純「ふーん? なになに言ってみ?」

梓「実はね……」

梓「最近……ていうか今日なんだけどさ……軽音部のセンパイ達に狙われている気がするんだ」

純「ねら……?」

梓「ほら、例えばそこのロッカーの陰。あ、目を向けないでね」

梓「ムギセンパイがパイを持って隠れてる」


紬「じー……」


純「居た……」

梓「絶対ぶつけてくる気だよ、教室出られないよぉ」

紬「!」

純「あ、目合わせちゃった」

紬「……」クイクイッ

純「……なんかこっち来いって言ってるみたい」

梓「駄目駄目、やられちゃうよ」

純「何に?」

梓「パイに」

純「行ってくるわ」

梓「あ、バカ!」


純「ムギセンパーイ」


梓「終わった……」

純「~」

紬「~」

純「~」


梓「あれ? 純にパイをぶつけてこない……むしろ談笑している……」

梓「あ、どこからともなくムギセンパイが二つ目のパイを!」

梓「そしてそれを純に渡して……」

梓「パイを受け取った純もロッカーの陰に隠れましたと……」

梓「……」

梓「なんでやねーん!?」

梓「純が私を狙う側に! 私が何をやったんですか!」

梓「これではますます教室からの脱出は困難……どうしても私にパイをぶつける気ですね」

梓「どうしたら……」

梓「!」

梓「待って、二人がロッカーの側に固まって隠れてるということは……」

梓「反対側の出入り口はがら空きじゃないですか」

梓「純、ムギセンパイ破れたり~!」たたた~


純「あっ」

紬「あっ」

純 紬「手強い……」



梓「二人は一体何がしたかったんでしょうか。永遠の謎です」

梓「さ、むったんを取りに部室でも行きますか」

律「~♪ お、梓じゃん」

梓「あ、律センパイ! 律センパイもこれから部室ですか?」

律「んー、そんなトコ」

梓「じゃあ一緒に行きます?」

律「おう」

梓「……」てくてく

律「……」すたすた

梓「……」てくてく

律「……」すたすた

梓「……あの」

律「何?」

梓「なんで私の後ろにぴったり付いてくるんですか」

律「ドラクエごっこ」

梓「ドラクエごっこですか。ドラクエごっこなら仕方ないです」

梓「……」てくてく

律「……」すたすた

梓「……あの」

律「何?」

梓「その右手に持ってるパイのような物はなんですか?」

律「パイだよ」

梓「パイですか。パイなら仕方ないです」

梓「……」

律「……」

梓「ちくしょう!」ダッ!

律「待てー!」ダッ!

梓「なんでですか! なんでパイなんですか!」

律「それはね! 今日だからだよー!」

梓「意味が分かりません!」

律「ぶつけたら! ぶつけたら教えてあげるから!」

梓「顔面パイまみれは嫌ですー!」

律「そんなこと言わずに! 美味いよ!」

梓「食べるならお上品に食べたいです!」

律「いいから待てってんだよー!」

梓「追いかけ方が完全にチンピラなんですよ!」

梓「くっ……さすが運動神経抜群の律センパイ! 足で撒くのは難しそうですね……」

梓「どうすれば……」

梓「!」

梓「……こうなったらイチかバチかです!」

梓「律センパイ!」

律「どうした!」

梓「あんな所に澪センパイのマル秘写真と脱ぎたての靴下が!」

律「え? うそ! どこどこどこどこどこ?」

梓「ある訳無いでしょー!」

律「謀ったなー!?」

梓「ふう……逃げ切れた」

梓「律センパイの頭があまりよろしくないということを覚えていて良かったです」

梓「まぁ、写真と靴下は本当に持ってるんですけどね。絶対渡しませんけど」

梓「では気を取り直して部室に……」


「キミを見てるといつもハートどきどき~♪」


梓「うん? この心に沁みるような澄んだ歌声は……?」

梓「あっちから聞こえる。行ってみようか……」



澪「揺れる思いはマシュマロみたいにふ~わふわっ♪」

梓「やっぱり澪センパイですか!」

梓「おおぅ……澪センパイがベースを弾きながら歌ってこっちに歩いてきてる……シュールだ」

梓「澪センパイー! なんで弾き語りみたいな真似してるんですかー?」

澪「あ~あ~カ~ミサマお願い~♪」じり……

梓「スルーされた」

澪「二人~だ~け~の♪」じり……

梓「何故か妙な威圧感を感じます……」

澪「ドリームーターイムくーだーさい♪」じり……

梓「み、澪センパイ……?」

澪「あ~ずさ♪」

梓「え?」

澪「ポチッとね」カチッ

ビュンッ!

梓「ひっ!?」サッ!

べちゃっ

澪「く……外したか!」

梓「え? え? 澪センパイのベースからパイが! パイが!」

澪「油断させて……ガッ! 作戦は失敗か」

澪「セカンドフェイズに移行する」

梓「え? なんですか? 夢ですか?」

澪「お~気に入り~のパイを~投げて~♪」カチッカチッカチッ

ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ!

梓「にゃああああああ!?」

澪「あ~ずさを~お~や~すみ~♪」カチッカチッカチッ

ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ!

梓「やる気です! これはもうやる気です!」

澪「逃げるなよ梓、当たんなきゃ意味ないだろ?」

梓「この行いにどんな意味があると言うのでしょうか」

澪「当たったら教えるよ」

梓「ごめん被ります」

澪「じゃあふわふわ時間だー」カチッ

ビュンッ!

梓「にゃあ!?」サッ!

梓「どどどどうしよう……避けるので精一杯だよ」

梓「何か……何か手は……」

梓「!」

梓「よし、ここは精神的に……」

梓「澪センパイ!」

澪「どうした梓!」

梓「……澪センパイにとってベースってなんですか?」

澪「私の大切なパートナーに決まってるじゃないか」

梓「なら聞こえませんか? そのパートナーの悲しい声が……」

澪「何?」

梓「ベースは本来は音を奏でるもの……それがこんなパイ射出機に成り下がってしまって……」

梓「エリザベスが泣いています!」

澪「ガーン!」

梓「もう止めましょうこんなこと……」

梓「エリザベスを……元のエリザベスにしてあげましょう」

澪「わ、私は祝いたいあまりにエリザベスになんてことを……」

梓「(祝いたい?)」

澪「ごめんなエリザベス、どうか私を許してくれ!」

澪「おいどんは気にしてないですたい(裏声)」

澪「エリザベスゥ!」ぎゅうー

澪「お前はなんて優しい奴なんだ、本当にごめんな」

澪「ありがとう梓。私に過ちを気づかせてくれて……あれ?」

澪「居ない……」

梓「澪センパイも大概アレでしたね。そこが可愛いんですけど」

梓「さ、もう何が来ても驚きませんよ。流れ的に次は唯センパイですか?」

唯「あずにゃーん!」

梓「ほーら来ました」

唯「はぁはぁ……やっと見つけたぁ」

梓「パイですか? パイですよね?」

唯「パイ? ああ、これのことだね。はい!」

梓「……!」

梓「……」

梓「……あれ? ぶつけてこない」

唯「お誕生日おめでとう! あずにゃん!」

梓「このパイ……」

唯「美味しそうでしょ?」

梓「(チョコでおめでとう!って書かれてる……)」

梓「……そっか、今日って」

唯「うん、11月11日! あずにゃんの誕生日だよ」

唯「忘れてたの?」

梓「……すっかり忘れてたました」

唯「自分の誕生日を忘れちゃ駄目だよ~」

梓「えへへ……なんでですかね、忘れてました」

唯「このパイね、私が頑張って作ったんだ」

唯「あずにゃん喜んでくれるかなぁって!」

梓「唯センパイ……」

梓「(本当に美味しそう……これを私の為に……)」

唯「あずにゃん!」

梓「は、はい!」

唯「すぅ~……」

唯「はっぴばーすでーとぅーゆー♪ はっぴばーすでーとぅーゆー♪」

唯「はっぴばーすでーでぃああーずにゃーん♪」

唯「はっぴばーすでーとぅーゆー……♪」

梓「……ぐすっ」

梓「……か、感動の涙で視界が」

唯「おめでとう! そしてごめんね!」

梓「うん?」

ぼふっ!

梓「……」ぽたぽた

梓「(視界が潤んだと思ったら今度は真っ白になりました)」

紬「あー、唯ちゃんが当てちゃった」ぞろぞろ

澪「今回は唯の勝ちか」ぞろぞろ

律「なーんか、ずるいやり方のような気もするけど」ぞろぞろ

純「いいかっこしてんねー梓」ぞろぞろ

梓「何ですかこれは……?」

唯「第1回あずにゃんお誕生日おめでとうパイ投げ選手権だよ」

唯「誰があずにゃんの顔に一番最初に愛を込めたパイをぶつけられるか競争してたの」

梓「普通に祝うという選択肢は無かったんですか……?」

唯「だって普通に祝ってもあずにゃんつまんないでしょ?」

梓「切に普通が良かったです!」

紬「まさか私と純ちゃんの高度なステルス技術を見抜かれるとは思わなかったわ」

梓「思いっきり見えてましたけどね」

律「私のドラクエ作戦もそこそこ良かったとは思ったんだけどな」

梓「右手のパイがあからさま過ぎました」

澪「私のエリザベスキャノンも悉く避けられたしな。あと写真と靴下返せ」

梓「あれはどういう原理で動いて……なんで知ってるんですか」

唯「私のもしかして……作戦は大成功だったね!」

梓「あれは卑怯です! ずるいです! ……本当に嬉しかったのに」

唯「……そういうと思ってね、ちゃんと本物を用意してたんだ。ムギちゃん」

紬「はい♪」

梓「ケーキ……? ……凄い、私の顔が描かれてる!」

梓「……」チラッ

唯「こ、今度はぶつけないから! みんな、せーの!」

唯「はっぴばーすでーとぅーゆー♪」

律「はっぴばーすでーとぅーゆー♪」

澪「はっぴばーすでー♪」

紬「でぃあ梓ちゃーん♪」

純「はっぴばーすでー♪」

唯 律 澪 紬 純「とぅーゆー……♪」

唯 律 澪 紬 純「お誕生日おめでとう! あずにゃん!」

梓「……」

梓「……ありがとう!」


おわり






おまけ

唯「部室に行って早く食べよう? あずにゃん」

梓「はい! でもその前に……」

梓「とりあえず顔を拭くものください」

律「澪の靴下があるじゃないか」

梓「あ、そうか」フキフキ

澪「ぎゃー!!!」








最終更新:2012年11月11日 18:43