……………………
部室

律「おいーっす」

澪「梓、遅れてごめんな」

梓「あ、みなさん!いえ、大丈夫で……」

唯「あずにゃーん久しぶり~!」ダッ

梓「そうはさせません!」ベチン!

唯「ぶえ!?あずにゃんしどい……」

梓「まったく……あ、ムギ先輩はやっぱりまだ練習ですか?」

律「そ。ムギがいないからここんとこしばらくティータイムお預けだな~」

澪「中々全員揃って練習できなくてごめんな、梓」

梓「いえ、いいんです。忙しいのにみなさん来てくれてますから。それにムギ先輩はヒロインですもんね。ほとんど来れてないけど……仕方ないです」

律「まぁ私と澪は特に忙しい仕事ないからな。唯は草だし」

梓「草……?」

唯「そう!草Gだよ!!」

梓「Gって……草そんなに要るんですか?」

澪「湿地帯が舞台だからな。結構草が生えているんだ。舟が起こす波に合わせて揺れたりするから結構動くんだよ」

唯「そうなんです!ゆらゆら~、ゆらゆら~」

梓「は、はぁ……」

律「ま、そんなこんなで私らはなんとか抜けて部活来れるんだけど。ムギはちょっと無理かな~」

梓「そうですね。お茶もないことですし、早速練習しましょう!」

律「う、ちょっと休憩してから……」

澪「ダメだ、時間ないんだからやるぞ!」

唯「ゆらゆら~、ゆらゆら~」

澪「ほら、唯もいつまでも練習してないで……」

紬「みんなっ!!」バタン??

律「ムギっ!?」

梓「ムギ先輩!!」

唯「おお、ムギちゃん!」

澪「ムギ……練習はいいのか?」

紬「……よしみがね、軽音部も大切にしなきゃダメだよ、って。だから練習しましょう?」

澪「……わかった。よし、練習するぞ!」

梓「……はい!久しぶりに全員ですね!」

律(ん……?今よしみって言ったか……?)

唯「りっちゃん、ほら行こうよ!」

律「お、おう!よっしゃー、今日で仕上げんぞっ!!」

……………………
文化祭当日 教室

さわ子「じゃじゃーーん!!!」

紬「えへへ……」

一同「「おおーーっ!!」」

ちか「マーニーだぁ~!」

圭子「かわいい~!!」

しずか「かわいい……」

和「先生……被覆室にこもってずっと作ってたんですか?」

さわ子「そうよ。ちょっと今回手を広げ過ぎちゃって……この後もまたこもらなきゃ……」

潮「先生すごーい!!」

さわ子「うふふ……私だけの力じゃないわよ。ね、アンナ。ほら、いらっしゃい」

よしみ「……」

圭子「アンナだ!かわいいね~!!」

よしみ「もともと地味だけどね」

さわ子「それは確かに残念だけどね。でも、その分砂原さんには衣装をたくさん手伝ってもらったんだから。特にムギちゃんの衣装」

紬「え、そうだったの、よしみ?」

よしみ「そう。今回自分の服は普通だから、その分つむぎのは頑張ろうと思って」

紬「ありがとう!大好きなアンナ!!」

ちか「ひゅーひゅー!」

信代「お熱いね、二人とも」

よしみ「ちょっと、恥ずかしいからやめなよ……ふふ」



さわ子「……ちょっとムギちゃんいい?はい、これ」

紬「……リンドウのお花」

さわ子「ナマモノよ。アンナの衣装がちょっと物足りないから、せめてお花だけでもと思って」

紬「ありがとうございます、先生!」


美冬「……みんな、そろそろ舞台袖に集合しよう!」


よしみ「行こう、つむぎ」

紬「うん!!」



キミ子「よしみちゃん生き生きしてるね……」

響子「何か少し変わったよね……」

……………………
講堂

梓「すご……」

純「もう席いっぱいじゃん」

憂「座れるかな?」

さわ子「梓ちゃん!みんな、ここ空いてるわよ」

梓「あ、はい!」

純「やった、ラッキー!」

憂「もう始まっちゃうね、間に合ってよかったぁ」

……

美冬「みんな。今日のために頑張ってきたんだから、悔いの残らないように精一杯やりましょう!」

美冬「準備はいい?」

紬「うん!」

よしみ「……うん!」

美冬「それじゃ、頑張ってこーう!!」

一同「「おーー!!!」」

……

純「舞台裏から掛け声が聞こえてきた!」

憂「いよいよ始まるって感じだね……」

梓「先輩方……きっと今日のためにたくさん練習してきたんだなぁ……楽しみ」

さわ子「始まるわよ」

……


よしみ「……この世には目に見えない魔法の輪がある。輪には内側と外側があって、私は外側の人間」

よしみ「でも……そんなのは、どうでもいいの」

よしみ「私は……私が嫌いっ……」



梓(すごい……砂原先輩、こんなに演技うまかったんだ……)

……

……

ちずる「……ない!!」

美冬「どうしたの?」

ちずる「ないの!舟が!アンナが漕いで行く舟が!!」

律「な、なんと!?あんなでっかいモンどこに忘れたんだよ!?」

ちずる「おかしいな……オールはちゃんと持ってきたのに……」

美冬「そんな……舟がないと、この話、始まらないわ!すぐ探しに行かなきゃ!!」

澪「私、クラスに戻って探してくるよ!」ダッ

唯「わ、私も!」

律「唯はこの後草があるだろっ!しょうがないな、私は他のクラスに聞いてみる!」ダッ

和「何か、変わりになるものはない?それも同時に探しておいたほうが……マーニーの出番、すぐに来ちゃうわよ」

美冬「舟を取り扱ってるクラスなんてあったかな……」

しずか「……確か、オカルト研の展示に舟があったような……私、オカルト研に友達いるから聞いてくる!」

ちずる「あっしずか、出番は!?」

しずか「唯、まかせた!」ダッ

唯「任されたー!……って、えっ、えっ?ののの和ちゃん、セリフ!台本見せて!!」

和「落ち着いて、唯」

美冬「大丈夫、セリフはないから。草Hだよ」

唯「おお!助かった……」

……

純「すごい、マーニーのお屋敷クオリティ高っ」

梓「窓の中にムギ先輩が……まだ後ろ姿しか見えないや」

憂「あっ、お姉ちゃんだ!」

梓「えっ?……ほんとだ……」

純「草……あれ顔出す必要あんの?」

さわ子「そこはつっこまないであげて……」

……

しずか「はあ、はあ……」

オカ研左「これは旧約聖書の『創世記』に登場する大洪水にまつわる、ノアの方舟の縮小模型。中は居住区が再現されているので乗ることはできない」

オカ研右「でも……使えるのなら、喜んで」

しずか「あ……ありがとう!すぐ返すからね!」

オカ研右「それは木製なので重量は数十kgはある。私達も顧問の先生に手伝ってもらって運んだ」

しずか「う……確かにとても1人2人じゃ無理かも……応援呼んでくるね!」

紬「大丈夫!運べるわ!!」

しずか「む、ムギちゃん!?マーニーは!?いいの?」

紬「はあ、はあ……だって、この舟がなきゃ私、登場できないもの!!一緒に運ぼう?」

しずか「でも、これすごく重くて……」

紬「大丈夫!いくよ、せーのっ、えいっ!!」

しずか「えいっ!!す、すごい……持てた……力持ちなマーニー……」

……

律「だーめだ、どこにもそれっぽいのない!」

澪「教室にもなかった……途中に落ちてもいなかったよ」

和「困ったわ……もうすぐムギの出番なのに……」

しずか「借りてきた!」

紬「はあ、はあ……」

律「おお、ナイスしずかっ!って、すげー模型だな……」

澪「ムギ、汗だくじゃないか!一回メイク直してもらった方が……」

紬「う、うん……そうする、みんなこれお願いね!」

美冬「よし、みんな手伝って!運びましょう!!」

ちずる「うん!」

……

よしみ(何この舟、模型……!?中に入れないんだけど……しょうがない、舟の後ろに座ってれば乗ってるようには見えるかな)



純「舟……なんかゴツくない?」

憂「そういう時代設定なのかな?」

梓「それより、唯先輩がまた草で……見ててハラハラする」

さわ子「……しっ、ほらムギちゃんがあの門から出てくるわよ」

キイ……

紬「……こっちよ!!」


おおお……
かわいい……
ハーフかしら……?

梓「ムギ先輩、きれい……」

純「どよめきが起こったよ……」

憂「すごい、かわいいなぁ……」

さわ子「ふっふっふ……」



紬「……大丈夫?」

よしみ「……」

紬「うふふ……」

よしみ「あなたは本当の人間?私の夢の中に出てきた子にそっくり……」

紬「夢?夢じゃないわ」



憂「2人ともきれい……」

梓「そうだね……だからこそ、ハラハラする……草が」



唯(ゆらゆら~、ゆらゆら~)

紬「ねえお願い、約束して?私達のことは秘密よ、永久に」

よしみ「うん……秘密だよ。永久に……」

……

美冬「なんとかごまかせてるみたい、あの舟」

和「客席からは細かいところは見えてないみたいね」

しずか「よかったぁ……」

……

紬「……はい、アンナ」

よしみ(……!リンドウのお花、これ、本物?)

よしみ「……マーニー……」ジーッ

紬(……え?そんなに見つめるシーンじゃ……)カアッ




純「……なんか、見ててドキドキしてきたんだけど……」

さわ子「美しいわ……グッジョブムギちゃん、そして私!」

……

律「よーし、これで舟のシーン終わり!何とか乗り切ったな」

和「ええ。早速だけど、それオカルト研に返してきてくれないかしら」

律「りょーかい!澪、手伝ってくれ」

澪「わかった。せーのっ」

律「せーのっ、ぐえっ!?」

澪「重っ!?」

律「しずか……これ本当に2人で運んだのか!?」

しずか「うん……ムギちゃんがほとんど頑張ってくれたけど」

澪「どれだけ怪力なんだ、ムギ……」

……
美冬「次、クライマックスシーンよ!入れ替え、素早くね」

よしみ「……終わっちゃう」

紬「よしみ……?」

よしみ「つむぎとの楽しかった日々が」

紬「お、終わらないわ……!約束したじゃない、明日……」

よしみ「わかってる……わかってる……」

美冬「準備完了?……アンナ、マーニー、入って!」

紬「は、はい!」

よしみ「……うん」

……

憂「いよいよだね……」

梓「ああ、こんな重要な場面でまた草……!」

純「しかも波が激しいから結構動いてるし……」



唯(ゆらゆら~!ゆらゆら~!!)

よしみ「……ひどいよ……ひどいよ
……ぐすっ……マーニーっ……ひっく」

紬(えっ、よしみ……本当に泣いてるの!?)

よしみ「あぁぁ……マーニーっ……!!」

紬(……っ!!)バタン??

紬「……アンナっ!大好きなアンナ!!」

よしみ「……マーニーっ!!どうして……どうして、私を置いて行ってしまったの!?どうして私を裏切ったの!?」

紬「そんなこと……しないわ!!だって、あなたのことが大好きだものっ!!これからも、ずっとよ!!アンナお願い、許してくれるって言って!!」

よしみ「……!!」

よしみ「……もちろんよ、許してあげる!あなたが……あなたが好きよ!!……マーニーっ!!」

紬「アンナ……」ニコッ

よしみ「……」ニコッ

唯(……)ポカーン



梓(すごい……)

憂(うぅ、涙が……)

純(今本気で言ってたよね……)

さわ子(唯ちゃんの草が止まっちゃったけど……むしろいい演出かも?)

……
終了後舞台袖

紬「……ぷはっ」

よしみ「終わったぁ……」

美冬「お疲れ!すごかったよ!!」

信代「どうしたんだい、あのアドリブ!本物のアンナとマーニーが乗り移ったのかと思ったよ」

紬「あはは……気持ちが入っちゃって」

澪「圧倒されちゃったよ……」

唯「あわわわわどうしようごめんなさいごめんなさい!!私動くの忘れちゃったよ~!!」

律「いや、大丈夫大丈夫!むしろ良かったぜ、二人の迫力の演技で時が止まったみたいになって」

和「確かに、そのほうがよかったかもね」

唯「ほえ?ほんと?」

ちずる「うん!すごかったねー、お客さんみんな口ぽかーんと開けてたもん」

よしみ「……ああ恥ずかしい」ダッ

紬「あっ、どこ行くの!?……もう」

しずか「……やっぱり、本音だったのかな」

紬「……!」カアッ ダッ

しずか「あっ、ムギちゃんまで!?」

……

よしみ「はあ、はあ……」

紬「……よしみ!」

よしみ「……」

紬「……えへへ、ちょっと役に入りすぎちゃったかな」

よしみ「……うん。つむぎ、あのアドリブのセリフはちょっと本来とは意味ズレちゃってたよ?」

紬「そ、そうよね……ごめん」

よしみ「私は嬉しかったけど」ニコッ

紬「……よかった」

よしみ「明日、楽しみにしてるね。さ、もう戻ろう、片付け手伝わなきゃ」

紬「……うん!」

……

よしみ(今日でこの劇は終わり)

よしみ(つむぎと一緒に主役ができて、本当に良かった)

よしみ(でも明日から、マーニーとアンナではいられない)

よしみ(前へ進まなきゃね)

よしみ(どうなるのかな……わからない。でもきっと大丈夫)

よしみ「つむぎ」

紬「なぁに?」

よしみ「よろしくね」ニコッ

紬「ええ!」ニコッ




おわり



最終更新:2014年08月19日 07:23