和「『マップ』のアプリケーションを起動。ふふふ……これで道に迷わないわ!」
唯「さすが和ちゃん!」
和「それにしても、急に和菓子屋さんに行きたいだなんて……」
唯「ふふーん♪ なんてったって食欲の秋ですから! 憂のオススメするお店なんだ~」
和「やれやれ……ところでなんていう名前のお店なの。行き先入力するから教えて」
唯「えっと……なんていう漢字だったかな……。名前も憂から聞いてたんだけど、ど忘れしちゃった」
和「読み方は知ってるの?」
唯「うん」
和「そんな時はこれよ、『音声入力』!」バッ
唯「おおっ! そんな機能が!」
和「話しかけてみて」
唯「えっとね、『おうかどう』!」
ピコン
和「……唯が言ったお店の名前は、これで合ってる? 『桜花堂』」
唯「そう、それそれ!」
和「オッケー。出発地点を現在位置にして、目的地を『桜花堂』に設定……検索!」
唯「出た?」
和「距離が2.1km……8分で到着……?」
唯「そんな無茶な!」
和「ああ、移動手段が車になったままに……」
唯「」ズコー
和「徒歩だと……だいたい30分くらいね。 ……けっこう曲がったりするみたい」
唯「のんびりいこうよ。和ちゃんのケータイがあるなら道にも迷わないし!」
和「じゃあそうするね」
唯「~♪ 今日はいい天気だね。太陽も元気いっぱい!」
和「日差しがあるとちょうどいいくらいの気候みたい。 ……そのせいでちょっと地図がみづらいけど」
唯「画面一番明るくしたら?」
和「そうしておくわ」
唯「和ちゃんとお出かけお出かけ~♪」
和「そんなにうれしいの?」
唯「だって和ちゃんと二人きりはけっこう久しぶりだからさ」
和「ああ……まあ……」
唯「中学までずーっと一緒だったもんね、わたしたち」
和「そうねえ……休みの日とかもお互いの家行ったりしてたし」
唯「だよね。幼稚園の頃からずっと」
和「でも唯にも打ち込めるものが見つかって本当によかったわ。 部活、楽しいでしょう?」
唯「もちろん! 和ちゃんももっと部室に来てくれればいいのに……」
和「部活動のジャマになるでしょう」
唯「まあ練習もするけどお茶とかもしてるしさ。なんと言っても“放課後ティータイム”だからね!」
和「体張ってバンド名を表してるわけね……。でも私、生徒会の仕事とかあるし……」
唯「生徒会ってそんなに忙しいの?」
和「そうね……部長会議に出席したり、夏にはクーラーとかの設備要件の聞き取り調査とまとめ、それから毎月出てる『桜校月報』の生徒会の活動記事もあるからそのコラムの作成会議・推敲と提出、学祭が近くなると講堂の使用届のチェック、出店するクラス行事確認……とにかく一年中何らかの活動はしているわね」
唯「……おつかれさまです!」
和「特に軽音部には毎年苦労かけられっぱなしで……」
唯「ご、ごめんね」
和「……冗談。けど今年こそは講堂使用届、期日までにきちんと出してね」
唯「りっちゃんにもよく言い聞かせておかないと、ふんす!」
和「……あぁっ!」
唯「ど、どうしたの……?」
和「(もう充電が80%切ってる……画面明るくしたせい……? でも、外が明るいからこれ以上暗くもできない……)」
唯「?」
和「(考えられるのは『マップ』と『位置情報サービス』かしら。でも、今の状況じゃどちらも必要……)」
唯「和ちゃん?」
和「えっ!? あっ、ううん、何でもないの。それよりも見て!(とにかく、今はお店に着くことだけを考えないといけない……!)」
唯「なに?」
和「なんとこのスマートフォン、コンパス機能もあるのよ! 例えば、私があっちの方角へ体を向けると」クルッ
唯「あっ、画面の向きも変わったー!」
和「ふふふ……それに、ちょっと歩けばマップもその動きを反映して、私たちの現在位置を示しているこの青い丸も一緒に動くのよ」
唯「なんかすごいねぇ」
和「えっと、次の交差点を左に曲がって」
唯「これなら道に迷わないね」
和「も、もちろん(そうこうしているうちにバッテリーが73%……想像以上に消耗スピードが早い……!)やっぱりちょっとだけ早歩きしよっか」
唯「え、そんなに急ぐの?」
和「私も歩いてたらなんだかお腹空いちゃって……(言えない……充電がなくなりそうなんてかっこわるいこと……唯には言えない……!)」グッ
唯「和ちゃんも楽しみなんだね~」
和「次は……ぁっと!」
唯「今度はなに!?」
和「関係ないとこタップしたせいでルートが消えちゃった……」
唯「…………」
和「えっと、目的地が『桜花堂』で、移動手段が徒歩で……入力完了」アセアセ
唯「じゃあ改めて、しゅっぱーつ!」
和「(バッテリーが……)」
<桜花堂>
唯「この水ようかんおいひ~!」
和「こっちのきなこもちもおいしいわ」
唯「やっぱり和菓子と温かいお茶もいいもんだねえ~……」
和「そんなに毎日食べ過ぎたら……そういえば唯は太らない体質だっけ」
唯「いえす、太らないんだ! お母さんに似たのかも?」
和「部室に行くと、いつも紅茶飲んでお菓子食べてるイメージなんだけど……」
唯「そ、そんなことは……あるかな」
和「今年で最後なんだから、練習もしっかりとね。梓ちゃんのためにも」
唯「……うん、わかってるよ」
和「(真剣な目……唯もやっと先輩らしくなったのね……)」
唯「じーっ……」
和「(……ああ……こっちね)一つあげようか?」
唯「いいの? やった!」
和「やれやれ……(帰り道が心配だからあまり食べることに集中できない……)」
唯「♪」
和「(けどまあ、唯の顔を見てたら不思議となんとかなる気もしてきたかな)」
唯「わたしの分も一つあげるよ、はい!」
和「ありがとう」
唯「はあ~お茶が身体に沁みる~……」
和「唯、なんだかおばあちゃんみたいよ」
唯「え、そうかな?」
♯
唯「お菓子もいっぱい食べたし、帰ろっか! 和ちゃん家に来るでしょ?」
和「そうね(バッテリー残量が……37%!? こ、これは……)」
唯「では帰り道の方も案内よろしくお願いします!」
和「い、今から入力するね(行き道はフルで地図に頼りっぱなしだったから道のり全然覚えてない……)」
唯「今度はケーキバイキングとかいってみたいな~」
和「(とりあえず入力完了)」
唯「近くにないかな。ねえ和ちゃん、ちょっと調べてみてよ!」
和「えっ、何を……!?」
唯「だから、ケーキバイキング!」
和「(この状況でブラウザーなんて開けばバッテリーが……!)ご、ごめん……今は『マップ』を起動させているからちょっと調べられないわ」
唯「そっか~……」
和「家に着いてからにしよう」
唯「ほーい」
和「(ほっ)」
唯「帰ったら何して遊ぼっか」
和「うーん……(だいじょうぶ……信じていればだいじょうぶ……!)」
~~~
和「(残り22%……まだ知らない道……)」
唯「学祭が終わったら受験勉強もがんばらないとだね」
和「(この危機的状況について何も知らない唯が羨ましい……)」
唯「そうなると、軽音部の先輩としての活動が無くなっちゃうからあずにゃんに……」
フッ……
和「なっ!?(まだバッテリー残量はあったはずなのにいきなり電源が落ちた……!?)」
唯「えっ」
和「(再起動も……できない……こうなれば……)」
唯「和ちゃん?」
和「……唯、良い情報と悪い情報、どっちから先に聞きたい?」ズイッ
唯「え、えぇっ!? ちょっと言ってる意味がよくわからないよ……」
和「いいから、ほら。言ってみて」
唯「じゃあ良い情報から……」
和「さっき食べたきなこもちと水ようかん、後から追加で注文したみたらしだんご……とってもおいしかったわ。あんなにおいしいお菓子を唯と二人で食べることができて良い休日の過ごし方だった。また今度、憂も連れて一緒に行こうね」
唯「もちろんだよっ!」
和「ふふ……」
唯「良い情報がそれ? じゃあ悪い方は……」
和「…………」
唯「…………」
和「……バッテリー切れ」
唯「え?」
和「ケータイがバッテリー切れしたから、『マップ』が使えなくなってしまったの」
唯「ってことは、つまり……」
和「帰れないわ!」
唯「そんな……」
和「い、一応アナログの地図も用意してるから」ゴソゴソ
唯「で、でもだよ、わたしもそうだけど、たしか和ちゃん地図苦手なんじゃあ……」
和「だいじょうぶ……! 今回はだいじょうぶだから……!」
唯「わかったよ……」
和「今はこの場所にいるから、あそこを右に曲がって、と」
唯「うう~……」
~~~
和「またさっきと同じ場所に……」
唯「なんで~……? 何回も違う道歩いたのに……」
和「私にもよくわからないわ……地図通り歩いたはずなんだけど……」
唯「もう歩き疲れたよー……」
和「……こうなれば奥の手よ、憂に助けを求めましょう!」
唯「はっ……その手があったね! 憂、助けてー!」ピッ
プルルルルルル
和「…………」
唯「あっ、もしもし憂? あのね……わたしたち、迷子になっちゃった!」
和「(言っちゃった……)」
~~~
<平沢家>
憂「まさか二人とも迷子になるだなんて驚いたよ」
唯「えへへ……面目ない……」
和「本当に助かったわ。ありがとね、憂」
憂「どういたしまして! でも迎えにいった場所がけっこう近くでよかったね」
唯「近所でも知らない場所は意外とあるもんだねえ。あのままだったら絶対家に帰れなかったよ、うん」
和「……今日で、現代の電子機器に依存し過ぎるのはよくないことだってことを身を持って学べたわ」
憂「けっこう初歩的なミスだけどね……」
和「今度からバッテリーを持参しようかしら。だから今度の休みは三人で家電量販店に行こうね」
唯「……まあ和ちゃんと一緒に遊べるから、いいよ!」
憂「今度は私も一緒に行きたい!」
和「もちろん! その後に、どこかおいしいお店にでもいこっか♪」
唯憂「やった~♪」
おしまい
最終更新:2014年10月27日 07:36