そうこうしているうちに私たちは受験生になった。私は桜丘高校を第一志望に選んだ。女子高だ。
桜ヶ丘を選んだ理由は二つある。一つ目は、乱暴で下品な男子がいないから。もう一つは、女子高にはレズビアンが多いというから、そうなら私の思いが否定されることもなくなると思ったから。
一つ問題があった。それは、桜ヶ丘が律にはレベルの高い高校だということだ。
幼稚園から一緒だった律。高校は別になってしまうのだろうか。幼馴染とはいえいつかは別れが来る。それは今までもわかっていたことだったけど、まだ怖かった。
だけど、いつか律に私の思いがばれて引かれるくらいなら、友達のまま今離れたほうがいいかもしれないとも思った。
だが、律は私の口から志望先を聞くとすぐ、「私も澪と同じ高校受けるよ!」といって、事実猛勉強をするようになった。そのことで私を頼ってくることも多かったけど。

澪「私と一緒だなんて…そんな安易に進路を決めていいのか?」ハア

律「いーのいーの!それにさ、なんとこの桜丘高校には軽音部があるんだぜ!受かったら私と澪で軽音部入ってバンドを組むんだ!」

「好き」のベクトルは違うけど確かに律は私に好意を持ってくれている。それが嬉しかった。
それに女子高に入れば律も考えを変えてくれるんじゃないかな…「女の子同士は気持ち悪い」っていう。

律の努力が実り、私たちは桜丘高校に受かった。そして律の予定通り、私たちは軽音部で唯と紬、後輩の梓とともにバンドを組んでいる。

唯「あーずにゃん」ギュッ

梓「やめてくださいよ唯先輩///」

女子高ではたしかに女の子しかいないだけあって、女同士のスキンシップが多かった。
だが結論から言うと、レズはそれほど多くなかった…というか、見たことがなかった。

圭子「春菜って彼氏いたの?」

春菜「うん」

ちずる「いいなー私も彼氏ほしい」

なんて…中学の時と変わらない会話がなされていたり。
やっぱり私のこの思いはおかしいのだろうか。

そんな私に一人の人物が目に入った。

唯「あずにゃん分補給〜」ギュー

梓「やめてくださいってば〜」

紬「うふふ///」

琴吹紬。通称ムギ。同じ軽音部員で、友達の一人。
彼女は女の子同士のスキンシップを見るのが好きなようだった。そのスキンシップが深ければ深いほど、彼女は期待を込めた目でそれを見る。
きっと彼女なら私のこの、日に日に膨らんだ律への思いを否定しないでくれる。
そう思った私は、ある日折を見て部室でムギと二人きりになった。

澪「なあ…思ったんだけどムギってその、れ、レズが好きなのか?」

ムギは少しだけ驚いた顔をしたけれど、あっさりうなずいた。

紬「そうよ。女の子同士が仲良くしていると、どうしてもそういう関係に見えちゃって、もっと発展すればいいのにと願っちゃうの」

澪「へえ。ムギはその…女の子とそういうことしたいと思ってるの?」

紬「してみたい気持ちはあるけれど…特定の女の子に、恋愛感情を抱いたことはないわ」

澪「そ、そっか」

ちょっとがっかりしていると、ムギはさらりと核心をついてきた。

紬「でも、澪ちゃんはそうなんでしょ。りっちゃんのこと…」

澪「え、ええええええぇえ!?な、何で知って…///」

紬「あら、当たってたのね。この二人は幼馴染だし、いつも一緒にいるし、お似合いだと思ってたのよ!!いつから好きだったの?ねえ、ねえ」

目を輝かせるムギ。お似合い?私と律が?そういわれるのはうれしい、けど…。

紬「で、いつ告白するの?もうしたの?」

澪「ダメなんだよムギ。そんなことしたら、律に気持ち悪いと思われてしまう…。律は、女同士の恋愛は気持ち悪いと思っているんだ。私は律との関係を壊したくない」

紬「そう…」シュン

澪「む、ムギはなんで女同士が好きなんだ?」

私は話題を変えようとした。

紬「そうね…あれは忘れもしない、小学校の時だった。
  私は家が厳しくて、漫画も読ませてもらえなかったの。どんなものなのかしらって気になって仕方なかった。だから、妹分みたいな子に漫画を買ってきてもらって、こっそり読んでいたわ」

へえ。金持ちは金持ちで大変なんだな。

紬「その漫画がね、正確には一部だけど、女の子同士の恋愛ものだったの。私は今まで恋愛は男女で行われるものだと思っていたし、そういう物語ばかり読んでいたわ。だけどその漫画の女の子たちはなんていうか。とてもきれいで、ああ、こんな世界もあるんだなあって思ったの。まるで、新しい扉が開いたような感覚。忘れられないわ」

私と同じだ。ムギの話を聞いていると、自分の感覚を肯定されたようでうれしかった。

紬「憧れを強めた私は、早速その妹分に『キスして』って言ってみたわ」

澪「ええっ、だ、大胆だな」

紬「そう?でも即座に断られた。『あれは漫画の中だけのことで、現実では女の子同士は気持ち悪いって言われるものなんだよ』って、年下のあの子に諭されたの。なんであんなにきれいなものを気持ち悪いっていうんだろうって、当時はとても不思議だった」

それも私と同じだ。やっぱり世間の認識は…。

紬「納得できなかった私は執事の斉藤にも女同士の恋愛について話した。そして教えられたの。同性愛は、宗教で禁じられた行為だって。うちの家系キリスト系だから、小さいころから神様にもなじみが深いの。その神様に否定されているんだって、すごく悲しかったわ」

目を伏せるムギ。キリスト教が同性愛を否定しているのは漠然とだけど知っていた。私はムギと違って、宗教は遠い存在で、あまり意識したことはない。でも、神様が禁じているってことは、やっぱり…。

紬「でもね、神様にも負けない愛って、なおさら素敵じゃない?それに宗教って言ってもいろいろあるのよ。たとえばギリシャ神話の神様は同性愛行為をしているわ。それにキリスト教の同性愛観だって、聖書の解釈のうちの一つに過ぎない。自然の摂理に反しているというけど、動物にも同性愛行為は見られるわ」

澪「へえ、ムギは何でも知ってるんだな」

紬「ううん、好きこそものの上手なれってだけ」

それはそれですごいことだ。私は同性愛について詳しくはならなかった。「異常なこと」だとなんの根拠もなしに信じて、興味を封じ込めて来たんだ。ムギはそれをせず、自らいろいろ調べた。

澪「もっと、教えてくれないか?」

私のセクシャリティのこと、私がどうすればいいかという事を。

紬「ふふ、いいわよ」

それ以来、私はムギによく相談に乗ってもらった。優しく受け止めてくれるムギの存在は私のコンプレックスを取り除いてくれた。私はひとりじゃない、と安心感をいだけた。その一方で私の律への思いは日に日に増し、私はそれをムギに吐き出した。ムギに甘えていた。
そんなある日、ムギは言った。

紬「澪ちゃんは、もっと自信が必要だと思うの」

澪「自信?」

紬「そうよ。今のままだと何も変わらない。澪ちゃんはまだ、自分が同性愛者だということにコンプレックスを抱いている。もっと自信を持って大胆になれば、りっちゃんに告白でもなんでもできると思うの」

澪「だって、どうすればいいんだ?」

いくら、同性愛は異常じゃないと言われたところで、世間から迫害されていることには変わりない。更に恐ろしいことに、律も迫害する側にいるかもしれない。それを受けて平気でいるのはきっと無理だ。

紬「そうねえ。女の子同士のセックスをしてみるってどうかしら」

澪「えっええ!?」

紬「生殖は伴わないけど、とても気持ちのいいものよ。興味ない?」

澪「あ、あるけど…」

七年前見た女の人たちは、とても気持ちよさそうだったし。

澪「で、でも第一相手もいないし」

本当は律としたいところだけど、そんな事頼めないし、それができるならとっくに告白してるはずだ。

紬「私じゃ、駄目?」

澪「ムギ?」

紬「私も経験はないけど、気持ちよくなるやり方は知ってるわ。私のこと、りっちゃんの代わりだと思っていいから」

そう、私はずっと、律としたかったんだ。あの時見た映像の、黒髪の人を私に、金髪の人を律に置き換えてずっと妄想していた。

琴吹家は人がいっぱいいるとのことなので、私の家ですることになった。幸い両親は共働きで、遅くにならないと帰ってこない。
着くなりムギは物珍しげにキョロキョロしていた。

紬「ここが澪ちゃんの部屋なのね」

うう、緊張する…散らかってはいないはずだけど。
ムギは私のベッドに腰掛け、おもむろに服を脱ぎ出した。
ムギってスタイルよくて、色白で、本当美人だな…と思わず見惚れる。

紬「澪ちゃんどうしたの、脱がないの?」

澪「で、でも、恥ずかしくて…」

一緒に温泉に入ったこともあるけど、その時とはまた違うのだ。

紬「何言ってるのよ、初めからそのつもりで来たんでしょ」

そう言って、ムギは私の服を脱がせ、胸を触った。乳首を優しくこね、キスをする。

澪「ぁ…んんっ」

私の身体を撫で回しながら、ムギは言った。

紬「澪ちゃん、本当スタイルいいのねえ。おっぱい大きいし髪もサラサラで綺麗。それにすごく美人。ファンクラブができるのもわかるわ」

私が思っていたことを…。

澪「あぁ…む、ムギだってそうじゃないか。それに髪は…んっ、ムギの方が綺麗だよ」

紬「あらありがとう。でも私は太っているんじゃないかって…」

澪「ムギは太ってないよ、私の方が…」

少しの間言い争い、二人で笑う。
そういえば、七年前に見た二人も私たちと同じ黒髪と金髪のロングだったな。金髪の方はムギに似ていた気がするし、すごい偶然だな。乳首を吸われながら思った。

澪「んんっ…すごい、気持ちいい…ぁんっ」

紬「ふふ、まだこれからよ」

ムギは私をベッドに押し倒し、秘部を指でかき分けた。

澪「ひぁっ」

紬「あらやだ、胸しか触ってないのに」

澪「はぁぁぁん、だめぇえ…!」

豆をこね回し、私の中に指を入れ、かきまわす。今まで感じた事のない快楽が襲う。

紬「うふふ、もうこんなに濡らして、イヤラシい子…」クチュクチュ

ムギは私を抱きしめ、口付けた。不思議と抵抗感はなかった。ムギのしっとりした肌が、心地よかった。

紬「うふふ…」チュッ

澪「んぅ…ちゅぅ…」

女同士のエッチがこんなに気持ちいいなんて。
もっともっと気持ちよくなりたい。ムギを気持ちよくしてあげたい。
いつしか私は自発的にムギの身体を求めるようになった。ムギの、髪の毛の色と同じ陰毛で覆われた、ピンク色の綺麗なあそこからも蜜が溢れる。私で感じてくれたのがうれしかった。

澪「くぅっ、ムギ、私、イクっ」

紬「ぁあんっ、澪ちゃん、私もいっちゃう!」

澪紬「ぁぁあぁああああっ!」

私たちは同時に嬌声をあげ、そして果てた。

二人で余韻に浸っているとき、ドアの辺りで物音がした。続いて息をひそめる気配。よく見ると少しだけ開いている。
背筋が凍る。誰?ママが早く帰ってきたのかな。それともパパ?あるいはもしかして…。

紬「りっちゃん?」

やめろ、そんなわけ…。

律「や、やぁ、悪い。邪魔しちまったな…」

一番いて欲しくない、相手だった。

律「その、覗くつもりじゃなかったんだよ。いつも通り一緒に宿題やろうとしてさ、そしたら澪とムギが、その…」

律によると、予めメールで来ると連絡していたらしい。気づかなかった私が悪いのだ。

律「最近二人、妙に一緒にいると思ってたけど、まさかできてたとはな…」

澪「ち、違うんだ律!」

律「大丈夫だって!愛の形はいろいろあっていいと思うぞ!澪たちが同性愛者でも差別する気はないし、二人の事親友として応援するからな」

一応律は、七年前と違い成長していた。私たちの事を気持ち悪いなどとは言わなかった。
でも違うんだ。私が好きなのは、身体を重ねたいのは、ムギじゃなくてお前で…。

律「って、ごめん二人の邪魔して。じゃな!」

律、待って!
追いかけようとした私をムギは後ろから抱きしめた。

澪「っ、離してぇ、律ぅっ」

紬「追いかけて、何て言うつもりなの?りっちゃんは、澪ちゃんのこと、友達としか思っていないのよ」

紬「それに、他の人の事を想いながら私に抱かれる澪ちゃんを、りっちゃんはどう思うかしら?」

澪「ふぇ、えぐぅっ、りづぅ…」

ムギはすごい力で私を引きずって行き、もう一度ベッドに押し倒した。

紬「私が澪ちゃんの悲しみを忘れさせてあげる」クチュ

澪「はぁあっ…」

ムギに抱かれながら、イカされながら、私は失恋の痛みに泣いた。

律side

律「ただいまー」

聡「お帰り姉ちゃん」

律「あのさ、同性愛ってどう思う?」

聡「同性愛?正直、気持ち悪い。同性同士で好きだとか、俺には理解できないな」

かつての私と同じ答えだ。

聡「何?澪姉に惚れたとか?」

律「バーカ」

私は聡の頭をポンと叩き、部屋に向かった。ベッドに身を横たえ、澪とムギの情事を回想した。

律「綺麗…だったな」

いや、澪もムギも元々美人だけどさ、そうじゃなくて何て言うか…。
気持ち良さそうによがっている澪が。
幼馴染の私の知らない澪が。
澪をリードする、世間知らずのお嬢様の筈のムギが。
求めあっている二人が。
美しくて、甘美で、卑猥でさ。
嫌悪感なんか、微塵もわかなかった。

澪はずっと私のそばにいた。私がいなけりゃダメだと思っていた。だから、頑張って澪と同じ高校を受けた。
その澪が、遠いところに行ってしまった気がした。寂しい?やきもち?でも、澪に恋人ができるのはいい事だろ。応援するとか言っといて、どうしてこんな気持ちになるんだ。これって友情か?澪に惚れてる?そんなわけないし。
もう、訳わかんねーよ。
私は考えるのをやめた。スカートを捲り、下着に手を入れる。興奮したことを示すように、そこは湿っていた。

終わりです。



最終更新:2014年07月20日 21:16