唯「ふふ〜♪」

梓「機嫌良いですね」

唯「まあね。梅雨も明けて気分すっきり!」

梓「けど日中は日差しで暑いですよ?」

唯「もーそれを言わないでよ。せっかく暑さを忘れようとしてたのに……」

梓「現実逃避しないでください。けど、夜は少し風が吹けば涼しいですね」

唯「そうでしょ。ほら、今みたいに縁側にこうして座ってると」

梓「……まあ、落ち着きますよね」

唯「ねー」

チリン……

唯「……………………」

梓「……………………」

チリンチリン……

唯「月が綺麗だね、あずにゃん」

梓「……えっ?」

唯「ほら、月がまん丸だよ」

梓「え、ああ、本当ですね……。きらきら輝いていて綺麗に見えます」

唯「はぁ……きらきらだね……」

梓「……唯先輩がいきなり、『月が綺麗』だなんて言い出したから驚きましたよ」

唯「え、そうなの?」

梓「一瞬何か別の意味があるのかと思いました」

唯「別の意味? 『月が綺麗』に?」

梓「はい、こんな有名な話がありますよ。昔、夏目漱石が“I love you”を『月が綺麗ですね』と日本語に翻訳した、という話です」

唯「“I love you”が『月が綺麗ですね』に……? う〜ん……よくわかんないや」

梓「私も、なぜそうしたのかまでは知らないですけどね……」

チリンチリン……

唯「……じゃあ、あずにゃんはわたしが遠回しに“I love you”って言ったと思ったの?」

梓「あ、いや……その…………ほんの一瞬だけそう思いました……」

チリンチリン……

唯「ふふ……あずにゃんは意外とロマンチストなんだねえ」

梓「一瞬ですよ、一瞬!」

唯「ふふ〜そっか〜♪」

梓「なんでそんなに笑うんですか! もう……」

唯「ごめんごめん。うれしかったんだよ」

梓「どうだか……」

唯「……でもね。こうして二人並んで月を見ていると、そう翻訳した気持ちがわかる気もするよ」

梓「気持ち……?」

唯「そう、気持ちだよ。自分の大切な人といっしょにいると、まっすぐな気持ちを何か特別な言葉で伝えたくなると思うんだ」

梓「特別な言葉で、ですか」

唯「うん。だけどこの言葉は空回りしちゃって、単純に聞くとよくわからない意味になっちゃったのかもね」

梓「なるほど……」

チリンチリン……

唯「風鈴の音が涼しいね……」

梓「風流ですよね……」

唯「ネコの形のやつもあってよかったね」

梓「はい。でも私よりも唯先輩の方がよろこんでましたね」

唯「えへへ。だってかわいかったんだもん」

梓「私もそう思いますけどね。けど普通の風鈴もいい音鳴らしてますよ」

唯「“チリンチリン”ってね。これぞ、日本の夏! って気分だよ。のんびり夜空を眺めて……」

梓「ゆったり並んで座って……」

チリンチリン…… チリンチリン……

唯「月が綺麗だね、あずにゃん……」

梓「月が綺麗ですね……」


おわり。



最終更新:2014年07月05日 08:19