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初めての大学祭も終わってとくに何てことのない日曜日。
澪の部屋にムギ、唯、私は集まって四人でまったりしていた時、そういえばと私は話を始めた。

律「最近さ、よくみる夢があるんだ」

澪もムギも唯も私もみんな鳥になってて、何かを一生懸命探してる夢なんだ。

唯「鳥に?」

紬「何の鳥なの?」

律「んー、私の前にいた全員つばめだったから私もつばめなんじゃないかな」

唯「つばめさんかー」

澪「律が一番後ろなのか?」

律「うん、唯が先頭きってて澪とムギがその少し後ろで、私は一番後ろ」

唯「私が先頭?!」

紬「唯ちゃん、すごいね!」

澪「ドラムの場所と同じなんだな」

律「だなー、多分そういうイメージなのかも」

紬「リーダーは群れの皆を後ろから守ってるのね」

唯「りっちゃん、かっこいい!」

律「いやあ、それほどでも」

澪「…なんだか不安な安全確認役だな」

律「澪しゃん、しどい!」







ま、いいや。で、夢の続きなんだけど。
私達はよっしゃーーって、どんどん前に前にって飛んでるんだ。
でもさ、実は何を探してるのかはっきりしてないんだよ。
ただそれが見つけられないって事だけはわかってるんだけど。

律「そうしてしばらく飛びまわってると、必ず猫が出てくる」

澪「猫?」

律「そう、黒猫。あっ!と思ったら飛んで逃げられるんだ。そこでいっつも目が覚める」

紬「とんで?」

唯「ジャンプして逃げちゃうってこと?」

律「あー、違う違う。羽がはえてるんだよ、その猫」

紬「空飛ぶ猫さんなのね!」

唯「羽のはえた黒猫さんって…なんだかあずにゃんの事みたいだね」

…そういえば、『天使にふれたよ!』の歌詞の「子猫」の部分を「天使」に変えたのは唯だったな。

律「私もそうなんじゃないかなって気がするんだよなー。あ、あと猫だけじゃなくってさ」

紬「他にも誰かいるの?」

律「うん。柴犬っぽい犬とプードルみたいな犬が一緒に出てくる」

澪「へえ、他は猫じゃないんだな。その犬達にも羽はえてるのか?」

律「んん…どうだったかなぁ…」

唯「猫さんがあずにゃんだとしたら、もしかして犬さん達って憂達なのかな?」

紬「じゃ、プードルは純ちゃん、とか…?」

澪「…モフモフ」

律「なるほど。そんな気がしてきた」


とは言ったものの、一応心当たりはあった。
前に、澪が課題のための本を探しに市の図書館に行くというので暇を持て余していた私もついていった時に児童コーナーでみかけた一冊の本。

羽の生えている猫の話。

なんとなく手に取って、そのまま借りてきてしまった。
まあ、ここ数日見る夢はこれが原因で間違いない。

一回目は本のせいだなと思って、やれやれと流せた。
二回目はまたか、とちょっとだけひっかかった。
三回目に、やっぱり気にしてるんだと思い知らされた気がした。

私たちに翼をくれたはずのあの後輩は、ここではないどこかに飛んでいってしまうのだろうか。



□ □ □



律は皆との会話になんだか納得、というよりは、話すことで改めて自分の考えを確認してるように見えた。
きっと誰も口には出さないだけで気になっているはずの事だから。

大学のサークルの紹介で「放課後ティータイムです!」と名乗ったものの、本当は一人足りないわけで。
でもだからといって「放課後ティータイム」じゃないんですとも言えず。
晶達にはふわふわが評価されたけど、違うよ、ホントはこんなもんじゃない。もっと凄いんだよ!!と言いたかった。

そう思ったのはきっと私だけじゃない。
みんな、足りないと思ってたはずだ。
しょうがないですね、 と私達を締めてくれるあの音が。

実際、文化祭で晶たちのバンドに負けても特にショックではなかった。
…いや、まあ少しは悔しいんだけど。

だって私達はホントは五人組なんだから。



□ □ □



唯ちゃんは憂ちゃんから、私は菫から梓ちゃんの話を聞いている。どうやらまだはっきりと志望校は決まっていないらしい。

ちなみに憂ちゃんはというと、
『憂はウチの大学の他に、和ちゃんの大学も選択肢にいれてるんだよね。ちょっと悔しいけど和ちゃんも憂のお姉ちゃんみたいなものだから』
どっちの判定もAなんだって。すごいよねえと、唯ちゃんは嬉しそうに笑っていた。

梓ちゃんも純ちゃんも三人でN女の資料請求したらしいけど、こればかりはどうなるかわからない。梓ちゃんには梓ちゃんの考えがあるだろうし。
とはいえ(ちょっと失礼だけど)りっちゃんや唯ちゃんが後半の巻き返しで頑張って受かったのだから、真面目な梓ちゃんならきっと大丈夫だと思う。

…N女を受験するなら、というのが大前提の話だけど。

桜高祭は見に行かなかった…いや、行けなかった。
部長になった梓ちゃんを見届けに行くべきだったのに、別のバンドの一員として演奏する姿をみる勇気はなかったから。
それでも菫の初舞台でもあるから斉藤に頼んでビデオは撮ってはもらったけれど。

そんな私たちに梓ちゃんに進路はどうするの?なんて聞けるはずもなく、新曲を作っては梓ちゃんのパート分の楽譜が未完成なまま、四人で合わせる練習をすることしか出来なかった。



□ □ □



そろそろ願書やらなんやらの関係で志望校を決めないといけない時期なのに、私はまだうだうだと悩んでいた。

模試があって観に行けなかった大学の文化祭で先輩たちが「放課後ティータイム」として演奏したらしい、と菫から聞いて微妙な気持ちになった。
こちらの文化祭とも先輩達は予定が合わなくて観にきてもらえなかったのも正直少しさみしかった。
放課後ティータイムはもちろんだけど、今年結成したわかばガールズだって大切なバンドだ。
このままただ先輩達を追いかけるだけでいいのだろうか、なんてぐるぐるとまとまらない頭で部室の机に突っ伏していると、階段を昇る足音がして直と菫が入ってきた。

直「こんにちは。まだ梓先輩だけですか?」

菫「こんにちはー」

梓「おつかれ。…憂と純もそろそろ来ると思うよ」

二人は長椅子にカバンを置いてこちらにやってくると、私の手元の進路調査票に視線を落とした。

直「まだ悩んでいたんですね」

菫「…お姉ちゃん達の大学をどうするか迷ってるんですか?」

梓「…うん」

ああ、一年生に心配かけてしまうなんて情けない、とため息をつきそうになって堪えると、菫と直が真剣な顔つきで話し出した。

菫「えっと、梓先輩。車の運転もそうですけど、若葉マークは一年で卒業するものです」

直「はい。ですから、来年度の私達の成長を楽しみにしておいて下さい」

菫「まずは部員集めからですけど。あ、たまに指導に来てくれると嬉しいです」

直「新生軽音部『わかばマークⅡ』にこうご期待を!」

菫「ちょ、直ちゃん、ほんとにその名前にするの?!」

直「え、だめ?」

梓「…ふふっ、ありがとう、二人とも。まだ少し早いけど、わかばとあとの事はよろしく頼むね」

まったくいつまでたっても部長らしくなれないよなあ、なんて。
今度は二人の思いやりに涙を堪えるはめになってしまった。



□ □ □



学校からの帰り道、梓はいまだに志望校を決めてないらしい。
…まったくめんどくさい友人だ。

純「っていうかさ、放課後ティータイムの時とわかばガールズの時で梓の音って違うんだよね」

梓「え?」

豆鉄砲食らったみたいな顔をして梓がこっちをみた。
…そんな気付いてなかったみたいな目を向けられても困るんだけど。

純「えっと、先輩達と演奏してる時の梓はさ、なんか生意気な感じなんだよ」

梓「…え、そうなの?」

純「あ、いや、わるい意味じゃなくって。張り合ってるというか、のびのびしてるっていうか」

腑に落ちない顔をしてる梓を見ながら私は続ける。
隣りを歩く憂も黙って私の話を聞いていた。

純「でもわかばの時の梓は、部長として気負ってというか、なんか真面目な音がするんだよね」

梓「そう、かな」

純「や、だから別にそれがわるいとかじゃなくて。でも自分達とタメ口で話をしてる時みたいな、生意気な時の方が好きかも。…ちょっと悔しいけどね」

そんな私の意見に考えこむ梓に軽いノリで付け加えた。

純「あ、もし将来さ、梓達が有名になってインタビューとか受けたら、私の事話してよね。進路に迷っていた時に背中を押してもらいました!とかいって」

そう言うと梓は吹き出した。憂もにこにこして聞いている。

梓「…ありがと、純」

純「おー、珍しい。明日は雨でも降るんじゃない?」

素直に礼を口にした梓を思わず茶化してしまう。

梓「あめ、か…。そうだね、飴を降らして人を驚かせる事が出来るようになれたらいいと思うよ」

純「…梓、あんた唯先輩みたいな不思議な事言ってるけど大丈夫?」

梓「…それなにげに酷くない?」

なんてジト目を向ける梓のそばで、憂は苦笑いしていた。



□ □ □



純ちゃんとも別れて、梓ちゃんと二人になった帰り道。
梓ちゃんはさっきの純ちゃんとの会話のあとでもまだ進路を決めかねているようだった。

憂「あのね、梓ちゃん」

梓「ん?」

私は道端で立ち止まってから梓ちゃんに話しかけると、梓ちゃんも止まってこちらを向いてくれた。

憂「梓ちゃんや皆と一緒に演奏するのも楽しいって知ったけど、私はお姉ちゃんと梓ちゃんのギターを、放課後ティータイムの音楽を聴くのも大好きなんだよ」

梓「憂、」

憂「ねぇ、梓ちゃん。手が離れたらね、また繋げばいいんだよ。お姉ちゃん達とも。直ちゃんやスミーレちゃんとも」

梓「…それでいいの?」

憂「そうだよ。ね、簡単でしょ。それに…私も、純ちゃんもいつだって梓ちゃんの傍にいるよ」

梓ちゃんはジッと自分の手を見つめていた。

憂「梓ちゃんは片方に放課後ティータイム、もう片方にはわかばがあってラッキーだね!」

なんて言ったら、梓ちゃんはこちらを見ずに私の手をとった。

憂「あ、梓ちゃん?」

梓「…つなぎたくなったから」

憂「そっか…えへへ」

私も握り返すと繋いだ手がじんわりと暖かくなる。
そのまま手をつないで歩きだすと、梓ちゃんは大学で四人で演奏したという話を聞いて、仕方ないけれどやっぱりどこかで悔しかった、とぽつりぽつり話し出した。

梓「…やっぱり、先輩達とまた音を鳴らしたい」

皆に背中を押してもらった梓ちゃんはようやく迷いのない目で私を見た。

梓「憂。私、N女受験する…!」

憂「うん、一緒にがんばろうね!」


梓憂「「おー!!」」



□ □ □



ついに今日はN女の合格発表だ。
結果はというと、憂と梓、とりあえずダメもとで受けた私も含め三人とも無事合格となった。

三人でホッと喜んだところで憂と梓が先輩達に連絡を、と携帯を取り出すとタイミングよく鳴り始め、それに二人が驚くのと同時に後ろから四つの人影が飛び出した。

唯「憂!おめでとうー!!!」

憂「お、お姉ちゃん!ありがとう!」

律「やったな!」

紬「おめでとう、梓ちゃん!!」

梓「あ、ありがとうございま、ちょ、くるしい!」

唯先輩が憂に抱きついて、梓は律先輩とムギ先輩が挟まれていて、そんな光景を眺めていると、いつのまにか澪先輩が隣りにいた。

澪「鈴木さんもおめでとう」

純「あ、ありがとうございます!」

それから他の先輩達からもお祝いの言葉をもらってひとしきりした後、梓は四人に向きなおった。

梓「……あの、『放課後ティータイム』ってバンドに参加希望なんですけど」

律「おー、ちょうどメンバー募集してるみたいだぞ」

澪「もう一人ギターが欲しいんだって」

紬「赤いギターだとなおいいって言ってた!」

唯「ぎゅっとしやすいのも条件なんだって!」

そう言うと先輩たちは改めて梓をもみくちゃにしていた。

純「…あんなに嬉しそうな顔しちゃって。憂が唯先輩と和先輩に見せる顔とおんなじだ」

憂「妬けちゃう?」

純「んー。どうだろ。ま、少し…?」

憂「ふふ、でも純ちゃんもお兄ちゃんといた時のあんな顔してたよ」

純「んなっ?」

まさかの発言にうぐっとなっていると、憂はにっこりと私の右手をとった。



□ □ □



これから入学手続きの書類を受け取りがあるからと先輩達と別れて、憂と純の所へ「待たせてごめん」とかけよると、なぜか二人は手を繋いでいた。

梓「…何してるの?」

純「秘密です!」

憂「…だって」

梓「ちょ、なにそれ、」

と、私が抗議の声を上げ終わらないうちに笑う二人に両側から手をとられた。

憂に左手を、純には右手を。
そうして出来た小さな輪に、何だろうね、これ、と三人でしばらく笑いあっていた。



□ □ □



律「…梓またきてくれたな」

澪「うん…、これでまた五人だ」

紬「梓ちゃんにも早く作りかけの曲も聴いてもらいたいわ!」

唯「私もギー太とむったんを合わせたいよう」

律「さーて、明日からまた放課後ティータイムはどう始動しますかね」

澪「やりたい事が多すぎて困るな」

紬「ほんとね!」

憂達と別れて寮への帰り道、みんなあずにゃんの事がうれしくってすごくはしゃいでいた。
びゅうぴゅうと吹く冷たい風がほてった頬に気持ちよくて、しばらく立ち止まりその音に耳を澄ませていると、ムギちゃんが私が離れたことに気づいて声をかけてくれた。

紬「唯ちゃん、どうしたの?」

唯「あ、ごめんね。なんか風の音が声みたいに聞こえたから」

そう答えながらみんなの所へ早足で戻る。

律「声、ねえ」

澪「風の声…歌詞にいいかも…」

紬「うふふ、明日の予定も決めてもらう?」

律「ふーむ。それでは、平沢さん!風にきいた意見をどうぞ!」

唯「むむっ!聞こえました!明日はあずにゃんの歓迎ティータイムです!!」

りっちゃんの無茶振りに思わずそう答えると、三人は顔を見合わせて笑い出した。あれ?なんかおかしかった?

律「…やっぱ、そうだよなあ」

澪「いや、梓にちゃんと予定をきいてからにしないと、急に明日じゃ困るだろ」

紬「じゃ、歓迎会の時はとっておきのお茶もってくるね!」

どうやらあずにゃんを迎えて初めにやる事としてみんなの意見は同じだったみたい。
えへへ、やっぱそれでこそ放課後ティータイムだよね。

律「そういや、これって風まかせって事になるのか?」

唯「えー、まあそれも私達らしいんじゃない?」

澪「…いや、それはどうかと思うぞ」

紬「私は楽しくっていいと思うけどなあ」

唯「あずにゃんはどうだろうねえ」

どうかな、呆れるんじゃないか、なんてふたたび騒がしくなった皆の音で風の声は聞こえなくなった。

けど、またいつか、もし何もない広い原っぱで迷ったりしたら。
その時は風に聞いてみるのもいいかもしれない。
風に流されるのも逆らうのも、結局進み方を決めるのは私達だもんね。

そんな事を思いつつ空を見上げ、もうずっと嬉しくてにやにやが止まらない口元を隠すためにマフラーを巻き直した。



□ □ □



梓「あ、そういえば菫と直には連絡した?」

憂「ううん。まだだよ」

純「それはほら、部長がやんないと」

梓「…いいの?」

純憂「「もちろん」」

さっそく携帯をスライドさせる。いや、両隣りからのぞかれてはおちつかないんですけど…。
「三人とも無事合格しました」という文を打とうとして、去年唯先輩から届いた桜4つの絵文字を思い出し、四葉の絵文字だけを3つ並べた。
そうして菫と直に一斉送信できるようにしてから、送信ボタンに指を添えて腕を上に伸ばし二人に目配せした。
その意味に気づいた憂が私に手を重ねると、合点のいった純も憂に倣って手をのばす。


梓「じゃ、いくよ」

憂「うん!」

純「おっけー!」


   「「「せーの、」」」


   「「「送信っ!!!」」」


また楽しい日が始まりますように、とボタンに想いをこめた。



おしまい!




最終更新:2014年09月28日 10:36