※
——もしもわたしが不慮の事故で死んだりしたらどうします?
プレイヤーB すっごい悲しんで、死ぬこと考えるくらい悲しんででもそんなのはあずにゃん望まないな、あずにゃんはわたしが笑って生きて欲しいはずだってそう思うからがんばって生きてこうって思うよ。それをあずにゃんを望むと思うから、思うよね?
——さあどうでしょうか……呪ってでるかも。
プレイヤーB あはは、あずにゃん、こわーい。あ、じゃあさあ、あずにゃんはわたしが死んだらどうする?
——そんなの考えたくもないです。
プレイヤーB えーずるいー、あずにゃんが先に聞いたんだよ? ね、あずにゃんだったらどうする?
——わたしは、そんなことは絶対ないですけど、もしそんなことになったらわたしも自殺します。
プレイヤーB ……こんなときおねーちゃんだったらなんて言えばいいんだろ?
※
おねーちゃんは物語を取り違えているんだよ、と憂は言う。
梓ちゃんの死を乗り越えられないんだ、それが物語の一番大事なところなのに。
梓「いったいどうなってるのさ」
タイムマシンから接続を切って、わたしは憂に聞く。
唯先輩はまだ夢を見ていて、そこではたぶん病院で、わたしが死んだことを聞かされて、それで——唯先輩はどうするだろう?
梓「だってこれはもちろんほんとの過去じゃないし、もちろん見たい過去を見ることができるとは知ってるけど、あれが唯先輩の望む過去?」
憂「そんなのわたしにはわかんないよぉ」
憂は弱々しい声を出す。
憂「だってわたし頭良くないもん」
梓「計算領域全部使っていいから」
憂「ほんとに?」
梓「うん」
憂「インターネットにも接続していい?」
梓「いいよ」
憂「あずにゃん太っ腹ー」
憂を表示するチャット画面が消えて、画面に待機中を示すぐるぐるマークが現れる。
憂が戻ってくる前に、唯先輩が戻ってきた。
頭に接続されたコードを外して、モニターの数値をなにやらいじりはじめ、そしてまた頭に電飾を刺す。
梓「唯先輩っ」
わたしが唯先輩を呼んだのに気づくと、先輩は一瞬安堵したような顔を見せて、それからまた作業に戻ろうとする。
梓「ま、待ってくださいよ。唯先輩。いったいどうなってるんです?」
唯「ごめんっ。いま、急いでるの。あずにゃんが、あずにゃんが、死んじゃったから、助けないと」
梓「それは知ってます」
唯「知ってる?」
梓「わたしもさっき、つないだんですよ。あの、つまり、唯先輩が心配だったから」
唯「むむ……だからうまくいかなかったのかも、あずにゃん邪魔しないでよ」
唯先輩はとげのある声を出す。
梓「あの、だって」
唯「なに?」
梓「わたしはここにいますよ」
唯先輩はちょっとびっくりして、わたしの方をじっと見て、それから首を振った。
唯「それはあのあずにゃんとは違うもん」
梓「そうかもしれないですけど、こっちが現実で、向こうは仮想じゃないですか。別に唯先輩が仮想世界の中に入り浸ることに文句は言いませんよ。でも、あれは現実じゃないんですよ。架空で、偽物です」
唯「だから?」
梓「だから、その……」
唯「だからあずにゃんを見殺しにしろって言うの? わたしがいるから向こうのわたしは殺しちゃってください!って?」
梓「でも、それは、ほんとうは存在していないんですよ」
唯「だとしたって、わたしの好きなあずにゃんは向こうのあずにゃんだもん」
そう言うと、唯先輩は、また過去に潜っていった。
デバイスが熱い。
見ると、憂が帰ってきている。
憂「梓ちゃんどうしたの?」
梓「唯先輩が起きてきて、それで、でもまた、いっちゃった……」
憂「止めなかったの?」
梓「止めたよ、でも、わたしより向こうのわたしの方が好きだって、言ったから」
憂「言ったから?」
梓「なにも言えなかった」
憂「それでどうするの?」
梓「わかんない、わかんないよ」
憂「あきらめるの?戻ってくるのを待つ?それはむりだと思うけど。おねーちゃんは物語を取り違えてるんだよ」
梓「どういうこと?」
憂「いい、感動系においては、悲劇係数の反転値がそのまま感動係数になるんだよ。つまり悲しければ悲しいほど乗り越えたときいいってわけだ。だから感動係数の指定、これがタイムマシンにおける設定値のひとつでもあるわけだけど、おねーちゃんは感動係数をたくさん上げたんだよ。つまり過去に感動したくて、ほんとうの過去よりももっと感動する過去をって」
憂の声に皮肉的な調子が混じる。知能指数の高い人工知能は往々にして、シニカルだ。
憂「人間は何かあったらそれよりもっと大きな何かじゃないと満足できないようなシステムがあるんだよ。向上システムだ。もちろんこれはたいていはいい方向に働くけど、つまり、往々にして過去中毒者にありがちなのは、指定係数をどんどん増やしてくってことで、これはあらゆる中毒にも言えることだ」
梓「そして唯先輩は感動係数を上げるあまり、悲劇係数を高めてしまって、そしてわたしを殺してしまってこと?」
憂「うん。愛する人の死を乗り越えて、それでも前に進んでいく。そういう物語系なんだ、あれは」
梓「でもそうならなかった、なんで?」
憂「たぶん、おねーちゃんはそれを望んでたんだよ。つまりシミュレーションのなかでも時間は進んでいくでしょ。ということは、いつでも物語は崩壊、っていうのはおねーちゃんの思う楽しい時間のおしまいってことだけど、に向かってて、だからおねーちゃんはそれを閉じちゃったんだよ。いつも物語のおしまいに梓ちゃんが死んで、それを救うためにおねーちゃんが過去に戻り続けるっていうループの中に、自分から入っていったんだ。知ってか知らないかはわからないけど」
梓「どうすればいい?」
憂「どうするの?」
梓「どういうこと?」
憂「もし、おねーちゃんを取り戻したいなら、おねーちゃんの風の単純解法で、おねーちゃんが戻ってきたときにタイムマシンをたたき壊しちゃえばいいし、それでおしまいだ。でも梓ちゃんはそうしないと思うよ」
たしかにそうだった。
憂「梓ちゃんが一番恐れてるのはそのことだもん。もし、そんなことすれば梓ちゃんとおねーちゃんはおしまいだから。梓ちゃんとおねーちゃんをつないでるのはその過去の瞬間で、それだけいまつながってるんだから。梓ちゃんはたとえ、それが過去の自分だとしたっておねーちゃんと一緒にいたいんだ」
梓「わたしどうすればいいと思う?」
憂「それは誰に聞いてるの? 高校生のときのおねーちゃん?それとも高校生のときのおねーちゃんのまま成長したおねーちゃん?」
梓「誰に聞けばいい?」
憂「わたし」
って、憂が笑った。
梓「ね、憂、わたしどうすればいいかな?」
憂「いい方法があるよ。たったひとつの、ね」
そうして、わたしは青いジュース、赤いジュース、黄色いジュースを飲み干して、目の前がくらくらして、耳がきーんとして、変な臭い。
頭に電飾をつなぐ。
没入の直前、憂の声がした。
ねえ、梓ちゃん、と言う。
憂「ねえ、梓ちゃん。ごめんね」
わたしたちはもう一度、過去に向かって飛び込んでいく。
※
——えーと、Aが憂だ!
プレイヤーA ねえねえ答え言う前にこっちから質問してもいい?
——なんですか?
プレイヤーA AとB、今日はどっちが好きだった?
——両方とも大好きですよ。
プレイヤーB おねーちゃん、梓ちゃん絶対浮気するタイプ。気をつけたほうがいーよ
プレイヤーA うんっ。
——ちょっと待ってくださいよっ、別にそんなことはないですっ。
プレイヤーA じゃあどっちが好きなの?
プレイヤーB あはは、こういうのテレビで見た!
——もう……昨日は憂で、今日は唯先輩です。
プレイヤーAB 明日は?
——うーん……C?
プレイヤーA ふられた!
プレイヤーB ふられちゃったね。
——残念ですね。
プレイヤーA じゃあ明後日はD?
プレイヤーB 明明後日はE?
プレイヤーA その次はFで、Gで、Hで、最後はZだ。
プレイヤーB AからZで、あずだね、あず。あずにゃんのあず。
プレイヤーA あずにゃんは自分大好きだ。
プレイヤーB ひゃーこわい!
——うるさいですっ!
※
目を覚ますと部室にいた。
懐かしい、すべてを覚えてて、そしてああそっかこんなふうだったんだって思い出した。
わたしはソファーの上で眠っていて、隣で、顔のすぐそばに唯先輩がいた。
唯「あずにゃん、おはよ」
梓「ああ、唯先輩……じゃなくて、唯先輩!たいへんです!もどってくださいよ、いますぐ」
唯「あはは、あずにゃん寝ぼけてるの? 変なこと言っちゃって、もー」
梓「ゆめ……夢を見てたんですよ。夢の中で唯先輩が変わっちゃって、わたしの知ってる唯先輩じゃなくなって、わたしはこわくて、いろんなものがちがって、高校が壊れて、宇宙船がそこにあって、いろんなものが進化して、でもわたしは乗り遅れちゃって、みんながみんなちがくなって、わたしは変わらないって思ってたけど、どうなんだろう? わたし、変わりました? でもいやな夢だった。こわい夢はいつもなにもかもが悪くなるのに、その夢はなにもかもがそのままで、でもどっか、ねじが半回転するみたいにほんのちょっとだけあらゆるものがずれるからいつの間にかどこがどう壊れたのかもわかんなくなって、まるでほんとみたいだった、ほんとにあったみたいな夢だった。だからわたしわけわかんなくて、うまくいえないなあ……」
唯「こわかったの?」
梓「うん」
唯「よしよし……もう大丈夫だよ。ここは安全だからね」
そう言って唯先輩はわたしを抱きしめた。
いつもそうしてくれたみたいに。
とても冷たい。
唯「あずにゃん、あずにゃん、へーきだよ。ここはずっとへーきなんだよ」
唯先輩はとても冷たくて、寒気がした。
どこかで前も寒かった、それに似てて、あれはいつだっけ?
でも、唯先輩はとても優しかった。
右手を背中に回して、左手でわたしの髪をすく。
唯先輩がわたしを丸ごと抱きかかえるからわたしが小さくなったみたいで、ああ、そっかほんとに小さくなってるんだ、高校生のときのサイズに戻って。
唯「あずにゃんはあったかいね」
梓「えへへ、そうですかね」
唯「うん、とっても、あったかい。うらやましいなあ……」
唯先輩の手がわたしのほっぺたをなでて、とても冷たい。
わたしはつい、その手を払いのけてしまう。
梓「あ、ごめんなさい」
唯「いいよ、べつにいいんだよ。それで」
梓「そうですか」
唯「わたしもね、昔はあったかかったんだから」
梓「そんな、いまだって唯先輩はちゃんとあたたかいですよ」
唯「ならいいんだけどね、それなら」
でも唯先輩はやっぱり身体を引いてしまうほど冷たくて、そして思い出した。
その冷たさを。
あの、タイムマシンにはじめてつないだとき、わたしがいて、いなかったところ、あそこにいたときの冷たさがまさにこんな感じで。
身体の内側の臓器が振動するのをやめてしまって、体腔を空気が通り過ぎていく冷たさ。
梓「ねえ、唯先輩」
唯「なに?梓ちゃん」
梓「唯先輩って……」
ばたん。
部室の扉が開いた。
その向こうには息を切らした唯先輩が立っていて、そしてわたしの横にいた唯先輩は消えている。
唯先輩は安堵した表情で言う。
唯「あずにゃん、ここにいたんだ。よかった」
梓「わたしはずっとここにいて……」
唯「探したんだよ。まだ生きてた、よかった」
唯先輩がわたしの横のソファーに座る。
唯「あずにゃんがまだ死んでなくてよかった」
梓「?」
唯「ううん、こっちの話」
わたしたちはふたりでソファーに座っていて、夕暮れがやってきて、西側の窓から部室をオレンジ色にしていた。
わたしたちは放課後、部活の終わった後、みんなが帰った後もこんなふうにこっそり残っていろんなことを話した。わたしは唯先輩と二人きりなのが嬉しくて、なんだかどきどきして、そうでなくても放課後の学校には夕日色の魔法がかかっていてわたしたちはちょっといつもよりはしゃいでた。
変な話をした。
普段じゃ絶対言わないようなくだらない冗談。小学校とか中学生の頃の話のどうでもいい部分とか、ルールがすぐ変わるゲームとか。
帰りたくなかった。
とても懐かしくて、わたしは泣きそうになってしまう。
ああ、そうだ、こんなふうだった。
わたしが呟くと、唯先輩が言う。
唯「あずにゃんも来ちゃったんだ」
梓「そう、そうです」
唯「ねえ、このまま、ずっとここにいようよ! 先生が見回りに来たら、そこに隠れてさっ。夜の学校でわたしたちふたりだ!一緒に学校に住んで、そしたら安全だから。ここは安全で、あずにゃんが死なない場所だから。トラックはやってこなくて、時間もたたなくて、ここは安全だから、安全」
わたしはそれも悪くないかもしれないな、と思っている。
このまま唯先輩とこのくるくるループし続ける時間の間に隠れて、永遠に生き続けるのも。
わたしはうなずく。
そうですね。
そうだよ!
唯先輩が笑って、わたしのことを抱こうとする。
わたしは唯先輩を突き飛ばしてしまう。
反射的に。
唯「わわっ、あずにゃん、どしたの……こわい顔してる」
わたしは思い出した。
さっき唯先輩に触れたときのあの冷たさ。
どうしようもなく寂しくなってしまうあの冷たさを。
それはわたしの脳みその溝の中にしっかりと刻まれていて、思い出すだけで寒気がする。
わたしは二度と唯先輩に触れることはできないだろう。
ここ、この瞬間、この場所では。
唯「どしたの、あずにゃん?」
ここにいるこの唯先輩があたたかいんだってことはわかる。
わかるんだけど、触れることはできなかった。
部室の扉の方で唯先輩が揺れた。
わたしはそっちの方に向かって駆け出す。
後ろで唯先輩が立ち上がって、叫ぶのが聞こえた。
唯「あずにゃん、だめ、だめだよっ。そっちはあぶない、死んじゃうから!」
階段を駆け下りる唯先輩をわたしは追いかけた。
何度も躓きそうになる。
校舎を出て、校庭を後にして、もう時刻は遅いのに運動部の練習の声がした。
唯先輩は道路の向こう側にいた。
わたしはそっちに向かって、駆け出す。
なにが起こるのかは、よくわかっていた。
道路のちょうど真ん中で、クラクション。
右を向くと、大きなトラックが、わたしのすぐ目の前にあって、でもこわくはなかった。
その瞬間、時間がとまる。
道路の向こう側で、唯先輩が——憂が笑った。
憂「ぎりぎりセーフだ」
梓「時間止めたの?」
憂「ううん、わたしたちの計算だけが速くなってるんだよ」
振り向くと、唯先輩がいる。
唯先輩はわたしに向かって飛び込んでいた。とっても険しい表情をして、ちょっと怒ってるようにも見える。
たぶん間に合わない。
唯先輩はわたしを助けようとして——その結果自分が轢かれることは全然考えてない感じ——でも、たぶん間に合わない。
唯先輩としては、また、ってわけだ。
憂「見えた?」
梓「なに?」
憂「おねーちゃんは自分が死んじゃうとしても梓ちゃんを助けようとしたんだよ」
梓「うん」
憂「わたしじゃない、おねーちゃんが、いまのおねーちゃんがそうしたんだ」
梓「うん」
憂「わたしにはできなかった」
梓「それは嘘だ」
憂はなにも言っちゃだめだと首を振った。
憂「今はわたしが高校二年生の秋、10月。梓ちゃんは新しい人工知能で遊ぶことを口実に毎日おねーちゃんの家に通って、それでいつも笑ってた、おねーちゃんのくだらない話とか梓ちゃんの恥ずかしい失敗とか。梓ちゃんは友達の家に今まで泊まったことも、誰かにぎゅってされることもなくて、おねーちゃんは真剣に悩んだことなんてなかった。なにもかもが新鮮で、どきどきして、新しかったとき。おねーちゃんと梓ちゃんの人生で最高のとき。わたしがいた瞬間」
懐かしい?って憂が言うから、わたしはなにも言わない。
梓「わたし、唯先輩とうまくやっていけるかな?」
憂「どうかな、いま梓ちゃんおねーちゃんとうまくやれてないの見ると。先は暗いよ、まっくらだ」
梓「ずいぶんだなあ」
憂「ね、梓ちゃん、なにもかも変わっていくんだよ。予想もできないくらいに。ねえ、でも、それでもずっとわたしたちいっしょだよ。いっしょだよね?」
そして憂はいたずらっぽく、おねーちゃんならきっとそう言った、って笑った。
梓「憂ならなんて言う?」
憂「がんばれ!」
梓「あはは、他人ごとだ」
憂「それがせいいっぱい。過去から未来に言えるのは」
梓「そっか」
憂「じゃあもう大丈夫だよね」
梓「憂がいなくてもってこと?」
憂は冗談みたいにかしこまって言う。
憂「ねえ、いいかい、梓ちゃん、憂なんて人間はいないんだ、もうそんな人間は死んじゃったんだよ。ずっと昔の話」
わたしは黙っている。
憂「わたしと過ごした瞬間が梓ちゃんの人生で最高の瞬間だって今でも思ってくれてるのは嬉しいな、でもさよならしなきゃ、わかるよね?」
憂はわたしの人生にたった一瞬そっと触れて、そして消えた。
それは永遠に続いていく気がしたし、実際続いているふりをしていたのだけど、ふと思うともうあんまり思い出せなくなっている。
そう、憂の言うとおり。
憂はずっとここに存在していなかった。
ずっと前、あの瞬間をのぞいては。
憂「じゃあね、あずにゃん」
憂は手を振った。
憂「これで本日のテストを終わりにします。模倣値78、78。これから長期修正を行いますので修正中は起動を行わないでください。それでは、おやすみ……おやすみ……」
時間が動き出した。
憂が飛び込んでくる。
わたしを突き飛ばす。
憂は言っていた。
これは、愛する人間の死を乗り越えてそれでも生きていく人間の物語だと。
トラックが憂の身体をはね飛ばして、くるくる回る。くるくる。
地面にたたきつけられた憂の身体が三つに分かれて、わたしは目をつぶってまぶたの裏側で、凍結された過去は溶け出して、そのなかにあったいろんな大切なはずだったものは空気に触れた瞬間すぐ腐ってばらばらになって、溶け出した水だけがわたしの腕の中であたたかい、あたたかった、わたしは憂がこんなにもあたたかいなんて知らなかった——十年ごしにわたしは憂に触れて、憂のあたたかみを感じることができた、できればずっとここにいたいと思ってて、それでわたしはまた、目の前に憂が浮かんで首を振るのが見える——そしてそれも長くは続かずすべてが消えて、過去への没入時と同じような感覚が、ひねられる感覚、赤や青、緑、黄色、様々な色が頭の中ではじけて、わたしは——。
——あなたは唯先輩ですか?
プレイヤーA うん、そうだよ!決まってるじゃん!
プレイヤーB そうじゃないけど、そうなりたかったし、そうなれるようがんばったよ。うまくできたよね?
目を覚ますと、部屋にいる。
ぶーんという機械のうなり。
タイムトラベル酔いの酩酊感。
赤、青、色が、目の前でちらつく。
にじむ。
隣で、唯先輩が眠っていて、少し後で目を覚まして、わたしの方を見た。そしてまた疲れたようわたしの肩にもたれかかって目をつぶる。
とてもあたたかい。
唯先輩に触れたのは久しぶりだなって思った。
おかえり、って呟いた。
わたしの横で眠る唯先輩は、まるであの頃みたいで。
そして憂によく似てた。
おわり。
最終更新:2014年11月09日 11:13