白ってこんなにあっさりしたものでしたっけ?」

紬「どうだろう?」

梓「どうでしょうか?」

紬「でも、いいんじゃないかな」

梓「そうですね。些細なことです」

紬「手、繋いでみよっか」

梓「はい」

紬「梓ちゃんの手、ちっさくてやわらかい」

梓「ムギ先輩の手は、温かくてやわらかです」

紬「ずっと握ってたいな」

梓「私もです」

紬「じゃあ」

梓「ずっと一緒にいましょうか」

紬「ええ、ずっと傍にいてね、梓ちゃん」

梓「約束します。だから一つ約束してください」

紬「私にできることならなんでも」

梓「それじゃあお願いします。何も犠牲にせず、私だけを愛してください」

紬「何も犠牲にせず?」

梓「はい。欲しいものは全部手に入れてください。諦めたりなんてしないでください。それがお願いです」

紬「欲張りになれってこと?」

梓「そうです」

紬「……難しいことを言うんだね」

梓「そうですね、ムギ先輩には難しいかもしれません。でも、お願いします」

紬「うん。わかった。じゃあ手始めに」

梓「なにをしたいんですか?」

紬「梓ちゃんとキスしたい。梓ちゃんの全部が欲しい」

梓「……はい。ムギ先輩の望むままに」


―――
純「うーん。このクッキーとっても美味しいです。紬先輩、腕をあげましたねー」

紬「そうかしら?」

純「はいっ!」

梓「それで、なんで純が部室にいるの?」

純「そりゃあ、紬先輩のお菓子をもらいに」

梓「はぁ…」

純「な、なんだよ。私がいちゃいけないの?」

紬「うふふ。いいのよ純ちゃん」

ガラッ

さわ子「はーい。みんないる? ってムギちゃんと梓ちゃんと……鈴木さんね」

純「はい。おじゃましてます」

さわ子「あら、クッキーじゃない。私の分もあるのかしら」

紬「ええ、今用意しますね」

さわ子「お願いするわ」

紬「ふふふ」

さわ子「あら、今日は紅茶じゃなくて日本茶なの?」

梓「紅茶ですよ」

さわ子「だってこの湯呑……」

梓「湯呑だけど中身は紅茶です」

さわ子「よく見たらこの湯呑割れた跡があるわね。わざわざ直したの?」

梓「はい。親切な先輩が直してくれたんです」

紬「はい、お茶とお菓子をどうぞ」

さわ子「ムムム…」

紬「どうかしましたか?」

さわ子「なんだかムギちゃんと梓ちゃんの雰囲気がちょっと変わった気がするかなって」

梓「そうですか?」

さわ子「そして修復した湯呑で紅茶を飲む二人、うーん。これは何かあったわね」

紬「ええ、色々」

梓「あったんです」

紬・梓「ね!」

パシャッ!


おしまいっ!


最終更新:2012年10月31日 20:08