放課後 軽音部部室

律「思ったんだが、私達が先輩っぽく振る舞うのは無理があった」

唯「そうそう」

澪「分かってはいたが、随分早く結論が出たな。でもって、私とムギを含めるな」

紬「まあまあ。それでりっちゃんは、何考えてる訳ね」

律「ああ。つまりだ、梓に怒られないためにはどうすべきかを考えよう」

澪「いや、そこは先輩として頑張れよ」

唯「出来ない事は出来ないとはっきり言う。私はそんな人間になりたいんです」

紬「唯ちゃん、立派ね」

律「私が言うのも何だが、絶対違うぞ」


澪「梓を怒らせない方法はただ一つ、軽音部として練習をする事だ」

律「まあ、結局それしか無いか」

唯「でも失敗したら、また怒られない?」

紬「一生懸命頑張っていれば、梓ちゃんは分かってくれるわよ」

澪「ムギの言う通りだ。良い演奏をする事も大切だけど、頑張る姿勢はもっと大切だぞ」

律「真面目な奴め。じゃ、取りあえず練習すっか」

唯「おー」

澪「梓がいないから、唯は昔のアレンジでギターを頼む」

紬「4人だけで練習するのも、ちょっと久し振りね」

澪「そう言われてみればそうか。ずっと梓と一緒にやってきた気もするんだけど」

紬「うふふ♪」


   10分後

カチャ

梓「済みません、遅れ……」

律、ムギ「たーぃむ♪」 じゃじゃーん

唯「途中、ちょっと失敗しちゃったね」

澪「でも良いグルーヴ感だったぞ」

唯「グローブ?」

律「言うと思ったよ」

紬「私はちゃんと受け止めたわよ、唯ちゃん」

唯「もう、ムギちゃんまでー」

律、澪「あはは♪」

梓(なんか先輩達だけで盛り上がってて、輪に入りづらいな)


律「……梓、来てたのか」

梓「あ、はいです。今日は早くから練習してたんですね」

唯「私達は、軽音部だからね」

梓「はぁ」

唯「軽音部、だからね」

澪「二度言わなくて良いんだ」 ぽふ

梓「私もすぐ準備しますから」

紬「慌てなくて良いのよ。お茶の用意はしてあるから、梓ちゃんはのんびりしてて」

梓「はぁ」

律「よし、次はホチキスいくか」

唯、澪、紬「おー」

梓(先輩達の着ぐるみを着た誰かってオチなのかな)


唯「あしたー」 ♪

律「今度は結構良かったな」

澪「ああ。……なんか梓が、すごい目付きで見てるんだが」

紬「おやつのプリンが気にくわない、なんて訳はないわよね」

唯「き、牙。牙生えてない?」

律「大げさ、とは言えない形相だな」

澪「やっぱり、演奏が気にくわなかったのか?」

唯「りっちゃん。部長として、あずにゃんにお伺いを立ててきてよ」

律「こういう時だけ、部長扱いしやがって」

澪「私達は、それだけ律を頼りにしてるって事だ」

律「そう言って、私が怒られるのを見て笑うってオチだろ」

澪「当然だ」

唯、ムギ「あはは」

梓(なんか先輩達だけで楽しんでるよね)

律「何気なく獣の殺気を感じるんですが、気のせいですか?」


紬「なにか小話でもして、気持ちを和らげてみたら? 澪ちゃん、そういうの得意そうよね」

澪「得意という訳でも無いんだが。……ピックをくすぐると、どんな反応をするか知ってるか?」

律「ベタすぎだし、そもそも小話でも何でも無いだろ」

唯「で、どんな反応をするの?」

澪「ピックだけに、ピクりとも動かないんだ」

唯「あー、なるほどね」

律「私はピクピクッとすると思うけどな」

唯「じゃあ、実際くすぐってみる?」

澪「私をくすぐろうとするな」 ぽふ

梓(本当、さっきからなにやってるんだろうな)

紬「ぐふふ♪」

梓(特に、ムギ先輩は)


唯「澪ちゃんの小話でも、あずにゃんの機嫌は直らないみたいだよ。りっちゃん、やっぱり話を聞いてきて」

律「えー、どうして私が」

唯「なー、かー、のー。なんでしょ」

律「この野郎。……仕方ない、行ってくるか」

澪「目を合わせるなよ。目を合わせるとケンカになるぞ」

紬「顎、顎を撫でたら良いと思うわ」

律「猫じゃ無いんだよ」

唯「あーず、キャットッ」

律、澪、紬「あはは」

梓(なんだろう、この疎外感)


律「あのー、中野さん。本日のお茶はいかがだったでしょうか」

梓「なんですか、急に。普段通り、普通に美味しいですよ」

律「何やらご機嫌を損ねるような事がありましたら、仰って頂けいただけますでしょうか」

梓「私は普段通りで、普通にしてますよ。ただ皆さんが楽しそうにしてるから、私はそれを観てただけです」

律「ああ、そういう事。拗ねてただけっすか」

梓「べ、別にそういう訳では」

律「もう、梓は本当にお子ちゃまだなー」 なでなで

梓「ちょっと、止めて下さいよ」

唯「……なんか、二人で楽しそうなんだけど」

澪「これはゆゆしき自体だな」

紬「でも梓ちゃんは怒ってないみたいだし、良かったじゃない」

唯「まあね」

律「よしよし。本当に梓は可愛いなー」

梓「もう良いですって♪」 くんかくんか


唯「もう。りっちゃんばっかりずるいよ」 なでなで

梓「いや、そういう問題では無いですから」

澪「そうだぞ唯、梓が嫌がってるじゃないか。ほら、こっちに来い」

梓「はいです」

澪「全く、仕方の無い」 なでなで

梓「いや、あの」

律「誰が仕方ないんだよ。なあ、ムギ」

紬「ぐふふ♪」

律(ぐふふ?)


さわ子「あー、疲れた。ムギちゃん、炭酸っぽいのをちょうだい」

紬「ただいまー♪」

さわ子「で、あなた達は何をやってる訳」

唯「先輩として、あずにゃんをかわいがってるんだよ」

さわ子「あなた達こそ、本当に猫っ可愛がりよね」

澪「さわ子先生は、先輩後輩の関係ってどうだったんですか?」

さわ子「世間一般のそれと変わらないと思うわよ。ただ学園祭やライブで演奏出来る人数は限られてるから、そこはライバルって意味合いもあったわね」

唯「私とあずにゃんなら、勝負にならないんだけど」

律「いや、そこは先輩としての威厳を見せつけてくれよ」

紬「そうするとさわ子先生は、昔の軽音部でも演奏が上手だったって事なんですよね」

さわ子「まあ、私もやる時はやる女だから」

唯「やる時にやった結果が、あのオシシ仮面って訳?」

さわ子「そこは触れないでもらえるかしら」


さわ子「とはいえ一応は先輩なんだから、りっちゃんが言ったように威厳は見せないとね」

唯「でも私、あずにゃんより下手だし」

さわ子「だからこそ、1に練習2に練習よ」

律「なんか、顧問っぽい台詞だな」

さわ子「いや、私は顧問だから」

澪「先生の言う通りです。練習をする事で演奏が上手くなりますし、一生懸命な姿も見せられますからね」

紬「梓ちゃんは、そんな澪ちゃんを見てるから立派に育ってるわよ」

梓「はいです。澪先輩もムギ先輩も、立派な先輩ですから」

さわ子「全く、良い後輩が育ってるじゃない」

律「よく考えたら、さわちゃんも私達の先輩なんだよな。先輩っていうか、ご隠居って感じだけどな。だははー」

さわ子「だったらお前は、ご隠居自ら懲らしめてやろうか。このデコッパチ」


律「あー、ひどい目に遭った」

澪「自業自得だ。梓も来た事だし、改めて練習するか」

梓「はいです」

律「唯は、先輩らしいところを見せてやれよ」

紬「頑張って、唯ちゃん」

唯「よーし。あずにゃん、ちょっと私を足元を見てみて」

梓「足元、ですか。……別に、何も無いですが」

唯「良く見てよ。ほら、上履きの色」

梓「青ですね」

唯「そう。でもって、あずにゃんの上履きは赤。ほら、私の方が先輩だよ」

律「そういう事じゃ無い」 ぽふ


唯「たはは。冗談冗談。頼りない先輩だけど、これからもよろしくね」

律「とうとう、開き直りやがった」

紬「そういう素直な所が、唯ちゃんの良い所よ」

澪「全く、ムギは甘いんだから」

唯「てへへ。じゃ、練習しようか」

梓「はいです」

澪「イチゴパフェか、ときめきシュガーか。Honey sweet tea timeも悪くないな」

律「で、誰の何が甘いって?」


梓「この部分はリードギターのコード進行が少し複雑ですから、気を付けて下さいね。それと、特に裏拍を意識して下さい」

唯「了解です、あず先輩」

律「分かってるんだか、分かってないんだか」

紬「まあまあ。梓ちゃん、何かあったら唯ちゃんの事お願いね」

澪「頼むぞ、梓」

律「ギターは、梓だけが頼りだからな」

梓「はいです」

唯「そこは嘘でも否定してよー」

律、澪、紬「あはは♪」


梓「あの、前から言おうと思ってたんですけど」

唯「どうしたの、あずにゃん」

梓「自分で言うのもなんですが。後輩は先輩の言う事を聞くように、くらいの態度でも私は構わないので」

律「いや、そう言われてもな」

唯「正直、自信ないね」

澪「私も、そういう柄じゃ無いんだよな」

紬「ですよねー」

梓「そういう事では困ると言ってるんです」

唯、律、澪、紬「は、はいっ」

梓(やっぱり私、角が生えてるように見えるのかな)

唯「梓様がお怒りじゃー。皆の者、演奏に励むのだー」

律、澪、紬「へへー」

梓(やっぱり、思い過ごしか♪)


   5分後

唯「うぉー、難しいー」 じゃかじゃーん

梓(唯先輩、いつになく頑張ってるな)

唯「まだまだー」 じゃかじゃーん

梓(私も負けてられない……。あっ、しまった) びがががが

唯「あー、もう駄目だー」 じゃーん

梓(え?)

唯「やっぱり失敗しちゃったよ」

律「失敗? なんか、妙にわざとらしいな」

澪「唯、お前もしかして」

紬「うふふ♪」


梓「……済みません。唯先輩より先に、私がミスしたんです」

唯「え、そなの?」

紬「やっぱり唯ちゃんは、梓ちゃんの先輩ね」

律「演技は下手だけどな」

澪「梓、ちゃんと唯にお礼を言えよ」

梓「は、はいです。唯先輩、その。気を遣って頂いてありがとうございます」

唯「私こそごめんね。本当は演奏でフォローすれば良いんだけど、私は全然駄目だね」

律「全くもってその通りだ」

澪「唯がふがいないから、梓に余計な負担が掛かるんだぞ」

紬「梓ちゃん、ごめんなさいね」

唯「そんなー。今、結構良い流れだと思ってたのにー」

律、澪、紬、梓「あはは♪」


唯「でも本当に、頼りない先輩でごめんね」

律「やっぱり私達は、そういう柄じゃないからな-」

梓「べ、別にそんな事無いですよ。澪先輩もムギ先輩も立派な先輩ですし、唯先輩と律先輩も一応は良い先輩でしょうし」

澪「梓は気が利いて、本当に良い後輩だな」 なでなで

紬「もう、澪ちゃんずるいー」 なでなで

唯「あずにゃんを撫でて良いのは、私だけなんだよ-」 なでなで

律「誰がそんな事決めたんだよ」 なでなで

梓「いや、そういう事は先輩方に求めてませんから」

唯、律、澪、紬「後輩は、先輩の言う事を聞くように♪」

梓「はいですっ♪」



終わり





最終更新:2015年03月23日 22:26