梓「はあ……(早く雨止まないかなあ……)」
「あれ、梓?」
梓「あっ、律先輩」
律「どうしたんだよ、帰らないのか?」
梓「傘を家に忘れて来てしまって……」
律「マジかよ! うーん……そうだな、じゃあ一緒に帰るか」
梓「一緒に?」
律「ああ、梓が私の傘に入って」
梓「いえいえそんな! この雨ですし、悪いですよ……」
律「この雨だからこそ、だろ。それに今日は晩までずっと降るらしいぞ」
梓「そうなんですか?」
律「うん、朝のニュースでやってた」
梓「晩まで……」
律「ほら、遠慮するなって! それに私たち小柄だから傘一つでもだいじょうぶだよ!」
梓「そこまで言ってくれるのなら……お願いします」
律「よし、じゃあ帰ろう!」
梓「ありがとうございます……」
カチッ バッ
律「へへっ。二人で帰るってのも珍しい気がするな」
梓「そうですね。部活が終わったらみんなで帰りますし……律先輩と二人きりは意外と初めてかも……?」
律「そういえば意外な気もするな……どうしてかはわからないけど」
梓「私もわからないです」
律「まあ、いつもはあの交差点でも別れてるからな。あ、今日は家まで送るよ」
梓「すいません……でも近くのコンビニでビニール傘買えば……」
律「いいっていいって。お金のムダだから」
梓「……じゃあそうさせてもらいます」
律「よしよし。傘からはみ出して濡れたりしてないか?」
梓「今のところ大丈夫ですよ、ありがとうございます」
律「しっかし、私がたまたま通りかかってよかったな」
梓「実はどうしようか迷ってたんです……」
律「普段からもっとあまえてくれてもいいんだぞ〜?」
梓「うっ……なんですかそのキャラ」
律「お約束お約束」
梓「まったく……」
律「……でもな、本当につらい時やさびしいと思った時には遠慮せずに言ってくれていいからな」
梓「…………」
律「梓はすぐ遠慮するからなあ」
梓「急にどうしたんですか?」
律「ほら、二人きりってのも珍しいだろ? 良い機会だから話しておきたかったんだよ」
梓「話、ですか」
律「ああ。来年の部長は梓だからな」
梓「部長……」
律「まあ、ウチの部に後輩は梓しかいないから当たり前なんだけどな。でも今は部長として梓と話がしたかったんだ」
梓「なるほど……。それで、話って何ですか」
律「……梓、来年の軽音部について不安じゃないか?」
梓「不安じゃないっていえば嘘になりますけど……」
律「やっぱりな……っていうか、実は私も不安なんだ」
梓「律先輩もですか?」
律「不安だよ。来年誰も入部してこなかったら廃部だからな……。それに今年部員を獲得できなかったってのもあるからさ」
梓「たしかに今年一人も部員が増えなかったのは……」
律「そこは現部長の私の力不足が原因だ、ごめんな……」
梓「別にそんな……謝らなくても……。新歓ライブもやりましたし、やれることはやりましたよ」
律「でも、思い返せばもっと他に何かできたんじゃないかって思ってさ」
梓「まあ……そうかもしれませんけど」
律「そこでだ。梓にどうしても言っておきたいことがある。 ……もし軽音部が廃部になるようなことがあっても、自分を責めないでほしい」
梓「!」
律「梓だけじゃない。私たちにも責任はあるんだ。だから絶対に一人で全部抱え込まないでくれ」
梓「……万が一そうなれば、背負い込まないよう気をつけます。けど、廃部にはさせませんよ」
律「えっ?」
梓「絶対に軽音部を存続させますよ! これからもずーっと!」
律「何か秘策でもあるのか……?」
梓「そんなもの、ありませんよ」
律「なら」
梓「きっといるはずですよ。私たちの演奏を聞いて感動してくれる人が……。私も先輩たちの演奏を聞いて入部を決めたんですから」
律「梓……」
梓「だから、来年こそはきっと!」
律「……梓も立派に成長したんだなあ」
梓「ど、どういう意味なんですか!?」
律「いや、軽音部に入ってばっかの頃はもっと子どもっぽかったからさ」
梓「子どもっぽいって……それって見た目じゃないんですか?」
律「まあ見た目ももちろんあるけどさ。中身も成長したんじゃないか?」
梓「そうでないと来年部長なんて務まりませんよ!」
律「へへっ、だよな。けどまあ、梓が思っている以上に部長ってのは大変なんだぞ?」
梓「そうなんですか……?」
律「私の顔を見ながら言うなよ……。いいか、部長ってのはな……」
梓「……?」
律「……やっぱ言うのやーめた!」
梓「ええーっ!? 部長の心構えみたいなの言ってくれるんじゃないんですか?」
律「まあまあ。実際になってみたらわかるよ。わからない方が楽しいこともあるからさ!」
梓「ぶー……わかりました……」
律「来年あたふたしてる梓も見てみたいなー……」
梓「ところで気になったんですけど、どうして軽音部の部長が律先輩に決まったんですか?」
律「ああ……軽音部作ろうって言い出したの私だからな」
梓「そうだったんですか?」
律「それに軽音部自体潰れかかっていて、上級生もいなかったし」
梓「ええっ! それ知らなかったです……」
律「私たちが先輩の話をまったくしてない時点で察しろよ……」
梓「軽音部の先輩といえばさわ子先生のイメージが強くて……」
律「まあそうだけどさ……。とにかく、澪とムギ、最後に音楽初心者だった唯が入部してくれたおかげで軽音部が再建できたんだよ」
梓「すごいですね……」
律「こんな嘘みたいな実例もあるんだ。私よりも真面目な梓ならきっとなんとかなるよ」
梓「その話聞いて元気出ました。負けないようにがんばります!」
律「その意気だ、梓!」
梓「…………律先輩は……部長でいられてよかったですか?」
律「えー……なんか難しい質問だな……」
梓「ぜひ、聞かせてください!」
律「まあ、そりゃあよかったよ。お茶飲んで、練習して、演奏して、みんな笑って……そんな時に、私はここの部長でいられてよかったなって思えるよ
梓「……なるほど。いきなり変なこと訊いてすいません」
律「気にすんなって。 ……来年は梓がそんな風に思える軽音部にしていってくれ!」
梓「はい、もちろんです!」
律「軽音部の伝統の引き続き、よろしく頼むな。 ……これは部長として!」
梓「任せてください、来年の部長として!」
おわり!
誕生日おめでとう、りっちゃん!
最終更新:2014年08月21日 06:46