お買い物の帰り道!

唯「今日の晩ご飯も楽しみ〜♪」

憂「デザートも買ったしね♪ 今日はお姉ちゃんが付いて来てくれて本当に助かったよ。傘差しながら一人で帰るのは厳しいから……」

唯「困った時はいつでも言ってね! 憂と相合い傘〜ふふ〜♪」

憂「ふふ♪」

ビュウウウ

唯「わっと!? やっぱ風が強いね……」

憂「早く帰って洗濯物取り込まないと……」

唯「あまり降っていない今のうちにやらないとね。わたしも手伝うよ!」

憂「じゃあお願いするね」

唯「早く通り過ぎないかなあ……学校休みになって家でゴロゴロできるのもうれしいけど、やっぱりみんなとも会いたいなー……」

憂「今夜には通り過ぎるってニュースで言ってたよ」

唯「そっか、それなら明日からまた……」

ビュウウウウウウッ

唯「!! 風が……!」

憂「下から吹き上げて……!」

ビュウウウウウウッ

唯「か、傘が飛ばされちゃう!」ギュッ

憂「お姉ちゃん!」

フワッ……

唯「あっ、買い物袋が……って、わたし浮いてる!?」

憂「お、お姉ちゃん……飛ばされない……でっ!」ギュッ

ビュウウウウウウッ

唯「わわわわっ……! 憂、離さないで……わたしこのままだと飛ばされちゃう……!」

憂「絶対に……離さないよっ!」ギュウウウッ

ビュウウウウウウッ!

憂「あっ!」

フワッ……

唯「憂まで浮いた!?」

バサッ

憂「ああっ、今日の晩ご飯がっ!」

唯「ちょっと待って! わたしたち、空飛んでるよ!」

憂「えーっ!?」

唯「あーっ! どんどん昇っているよ!」

ビュオオオオッ

唯「浮いてる……」

憂「浮いてるね……」

唯「わたしが傘から手を離さなかったせいだね……」

憂「これ地面までどれくらいあるのかな……」

唯「わかんないけど、落ちたら絶対に痛いよ……」

憂「…………」

唯「今、傘から手を離したら……わたしたち落ちちゃうね」

憂「ぜ、絶対に離さないでね!?」

唯「う、うん……わかってるよ。憂もちゃんとわたしにしがみ付いててね?」

憂「うん、わかった」

ビュウウウ

唯「これ、わたしたち移動してるね……風のおかげでなんとか宙に浮かべてるけどさ」

憂「もう少ししたら風も弱まるだろうからだいじょうぶだよ……!」

唯「いきなり止んで落ちたりしないかなっ……!? どうしよう……」

憂「お、落ち着いてお姉ちゃん! きっとだいじょうぶだから!」

唯「本当に……?」

憂「うん! それにきっと誰かが助けてくれるよ!」

唯「それならいいんだけど……あっ、さっき買い物に行ってたスーパーだよ!」

憂「…………」

唯「歩いてならけっこうかかるけど、空からならあっという間だね」

憂「こんなことはまず起きないだろうけど……」

唯「このまま待つしかないねー……」

憂「どうか、いきなり風が止みませんように……」


純「まさかスーパーで梓と出くわすとはねえ……」

梓「私はお母さんに頼まれたお買い物。純はお菓子を買いに来ただけでしょ!」

純「失礼な……店からすればどっちもお客様だよ! まったく……」

梓「しかもそんなにたくさん買って……それ全部一人で食べるの?」

純「そんなわけないでしょ! 一応、あっちゃ……お兄ちゃんの分もあるよ!」

梓「あれ……?」

純「ちょ、人の話無視しないでよ……」

梓「えっ、いや、まさかあれって……」

純「? どうしたのさ」

梓「唯先輩と憂が……」

純「おっ、平沢シスターズ! どこどこ?」

梓「あ、あそこ……」

純「……誰もいないよ?」

梓「あそこだよ、ほらっ!」バッ

純「はっ……って、ええええええええええっ!!!??」

梓「唯先輩と憂が……宙に浮かんでる……!」

純「これって本当のことなの……!?」

梓「現実のことだよ! どにかく……えーっと……!」

純「ど、どどどうしよう!?」

梓「とりあえず通報して助け出さないと!」ピッピッ

プルルルルルルル

純「…………」

梓「あっ、もしもし! えーっと、ですね……女子高生二人が強い風で空に飛ばされていて……えっ? いえ、冗談じゃなくて! いや、本当なんですよ! 今も傘持ったまま浮かんでますよ! ……あーえー……桜が丘駅の方向に向かってると思います! あっ、ちょっ、ええっ!? お忙しいのはわかってますけど……はい……。で、でもこれはいたずらじゃありませんからね! とにかく空を見上げてみて……あっ」

プープープー

梓「切られたけど……一応、通報はした」

純「まともに取り合ってもらえたの……?」

梓「どどどどうしよう!? 絶対にちゃんと聞いてくれてなかったよー!」

純「お、落ち着いて、梓……唯先輩に連絡してみたら?」

梓「はっ! その手があったね! 唯先輩お願い、どうか電話に出てください……!」

プルルルルル ブッ

ただいま電話に出ることができません。ピーという

梓「……出ないよ、出てくれない!」

純「私も今、憂にかけてみたけど出ないや……。二人とも今はケータイ持ってないんだと思う」

梓「じゃあどうすれば……」

純「軽音部の先輩たちに連絡すれば何か助けてくれるかもしれないよ!」

梓「もう頼れるのは先輩たちだけ……」ピッピッ

プルルルルル

律『もしもし。どうしたんだよ梓、珍しいな』

梓「律先輩、大変なんです! 唯先輩と憂が風に飛ばされたみたいで今空に浮かんでて!」

律『……言ってる意味がよくわからないんだが……唯と憂ちゃんがどうしたんだ?』

梓「と、とにかく! 二人が危ないんです! 今すぐ助けに来てくれませんか!?」

律『二人に何かあったのか!? わ、わかった! 梓は今どこにいるんだ?』

梓「純と一緒に空にいる二人を追いかけていて、今は桜が丘駅の方に向かってます!」

律『了解、そっち方面に今すぐ行く。澪とムギには私から連絡しとくよ!』

梓「今も移動を続けてますので!」

律『また何かあったらすぐに連絡してくれ!』

梓「はいっ!」

ピッ

梓「このまま二人を追跡しつつ、先輩たちと合流するよ!」

純「なんか休校日がすごいことになったね……」

梓「だね。とにかく私たちも行くよ!」

純「了解!」


ビュウウウッ……

唯「そういえば憂は今、ケータイ持ってる?」

憂「お買い物だけのつもりだったから持って来てないや……お姉ちゃんは?」

唯「わたしも持って来てないよ」

憂「そっか……じゃあ連絡は取れないね……」

唯「ここからの眺めを写真に撮っておきたかったなー……」

憂「ってそっちなの!? 助けを呼ぶためだと思ったんだけど……」

唯「だ、だって珍しい景色だから……」

憂「(この状況に慣れすぎだよお姉ちゃん!)ま、まあとにかく傘から手を離さないでね……」

唯「がんばるよ!」

憂「うん……(心配だなあ……)」

唯「大きな声出したら下にいる人で誰か気づいてくれないかな?」

憂「声出さなくてもけっこう目立ってると思うよ」

唯「そっか、それもそうだね!」

憂「じっとしていよう。ムダな体力を使わないように……」

唯「そだね」


「おーい、梓、純ちゃん!」

梓「律先輩! 澪先輩とムギ先輩も早いですね!」

紬「たまたま駅の近くでお買い物してたから!」

澪「唯と憂ちゃんが危ないんだ!って律にものすごい剣幕で呼び出されて……」

律「それで、唯と憂ちゃんはどこにいるんだ……!?」

純「あそこです!」バッ

澪「ほ、本当だ……!」

紬「傘を持っているのが唯ちゃんで……それにしがみ付いてるのが憂ちゃんね!」

梓「純と一緒にいたらたまたま発見して……」

律「これは台風のせい……なのか……?」

澪「二人とも落ちて来たらどうしよう!?」

律「どうするって……このままぴったり追いかけてキャッチするしかないだろ!」

澪「そそっ、そんなことできるかな……!?」

律「できるかどうかじゃなくてやるんだ! 今私たちにできることを全力で!」

澪「律……」

梓「律先輩……!」

律「どんなことがあっても二人は私が受け止めてやるっ!」

紬「私も!」

梓純「私も!!」

澪「私だって!」

純「と、とにかく追いかけましょうか!」

紬「走ってでも多分追いつくわ!」

律「よし、行くぞ! 二人を助け出すんだ!」

紬澪梓純「おーっ!!!!」


ビュウウウッ……

唯「浮かんでるねー……飛んでるねー……」

憂「いつまでこのままなのかなあ……」

唯「今のわたしたちさ、下の人たちからは天使みたいに見えるんじゃないかな!」

憂「天使?」

唯「うん! 羽はないけど、ふわふわ飛んでるからさ」

憂「そう見えるといいね、素敵だと思うよ……」

唯「ふふ……。あっ、ほら見て、学校だよ! あそこに校舎が」

憂「あ、ほんとだ。ここからなら小さく見えるね」

唯「白くて綺麗……でも案外広くないね」

憂「まあこの高さだから……」

唯「……ねえ、憂」

憂「どうしたの、お姉ちゃん?」

唯「この町のことどう思う?」

憂「この町……? うーん……良い町だと思うよ」

唯「だよね、空からこの町全体を見て改めてそう思ったよ。自然もあるし、人も多すぎでも少なすぎでもない、にぎやかで楽しくて過ごしやすい……」

憂「…………」

唯「それにみんなともすぐに会えるから! みんな今ごろ何やってるのかなあ……」

憂「休校だし、みんな家でのんびりしてるんじゃないかな」

唯「やっぱそうかなあ」

ビュウウウッ……!

憂「!? お姉ちゃん、風が!」

唯「えっ、弱まってる……!?」

憂「強まったり弱まったりしてるよ!」

唯「傘が不安定に!?」

憂「山の方に向かってるね……」

唯「ちょっとずつ高さが……」

ビュオオオオオッ!

唯「わっ!? 憂、わたしの体から離れちゃだめだよ!」ギュッ

憂「離さ……ないよぉっ……!」ギュッ

フッ……

唯「……あれ」

憂「止んだ、ね……」

唯「……風がないのにわたしたちどうやって浮いてるのかな?」

憂「どうしてだろうね」

唯「あ、いつの間にか地面が……もう少しで着陸できるよ!」

憂「ほんとだ。せーので一緒に降りよっか」

唯「オッケー。じゃあいくよー……」

唯憂「せーのっ!!」パッ

ドッ……

唯「やった、ついに地上に!」ギュッ

憂「よかった……お姉ちゃん……!」ギュッ

唯「憂、怖かった……?」

憂「私は……」

「唯ー! 憂ちゃーん!」

唯「あっ、みんな!」

憂「あっ」

純「はーっ……やっと追いついたぁ〜……」

律「二人とも……一体どうして空に……」

唯「傘持ってたらね、急に風が吹いて飛ばされちゃったんだ! 助けようとしてくれた憂も一緒に飛ばされてさ」

憂「でも、みなさんどうしてここに……」

梓「下でずっと二人を追っかけてたんだよ!」

憂「そうだったの!?」

澪「まあ、二人が無事ならそれでよかったよ……」

紬「ケガが無いのなら何よりね」

憂「すいません、みなさんにかなりご迷惑をおかけしたみたいで……」

律「気にしなくていいよ。でも、二人も災難だったなー……」

純「高いところ、怖くなかったの……?」

憂「お姉ちゃんが一緒だったから怖くなかったよ!」

唯「わたしも、憂が一緒だったから怖くなかったよ!」

梓「まったく……この姉妹は……」

唯憂「えへへ」

澪「二人が無事ってわかったら急に力が抜けたよ……」

律「同じく……」

憂「お詫びに今夜の晩ご飯、一緒にどうですか? みなさんもお疲れみたいですし……」

純「え、本当に?」

唯「やったー!」

紬「いくいくー!」

梓「こんなことがあった後だけど、憂はだいじょうぶなの?」

憂「お姉ちゃんの笑顔が見られればへっちゃらだよ!」

梓「それならいいけど……」

唯「あ、和ちゃんも誘おうっと!」

律「和にも今日の出来事を報告か?」

唯「もちろん! ……それに、この町は良い町だってこともね!」

律澪紬梓純「……?」

唯「そのことはみんなにも話してあげるよ、わたしと憂が空で見た素敵な光景をさ! それじゃあ、みんなで帰ろっか」

憂「うん、帰ろう!」

唯憂「〜♪」

澪「……ほんと、あの二人は仲良いなあ」

純「ですねえ」

紬「いつまでもいつまでも」

梓「ずっと仲良く……」

律「いてほしいよな!」


おわり



最終更新:2014年10月15日 08:12