「なんだよー、びっくりしたじゃねえか…。まったく驚かせんなよ」

私の隣に寝ている澪は、大きく寝相を変え 自分の布団の領域を今にもはみ出しそうになりながら横を向き 両手で私の腕を掴んでいたのだった


何か用があるのか?とも一瞬思ったが 澪の瞳は閉じられたままで、とても起きているようには見えない

試しに何度か澪の名前を呼んでも返事はなく、どうやら澪は寝ぼけて私の腕を掴んだことは間違いなさそうだった

こいつ意外に寝相悪いんだな……。 こんな様子だとベッドから落ちたりなんかしてそうで毎日大変そうだな…


そんなことを考えていると 突然私の腕を掴む力が強くなった


「いたっ!? こ、こいつ力強いな!? いててて……痛いって!!」

さすがに痛みに耐えきれなくなり 私は思わず右腕で澪を叩き起こそうと拳を振り上げてしまった


……のだが 私が振り上げた腕を澪にむかって下ろそうとした瞬間、突然私の左腕を覆っていた痛みは消えた

「……離してくれたのか?」ホッ

しかし、私が安堵したのも束の間、次の瞬間 今度は私の体全体に何かがのしかかってくる感触がした

「!?重っ!? こ、今度は何だ!?」

そう言っている間にも私の顔に何者かの吐息やら黒髪やらがかかってくる  ……ってことは私の上に乗っかってきたのは、澪……?


……間違いない。あまりに至近距離すぎて確認するのに少し手間取ったが、私の目には間違いなく澪の顔が映っていた


てかいくら寝相が悪いからって普通覆いかぶさってくるか!? こいつ本当は起きてて私をからかってんじゃねーか…?

「んふふ……りっちゃん♪ ……zzz」


……とも思ったが、どうやら起きているわけではないようだ。 …まぁよくよく考えたらあの澪が自分から抱き着いてくるなんて到底思えないしな


ていうか今更だけど顔近っ!!! 寝息もさっきからずっと私の顔にかかってるし! 一歩間違えたらキスしちゃう距離だぞ、こりゃあ

……

「……キスか…」


キスか……。 うん。

っていやいや、何考えてんだ私

澪だぞ? 幼馴染の 

ないわー。 うん…


……でも澪とキスしたらどんな感じなんだろ。ちょっと気になるような……

って!本当に何考えてんだ私!! いくらなんでもそれは…!

……でも今ならしちゃってもばれないかも…


そんなことを考えているとなぜだか 心臓の鼓動が段々とはやくなっていく感じがした

本当に、してしまおうか……? いや、でもそれはやはり流石に……


「……りつぅ… 置いていかないで……」

私が気分を高揚させながらもどうしようか思案していると 澪の口から力のない寝言が漏れた

……まったく、それが寝ぼけて人の体の上に覆いかぶさってる奴の言う寝言かよ

でも澪の夢の中とはいえ私もひどいことするなー、澪を置いていくなんて……。

「大丈夫だよ、澪。私が澪を置いてどこかに行くわけないだろー?」ナデナデ

澪には聞こえていないだろうが、そんな小恥ずかしい台詞を言いながら 私は澪の頭をやさしく撫でてやった


そして その後、私は澪の唇にやさしくキスをしてあげた


澪の唇はなんというかムギのほっぺとはまた違ったやわらかさで 言葉では上手く言い表せないが、とても心地よい感触がした

キスはほんの一瞬しかしなかったが、それでも私はとても大きな充足感を感じていた



キスをし終えると 澪に抱き着かれている安心感からか、それとも澪とキスができたことの幸福感からか 次第に私に眠気が襲いかかってきた

だんだんと意識が遠くなっていき、まぶたが重くなっていって━━━━


しばらくすると、部屋は再び静寂に包まれ、4つの寝息の音のみがこだましていた


・・・・・・


チュンチュン チチ……


「……うぇ…?」ガバッ

「…あさ……?」ゴシゴシ

「あ、唯ちゃん起きた? おはよう」

「あ……ムギちゃんおはよー…。早起きだねー…」 

「あれ…? 澪ちゃんとりっちゃんはまだ寝てるの?」

「うん。そこで寝てるわ」


「…りつぅ……zzz」

「…みお……zzz」


「…わー! 二人とも抱き合っちゃって! 仲良しさんだねー!」

「二人ともとても幸せそうな顔して寝てるから起こせなかったの」

「……じゃあもうちょっとこのままにしといてあげよっか!」

「そうね。私たちが邪魔しちゃ悪いものね」

「じゃあ昨日みた夢の話でもしよー、ムギちゃん。 昨日さー、夢でね、りっちゃんが足利尊氏に首を……」

「あらあら」


「……りつぅ…zzz」ギュッ

「……みおぉ…zzz」ギューッ




梓「そのあと、先に起きた澪先輩は律先輩に抱き着いて寝ていたことに気づいて 恥ずかしさのあまり気絶してしまったそうです」



終わる


第7話

「救出劇!」


ある晴れた日曜日、唯ちゃんとりっちゃんは公園で楽しくキャッチボールをしていました。



律「よーし!唯、いくぞ! それっ」シュッ

唯「ほいっ!」パシッ


律「うぅん…、今のは我ながらなかなか良い球が投げられたぜ!」

唯「……こんな球で満足するなんてりっちゃんもまだまだだね。あまちゃんだよ」

律「な、なんだとー!? じゃあ唯、私のを上回るボールを投げてみろよ!」

唯「おまかせください! 私がお手本を見せてあげるね!」フンス

律「くそー、偉そうに……。できるもんならやってみやがれ!」


唯「…じゃあいっくよー! 必殺!スーパージャイロナックルボール!!!」ツルッ

唯「…あっ」

律「っておいっ!!どこに投げてんだよ!」


ヒューン…… ポトッ


唯「あっ……あの家の塀の中に入っちゃった!!」

律「おいいいいいいい」


律「とりあえずボール取ってこいよ!」

唯「えー……。 あ、あのボールはもう諦めない?」

律「やだよ!てかあれ私のボールだし!!」

唯「だってー!あぁいう家にボール入れちゃうと……」




唯『すみませーん。ボール落としちゃいましたー。…てへっ』

家主『……』プルプル

唯『あ、あのぅ……』

家主『バッカモーン!!公園でボール遊びはしちゃダメだといつも言っとるだろうが!! ガミガミガミガミ……』

唯『ひぃいいいいい』



唯「…ってなるよきっと!」

律「いつの時代の話だよ!!」


唯「でも、今の時代もそういう人がいないとは限らないでしょ? だからやめておこうよ……」

律「いーやーだー!あのボール結構高かったんだぞ! ていうか大体、今時そんな雷親父いるわけないだろ」

唯「そんなこと言ってるならりっちゃんがボール取ってくればいいじゃん!」

律「は、はぁ!?なんで私が!? ボール投げ込んだのは唯だろ!」

唯「だってりっちゃんは雷親父なんていないとと思ってるんでしょ? だったら怖いものもないんだしりっちゃんが取ってきてくれてもいいじゃん」

律「まぁそうだけどさぁ……」


唯「おねがーい。今度アイスおごるからさー…」

律「……2段重ねなら考えてやってもいいぜ」


唯「う……。わ、分かったよ。背に腹はかえられないよ」

律「よーし、契約成立だな! まったく、今の時代そんな怖い人なんているはずないのに……。ラッキーだぜ」

唯「そんなこと言って油断してるときっとカミナリ落とされるよ……」ブルブル

律「ないない。心配するな、唯!私がスマートに取ってきてやるからな! そこで待ってなさい」

唯「あぁ……りっちゃん!無事に帰ってこれるよう祈ってるよ……」

律「大げさだなぁ……。じゃあ行ってくるな」

唯「りっちゃん!ご武運を!!」


律「まったく。唯もビビりすぎだよなー、たかが庭に入ったボールを取ってくるだけだろうに」スタスタ


律「……この家だな。 うひゃー、結構な豪邸だなー…。まぁいいや、ちょっと失礼しますよ」キィーッ

律「そーっと、そーっと……」チラッ

番犬「……」ギロッ

律「え」


番犬「バウバウバウ!!!」

律「!? う、うわぁああああ!!?」ダッ



バウバウバウ!!! ウワァアアア

唯「!? これは…りっちゃんの声!?た、大変だ!」ダッ


唯「りっちゃん!!だ、大丈夫!?」タタタッ

律「ハァ……、ハァ……。あ、唯…。と、突然犬にほえられて……」

唯「だから油断するなって言ったでしょ!油断大敵だよ!」

律「だ、ってまさかこんな大きな犬がいるとは思わなくって……」

番犬「……」ギロッ

律「しかもまだこっち見てるし……」


唯「きっとりっちゃんのことが好きなんじゃない?」

律「縁起でもないこと言うなよ……」



律「でもどうしよう…。コイツがいる限りボール取れそうにないな…」

唯「…そうだね。怖いしねー」

律「とりあえずここから一旦出て作戦を練り直すか」


五分後


唯律「うーん……」

紬「……あら?唯ちゃんとりっちゃんじゃない!唯ちゃーん!りっちゃーん!」ブンブン

唯「あ!ムギちゃんだ!」

紬「どうしたの?こんな道端で……? 考え事?」スタスタ

律「あー……ムギ、実はかくかくしかじかってことがあって……」


紬「……つまり大きな犬がいてボールが取りにいけなくて困ってるってことね?」

律「そういうこと。 ムギー、何かいい案ないー?」

紬「うーん、そうねぇ……」


紬「……あっ! いいこと思いついたわ!!唯ちゃん、りっちゃん!!ちょっと待ってて!」ダッ

唯「!? む、ムギちゃん!? ……もの凄いスピードで行っちゃった…」

律「ムギの奴 急にどうしたんだ…?」


数分後


紬「おまたせー」タタタッ

唯「あ!ムギちゃんおかえりー! …急にムギちゃん走りだしたからちょっとびっくりしたよ」

紬「ごめんね、唯ちゃん? でもいいもの買ってきたわよ!」

律「……コンビニの袋だな。何買ってきたんだ?」

紬「えぇ。ちょっとそこのコンビニで最高級品質のビーフジャーキーを買ってきたわ!!」 


律「……え?最高品質……?」


唯「!!なるほど! それをエサにして犬がビーフジャーキーを食べてるスキにボールを取に行くって作戦だね!」

紬「そういうことよ!唯ちゃんはもの分かりがいいわねー♪」ナデナデ

唯「えへへへ///」


律「おいちょっと待て。ムギ、そのビーフジャーキー一体いくらしたんだ……?」

紬「えーと、5000円くらいだったかしら」

唯「!? ご、ごせんえん!?」

律「高っ!! い、いいのかそんな高級なモノ使っちまって!」

紬「だってあそこのコンビニにはこの種類のしか売ってなかったから……」

律「品揃え悪っ!!なんだそのコンビニ! 全然コンビニエンスじゃねぇし!!」


紬「…まぁそんなことよりも!今はボールを取らなきゃ、でしょ?値段なんか気にしてる場合じゃないわ」

唯「そうだよりっちゃん!今はボールを取るほうが大事だよ!」

律「そ、そうだよな! ……そうなのか?」

紬「とにかく、やってみましょ?」

律「わ、分かった。じゃあまずは私が入るからムギは後方から ビーフジャーキーで上手く犬の気を引いてくれ。頼んだぞ!」

紬「分かりました隊長!!」ビシィッ


律「よし、行くぞ……」スタスタ

番犬「……!」ギロッ

唯「ひぃっ!き、気づかれちゃったよ!」

律「よし、今だ!! ムギ、ビーフジャーキーをっ!!」

紬「分かったわ!! それっ!」ポイッ

番犬「! ワンワン!!」ダッ

番犬「〜♪」ムシャムシャ

律「よしっ! 今だ!!」ダッ


律「えーと、ボール、ボール……。どこだー?」キョロキョロ

番犬2「…………」ギロッ

律「……えっ」


番犬2「バウバウバウ!!!」

律「うわぁっ!!!も、もう一匹いたのかよ!!」

唯「ちょっ……!りっちゃん大丈夫!?」

律「はぁ、 はぁ……。び、びっくりした……」


番犬2「グルルルル……」

唯「まさか2匹目がいたなんて……。しかももう一匹の犬より大きくて怖いよぉ……」

律「と、とりあえず離脱するぞ唯隊員!」ダッ

唯「アイアイサー!」ダッ

番犬2「バウバウバウ!!!」


・・・・・・


紬「ど、どうだった!?」ドキドキ

唯「だめだったよ、ムギちゃん……」

律「まさかもう一匹いるとは……」


唯「ムギちゃん、もうビーフジャーキーは残ってないの?」

紬「ごめんなさい。一つしか買っていなくって……」

唯「そっかー……。残念……」


紬「ま、またコンビニに行って買ってこようか?」

律「いやそれは流石にムギに申し訳ないよ。一個5000円だし……。別の方法を考えよう」

唯「ちょっと待って。お金はりっちゃんが出せばいいんじゃない?」

律「……唯隊員、私にそんな大金が出せると思うか? てか何度も言うけどボール投げ込んだのはお前だろ」

唯「そういえばそうだったね……。じゃあさっさと別の方法を考えようか!」

律「…ほんと、調子のいい奴だな」

唯「そうかな? えへへ……」

律「ほめてはないけどな」


唯「……でもだからと言ってほかにいい方法あるのかなー? ここはやっぱりムギちゃんにもう一回コンビニに行ってもらった方が……」

センパーイ・・・

紬「あら?どこからか聞き覚えのある声が……?」

梓「唯先輩!律先輩!ムギ先輩!!」タタタッ

唯「あ、あずにゃん!?」


梓「はい。唯先輩こんにちは。 どうしたんですか、こんな道端で皆さん?遊んでいるわけでもなさそうですし」

律「あー、梓……。 実はかくかくしかじかってことがあってな……」

梓「……つまり、ボールがそこの家の庭に入ってしまって、番犬がいて ボールを取るのに苦労してるってことですね?」

唯「そういうこと! ……ねぇあずにゃーん。何かいい作戦ないー?」


梓「作戦って……。 そんなこと言ってるからいつまでたってもボール取れないんですよ。
  ここは家の人にきちんと謝ってからボールを取りにいくべきです!」

唯「えー!?そ、そんな危険な……!!」

梓「どこが危険なんですか! 悪いことをしたらきちんと謝ることは人として当然のことでしょう!」

律「そ、そうだけど……」

梓「なんでそんなにイヤそうなんですか! ただ謝るだけじゃないですか」


律「でも、なんかその……怒られたらいやだし」

梓「悪いことしたんだから怒られるのは当然でしょう!もうインターホン押しちゃいますよ」ピンポーン

律「ちょっ!待てはやまるn」


律「……あぁ、終わった……。何もかも…」

梓「んな大げさn」インターホン「Hello?」

律梓「え」


唯「!? え、英語っ!?」

紬「が、外国人さんが住んでいるのかしら……?」


梓「ちょっ、えっ!? せ、先輩方どうしましょう!?」


律「……頑張れ、梓」

唯「応援してるよ、あずにゃん」

紬「梓ちゃんならきっと話せるわ」

梓「って何にもフォローしてくれないんですか!? てかなんで私が話すことになってるんですか!」

律「まぁ、言いだしっぺだし……」

唯「あと流れ的に?」

梓「なんですか流れって!!」


梓「……あ!!そうだ確かムギ先輩は海外とかにもよく行かれるんですよね!?それなら結構英語も」紬「No」

梓「あ、はいそうですよねすみません嘘ですごめんなさい」


梓「……はぁー、分かりましたよ。私が頑張ってお話してみます」

紬「頑張ってー!梓ちゃーん!」

唯「フレー、フレー!あーずーにゃん!!」

律「梓ー!いったれー!」

梓(き、緊張してきたー!)ドキドキ


梓「は、はろー……?」

インターホン「Who is it please?What is your business here?」

梓「び、びじねす……? あ、あの、えと…………。」

梓「ソ、ソーリー!!アイドントスピークイングリッシュウェル!! sumimasendeshitaッ!!」ダッ

紬「あ、梓ちゃーん!!」


・・・・・・


数分後


梓「すみません……。見苦しい姿をお見せしてしまって……」


律「いや、分かるぜ。梓の気持ち」

唯「そうそう。英語からは逃げ出したくなる時もあるよ。だから気にする必要なんてないよあずにゃん」

紬「そうよー。私たちは日本人なんだから日本語だけ話せればいいの。だからそんなに落ち込まないで、梓ちゃん?」

梓「そ、そうですよね!!英語なんて話せなくても生きていけますよね!!」

律「まぁセンター試験とかではほぼ英語必修だけどな」

梓「律先輩は慰めたいのかさらに落ち込ませたいのかどっちなんですか」


律「まあ、今はその問題よりもボールの問題だ。それにしても正攻法も使えないとなっちゃあ本当どうすればいいんだ……」

唯「りっちゃん……、もう諦めようよ。ボールは新しく買いなおそう?私もお金だすから」

律「……ダメだ。諦めるなんてダメだ! あのボールはな……」



一時間前


律『聡ー、ちょっとボール貸してー? 友達とキャッチボールするからさ』

聡『いいけど……絶対返せよな?』

律『分かってるって!!絶対返すから安心しろ!もし返さなかったら1000円やるよ!!』



律「……って言っちゃったんだよー」ウワーン

梓「何ですかそれ! 完全に自業自得じゃないですか!!」



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