<平沢家>


唯「“恋”ってなんだろう……」

憂「えっ?」

わたしが小さくつぶやくと、憂が反応してくれた。

唯「“恋”ってなんなのかな?」

憂「うーん……好きな人のことを想って、ドキドキしたりすることかなあ……」

唯「ドキドキ……」

胸に手を当てて考えてみた。わかるようなわかるような……。

憂「……最近ドキドキしたりすることでもあったの?」

唯「えっ? ううん、ないよ」

憂「そっか」

唯「でもね」

これだけは自信を持って言える。

唯「ギー太と演奏してる時はいつもドキドキだよ」

わたしがそう言うと、憂はいつものかわいい笑顔を見せてくれた。それから両手をぽんと合わせてこう言った。

憂「じゃあお姉ちゃんはギー太に恋してるんだね!」

唯「ギー太に……恋……?」

憂「うん! お姉ちゃんいつもギー太と一緒だから。朝起きてから、夜寝る時までずーっと!」

唯「言われてみれば……」

憂「それはギー太に恋してないとなかなかできないことじゃないかな?」

唯「なるほど……」

<唯の部屋>


唯「ギー太〜今日は何着て寝る?」

ジャラアン……

わたしが弦をなでると、ギー太は優しく返事してくれる。今日はピンクのパジャマかあ。

唯「ふふ……」

ギー太を見ていると、ついつい笑っちゃう。
初めてギー太と出会った時の気持ちは今でも変わらない。とてもかわいい。

唯「ギー太……」

ギー太とは軽音部に入ってから一緒だ。ずっと見つめていてもまったく飽きない。
部屋で一緒に練習するのはとても楽しい。触って、演奏していると胸がドキドキする。
うまく演奏できると、ギー太も音を鳴らしてそれに応えてくれる。
わたしはこのやりとりが大好きだ。やっぱりギー太に恋してるのかも……。
とても眠くなってきた。わたしももう寝ないと……。
もう一度なでてから、毛布をかけてあげた。

唯「ギー太……おやすみ……」



憂「お姉ちゃん起きて、朝だよー!」

唯「う〜ん……おはよ〜……」

憂「今日も添い寝してあげてたんだね。ほっぺたに弦の跡がついてるよ?」

唯「あ、ほんとだ……」

憂「急がないと遅刻しちゃうよ。着替えておりてきてね」

唯「はーい……ギー太もおはよう」

返事はくれない。ギー太も朝は弱いのかも。わたしと一緒だね。
寝ぐせを直してから制服に着替えた。ギー太をケースに入れて出動準備完了!
今日の朝ご飯は何かなあ。

<部室>

放課後、いつものお茶の時間
みんながどう思っているのか気になったので、わたしはみんなにきいてみることにした。

唯「みんなは自分の楽器のこと好き?」

律「もちろん! 中古だけどな」

紬「好きよ。とーっても!」

梓「好きですよ」

澪「私も好きだよ」

唯「ふむふむ……」

やっぱり誰でも自分の楽器は好きだよね。
けど、みんなはわたしみたいに……

梓「どうしたんですか、いきなりそんなこときいて……」

唯「えっとね、わたしもギー太のことが好きなんだけど……ただ好きなだけじゃなくて……何ていうか……ドキドキするというか……」

律「ドキドキ?」

紬「胸が?」

唯「うん。ギー太と一緒に練習してると何だか胸がドキドキするんだ」

梓「ドキドキ、ですか」

澪「演奏している間に気持ちが高まって、とかじゃないのか?」

唯「うーん……それもあるかもしれないけど、見ているだけでもドキドキするんだ。かわいい服着せて飾っている時とか!」

律「……そりゃあ楽器に愛着はあるよ。けど、その境地に到達できるのは唯だけだと思うぞ?」

唯「そうなのかなあ……。みんなは服の着せ替えとかしないの?」

梓「しませんよそんなの!」

唯「え〜? かわいいのに……」

澪「……唯はギー太を買った時の気持ちを今でも忘れていないからドキドキするんだよ、きっと」

唯「えっ?」

澪「純粋な気持ちで人間と同じようにギー太と接するからドキドキするんだと思う……。私も買う決心が付くまでずっとエリザベスのこと考えてたから、なんとなく唯の気持ちがわかるよ」

梓「そこまで愛しているんですね……」

律「これって、なかなかできることじゃないよなあ……」

紬「すごいわ、唯ちゃん!」

唯「いや〜それほどでも〜!」

紬「まるでギー太ちゃんが“恋人”みたい!」

唯「!! “恋”……」

澪「え?」

唯「やっぱりギー太に“恋”してるのかなあ……」

律「うーん……“恋”とはまた違う気もするけどな……」

澪「でも、“愛着”のレベルは越えているだろうな……」

唯「……うん、“恋”だよ、これは。間違いないよ! 一緒に演奏してて、とっても楽しくて、しあわせだから!」

梓「私も、先輩方と一緒に演奏している時はとても楽しいしドキドキします!」

律「それは私も!」

紬「わたしも!」

澪「わ、私も……」

わたしも勢いよく手を上げた。
“恋”が原因じゃなくても、演奏していてドキドキするのはわたしだけじゃなくてみんなも同じ気持ちなんだ!

梓「……じゃあみんなでドキドキしましょう! ちょうどいい機会なのでみんなで演奏しませんか?」

律「そうだな、お菓子も食べたし!」

紬「さっきのお話を聞いたからかもしれないけど、いつもよりうまく演奏できそう♪」

わたしも同じ気持ちだ。今なら何でも演奏できそう!

澪「よし、じゃあ『ふわふわ』でいい?」

梓「はいっ!」

律「おう!」

紬「うんっ!」

なんだか緊張してきた。演奏が始まればもっとドキドキすると思う。
ギー太と……みんなと演奏していると、とても楽しい。

この気持ちはわたしに音楽の楽しさを教えてくれた。
これからもずっと、その楽しさをわたしたちに教えてほしい!
そのためにも、これからずっと一緒にがんばらないと!

唯「出番だよ、ギー太!」

ギー太が元気よく鳴り響く。
みんなが笑っている。ほら、今だってドキドキしてるよ。

だってわたしはギー太に恋してるから。


おわり。