【水曜日】
梓「憂…先輩たち、今日も何か企んでるのかな?」
憂「やだなぁ梓ちゃん、さすがのお姉ちゃんたちも、昨日の今日で何もしてこないよ」
憂「…た、多分…だけど」
梓「そっか…」
梓(すでに2日続いてるからなぁ…)
梓「じゃ、行ってくるね」
憂「また明日ね〜」
純「バイバーイ梓ー」
梓(まさか憂まで絡めてくるとは…)テクテク
梓(二度あることは三度ある…今日はいったいどんなお芝居を挟んでくるんだろ)テクテク
梓(今日こそはちゃんと始めから練習するんだから!)テクテク
梓(…案の定練習の音は聞こえないな)テクテク
梓「こんにちは〜」ガチャッ
唯「犯人はっ…!」バッ
唯「きみだよ!あずにゃんっ!」ビシッ
梓「…」
唯「…」フンスッ
一同「…」
梓「…なんの話ですか」
律「しらばっくれても無駄だァ、梓!」
紬「証拠は全て上がってるのよ」
澪「この部室も完全に包囲されている、もう逃げ場はないんだ」
梓「はぁ」
唯律紬澪「…」ジー
梓「あの…もういいですか」
〜〜〜
唯「またあずにゃんをドキドキさせられなかったよ…」ショボン
紬「なにがいけなかったんだろう…」
律「今度はシンプル過ぎたのかもな〜」
澪「いや…そういう問題じゃないだろ」
梓「そうですよ」
唯「じゃあなにがいけなかったの、あずにゃん?」
梓「なにが、というより…」
梓「ちゃんと、練習しましょう?」
律「練習って、演技のか?」
梓「じゃなくて!」
澪「演奏の練習のことだろ…」
梓「そうです!」
唯「でもあずにゃんをドキドキさせてからじゃないと、練習も何もないよ」
梓「いったいここは何部なんですか…」
律「何部ってそりゃ…」
唯「けいおん部だけど…」
梓「ですよね?軽音部なら軽音部らしく活動しましょうよ」
律「わかってないなぁ梓は」
梓「何がですか?」
唯「あずにゃんが言ってるのって、『軽音部』のことでしょ?」
唯「わたしたちは『軽音部』じゃなくて、『けいおん部』なんだよ!」
律「なんだぞ!」
梓「…すみません、ちょっと意味が…」
澪「ああ…なるほど」
紬「わかるわぁ」ニコニコ
梓(わかるの!?)
梓「何が違うんですか…?」
律「ふっ、この違いがわからないとは…梓もまだまだだなぁ」
梓「むっ…」
唯「だからね、わたしたち『けいおん部』は、ただ5人で演奏するだけじゃなくて、お菓子食べて、お茶して、お話して。そういうのぜーんぶが活動なんだよ!」
梓「えっと…?」
唯「そこが『軽音部』とは違うんだよ!」
梓「はぁ…」
唯「ってことでムギちゃん、今日のおやつは〜?」
紬「今日は唯ちゃんの大好きなマドレーヌよ〜♪」
唯「やったー!ムギちゃん大好き〜!」
律「現金な奴だなぁ唯は」
澪「言っとくけど、これ食べたらちゃんと練習するんだからな」
唯「わかってるよぉ。ムギちゃん早く早く〜♪」
律「待て唯、まず梓をドキドキさせてから練習するんじゃなかったのか?」
唯「はっ!そうだったよ!」
澪「お前らなぁ…」
ワイワイキャイキャイ…
梓「…」
【木曜日】
梓(はぁ…昨日はなんか上手く丸め込まれちゃった気がするなぁ)
梓(先輩たちの雰囲気に飲まれてなんとなく納得しちゃったけど)
梓(冷静に考えたら、それって私たちが普通の軽音部よりダラけてるってことだよね…)
梓(ダメダメ!自分をしっかり持て、梓!)ブンブンッ!
梓(よ〜し、今日こそは先輩たちに惑わされずに…)
梓「練習するぞ!」
純「わっなに!?」
憂「梓ちゃん…どうしたの?」
梓「あ…ごめん、なんでもない…」
梓「じゃあ練習行ってくるよ」
憂「いってらっしゃい」
純「お茶飲んでばっかじゃダメだよ〜梓」
梓「なっ…ちゃんと練習もするもん!」
梓(うう…『練習してる』って言い返せなかったのが悔しい…)テクテク
梓(でも、今日こそは…!)テクテク
梓(絶対に練習するんだから!」フンスッ
梓「…///」
梓(最近、心の声が漏れやすくなってる気がする…)テクテク
梓「気をつけよう…」
唯「なにを?」ヒョコッ
梓「うわぁっ!唯先輩!?」ビクッ
梓「いつの間に隣に…というか、まだ部室に行ってなかったんですか?」
唯「ちょっと職員室に用事があったんだ〜」
梓「そうですか…」
梓「今日もまた、おかしなお芝居挟んでくるつもりですか?」
唯「う〜ん、今日はおやすみかなぁ。わたしも遅れちゃったし、まだ作戦立てられてないもん」
梓「…ということはまだ続けるつもりなんですね」
唯「当たり前だよぉ」
梓(それを私の目の前で宣言してる時点でダメな気が…)
梓「練習はいつするつもりなんですか…」
唯「ん〜、まぁあずにゃんをドキドキさせるまでは、できないかもねぇ」
梓(ダメだ…頭が痛いよ…)
唯「ところで、なにを気をつけるの?あずにゃん」
梓「えっ?」
唯「さっき『気をつけよう』って言ってたじゃん」
梓「ああ…いや別に…」
唯「ふっふっふ〜、何を考えていたのか当ててあげよう」
梓「え?」
唯「ズバリ、心の声を漏らさないように気をつけようと思っていたね!?」
梓「ええ!?」ドキッ
唯「ふふ〜ん、当たったみたいだね〜」
梓「どうして、それを…」
唯「わたし、エスパーなんだよ」
梓「…なんですか、やっぱりお芝居続いてるんですか?」
唯「えへへ〜、今ドキッとしたんじゃない?あずにゃん」
梓「してません!」
梓「それで、どうしてわかったんですか。まさか本気でエスパーって言い出すんじゃ…」
唯「エスパーじゃなくたって、後ろからあずにゃんの様子を見てたらわかるよぉ」
梓「なっ…ずっと見てたんですか?」
唯「うん。あずにゃんって後ろ姿だけでも何を考えてるのかわかるんだよねぇ」
唯「だから見てておもしろくってさぁ」
梓「そんなにわかりやすいんですかね…私って」
唯「まぁわたしとあずにゃんの仲だからね〜」
梓「なんですかそれ…」
唯「ふふ〜、照れなくてもいいんだよぉあずにゃん!」ダキッ
梓「わっ!いきなり抱きつかないでください!」
唯「この抱き心地…やっぱり抱きしめるのはあずにゃんに限りますなぁ」ギュウゥ
梓「もー!」
ガチャッ
梓「こんにちは」
唯「よっす!」
律「お、来た来た」
澪「…なんで唯は梓に絡みついたまま部室に入ってきてるんだ」
唯「あずにゃん分補給中なのであります!」
梓「もうっ!いい加減離れてください!」ズイッ
唯「ああん!接続が中断されちゃったぁ…」
紬「あらあら」
律「毎日大変だな〜梓も」
梓「いい迷惑です」
唯「えぇ〜、あずにゃんしどい…」
梓「先輩はもうちょっと大人になってください」
唯「ぶー、けちけち」
梓(…というか、予想はついてたけど)
梓(やっぱり今日も練習始めてないんだよね…)フッ…
紬「どうしたの?梓ちゃん」
梓「いえ、なんでも…」
澪「また練習せずにお茶飲んでるな、っていう苦笑だろ今のは」
梓「えっ?」
律「お〜?図星か梓?」
梓「そ、そんなこと…!」
梓「うう…」
紬「ねぇ唯ちゃん、マロングラッセとチョコケーキならどっちがいい?」
紬「さわ子先生はまだ来てないから、どちらか選んで?」
梓(あれ、唯先輩と先生の分だけ…?)
唯「どれどれ?うわぁ〜、どっちも美味しそう!」
唯「どうしようかなぁ〜」
梓(どうしよう…『私の分は?』なんて聞きづらいし…)
律「…」チラッ
律「梓ー、お前の分はもう席に置いてあるぞ」チョイチョイ
梓「えっ?」
梓(私の席に…?)チラッ
梓「あっ…気づかなかった…」
律「『私の分はないのかしらー?』って、顔に書いてあったぞ〜?」
梓「なっ…そ、そんなこと思ってないです!」
律「へぇ〜?」ニヤニヤ
梓「う…」
梓「それで、これって…」
紬「あら、梓ちゃんはバナナシフォンケーキがいいんじゃないかなって思って、先にとっておいたんだけど…違ってた?」
梓「いえ、そんなことないです!」
梓(私の好きなバナナのケーキ…)
梓(とっておいてくれたんだ…)
梓(唯先輩といい、澪先輩といい…)
梓(律先輩も、ムギ先輩も…)
唯「…ん?あずにゃん?」
梓「みなさんエスパーですか…」ボソッ
唯「…ふふっ」
唯「エスパーなんかじゃないよ〜」
唯「みんなあずにゃんがかわいくてかわいくて仕方ないから、あずにゃんのことがよーくわかるんだよ」
紬「梓ちゃんは、けいおん部でただ一人の後輩だからね」
律「唯なんて1日梓に会えないと禁断症状が出るもんな〜」
唯「うんっ!常にあずにゃん分を求めております!」
澪「よく恥ずかしげもなくそんなことが言えるな…」
紬「うふふ、いいことじゃない」ニコニコ
梓「…///」
澪「梓、どうしたんだ?早く座りなよ」
梓「あ…、はい」
ギシッ…
紬「はい、梓ちゃん、ミルクティーよ」
梓「ありがとうございます」
さくっ…はむっ
梓「…おいしい」モグモグ
梓「…」モグモグ
梓「…どうひてみなはん」モグモグ…ゴクン
梓「嬉しそうにこっちを見てるんですか」
律「別にー?」
澪「ただ、なんとなく…」
唯「わたしは、幸せそうにケーキを食べてるあずにゃんもかわいいなぁって思ってさ〜」
紬「見ててこっちまで幸せな気分になるのよねぇ」
梓「な…みなさんなに言ってるんですかっ」
梓「早くケーキ食べて、練習しますよ!」
唯「えー、もうちょっとのんびりしようよぉ」
律「人生には余裕が大切だぞ?」
唯「そのとーり!」
梓「余裕しかない人生もどうかと思いますよ…」
梓(…ん?何か大事なことを忘れてるような…)
唯「はいっ!あずにゃんあーん♪」
梓「えっ?あ…」
唯「ほれほれ、はようはよう」
梓「あ…あーん…」
はむっ
紬「ふふふ♪」
梓「うー…」モグモグ
梓「…やっぱりおいひい」モグモグ
【金曜日】
梓(昨日は結局大した練習はできなかったなぁ…)
梓(というか、私も最初から練習するって目標、すっかり忘れてたし…)
梓(ここ何日か、先輩たちのペースに巻き込まれてる…マズい!)ブンブンッ
梓(今日こそは気合いを入れて!)
梓「きちんと…!」
純「はっ?」
梓「…」
憂「きちんと…?」
梓「…や、なんでもないよ」
梓(危ない…また心の声が漏れてた…)
梓(とにかく、きちんと真面目に!最初っから練習しないと!)フンスッ
梓「じゃあね!部室に行ってくる!」
トタトタ…
純「う、うん、いってらっしゃい」
憂「梓ちゃん、今日は一段と気合い入ってるね」
梓(するったらするんだから!)テクテクテク!
…して、気まぐれかも…
梓(…ん?)テク…
梓(何か聞こえる…)
…の確率ー割りー出すー…
梓(これって…わたしの恋はホッチキスだよね)
梓(部室から聞こえてくる…)テク…テク…
ガチャッ…ソロー
唯「キラキラ光る♪願い〜ごとも♪グチャグチャへたる♪悩み〜ごとも〜♪」
唯「そーだホッチ〜キスで〜♪綴じちゃお〜お〜♪」
梓「…」
梓(…私、先輩たちの演奏したこの曲に惹かれて、入部を決めたんだっけ)
唯「もう針がな〜んだか〜♪通らな〜い〜♪」
唯「ララまた明日〜♪」
梓(そういえば、先輩たちが4人で演奏してるのを見るのって久しぶりかも)
梓(…先輩たち4人の演奏するこの曲が、私を二度も軽音部に招き入れてくれたんだよね)
梓(やっぱり…、こんなにも心を打つ演奏ができるなんて)
梓(この人たちの演奏は、凄いよ)
〜〜〜
唯「ふう…」
澪「あれ…?どうしたんだ梓、そんなところで」
梓「あ…ごめんなさい」
梓「せっかく演奏してるときに中に入ったら、邪魔になるかなって」
律「ほほう、つまりそこであたしらの演奏に聞き惚れてたってわけだな?」
梓「なっ…それは、ちが…わない、ですけど」
梓「というか、どうしてみなさん、お茶する前に演奏してたんですか?お芝居は?」
唯「うーん、まぁお芝居にも飽きちゃったしね〜」
唯「たまにはお茶する前に演奏してもいいかな〜って」
梓「はは…そうですか」
梓「…でも」
梓「先輩方の演奏を聴いて、なんだか入ったばかりの頃のことを思い出しました」
紬「入ったばかりの頃?」
梓「はい。先輩方4人だけでの演奏って、久しぶりに聴きましたから…」
律「そーいや、梓が入部してからは4人で演奏すること、殆どなかったもんな」
梓「新歓ライブのときのことや、軽音部に戻ってきたときのこと思い出して…ちょっとだけ」
唯「ドキドキした!?」
梓「えっ?」
律「今『ドキドキしました』って言おうとしてただろ!」
梓「そんなっ別にそんなドキドキなんて!」
唯「え…?してないの…?わたしたちの演奏でドキドキ…」ワナワナ
梓「あっいや…」
梓「し、してないと言えば…嘘になりますけど…」
律「したのか!?」
唯「したんだね!?」パァッ
梓「は…はい」
唯「やったー!作戦大成功!」
梓「え?」
律「いえーい!」
唯「りっちゃん!ハイタッチ!」
パチン!
梓「え…あの…」
唯「いや〜、澪ちゃんの言う通りにして正解だったよぉ」
澪「言っただろ?梓をドキドキさせるには、やっぱり演奏しかないって」
紬「ふふふ、あれこれ言いながら澪ちゃんもノリノリだったのねぇ」
梓「…」ジトー
梓(私のさっきの小さな感動はいったい…)
梓(…あ、そうだ。こうなったら)
律「はぁ〜、梓をドキドキさせるって目的は達成できたし、お茶にすっか」
唯「わーい!ムギちゃ〜んおやつおやつ〜」
梓「あれ?みなさん、なに言ってるんですか?」
唯「ん?どしたのあずにゃん?」
梓「やだなぁ、忘れちゃったんですか?先輩方、言ってたじゃないですか」
梓「私をドキドキさせてから練習するって」
唯「そうだっけ?」
梓「はい♪」
梓「私をドキドキさせられたんですから、これで思う存分練習できますよね?」ニッコリ
唯律「」
紬「そういえば…りっちゃんや唯ちゃん、一昨日そんなこと言ってたよね」
澪「…ははっ、それなら仕方ないな」
唯「で、でもぉ…さっきまで真面目に演奏してたし…」
律「そうそう!息抜きも必要だぞ〜梓〜…」
梓「な に 言 っ て る ん で す か ?」ニコ
唯律「」
梓「はい、唯先輩、ギター持って?」
律「ほら、律先輩も。スティック持たないとドラム叩けませんよ?」
唯「りっちゃん…あずにゃんなんか怖いよ…」コソコソ
律「あ、あの〜、梓さん。もしかして怒ってらっしゃる…?」オズオズ
梓「え?そんなことないですよ?むしろワクワクしてます」ニコニコ
梓「これでやっと『 み っ ち り 』練習に取り組めるんですから」ニッコリ
唯律「ひえぇ…」ブルブル
澪「なんか…私たちも覚悟しといた方が良さそうだな」
紬「来週はケーキ持ってくるの、やめとこうかしら…」
梓「さ!みなさん、今日からしっかり練習しましょうね!」
END
これでおしまいです。先輩にうまいことやり込められ、紆余曲折を経ながらなんとか練習しようとする梓視点の話でした。
最終更新:2015年04月17日 08:10