第18話「たいふう!」
ある台風が接近中の日、学校から休校の連絡が伝えられる中、軽音部の部員たちは何故か音楽室に集っていた…。
ゴォォォォォォォォ……
唯「雨風が強くなってきたね……」
紬「えぇ……」
律「まったく。誰だよこんな台風の日なのに学校あるとか大嘘言ったのは……」
澪「お前だ!!」
澪「まったく。律がいけないんだぞ。連絡網きちんと回さないから……」
律「だってー、今朝はお父さんとお母さん、両方いなかったんだし仕方ないじゃーん!
そんな状況下で私がきちんと起きてて連絡網回せると思うか!?」
澪「知らないよそんなこと!」
梓「はぁー…。そろそろこの辺も暴風域に入ったみたいですしねぇ……。しばらく帰るのは無理かもしれませんね」
唯「えぇー!? ってことは今日はもう帰れないかもしれないってこと!?」
梓「仕方ないでしょう。今回の台風は十年に一度ってくらい大型のものらしいですし」
唯「じゃあ今日はここに泊まることになるかもしれないってこと…?」
紬「それは由々しき問題ね……」
澪「確かに、ケーキとかしか食料がないもんな…。今日一日これだけで過ごせるのかどうか…」
紬「それに枕がないのも重大な問題だと思います、隊長!」
澪「ここでも枕投げするつもりだったの!?」
紬「だって…お泊まりと言えばやっぱり枕投げかなって」テヘッ
澪「そもそも枕投げするような気分にならないと思うけどな…」
律「てかそもそも布団がないのも問題だな。今日はここで雑魚寝かー?」
梓「ま、まだ今日は帰れないって決まったわけじゃありませんから……」
律「いーや!梓、帰れなかった時のことを考えて、今から寝る場所を確保しておかなければならーん!」
梓(…こういう時だけ無駄に部長っぽい!)
唯「でも寝る場所って言ったって……。そんなのあるの?そこのソファーに一人くらいなら寝られそうだけど……」
律「よくぞ聞いてくれた唯隊員! こんなこともあろうかと、実は音楽準備室に寝袋が3つほど、ストックしてあるのだよ!!」
唯澪紬梓「おぉー……」
紬「結構何でもあるのね、音楽準備室って♪」
澪「いやいや、どう考えてもうちの学校だけだから。てかどこから持ってきたんだよ……」
律「まあ細かいことはいーじゃんいーじゃん。これで泊まることになっても安心ってことだしな!!」
梓「ちょっと待ってください。寝袋は3つしかないんですよね?」
律「ああ。ちゃんと3つ取り揃えてるぞ!」
梓「で、そこのソファーに一人寝るとすると…」
唯「……あれ?ってことは誰か一人は床ってこと?」
律「…………そうなりますわね」
澪「全然安心じゃなかった!!」
律「よし!じゃあ誰か床で寝たい人!!」
澪「いるわけないだろ!」
律「えー、でも誰かが床で寝ないとな なわけだし……」
紬「じゃあジャンケンで決めるのはどうかしら?」
唯「ええー、それじゃつまんないよ」
梓「じゃあ唯先輩は何がやりたいんですか?」
唯「よくぞ聞いてくれたよあずにゃん! ここはババ抜きで決着をつけることを提案します!」
律「おっ、そっちの方が確かに面白そうだなー」
紬「トランプは私が持ってます!」ジャーン
澪(…さすがムギ!)
唯「よーし!じゃあ順番決めるじゃんけん、いっくよー!」
澪「って結局ジャンケンするんじゃん!!」
澪「…はい。誰が床で寝るかはジャンケンで決めような。ほらそこトランプ配らなーい」
唯律「えー」ブーブー
梓「ジャンケンの方が早く決まるし、いいじゃないですか。ほら、はやくやりますよ!」
律「ふっふっふー、残念だったな、みんな。このおまじないがある限り、私はじゃんけんに負けないのだよ!」グッ
唯「おー、手を組んでねじって手の間の隙間を覗き込むおまじないだね!よーし私も……」グイッ
澪「なんで説明口調!?」
紬「見えた! この手の形は…? ダイナマイト…?」
唯「ムギちゃん言っちゃダメだよ〜」
紬「ごめ〜ん」
梓(てか思いっきり反則技のような……)
澪「ほら、そろそろやるぞ。最初はグー!」
律「待って!もうちょっとで見えるから!」
澪「……最初はグー」スタスタ
律「あ!わかりましたすぐ始めます!すぐ始めるからそのグーの手を下ろして!!」
律「じゃあいくぞー。最初はグー!じゃんけんぽーい!」
・・・・・・
律「」
唯「りっちゃーん、お〜い」ユサユサ
律「」
澪「かれこれ30分たったわけだけど……。まったくいつまでこの状態なんだ律は」
梓「まあ一発で一人だけパー出して負けたわけですし…。ショックが大きかったのかもしれませんね…」
唯「勝利のチョキ!!」
律「」
紬「みんなー、ケーキの準備ができたわよ〜」
律「えっ?ケーキ!?」ガバッ
澪「あっ、復活した」
・・・・・・
ゴォオオオオオオオオオオオ
梓「…しかしほんとに雨が止む気配がありませんね……」
澪「どうやらここに来て台風の速度が遅くなってるらしいな。本当に冗談抜きで今日は帰れなさそうだ……」
律「ひゃぁ〜ひゃいふうはんへはくなへはひひのに!!」モグモグ
澪「お前は食べながらしゃべるな!」
唯「本当だよねー。台風なんてなくなればいいのにねー」
澪「そして何故聞き取れる!?」
梓「しかしまさかここまで強い台風だなんて想像もしてませんでした」
澪「ムギの家とかならこんな台風でも安全そうだけどな」
紬「もう、澪ちゃんたら。私のうちはそんなに大層なものじゃないわ」
律「そういやムギの家って行ったことないなー。やっぱあれなのか?スゲーでかいのか?敷地は東京ドームくらいとか!」
紬「さすがにそんなに大きくはないわー。甲子園くらいかしら?」
梓(どちらにしろ相当大きいような……)
唯「執事さんとかもいるんだっけ?なんだか羨ましいなー」
紬「唯ちゃんだって憂ちゃんがいるじゃない♪」
唯「えへへ///そうでした///」
律「確かに憂ちゃんいれば執事なんて要らなそうだなー。というわけで憂ちゃんくれ!!」
唯「ダメだよ!憂はあげられないよ!」
律「じゃあアタッシュケースいっぱいのケーキと交換で!」
唯「うーん……?」
澪「いやいや、そこ悩むとこじゃないだろ」
唯「ってダメダメ!憂はそんなものとは交換できないよ!」
梓「まったく。唯先輩はいっつも食い意地はってるからそんなことで悩むようになっちゃうんですよ」
唯「ひょんなほとないほん!!」ムシャムシャ
澪「わかった。わかったからとりあえず食べながら喋るのはやめろ」
律「あっ!閃いた!」
紬「? どうしたの?りっちゃん急に?」
律「いや、こんな台風の日こそ安全なムギの家に泊まるべきなんじゃないかなって」
澪「……は? いやだって律、外はあの有様だぞ。いくらムギの家の人でもそもそも迎えにこられるわけが……」
紬「来れますよ?」
澪「来れるんかい!!」
唯「じゃ、じゃあ今日はムギちゃんの家に泊まれるってこと!?」
梓「で、でもムギ先輩の家って確か一ヶ月くらい前から予約が必要なハズじゃあ……」
紬「大丈夫よ〜。今日はこの台風でちょうど予約のキャンセルが結構あったから」
律「! そうなのか!なら安心だなー!」
律「よーし!今日はムギの家に泊まることにけってーい!!」
澪「ムギ、本当にいいのか? こんな突然だけど」
紬「大丈夫よ、澪ちゃん!私にまかせて!!」
キィィィィン……
澪「あ、こんな台風のなか飛行機が飛んでるぞ…。大丈夫なのかな」
梓「……てかあの飛行機こっちに向かってきてません?」
律「てか明らかに近づいてきてるじゃねえか!! うわっ!!校舎とスレスレのとこ通ってったぞ今!」
唯「うわぁ!!こ、校庭に着陸したよ!!」
律「一体何が起こってるんだ…?」
紬「あっ、迎えが来たみたいね。みんな、行きましょ?」
唯澪律梓「……えっ?」
唯「えっ!!? あ、あの飛行機ムギちゃん家のなの!?」
紬「そうよ〜。まあ私の家のものって言うよりは家そのものだけどね」
梓「い、意味がよくわからないのですが…」
紬「つまりあの飛行機が私の家の一つってことよ〜。最近は学校から帰ったら毎日いろんなところを旅してるの♪」
澪「ム、ムギが言ってることが凄すぎてにわかには信じられない……!」
律「あっ、だから予約制なのか」ポンッ
澪「そしてお前はあっさり納得するな!!」
紬「さっ。じゃあみんなそろそろ行きましょ?」
唯律「はーい」スタスタ
澪「なんでそんなにお前らは普通の反応なんだよ!」
唯「えー?だってなんだか楽しそうじゃん?」
律「それに飛行機なんて滅多に乗れるもんじゃないしなー。しかもあれだろ?ファーストクラスとか体験できちゃうかもしれないんだぜ
!!」
梓「さ、さすがにそんなのはないような…。ね、ムギ先輩?」
紬「? あるわよ?」
梓「ってそれもあるんですか!!」
梓「はぁ……。何だか凄すぎて言葉が出ません…」
澪「私も夢なんじゃないかって思えてきた…」ツネー
律「みおー!!これは夢なんかじゃないぜ!!」バシッ!
澪「…ありがとう律。これが夢じゃないってよーくわかったよ」ニマァ
律「あ、あはっ。す、シミマセン」
律「よーし!気を取り直して!! みんな!ムギの家に乗り込むぞーっ!!」
律「…………ってあれ?」
唯「飛行機が……?」
梓「いなくなってますね」
澪「そしていつの間にか雨も上がってるな。どうやら台風がここにきてスピードを上げて通り過ぎてったらしい」
律「え、えぇー!? じゃあもしかして……」
紬「ごめんなさいみんな…。その、台風が通り過ぎたから予約キャンセルって話は無しになったって……」
律「やっぱりかーい!!」
梓「ま、まあでもこうして雨があがったわけですから。私たちもそれぞれ家に帰れば……」
ピンポンパンポーン
校内アナウンス『最終下校時刻を過ぎたので、昇降口の扉が自動ロックされました。
校門の方も間もなく施錠しますので、校庭にいる学生方は速やかにお帰りください』
ピンポンパンポン
梓「」
唯「……だそうですけど」
澪「雨上がっても結局帰れないんじゃん!!」
律「あれ……?ということは私が寝るところは…?」
唯「床だね」
澪「床だな」
紬「床ね」
梓「床ですね」
律「」
純「…こうして軽音部にとって、今日の台風の日はいい思い出となりましたとさ」
憂「めでたし、めでたし♪」
律「めでたくねーし!!!」
おわれ
最終更新:2015年02月10日 23:37