【3日後・学校の廊下】

テクテク…

梓(今日が先輩たちと同級生でいる最後の日か…)

梓(なんだかんだ、昨日まで楽しかったなぁ)

梓(先輩たちと、これまでよりもっと仲良くなれた気がする)

梓(唯先輩の思いつきの賜物ってところが、ちょっぴり悔しいけど)

梓(でも…、結局深い考えがあったわけじゃなさそうなんだよね)

梓(留年したときの予行演習ってこともなさそうだし…)

梓(憂はなにか考えがあるんじゃないかって言ってたけど、やっぱり単なる思いつきだったのかな)

「だーれだ?」パッ

梓「律」

律「即答かよっ!」

梓「当たり前じゃん」

律「ぐぬぬ…手強いやつめ」

梓「もう…、子どもじゃないんだから」

律「まだまだ学生だし。未成年だし。子どもだし!」

梓「大人になろうよ…」

梓「まったく…もうちょっと部長らしくしてよね。大事な書類はしょっちゅう出し忘れるし、なかなか練習しないで私や澪に怒られるし…」

律「だって〜」

梓「だってじゃありません」

律「…」

律「…梓ってさ、やっぱなんとなく澪に雰囲気似てるよな〜」

梓「え?」

律「しっかりしてて生真面目な性格とか、澪ほどじゃないけど恥ずかしがり屋なとことか」

律「サイズの方は遠く及ばないけどな」マジマジ

梓「なっ…、律には言われたくないよ!」バッ

律「あれれ〜?あたしは身長のことを言っただけだぞー?」

梓「今回も胸見てたじゃん!」

律「それは梓くん自身が胸のことを気にしているからそう感じてしまったのではないのかね〜?」

梓「ば…、バカ律〜!」

律「へへ、からかい甲斐があるとことかも、やっぱり似てるよな」

梓「はぁ…部室に行く前に疲れちゃったよ」

律「ふむ…まぁ時間稼ぎは成功したし、そろそろ部室に行くか」

梓「時間稼ぎ?」

律「ふっふっふ、今頃ムギが部室でティータイムの準備を完了させているはず」

梓「なっ!?」

律「ここ数日、先に練習してからティータイムの流れだったからな〜。ここらで悪しき風習は断ち切らねばならんのだ」

梓「いやいやいや」

梓「のんびりティータイム過ごして、練習の時間が短くなっちゃうことの方がよっぽど悪しき風習だよ!」

律「ほ〜う?のんびりティータイムを過ごすのが悪しき風習とな?」

梓「もちろん!」

律「じゃあ梓は来年、その悪しき風習をなくしちゃうのか?」

梓「へっ?」

梓「そ、それは…」

律「どーなんだ〜?」ニヤニヤ

梓「えっと、その…」

梓「…」

梓「わ、わからないよ…」

律「わからない…って?」

梓「来年は…、美味しい紅茶を淹れてくれてたムギちゃんも」

梓「ティータイムを盛り上げてくれてた律も、和ませてくれてた唯も」

梓「キリのいいところで練習を宣言してくれてた澪も、みんないなくなっちゃう」

梓「もし、新しく部員が入っても、きっと今みたいにティータイムは続けられないよ」

梓「でも…ティータイムをなくしちゃったら、放課後ティータイムもなくなっちゃう気がして…」

梓「だから、どうすればいいのか…」

律「ふぅ〜む、なるほどねぇ…」

律「ま、いいんじゃねーの?ティータイムが続けられないって言うんならそれでも」

梓「え…?でも、ティータイムがないと放課後ティータイムは…」

律「おいおい、勘違いすんなって」

律「別に来年ティータイムがなくなったからって、放課後ティータイムがあったって事実まで消えるわけじゃないだろ?」

梓「それは、そうだけど…」

律「部活ってさ、結局そのときにいる部員の為にあるもんだと思うんだよな」

律「さわちゃんがいた頃の軽音部なんてヘヴィメタだぜ?今その頃の雰囲気がかけらでも残ってるか?」

梓「それは…残ってない、けど…」

律「だろ〜?だからさ、あたしらが卒業した後も、あたしらの為にって理由でティータイムを残すってのは間違ってるよ」

律「来年も、ティータイムが必要だと思ったら残す。いーや必要ない、と思ったらスパッと無くす!」

律「ま、梓や他の部員のしたいようにすればいいと思うぞ」

梓「…うん」

梓「律…先輩ってやっぱり、なんだかんだで、部長らしいですね」

律「おいおいどうしたんだよ〜、急に。気持ち悪いな」

律「って、今日まで同級生だろ?まだ敬語に戻すには早いぞ」

梓「えへへ…ごめんごめん」

律「じゃ、部室行くか」

梓「うん!」

テクテクテク

梓「でも、唯には感謝しないと」

律「なんで?」

梓「唯の思いつきのおかげで、見えなかったことも見えたし、いつもは言えなかったことも言えたしさ」

律「はは、そっか」

梓「最初はもしかしてみんなの留年が決まって、その為の予行演習してるんじゃないかって思ったんだけど…」

律「おい」

梓「あはは、ごめんね」

律「ったくー、そこまで出来悪くないっつーの」

梓「まぁ…、唯自身はただの遊びのつもりだったんだろうけどさ」

律「…そんなことないぞ、梓」

梓「え?」

律「あ…いや」

梓「どういうこと?」

律「うーん…」

律「あたしが言っちゃってもいいのかな…」

梓「なんなの?なにかあるなら教えてよ」

律「…ま、いっか。実はな…」


【回想・初日】

律「でー?」

唯「ほぇ?」

律「いきなりどーしたんだよ、梓が同級生だったら?なんて」

唯「ふふふ〜、それがわたくしおもしろーいこと思いついちゃいまして〜」

紬「おもしろーいこと?」

唯「この1週間、あずにゃんには同級生になってもらおうと思います!」

律「…はい?」

澪「またくだらないことを…」

唯「むっ」

唯「くだらなくなんかないよっ」

澪「えっ?」

紬「ど、どうしたの?唯ちゃん」

唯「あっ…ご、ごめんね、つい」

唯「…えっとね」

唯「あずにゃんさ、けいおん部ではずっと同級生がいないままやってきたでしょ?」

唯「後輩はトンちゃんがいるけどさ」

トンちゃん「…」スーイスイ

唯「来年、新入部員が入ってくれるかはわからないけど…いや!きっと入る!…とは思うけど」

唯「でも、来年後輩はできても、同級生の部員はいないままかもしれないでしょ?」

律「まぁ…もしかしたらなぁ」

唯「わたしは1年生のときから、りっちゃんや澪ちゃん、ムギちゃんに囲まれて過ごしてきたから、あずにゃんの気持ちはわからないけど…」

唯「やっぱり、同級生同士でワイワイする部活も経験してほしいんだ」

唯「けいおん部にあずにゃんの同級生がいないのは、先輩のわたしたちが不甲斐なかったからだと思うし…」

唯「だから少しの間だけでも、あずにゃんに同級生のいる部活を体験させてあげたいんだよ!」

律「唯…」

紬「わたしは…すごく素敵な思いつきだと思うわ、唯ちゃん」

唯「えへへ、そうかな」

澪「…まぁ、先輩後輩の垣根をなくして付き合ってみるのも、おもしろいかもしれないな」

律「よーし、そうと決まれば!早速今日の部活から実行しようぜ!」

唯紬澪「おー!」

【回想終了】

律「…ってことがあったんだよ」

梓「…唯、先輩が…」

律「唯って天然で、のんびりしてて、色々すっとぼけてるけどさ」

律「あれでいて、すっごく梓のこと考えてると思うぞ」

律「まぁ、大事にし過ぎっていうか、溺愛してるっていうか…行き過ぎだろってとこもあるけどな」

梓「…」ジワ

律「…?どうした梓、もしかして泣いてんのか?」

梓「な、泣いてなんかないもん」ゴシゴシ

梓「ただ、ちょっと、ウルっときただけで…」

律「涙もろいなぁ、梓ちゃんは」ポンポン

梓「からかわないでよ…」

律「へへ」

律「あーあ、時間稼ぎのつもりが、だいぶ時間使っちゃったな」

律「ほら梓、みんな待ってるぞ」

梓「…うん」コクリ

テクテク…

梓(澪先輩は、恥ずかしがり屋だけど、やっぱり頼りになる人で)

梓(ムギ先輩は、温かくて、子どもっぽくて、不思議な人で)

梓(律先輩は、おおざっぱに見えて、実は細かなことまでよく考えてくれてる人で)

梓(唯先輩は…)

ガチャッ

律「おっす〜、遅れました〜!」

澪「遅いぞ、律」

律「いんや〜、ちょっと梓と話し込んじゃってさ〜」

唯「も〜りっちゃん、わたしとっくにケーキ選んでたのにぃ。これじゃなまごろしだよぉ」

律「わりーって。ムギー、残ってるケーキはー?」

紬「こちらになりま〜す♪」

律「どれどれ?お〜っどれもんまそーですなぁ」

唯「…?あれ、あずにゃん?どうしてずっと入り口で立ち止まってるの?」

梓「あ、いや…」

唯「早くおいでよぉ」トタトタ

唯「も〜、まさか一人で歩けないの〜?仕方ないなぁ、わたしが手握ってあげるから〜」ギュッ

唯「おいで?」

梓「…唯先輩」

唯「んん?ダメだよあずにゃん、今日はまだ先輩禁止…」

ダキッ

唯「」

梓「…」

唯「…あ、あずにゃん!?」

澪「あ、梓の方から唯に抱きついた…?」

紬「まぁ…!」ウットリ

律「…」ニッ

唯「な、なになに?いきなりどうしたの?」アタフタ

梓「…唯先輩、ありがとうございます」

唯「え?え?」オロオロ

梓「私、みなさんの後輩になれて、本当に良かったです」

澪「梓…」

紬「うふふ」

唯「…あずにゃん…」

唯「ふふっ…よしよし」ナデナデ

唯「わたしたちも、あずにゃんみたいな後輩がいてくれて、本当に幸せだよ」

梓「…!」

紬「今週一番の眼福シーンです…」ウットリ

律「ムギは相変わらず何を言ってんだ…」

律「…それにしても」

律「なーんか結局、予定より早く先輩後輩の関係に戻っちゃったな」

澪「そうだな」

唯「あずにゃん、もういいの?同級生同士じゃなくて」

梓「…はい。私、今こうやってみなさんの後輩でいられることが、一番幸せなんだってわかりましたから」

唯「あずにゃん…」

梓「えへへ…」

律「…で、そこのおしどり夫婦。いつまでくっついてんだ?」

梓「えっ?はっ!つい!」バッ

唯「え〜っあずにゃ〜ん、もっと抱きついてくれてていいのに〜」

梓「い、いやですよ!」

唯「ほらほら〜、そんなこと言わないで。もう一度わたしの胸に飛び込んでおいで?さぁ!」

梓「だからしませんって!今のはちょっとした弾みだったんですから!」

唯「もうっ!恥ずかしがり屋さんだなぁあずにゃんは〜」

梓「唯先輩はもっと恥じらいを持ってください!」

律「梓さん!」ガタッ

梓「へっ?」

律「あたしというものがありながら…!ちょっとした弾みでよその女に抱きつくなんて!」

梓「はいっ!?」

唯「あ、あなた!?誰よこの女ギツネは!?」ビシッ

律「こっちのセリフよこの泥棒ネコ!」

唯「なんだってぇ!?」

梓「なんなんですかこの流れ!」

唯「あずにゃんさん!わたしとあの女ギツネ、どっちを取るの!?」

律「もちろんこのあたしに決まってるわよね!?」

梓「どこの昼ドラですか〜!」

澪「騒がしい…けど、やっぱりこの関係が一番落ち着くな」フッ

紬「そうねぇ」ニコニコ

梓「澪先輩もムギ先輩も笑ってないでやめさせてくださいよ!」

律「梓さんっ!」ズイッ

唯「あずにゃんさんっ!」ズイッ

梓「だ、誰か助けて〜!」



END





【後日】

唯「もしもあずにゃんが先輩だったら!」

唯「どうなってたと思う?」

律「またかよ」

唯「違うよぉ、 今度は先輩なんだって」

律「んー、とりあえずこんな感じか」

〜〜〜

ぶちょう梓『はっはっはー!』

〜〜〜

紬「なんだか違うような…」

律「ダメ?」

澪「でも先輩が梓一人じゃ部活として成立してないんじゃ…」

唯「うぅん、そんな細かいことはいいからさ〜」

紬「まぁ来年は、まさにそういう状況になるわけだしね」

律「そこにあたしらが入るのか…」

澪「…」

〜〜〜

ヒュ〜ドロドロドロ…

梓『寂しいよぉ…新入生入ってよぉ…』

ガチャッ

澪『すみませ〜ん、入部希望なんですけど…』

梓『!』ギラッ

澪『ひぃっ!」ビクッ

梓『確保ー!』ダダダッ

〜〜〜

澪「ひゃああああ!」

唯「澪ちゃん?」

澪「ミエナイキコエナイミエナイキコエナイ…」

律「またおかしな想像始めたな」

紬「でも梓ちゃんが先輩だと、部室にティーセットを持ち込んだら…」

〜〜〜

紬『お茶ですよぉ♪』

唯律澪『わーい!』

梓『…』ブルブル

唯『…あずにゃん先輩?』

梓『…こんなんじゃダメだよ〜!』ガオーッ!

澪『キレた!』

梓『きみたち、やる気が感じられないよ!』ビシィッ

梓『ティーセットは撤去!これからはビシバシ練習するからね!』

ギュッ

梓『!?』

唯『よしよし、あずにゃん先輩…』

梓『ふにゃぁ…』

梓『…って先輩を抱きしめない!あとあずにゃんって呼ばないの〜!』ガオーッ!

唯『ごめんなさ〜い!』

〜〜〜

唯律澪紬「…」

梓「こんにちは〜…ってあれ?どうしたんですかみなさん?」

唯「…あずにゃん」

梓「は、はい!」

唯「…やっぱり、あずにゃんは後輩のまんまでいいよ!それが一番だよ!」

律澪紬「うんうん」コクコク

梓「…は、はぁ」



END



最終更新:2015年04月20日 22:18