ガチャッ
梓「あ、ムギ先輩」
律「澪、どうだって?」
紬「保健室の先生は心配ないって。軽い貧血だろうって言ってたわ」
律「そっか…よかった」
梓「あの、ムギ先輩。トンちゃんにエサあげましたか?」
紬「え?私はあげてないけど…」
梓「そうですか…」
唯「あのー、スミマセン」
紬「ああ、唯ちゃん」
唯「初めまして、平畑唯三郎と申します」フンスッ
紬「え?」
紬「…えーっと」チラッ
梓「ムギ先輩、とりあえず合わせてください」ボソッ
紬「は、はい」コクリ
唯「え~、澪ちゃんを発見したときのことを詳しく教えてもらえませんか?」
紬「えっと…私は日直の仕事が終わって部室の前にいたの」
唯「部室に鍵がかかってたからだね」
紬「そう。そしたら、隣の音楽室から合唱部の子たちが飛び出してきて…」
唯「合唱部?」
紬「ええ」
唯「どうして合唱部の子たちが音楽室に?」
梓「もう、昨日言われたじゃないですか」
唯「ほぇ?」
律「合唱部のいつもの練習場所が配電盤の工事で使えないから、工事が終わる二~三日の間だけ音楽室を使わせてくれって」
紬「私たちは、音楽準備室の方しか使ってないしね」
唯「あれ~、そうだっけ」
唯「でも、隣ではわたしたちも演奏するし、お互いに練習の邪魔になるんじゃないの?」
律「あたしたちがそこまでまじめに練習してるか?」
唯「…あぁ」
梓「納得しないでください!」
唯「怒らないでよぉあずにゃん寺くん、ティータイムのいいBGMになるんじゃない?」
梓「も~!」
紬「まぁまぁ」
梓「とにかく…音楽室では合唱部が練習していましたから、部室は完璧な密室だったことになります」
唯「むー、そうなんだ…。あ、それでムギちゃん続きは?」
紬「合唱部の子に隣の倉庫から不気味な声が聞こえるって聞いたから、音楽室の方から倉庫に入ってね」
紬「そしたらラジカセから音楽が流れてて、澪ちゃんが倒れてたの」
律「やっぱ事故だと思うけどな~」
唯「う~ん…ちょっと」トタトタ
唯「ここが倉庫で、こっちの扉を開けると音楽室…」ガチャッ
唯「音楽準備室と音楽室はこの倉庫でつながってるんだ」
律「って知ってるだろ、あたしらの部室なんだから…」
梓「なにが気になるんですか唯先輩?」
唯「平畑さんだよ、あずにゃん寺くん」
唯「ムギちゃん、ここの鍵はいつも開いてるの?」
紬「ええ、とは言っても、音楽室の方からこっちに入ることはまずないけど…」
唯「じゃあ完全な密室じゃなかったんだね」
紬「まぁ、そう…なのかなぁ」
梓「でも音楽室には合唱部がいたんですから、倉庫から誰にも見られずに出入りするのは不可能ですよ」
梓「密室と同じなんじゃないですか?」
唯「うーん、どうだろうねぇ」ワクワク
ガチャッ
さわ子「あら、みんないるわね」
律「お、さわちゃん」
さわ子「澪ちゃんが保健室に運ばれたって聞いたけど…大丈夫なの?」
紬「はい。とりあえず保健室の先生は、軽い貧血だろうから寝かせておけば大丈夫だって…」
さわ子「そう…悪いんだけど、もう一度保健室に行って、様子を見ててあげてくれない?」
紬「わかりました」
律「あー、じゃああたしも行ってくるよ。心配だし」
さわ子「何かあったら知らせてね」
タタタ…
唯「あの~」
さわ子「え?」
唯「失礼ですけど、あなたは?」
さわ子「……」
さわ子「梓ちゃん、ちょっと…」ボソッ
さわ子「唯ちゃんどうしちゃったの?記憶でも飛んじゃったの?」
梓「話せば長くなるんですけど…今日の唯先輩は名探偵平畑唯三郎なんです」
さわ子「名探偵…?平畑…?」
梓「とりあえず、合わせてください」
さわ子「はぁ」
さわ子(なんだか知らないけど…今の私にとっては厄介そうな相手ってことかしら)チラッ
唯「えへへ…」ニッコリ
さわ子「…ごめんなさい、ご紹介が遅れちゃって。軽音楽部顧問の
山中さわ子よ」
唯「むっふっふ、今回の事件を担当します平畑唯三郎です、よろしくお願いしま~す」
さわ子「事件って…まさか、澪ちゃんが誰かに襲われたって言うの?」
唯「いやぁ~、それはまだなんとも」
梓「でも入り口には鍵がかかっていて、隣では合唱部が練習してたんですよ?」
梓「部室は誰も出入りできる状態じゃなかったんですから、事故以外に考えられなくないですか?」
唯「うーん、それはそうなんだけど…ちょっとごめんね」テクテク
唯「あずにゃん寺くん」
梓「はい」
唯「わたし、倉庫の中にいるからさ。部室の外からノックして、名前を呼んでくれる?」
梓「わかりました」
コンコン
梓「唯先ぱー」
唯「平畑さんだってば-」
梓「平畑さーん」
唯「ありがとう」
唯「うーん…」
さわ子「なにが気になるの?」
唯「ああ、さわちゃんもこっちへ入ってきてよ」
さわ子「ええ…」
唯「あずにゃん寺くーん、もう一度お願い」
コンコン
梓「もしもーし」
唯「ね?」
さわ子「…どういうこと?」
コンコン
梓「おーい」
唯「聞こえるでしょ?あずにゃん寺くんの声も、ノックの音も」
さわ子「そうねぇ…」
唯「ありがとうあずにゃん寺くん、もういいよ~」
梓「はーい」
唯「声もノックの音も聞こえてたのに、澪ちゃんはどうしてすぐに倉庫から出てこなかったのかなぁ」
さわ子「うーん…なるほどねぇ」
さわ子「あなたが疑問に思うのはわからないではないけど…」
さわ子「その謎を解くのは簡単よ」
唯「ほぇ?どういうこと?」
さわ子「あくまで推測だけどね」
さわ子「この隣は音楽室でしょ?」
唯「うん」
さわ子「で、今日はここで合唱部が練習してたのよね」
唯「そうだねぇ」
さわ子「この場所で、合唱部の歌声と、向こうの扉のノックの音。どっちがより聞こえると思う?」
唯「そっか~、それなら合唱部の練習かも…」
さわ子「でしょ?」
さわ子「ムギちゃんもずっとノックし続けてたわけじゃないだろうし、きっと偶然合唱部の歌声と重なって聞こえなかったのよ」
唯「なるほど~、確かにそう考えたら納得だぁ」
さわ子「これで疑問は解決したわね」
唯「ただねぇ~、気になるのはそれだけじゃないんだ~」
さわ子「え…まだあるの?」
唯「そもそも澪ちゃんは、倉庫で何をしてたのかなぁ?」
さわ子「それは…何か、探し物とか?」
唯「それなら鍵をかけなくてもいいんじゃないかなぁ」
さわ子「そうねぇ…」
さわ子「あ、じゃあ…何か見られたくないものがあったとか」
唯「見られたくないもの?」
さわ子「そう、何かはわからないけど…みんなに見られて恥ずかしいものがあったんじゃないかしら」
さわ子「それなら鍵をかけておいたのにも納得いくんじゃない?」
唯「確かにそうだとしたら一応の説明はつくよね~…」
唯「でも恥ずかしいものってなんだろう」
さわ子「さぁね、澪ちゃんは恥ずかしがりだし。想像もつかないものかも」
唯「ま~どっちにしても澪ちゃんが目を覚ましたら、事件は解決だよ」
さわ子(くっ…そう、どうごまかしたところで澪ちゃんが目を覚ましてしまえば全てがバレてしまうわ)
さわ子「…そうね」
唯「でも、いま澪ちゃんの目が覚めちゃったらおもしろくないんだよね~」
さわ子「おもしろくないってねぇ…」
唯「あれ…?先生、あんまり気分が良くないの?」
さわ子「え…?いや、大丈夫よ」
唯「顔色があんまり良くないけど…」
さわ子「み、澪ちゃんのことが心配なのよ」
唯「そりゃ心配だよね…、早く目が覚めるといいねぇ」
さわ子「……」
梓「平畑さん!」
唯「ん?どうしたの?」
梓「ムギ先輩から今メールが届いて、澪先輩が目を覚ましたそうです!」
さわ子「な…」
唯「なんと!」
梓「何事もなかったみたいで、よかったです…」
さわ子「そ、そうね…」
唯「ぶー、いま澪ちゃんが目を覚ましちゃったらわたしの出番がないじゃん」
唯「澪ちゃんにもうちょっと眠っといてって言っといてよ~」
梓「なに言ってるんですか…」
梓「とにかく保健室に行きましょう!」
さわ子「え、ええ」
梓「澪先輩に話を聞けば事件は解決ですね」
唯「わかってないなぁ、わたしが解決するから意味があるんだよ~」
梓「はいはい、わかりましたから。行きますよ」テクテク
唯「あぁん…ちべたい…ちべたいよ、あずにゃん寺くん」
さわ子(終わった…)
【保健室】
ガラガラ
唯「失礼しまーす」
梓「失礼します」
さわ子「…失礼します」
紬「ああ、みんな」
唯「澪ちゃんが目を覚ましたんだって?」
律「ああ、まぁ…覚ますことには覚ましたんだけど…」
梓「何かあったんですか?」
紬「覚えてないらしいの」
さわ子「ええ!?」
唯「覚えてない!?」
梓「ま、まさか記憶喪失ですか!?」
律「いやいや」
紬「自分がどこの誰だとか、そういう記憶はしっかりしてるんだけどね」
紬「どうして倒れてたのかとか、部室に着いて以降のこと覚えてないみたいなの」
さわ子(こんなことってあるかしら…!)ホッ
唯「こんなことってあるのかな…!」キラキラ
梓「なに考えてるんですか…?」ジトー
唯「…はっ!よ、よかったねぇ~、澪ちゃんになにごともなくて!うんうん!」アセアセ
梓「それで、澪先輩は今どこに…?」
律「ああ、そこのカーテンの向こうで、まだ横になってるよ」
唯「とりあえず澪ちゃんに話を聞いてみよう」
シャッ
梓「澪先輩!」
澪「ああ、梓…」
さわ子「だ、大丈夫なの?澪ちゃん」ドキドキ
澪「先生…」
さわ子「……」ドキドキ
澪「大丈夫です、心配かけてすみません」
さわ子「そう…」ホッ
唯「澪ちゃん、今回の事件の捜査を担当する平畑唯三郎です。よろしく~」
澪「…?」
澪「…なぁ梓、私の記憶が間違ってるのかな。どう考えても目の前の人物は
平沢唯のはずなんだけど」
梓「いやぁ…えと、いろいろありまして…」
唯「むっふっふ」
唯「ねぇ澪ちゃん、本当に倒れたときのこと、なんにも覚えてないの?」
澪「ほんとに覚えてないんだよ…私、倉庫で倒れてたんだって?」
梓「はい、側のラジカセで大音量の音楽を鳴らして」
梓「なにをやってたのか、覚えてないんですか?」
澪「うーん…ダメなんだ、部室に行って以降の記憶がさっぱり…」
唯「む、無理に思い出すことはないよ!うんうん!」
さわ子「そうそう、記憶が飛ぶなんて相当衝撃的な出来事だったんだろうし」
さわ子「なんにしても、本当によかったわ!何事もなくて…!」ガシッ
澪「は、はぁ…」
さわ子「もしもうちの部員に何かあったら、親御さんになんてお詫びをしたらいいか…」
さわ子「じゃ、もう少し休んでなさい。もし体調が悪いようだったら、親御さんに連絡するけど…」
澪「ありがとうございます。でも大丈夫です、少し休んでから部室に戻ります」
さわ子「そう…ならゆっくり休みなさい」
さわ子「ほら、行くわよ」
唯「はーい」
梓「お大事に、澪先輩」
澪「ああ、ありがとう」
シャッ
さわ子「あれ?ムギちゃんは?」
律「部室に澪の荷物を取りに行ったよ」
さわ子「あら、本人はもう少し休んでから部室に戻るって言ってたけど…」
律「あり、そうなの?あちゃー、じゃあ取りに行ってもらわなくてもよかったか」
さわ子「わたしたちも戻るけど、りっちゃんはどうするの?」
律「あたしはもう少しここにいるよ。まだ心配だしさ」
さわ子「じゃあお願いね。もし何かあったら知らせてちょうだい」
律「あーい」
ガラガラ
さわ子「~♪」
唯「さわちゃんご機嫌だね~♪」
さわ子「あなたもそう見えるけど?澪ちゃんに何事もなかったんだから、喜んで当然でしょ」
梓「ほんとによかったです。私も安心しました!」
唯「う~ん。でも澪ちゃんの記憶がないとなると、また捜査は振り出しだなぁ~。困ったなぁ~」
梓(全然困ってるように見えない…)
さわ子「まだそんなこと言ってるの?」
唯「だって、まだなんの謎も解決してないよ?」
唯「説明のつかないことが多すぎるんだよね~」
さわ子「ちょっと…」
唯「なんで澪ちゃんが倉庫に入ってたのかがわかんないし…」
さわ子「待ちなさいよ…」
唯「どうして部室に鍵をかけてたのかもまだ…」
さわ子「いい加減にしなさい!」
唯「はいぃ!」ビクッ
さわ子「いつまでも探偵ごっこやってないで早く帰りなさい!だいたいねぇ唯ちゃん」
唯「唯じゃなくて平畑…」
さわ子「あぁん?」ギロッ
梓(こわっ!)
唯「ごめんなさいなんでもないです」
さわ子「とにかく、今日はもう練習できないでしょう。澪ちゃんもあんな状態だし、エリザベスだってまだ弦張ってないままでしょ。それに今日も…」
唯「そうなんだよねぇ…エリザベスの弦が張ってなかったのも気になるんだよねぇ」
さわ子「はぁ?」
梓「どういうことですか?」
唯「二人は知らないかもしれないけど、澪ちゃんも昨日エリザベスを置いて帰ったのがよっぽど寂しかったみたいでさぁ」
唯「わざわざ一時間目の前に部室にまでエリザベスに会いに行ったんだよ」
唯「エリザベス…って言って頬ずりまでしてたんだから」
さわ子「そんなことまでしてたの…」
梓「意外です…澪先輩が…」
唯「それなのにさ、その日のうちにだよ?弦を張り替えてる途中のエリザベスをほっといて別のことをするなんて、考えられないんだよね~」
唯「わたしだったら、ギー太をそんなあられもない姿のまんまにして側を離れたりしないけどなぁ」
さわ子「そりゃ、あなたならそうかもしれないけど…」
唯「あずにゃん寺くんだってそうだよね?」
梓「それは、まぁ…確かにそうですね。私もよっぽどのことでもなければ、弦交換の途中でむったんをほったらかしにはしないと思います」
さわ子「むったん…?」
梓「はっ!な、なんでもないです!///」アタフタ
唯「ほらね。澪ちゃんだっておんなじだと思うよ」
さわ子「…そうね。けどもしかしたらエリザベスをほっとくぐらいのよっぽどの用事が倉庫の中にもあったのかもしれないじゃない」
唯「う~ん、ほんとにそうかなぁ…」
さわ子「とにかく、天気だって悪いし。雨もこれから酷くなるらしいから、遅くならないうちに早く帰りなさい」
唯「はーい」
カツカツカツカツ…
梓「唯先輩…ほら、もう行きましょう」
唯「平畑さんだよ~」
梓「まだ言ってるんですか…。先生にも言われたじゃないですか、もう探偵ごっこはやめましょうよ」
唯「そんなことよりあずにゃん寺くんや」
梓「もう…なんですか?」
唯「ムギちゃんに会いに行こう。ちょっと確かめたいことがあるんだ~」
梓「ムギ先輩ならまだ部室じゃないかと…」
唯「よし、行こう」トタトタ
梓「あ、待ってください」
最終更新:2015年03月19日 07:43