「エリ、もう帰ろっか?」
うん。帰ろ~。
私が勉強に飽きたのを見破られてしまった。さっすがアカネ、私のことなら何でも分かってくれてるね。
「誰が見てもわかるよ……ほら、これ以上やっても意味なさそうだし帰ろ帰ろ」
はーい。
もう部活も引退して、最近は放課後毎日アカネとちょっとお勉強。そのまま一緒に帰るのが当たり前の日課。
片付けて校舎を出ると、いつもきれいな夕焼けだった。
いや~、秋も深まってきたね。きれいなアカネ色だよ、アカネ色。
「そう言われても反応に困るけど……」
えー、そこは素直にきれいだって言っておけばいいじゃない。
「ふふ、まぁ確かに夕焼けはきれいだけどね」
そうそう!
アカネと一緒に帰る、いつもの道。
何度ここをアカネと一緒に通ったことだろう。
毎日毎日、ほんとに毎日。ずーっと、アカネと一緒に。
コーラ飲みながら、ね!
「あ、コーラ少しちょうだい、エリ」
はいどーぞ!
もうすっかりアカネもコーラ中毒だねー。布教した甲斐があったよ。
「でも仏像は布教されないよ?」
むう、それは残念……いや、諦めないから。アカネと仏像について語るのが夢なんだからねー。
こうなったら、卒業までになんとしても仏像を……
……卒業かぁ。
「ん?どしたの?」
……ううん、なんでもない。
あんまり考えてなかったな、卒業のこと。
ふんわりと、卒業して進学して~、とは考えてたけど。
卒業したら、アカネと離れ離れになるんだ。
この道を一緒に歩くこともなくなるんだ。
……ねぇアカネ、
「それじゃ、また明日ね、エリ」
あ、もう着いちゃったのか、分かれ道に。
はーい、またねアカネ。ばいばーい。
アカネが帰っていく。
夕日が沈む方へ。
私はそれをじっと見ながら、さっきのことを考える。
卒業したらアカネと離れ離れになるのかぁ。
会えなくなるのかな。ううん、会えるよね。毎週だって会ってやるんだから。
……ほんとにそうなるのかな。疎遠になっちゃうんじゃ……?
会わないのが自然になって、なんとも思わなくなるんじゃ……?
いやだよ、そんなの。
アカネ、行かないで。戻ってきてよ。
アカネはこっちを振り向かずに、夕日のほうへどんどん歩いていく。
視界がアカネ色に染まる。
アカネが明日へと沈んでいく。
……ついにアカネは見えなくなっちゃった。
また明日、って言ったけど。明日、本当に会えるよね?
怖くなってきちゃったよ。
今は、何も考えなくても、毎日会えるんだけど。
卒業したら……たまに会っても、こうやって毎回、別れの度に寂しくなるのかな。
同じ学校の、同じクラスの、同じ部活の、私達。
卒業したら、それがなくなる。
私達の間に、確かなものは何もなくなる。
次いつ会えるのかもわかんないまま、明日を迎えないといけなくなるのかな。
何それ。嫌、切なすぎるよ……
日も暮れてきた。何だか泣きそう。
気を紛らわすために、おもむろにカバンからヘッドフォンを取り出して耳に充てる。
思いっきり音楽流して忘れようとしたけど……
しまった、ちょうど感傷的になる曲で止まってたんだった……
これじゃ逆効果。余計に涙が出そうになる。
私はずっとその場から動けなかった。
もうアカネも帰っちゃったのに。日も暮れてきて、もうアカネ色じゃないのに。
泣きたくなるのに、ヘッドフォンが外せない。
下を向いて、ひたすら我慢してた。
アカネ……
さみしいよ。
「……何してるの、エリ?大丈夫?」
えっ……!?
顔をあげると、視界がアカネ色に染まる。
ヘッドフォンつけて下向いてたせいで全然気づいてなかった!
アカネ!帰ったんじゃなかったの?
「そうなんだけど、なんとなく……エリの視線を感じたような気がして」
……そっかぁ。そんなに凝視してたのかあ、えへへ。
「何してたの?本当に大丈夫?泣きそうな顔して……」
な、泣きそうじゃないよ!全然大丈夫!このとーり!
……アカネがいるからね。
「……何それ?ふふ……エリの寂しがり屋」
むー、うるさい~。
「あのさ、卒業したら……」
……びくっとした。
何を言うつもりなんだろ、アカネ。
「もうこの道一緒に帰れないんだな、って考えちゃった」
……!!
「……何言ってるんだろね。エリの寂しがり屋が移ったみたい」
……ふふふ、アカネも仲間だね!
ということで、卒業してもたくさん遊びましょうっ。いつも通りにね!
「そうだね。うんうん。いつも通りだね。……んじゃ、また明日!」
はーい、今度こそバイバイ!
……今度は笑顔で、帰っていくアカネを見送る。
もう暗くなっちゃったけど、私の視界はまだアカネ色。
私達の間に、確かなもの、あったよ!
全然心配なかったね!
さ、帰ろっと。また明日ね、アカネ!
おわり
……………………
元ネタ:椎名林檎「茜さす 帰路照らされど・・・・・・・」
最終更新:2014年09月28日 22:14