【 紬と梓の場合 】
梓「ムギ先輩って他人の恋路を傍観したり引っかき回したりして楽しむタイプじゃないですか」
紬「自分の幸福より他人の幸せを願うタイプね」
梓「物は言いようですね」
紬「それは私のセリフなのよ」
梓「ムギ先輩自身が誰かに本命チョコを渡す機会はないんですか」
紬「私は今までそんな想いを込めてみんなにケーキ類を振る舞っていたつもりなんだけど」
梓「そんな重いやつだったんですかアレ」
紬「それを踏まえて、これは私から梓ちゃんに」
梓「チョコ? 私に?」
梓「さっきの話を踏まえると凄く受け取りづらいんですけど」
紬「いいのよ、どうせ澪ちゃんから半ば強引に奪い取ってきたチョコだし」
梓「なぜそんな真似を」
紬「いろいろあるのよ」
梓「じゃあ澪先輩から貰ったと思っていただきます」
紬「私からは受け取りづらいってどういう意味なの?」
紬「……去年も手作りのチョコケーキをくれたのは梓ちゃんだけだったわね」
梓「いやあれは唯先輩に想いを込めて作ったような感じなんですけど」
紬「私には?」
梓「若干」
紬「今日作ってきたっていうやつは?」
梓「えっ、唯先輩に渡そうと思って」
紬「私は?」
梓「ムギ先輩」
紬「梓ちゃん、一回だけぶん殴らせてくれる?」
紬「バレンタインだし」
梓「バレンタインってそんな暴力的なイベントでしたっけ」
紬「自分の想いを伝える日でしょ?」
梓「そんな物理的な伝え方じゃなかったと思うんですよ」
紬「ね、いいでしょ? 痛くしないから……」
梓「私そういうのじゃないので……」
紬「先っぽだけ! 先っぽだけでいいから!」
梓「さ 先っぽ!?」
【 さわ子の場合 】
梓「さわ子先生はチョコを渡す相手とか……まあいいか」
梓「そっとしておく事も思いやりだし」
さわ子「独り言のボリュームがおかしいのよ」
純「見た目はいいのに何で縁がないんですかね」
憂「街頭でチョコを配って練り歩いたらどうですか?」
梓「賞味期限間近!!とかのぼり旗を持って」
さわ子「そんな1人ハロウィンみたいな真似してまで恋人が欲しいわけじゃないのよ」
純「1人ハロウィンて」
さわ子「そもそも賞味期限っていうのは美味しく食べられる期間であって」
梓「間違ってないじゃないですか」
さわ子「くそっ」
さわ子「本当に好きな人っていうのは無理に探すようなものじゃなくて、
いつの間にか傍にいるものだと思うの」
梓「そこの水槽に多分オスの亀がいますよ」
さわ子「爬虫類はちょっと恋愛対象じゃないかな」
梓「人間の股間にくっついてる亀じゃないとダメですか」
憂「生々しいなぁ」
梓「そういえば純の家に年頃の猫が」
純「あげませんよ」
さわ子「哺乳類ならいいってわけじゃないからね?」
梓「あと大学生の兄も飼ってるらしいですよ」
さわ子「詳しく」
純「やめろ!!」
【 律と紬の場合 】
紬「今年は澪ちゃんにチョコ渡せた?」
律「出来上がったそばから食べられた」
紬「いつから同棲してるの?」
律「してねえよ」
紬「挙式は?」
律「おかしいし」
紬「おかしくねーし!!」
律「なんで今日はテンション高いんだ」
紬「今日はそこら中でそういう気配が感じられるから……」
律「そうか」
紬「りっちゃん、学園祭で劇の練習してた時のこと覚えてる?」
律「ロミオとジュリエットの?」
紬「あの時シェイクスピアの戯曲に対してなんて言い放ったか覚えてる?」
律「えっと」
紬「こう言ったのよ」
紬「求愛するのにもったいぶった回りくどい言葉なんか必要ないだろって」
律「それはあの劇の台詞に対して」
紬「そしてこうも言ったわ」
紬「親が面倒で自分たちの関係が認められないなら家出でもすればいいって」
律「それはロミオが
紬「澪ちゃんに向かって!」
律「だから劇の
紬「クラス全員の前で宣言したじゃない!!」
律「聞けよ人の話」
紬「それで同性婚が認められてる国を調べてきたんだけど」
律「誰がそんな国の情報を求めたんだよ」
紬「よかれと思って」
律「ちなみにそれってどこの国?」
紬「えっ、聞いちゃうの?」
【 梓と純の場合 】
梓「純ってどんなチョコが好き?」
純「チョコくれるの?」
梓「ビターなやつとかでも食べれる?」
純「平気」
梓「本当に? ちょっと苦くても大丈夫?」
純「ビターなチョコをくれるの?」
梓「ビターといえば精液って本当に苦いの?」
純「いきなり何の話が始まったんだ」
純「そして何で私に聞いてその答えがわかると思ったの?」
梓「いや、苦いのが好きだって言うから……」
純「チョコの話だよね?」
梓「やっぱりチョコっと苦かった?」
純「知らないよ!!」
梓「純のくせにやたら仲のいい兄がいたなって思って」
純「兄がいたらどうだって言うのさ」
梓「教えてもらったのはベースのテクニックだけじゃないんでしょ?」
純「なんか変なアニメの見すぎだよ」
梓「いくら兄妹とはいえ、年頃の男女がマンションに二人きりで何もしないわけがないもの」
梓「もし何もなかったんだとしたらそれは純に女としての魅力がないって事だよ」
純「そんなわけあるか」
梓「そっか…まあ純はそんな事する子じゃないもんね」
純「梓が心配するような事はしてないから」
梓「……本当は?」
純「本当だよ!!」
梓「じゃあそういう事にしておくね」
梓「例え大人の味を知ってたとしても、純は知らないって言うんだろうから……」
純「結局チョコはくれないの?」
【 憂と純の場合 】
純「それで『じ、純のために作ってきたんじゃないんだからね!』
とか言いながら一応チョコくれたんだよ」
憂「典型的なツンデレだね」
純「なんだかんだ言いながら毎年くれるんだよね」
憂「梓ちゃん、純ちゃんに嫉妬してたんじゃないかな」
純「まさか」
憂「ほら、お兄さんに渡すチョコの話でバカみたいに浮かれてたでしょ?
それでやきもち妬いちゃったんじゃないかな」
純「バカみたいには浮かれてないよ!」
憂「お姉ちゃん達が部室に遊びに来た時も澪さんに色目を使って
アホみたいにベタベタ引っ付いてたし」
純「えっ、私そんなにアホみたいだった?」
憂「髪の毛が?」
純「憂ってひょっとして私のこと嫌いなの?」
憂「それでどんなチョコ貰ったの?」
純「答えてよ」
憂「梓ちゃんのチョコ、手作りっぽくない?」
純「他の先輩から貰ったやつの使い回しだったりして」
憂「そういうこと言わないの」
純「……手紙が入ってる」
あなたの前で言葉にできる勇気がなくて、ごめんなさい。
あなたが好きな人のことを知っていても、
あなたの中に私がいないことがわかっていても、
それでもずっと、あなたのことを想っていました。
きっとこれからも。
卒業して、離れ離れになってもずっと。
うまく言えなかった気持ちを、チョコに込めて贈ります。
純「うそ……この手紙……とチョコ……」
憂「どうしたの?」
純「私が澪先輩に渡したやつだ……」
憂「………」
憂「……ツンデレじゃなくて本当に純ちゃんに作ってきたチョコじゃなかったんだね」
純「ああああああ!! 読むな!! 見るな!!」
【 梓と唯の場合 】
梓「今日ってバレンタインらしいんですけど、私に渡したい物はないんですか?」
唯「引導?」
梓「引導!?」
唯「そろそろかなって思って」
梓「そんな満面の笑みで言われても」
唯「そんなあずにゃんにコレをあげよう」
梓「チョコくれるんですか!?」
唯「まあバレンタインだしね、一応」
梓「そして口移しで食べさせてくれるっていうんですか!?」
唯「誰がそんなこと言ったの」
梓「知ってます? 部活動の後輩から口移しで食べさせてもらうと
チョコの甘みが増して美味しいらしいですよ」
唯「どこからそういう気色の悪い発想が出てくるのかを知りたいよ」
梓「おっとこんな所にちょうどチョコが、ちょっと試してましょうよ」
唯「えっ、絶対イヤだけど……」
梓「チョコっとだけですから」
唯「……そんな誘い方じゃ、やだ」
梓「ぉほっ!?」
唯「ぉほっ じゃなくて」
唯「大学の合格発表、もうすぐでしょ?」
梓「……はい」
唯「それまでダメ」
梓「でも、もし落ちてたら……」
唯「そんな中途半端な気持ちで選んだ進路じゃないよね?」
梓「じゃあ、受かってたら覚えててくださいよ?」
唯「ホワイトデー、楽しみにしてるからね」
【 梓と憂の場合 】
憂「っていう夢を見たの?」
梓「勝手に夢オチにしないで」
憂「だってお姉ちゃんがそんな気の利いた展開に持ち込めるわけないもん」
梓「なんて言い草だ」
憂「それ、もしかしてお姉ちゃんじゃなくて私だったんじゃない?」
梓「そんなわけあるか!!」
憂「どっちにしてもチョコもらえてよかったね」
梓「まあチョコじゃなくて何故か焼き海苔が入ってたんだけど」
憂「さすがだね」
梓「憂はなんですぐ嫉妬するの」
憂「嫉妬?」
梓「唯先輩が私…っていうか自分以外の人と仲良くしてるのが嫌なんでしょ?」
憂「そうじゃないよ」
私が、本当に嫉妬してるのは……
憂「梓ちゃん、もし私がお姉ちゃんの恰好しても気付く?」
梓「すぐわかるよ」
憂「本当に? 何回か思いっきり騙されてたよね?」
梓「あの時はまだ憂のことをよくわかってなかったから」
憂「今は?」
梓「どれだけ一緒にいると思ってんの」
憂「そうだよね、高校に入ってからずっと一緒なのに」
ずっと見てるのに あなたはなぜ気づかないの
梓「でも私は憂に嫉妬してるけどね」
憂「どうして?」
梓「要領がいいっていうか、何でもこなせるっていうか」
憂「そんなことないよ、私だって普通の女の子だもん」
梓「私は何をやっても空回りで……」
憂「梓ちゃん、私たちは欠点があるからどんなことだって頑張れるし、
不器用だからこそ成長していけると思うんだ」
でもね 今のとこ声かける予定はないの
とっても甘い夢を見れたら 今夜もしあわせ
憂「梓ちゃんが頑張ってるとこ、私はずっと見てきたよ」
梓「でも私は憂みたいに……チョコだってうまく作れなかったし」
憂「梓ちゃん、知ってる?」
憂「最も優秀なシェフって、恋をしているシェフなんだって」
梓「恋を……?」
憂「どんな高級なお菓子も、恋する気持ちを込めたチョコの甘さには敵わないんだよ」
いつか目と目が合う その時ができあがりなの
きっと最高においしいの
憂「梓ちゃん、これ私から」
梓「これは私から……」
味見したくなったら言ってね
ほっぺが落ちるよ
「ハッピーバレンタイン」
おわれ
短編集(?)に挑戦してみたものの
どうやってオチつけりゃいいんだよこんなもん
バレンタインネタが思い浮かばないわ
菫直のキャラが掴みきれてないわでとっ散らかってるけど
苦し紛れで何とか形になった…と思いたい
最終更新:2015年02月15日 18:05