……
後日 奥田家

菫「おじゃましまーす」

直「あ、来たね」

司「いらっしゃい」

菫「あれ、真ちゃんと実ちゃんは?」

直「真は弟と遊んでるよ」

菫(あ、そういえば5人きょうだいだった…四つ子のインパクトが強すぎて忘れてたよ)

司「実はご飯作ってる」

菫「へぇ、実ちゃんすごいね!」

直「私も作れるけど…」

菫「あ、えっと…」

司「というかみんな作れるよ、交代でやってる」

菫「そうなんだ…なんか偉いな、と思って」

直「まぁ上がってよ」

菫「うん!」

……
キッチン

実「あ、いらっしゃい菫」

菫「おじゃましてまーす。毎日交代でご飯作ってるの?」

実「うん」

司「お母さん忙しいからね」

菫「そうなんだ…」


真「こら、ちょっと待ちなさい」

弟「ねーちゃんお腹すいたー」

菫「お、弟さん…!かわいい…!」

弟「金髪だ」

菫「お名前はなんていうの?」

弟「太郎」

菫「そうなんだ!太郎くん」

弟「うそ。二郎」

菫「え…?そうなんだ、二郎くん」

弟「うそ。三郎」

菫(そもそも長男だし三郎とかじゃないはずだよね…)

菫「…ほんとはなんていうの?」

弟「花子」

菫「女の子!?」

弟「うそぴょーん」タッタッタッ

真「こら、待って」タッタッタッ

菫「うう…弟さんがいじめるよ…」

直「あとでキツく言っとくから」

司「お仕置きだね」

菫「あ、ううん、そこまでしなくても…そうだ実ちゃん、手伝おうか?」

実「え?あ、うん、ありがとう」

……

菫「実ちゃん、書道部ではパソコンでみなさんの字をチェックしてるんだっけ?」

実「うん。一応基本的な理論とかはわかってるから…最近は書を写真に撮ってパソコンに取り込んでチェックとかかな」

菫「すごいね!書道部でそんなことするの聞いたことないよ」

実「まぁ確かに初の試みみたいだけど…最初は退部を考えてたんだけどね」

菫(直ちゃんと同じだ…)

実「顧問の先生がパソコンを貸してくれて」

菫(それもうちと同じだ…)

実「書いた字を画像にして、理想の書き方と比較したりとかできるようになってからは、居場所ができた感じかな」

菫「いい先生がいてよかったね」

実「なんかその先生も、他の先生に言われてやったっぽいこと言ってたけど」

菫「あれ、そうなんだ」

実「直は作曲してるんでしょ?」

菫「あ、うん。そうだよ」

実「いいなあ、私は自分で字を書くわけじゃないから…」

菫「そっか…パソコンで字を書くのは…」

実「それじゃ反則だし…それに、理論だけわかってても、『味』がないと無機質な字になっちゃうし」

菫「うーん、でも何かないかなぁ。パソコンで書道教室みたいな」

実「……」

菫「なんか字の周りにデザインみたいのを付けたりとか…変かな」

実「書を立体的にしてみたりとか…」

菫「あ、いいかも!」

実「…何だかいくらでもできそうな気がしてきた!」

菫「うん!」

……
ダイニング

実「ご飯できたよ」

菫「ご飯できましたよー!」

直司真「「「おー」」」パチパチ

弟「おいしー!菫ねーちゃん料理上手だね」

菫「本当?嬉しいな!!」

実「……」

菫「実ちゃんの作ったのもおいしいよ?」

実「そ、そう…ありがとう」

弟「えー?菫ねーちゃんの方がおいしいかな」

直司真実「「「「……」」」」

弟「う、うそ!実ねーちゃんのほうがうまいです!!」

実「ふーん」

直「…明日私当番だけどサボっちゃおうかな」

弟「えーっ!?」

菫「あはは…」

……
食後 リビング

弟「司ねーちゃん遊ぼうぜ」

司「はいはい」



菫「何かすごいくつろいじゃってるけどいいのかな…」

真「まぁまぁ気にせず」

菫「ご両親はまだ帰ってこないの?」

真「うん。もうすぐお母さん帰ってくるかな」

菫「忙しいんだね…弟さんのお世話は四人でしてるんだね」

真「そうだね。まぁ四人で交代だから大したことはないけど」

菫「…真ちゃんは、文芸部でパソコンを?」

真「うん、私ストーリー考えられないから…みんなの文をデータ化して推敲するのがメインかな」

菫(もしかして真ちゃんも同じ悩みをもってるのかなぁ…自分でオリジナルのものが作りたい、とか…)

菫(でも文芸部だと何だろう、直ちゃんは作曲してるけど…でも真ちゃんはストーリー作れないって言ってたし)

菫(パソコンでできることってなにがあるのかな…)

真「どうしたの、急に黙りこんで?」

菫「え!?あ、ごめん…文芸部で、パソコン使って他に何かできないかなぁ、って」

真「菫…そんなことまで考えてくれてたなんて…」ウルウル

菫(あ…今私、エスパーみたいになってるよね。だって実ちゃんも同じ悩みを抱えてたんだもん)

真「私もいろいろ考えてたけど。直が作曲してるんだから私も、って」

菫「うん、うん。そうだよね…」

菫(直ちゃんは先輩方や私のことをよく観察してて、それで作詞とか作曲につなげてるよね。ならきっと、真ちゃん達も…)

菫「例えば、部員のみなさんの文章の特徴とかを分析して…」

真「! それでリレー小説とかやったらおもしろいかも」

菫「そうだね!その人に向いてるパートを割り振って書いてもらうとか」

真「ふむふむ…あとは本人の性格と文章がマッチしてない方も居らっしゃるし…」

菫「…やっぱり、よく観察してるんだね」

真「え?まあ、ね。皆さんの特徴とかはパソコンにメモしてあるし」

菫「ふふふ、さすがだね」

真「ありがとう、何か新しいことできそうな気がする」

菫「うん!」

……
玄関

母「ただいま〜」

司「あ、おかえり」

菫「お、お邪魔してます!!」

母「あら、あなたが菫さん?」

菫「は、はい! いつも直ちゃんにお世話になってます」

母「いえいえこちらこそ、直がいつも…それに最近は妹達もお世話になってるみたいで」

司「お世話になってます」

菫「司ちゃん!?急にそんな、いいよ」

母「みんなよっぽどあなたのことが好きなのね。これからも娘達を宜しくお願いしますね」フカブカ

菫「は、はいぃぃ!!」ペコペコ

……

菫「はぁ、緊張した…」

司「宜しくお願いされた…」

菫「あはは…」

司「宜しくお願いします…」

菫「ええっ!?」

司「ふふ、冗談」

菫「んもう、びっくりした…真顔で言わないでよ」

司「私いつも真顔だし…」

菫(あ、うん…直ちゃんもいつもそうかな)

菫「…え、えっと、司ちゃんは部活でデザインとかしてるんだっけ?」

司「うん。パソコンでね」

菫(あれ?じゃぁオリジナルの作品が作れるってことだから、悩んでるわけじゃないのかな…?どうしよう、早とちりしちゃった…)

菫「じゃ、じゃあ司ちゃんだけパソコンでオリジナルのデザインを作ったりしてるんだね!すごいな」

司「まぁそうだけど…美術部なんてみんなパソコン使わなくてもデザインできるし…というかみんなパソコン使えるし…」

菫(あ…そういうこともあるんだ。みんなちょっとずつ事情が違うなぁ…)

菫「そ、そっか…難しいね」

菫(うーん…仮にみんな作詞作曲できる軽音部だったら、直ちゃんはどうしてただろう…やっぱりあれだよね、PAだっけ?音を調整するやつ。あれ?でもそれだとオリジナル作品ってわけじゃないし…えっと、何を悩んでたんだっけ…)

司「…菫?」

菫「はうっいっ!?」

司「どうしたの難しい顔して」

菫「あ、えっと、色を調整するとか…!」

司「?」

菫「ご、ごめん、適当なこと言ったかも…」

司「確かに…それならできる」

菫「え?」

司「そういえば私、オリジナル作品にばかりこだわりすぎて本来の役目を忘れてた…パソコン使って、理論を駆使してみんなの絵の色合いとかバランスとかチェックするんだった…」

菫「そうだったの!?」

司「うん。なんだか目が覚めた気がする、ありがとう菫」

菫「う、ううん。お役に立てたならよかった」

………
リビング

菫「そろそろ帰らなきゃ!」

実「あ、もう?」

司「泊ってけばいいのに」

菫「ううん、さすがに悪いよ…それに私も泊り許可もらってないから」

真「そっか、残念」

母「今日は来てくれて本当にありがとうね。またいつでもいらしてね」

菫「はい!お邪魔しました」

弟「菫ねーちゃんまたな」

菫「うん!またね」

………
玄関

直「菫」

菫「ん?なあに」

直「今日はありがとう、いきなり家に呼んじゃったのに」

菫「ううん、すごく楽しかったよ。司ちゃん、真ちゃん、実ちゃんともたくさん話せたし」

直「ならよかった…私だけ菫と話せてずるいって言われてたから」

菫「そ、そうなんだ…」

直「あ、そうだ、菫。今度の文化祭…」

司「あれ、まだいたの?」

真「なんか話声がすると思ったら…」

実「抜け駆けは許さないよ、直」

菫「みんな!」

直「抜け駆けだなんてそんな…」

菫「あはは…あんまりお邪魔してちゃ悪いね、帰るね?みんなまたね」

司「ん」フリフリ

真「またね」フリフリ

実「バイバイ」フリフリ

直「…また部室で」フリフリ

………
夜 自宅

菫「あ、メールが来た…直ちゃんだ。と、司ちゃんと、真ちゃんと実ちゃん…さすが四つ子」

菫「えーっと…」

菫「…四人とも同じ内容…文化祭一緒に回ろう、って…」

菫「ど、どうしよう…」

………

紬『これは…面白くなってきたわね……!』

菫「んもう、お姉ちゃん!茶化さないでよ…こっちは深刻なんだから」

紬「うふふ、ごめんごめん。そうね、真剣に考えなきゃダメよ」

菫「真剣に考えてるよう…ねぇ、これみんな一緒に、は……」

紬『それは絶対にダメよ!本命はハッキリ決めなきゃ』

菫「ほ、本命とかそんなんじゃ…」

紬『今のところ、誰と一緒に行きたいとかはあるの?』

菫「わからないよ…直ちゃんは一緒の部活ってのはあるけど…みんなと仲良くなれたし、誰が一番とかは…」

紬『きっとこれは宣戦布告…開戦の火蓋が切って落とされた、ってことなのね…!菫、今決められないなら、これからの動向を見て決めるしかないわ。きっとたくさんのアプローチがくるから』

菫「アプローチって…そんな大げさな…。でも、今は確かに決められないかな。そうみんなに言うしかないかな」

紬『うん。そう言うのが誠実なんじゃないかしら』

菫「はーい…ありがとうお姉ちゃん。じゃあ今からメール作るね」

紬『うん!…誰を選ぶか決まったらこっそり教えて?』

菫「…お、教えてあげないもんっ!!」ピッ

紬『ああん、菫待っ——』ピッ

菫「…お姉ちゃん張り切りすぎだよ、もう。ええと…『ごめんなさい、今は……』」

………
後日 部室

梓「…」

純「…気になる」

憂「…視線が…」

司真実「「「…」」」ジーッ

菫「…うう」

さわ子「…さすがに集中してお茶できないわね」

梓「お茶に集中ってなんか違う気もしますが…でもたしかに落ち着かないかも」

直「…妹たちがご迷惑を…」

純「ほらスミーレ、ずばっと選んじゃいなよ」

菫「え、選っ…!そんなんじゃないですっ!」

憂「もう純ちゃん、これは大事な問題なんだから…」

純「あはは、ごめんごめん」

梓「というかあの子たち部活はいいのかな?」

純「お茶してる私たちが言えたことじゃないけどね」

直「そのうち諦めて部活に戻ると思いますが…ここ数日いつもそうですし」

菫「…」ガタッ スタスタ

純「お、スミーレついに行くか…?」

菫「司ちゃん、真ちゃん、実ちゃん!!!」

司真実「「「!?」」」ビクッ

菫「…部活は?」

司「こ、このあと」

真「行くから」

実「大丈夫

菫「ほんと?最近部活あまり行けてないんじゃないの…?ちゃんと許可とったの…?」

司真実「「「…」」」

菫「だ、ダメだよ!司ちゃんはみんなの色の調整するって、真ちゃんはみんなのリレー小説を作るって、実ちゃんは立体的な書を作るって言ってたよね?文化祭までに、それをやってくれなかったら…私…!」

司真実「「「!!!…戻ります!!!」」」ダッ

菫「…あっ…言い過ぎちゃったかな」

さわ子「立派よ菫ちゃん」

憂「スミーレちゃん、かっこよかったよ」

菫「い、いえそんなことは…!というか、あんなこと言っちゃって私…もうお茶なんてしてられない、練習しなきゃ!」

純「え゛…」

梓「そ、そうだね!よーし、これを機に練習しよう!!」

さわ子「うっ…しまったわね…」

憂「がんばろう、スミーレちゃん!」

菫「はい!!」

直「…」

………
練習後

直「…」カタカタ

菫「ふう…たくさん練習した〜。直ちゃん、帰ろう?」

直「……」カタカタ

菫「…え?もう一曲作るって?今から!?文化祭までに練習が間に合わないよ」

直「………」カタカタ

菫「…う、うん。わかった。あまり遅くならないでね。また明日!」ガチャ

直「またね」カタカタ

直「………負けてられない」カタカタカタカタカタカタ

………
昇降口

憂「直ちゃんは?」

菫「…今からもう一曲作るそうです」

純「マジ!?本番まで間に合うの!?その、練習が」

梓「すごいな直…でも、この勢いなら行ける気もする。今日久しぶりに充実した練習ができたし」

憂「直ちゃんの妹さんたちも気合いが入ったみたいだし、みんなでがんばらなきゃね♪」

純「スミーレも罪な女だねぇ〜」

菫「ち、違います!…明日からティータイム禁止で、がんばりましょう!」

純「ぐ…し、しょうがないなぁ、やるしかないか」

梓「いいね、菫!よーし、みんながんばるぞー!」

憂純菫「「「おー!!!」」」


菫「直ちゃん、司ちゃん、真ちゃん、実ちゃん…文化祭、楽しみにしてるね。私もがんばるから!!」

おわり



最終更新:2014年06月29日 20:40