数年後の未来の話。

桜が丘高校軽音部で結成されたバンド、HTT…放課後ティータイムはプロとしてデビューし、大人気のバンドとなった。
目標であった武道館ライブも達成し、出すCDは毎回オリコン入り、雑誌で特集も組まれ、CM等のメディア露出も増え、まさに人気絶頂といったところ。
元々の軽音部員四人に梓を加えた最初期HTT、通称『ケーキ組』に加え、梓をリーダーとして憂や純、菫や直といったニューフェイスを加えた『紅茶組』とユニットも細分化。
これにより、世間のニーズにも幅広く応えることが可能となり、これからの活躍にますます期待がかかる。
日本の、いや、世界の音楽業界に旋風を巻き起こす日もそう遠くは無いだろう、と誰もが言う、誰が見ても『成功者』である彼女達。

だがそんな彼女達にも、唯一恵まれていないものがあった。
それは……


律「うーっす澪、遊びに来たぞー」

澪「ああ律。もう来たのか」

律「……なんか、ちょっと来ない間にまた物が増えてないか?」

澪「そうか?」

律「まあいいけどさ……って、これは……!」

澪「あっ、しまった!」

律「澪!これ買ったのかよ!?ムギから買うなって言われてただろ!」

澪「い、いや、でも気になって……ごめん、ムギには内緒で!」

律「……うん、ま、私も気になるから気持ちは分かる。というわけで黙っててやるからプレイさせてくれ、このゲーム」

澪「……いいけど、後悔するなよ?」

律「やっぱり、あのムギが止めるってことは何かしら後悔する要素があるんだな?このゲーム……『放課後ティータイムバラエティータイム』は」

澪「そう、私達のバンドの初のゲーム化タイトル……だけど私はプレイして後悔した。もっと上手く作ってくれなかったものかと。きっと代表者として先にプレイしたムギも同じ心境だったんだろう……」

律「そんなに酷いのか」

澪「うん。いっそ正反対に私達の学生時代をゲーム化してくれれば神ゲーだったかもしれない、と思えるほど」

律「実際その案もあったらしいぞ。だからどこかにそんな平行世界もあるかもしれないな」

澪「だったらいいな」

律「しかし、『放課後ティータイムバラエティータイム』か……略してHTTBTか。もはや何がなんだかって感じだな」

澪「っていうかそれ絶対Varietyの間違いだよな。タイトルからして間違ってるって……」

律「えっ」

澪「えっ?」

律「あっ、ああ、うん、そうね!そうだな!」

澪「おいまさか」

律「そんなことより始めるぞ。最初からやっていい?」

澪「いいよ。私は二度と手に取らないだろうし」

律「そんな大げさな……いや、ムギも止めてたし、何より私と共に数多のゲームをプレイしてきた澪が言うなら本当にヤバいのか……?」

澪「私は律ほど数はこなしてないけど……まあ、やってみろ」

律「おう」

澪「………」

律「……OPムービーはいいな。唯が可愛い」

澪「うん、唯が可愛い」

律「ムギも梓も可愛い。まあ、私らも自分で言うのはアレだが可愛い」

澪「まあ、な」

律「うむ、OPに問題は無いな」

澪「OPは発売前に公開されてたから見たことあるだろ?」

律「まあそうなんだけどさ。さてタイトル画面に来たわけだが」

ゲーム機『ほうかごてぃーたいむ ばらえてぃーたいむー!』

律「……これは、唯?」

澪「の役の声優さんだな」

律「ほう、すげぇ似てるじゃん」

澪「私の役の人も含めて全員似ててすごいと思ったよ」

律「っていうか私達が声あてちゃいけなかったのかね、楽しそうだと思うんだけど」

澪「まあ……私達は本業ミュージシャンだし。プロに任せようよ」

律「それもそうか。えっと、プレイ前にオプション開いてっと」

澪「……律、まだそのクセあるのか。私に合わせてコンフィグいじらなくていいんだぞ?」

律「いやー、小さい頃は澪は左利きだから操作方法変えてあげたほうがいいのかとか、難易度落としてあげたほうがいいのかとか一丁前に気を配ってたなあ」

澪「……だから、今はもうそういうのいいんだって」

律「わかってるけど、澪の言う通りもうクセになっちゃっててさ。って、あれ……?」

澪「………」

律「……項目が音声の出力方式切り替えしかないんだけど」

澪「驚きの充実っぷりだろ」

律「いやいや!昔のゲームで出来てたキーコンフィグや難易度設定は!?」

澪「無い」

律「おおぅ……」

澪「スムーズに本編に入れていいだろ」

律「そ、そうだな……ちょっと不安になってきたから先に説明書読んでいい?」

澪「律が説明書に手を伸ばすなんて……ほれ」

律「あんがと。絶妙にペラいのが気になるけど……ふむ、なるほど、中身はキャラ毎に種類の違うゲームになってるんだなこれ」

澪「バラエティーというタイトルの差すとおり、いろいろ詰め込んだんだろうな。ミニゲーム集と言うのが近そうだ」

律「えーと、唯編が……恋愛AVG!?いいのかこれ!?」

澪「プレイしたけど恋人関係になれなかったぞ」

律「えっ、それはそれでどうなんだ?いや確かに私もたった今「いいのかこれ」とは言ったけど、恋人関係になれないって恋愛できてねーじゃん」

澪「ちなみに梓編も恋愛AVGだ」

律「バラエティーとか言っておきながらいきなりネタ被らせてどうする」

澪「もちろんこちらもくっつかない」

律「っていうかお前は二人とも攻略したのか」

澪「………」

律「………」

澪「……だって、せっかく買ったんだし……」

律「そういうことにしといてやるよ。で、ムギ編は…会社経営シミュレーション?難しそうだな」

澪「昔、コンビニ経営するゲームがあっただろ?あんな感じ」

律「ああ、澪はああいうの好きだったな。私はめんどくさそうだから見てるだけだったけど」

澪「そうだな、あのコンビニのゲームは楽しかったなぁ……」

律「……遠い目をしてやがる。ムギ編もロクなゲームじゃなさそうだ……」

澪「バグがなぁ……会社ビルが消えるバグがなぁ……社員がいなくなるバグがなぁ……;;」

律「え、えーっと、澪編はなにかなぁー?って……えっ、格ゲー……?」

澪「……うん」

律「なんで?」

澪「そんなこと私に聞かれても困る」

律「いつも私に昇○拳を喰らわせてくれてはいるけど」

澪「そんなことしてないだろ!」ゴチン

律「ウワァーウワァーウワァー」

澪「まったく、私だけなんでこんな謎のチョイスなんだ」

律「ちなみに私は何なんだろ、えっと……は?『りっちゃんの怖い話集』?」

澪「あ、それだけはプレイしてないからわからない。怖い話らしいし」

律「いや、なんでこんな太陽みたいに明るいみんなのファニーエンジェルりっちゃんから怖い話なんてテーマが出て来るんだよ!?」

澪「いつも私に怖い話してるからだろ」

律「そんなことしてないだろ!してたな!」

澪「ま、ある程度私達に詳しい人が作ったようではあるよな」

律「待てよ!私達に詳しいなら私達がバンドしてるってことも知ってるだろ!なんで音ゲーが一つもないんだよ!?私達を再現するなら音ゲーがベストだろ!?」

澪「しかも文章読むだけのゲームが三種類だしな……平行世界では音ゲーが出ていると信じたい」

律「まったくだ。ところですでにプレイ意欲がガッツリ削がれているんですが」

澪「やってみたかったんだろ?」

律「……せっかく操作方法も把握したんだし、仕方ない、やるか。何からやろうかな。唯や梓をオトすのは気が向いた時にするとして……」

澪「……怖い話する?」

律「……一応やってみるか。澪も見るのか?」

澪「……頑張る」

律「そ、そうか、無理すんなよ」

澪「………」

律「………」

澪「……タイトルロゴが傾いてない?」

律「演出じゃね?」

澪「っていうかタイトルロゴが安っぽくない?」

律「……演出じゃね」

澪「………」

律「………」

澪「………」

律「……ロードが長い」

澪「ムギ編も長かった」

律「あ、本編始まった」

澪「ムギ編より早かったな」

律「そ、そうか……」

澪「……ひっ!」

律「まだ導入部だろ……でもBGMは雰囲気あるな……」

澪「ひいっ!」

律「………」

澪「う、うわ……」

律「………」

澪「……ドキドキ……」

律「……あれ、終わった?」

澪「えっ?」

律「いや、終わったっぽい」

澪「……私、途中で気絶してた?」

律「いや、起きてた。単にすげー短かっただけだな……」

澪「そ、そうか。良かった……」

律「よくねーよ、なんだあの短さ。しかも全然怖くねーし!」

澪「い、いや、雰囲気はあったと思うぞ?」

律「BGM効果だろ!海外ホラーみたいなドッキリ要素も和風ホラーみたいなネットリ要素も何も無かったぞ!」

澪「そうか、神ゲーだな」

律「ああもうコイツは……。えぇと、私編は怖い話『集』なんだからいくつかあるんだよな? まさか全部こんなに短いなんてことはないよな?」

~~~

律「全部短かった」

澪「その上あんまり怖くなかったから助かった」

律「あんまりどころか全然……あーもう、次行くぞ次。といってもムギ編は内容的にやる気起きないし、澪編だな」

澪「私か……ムギ編は律には無理だろうし仕方ないけど」

律「悔しいが否定しない。っていうか今更だがファン向けのライトゲーで経営ゲームってチョイスもそもそもおかしいだろ」

澪「私は好きだけど」

律「ああうんそうだなお前はそうだな。私みたいな広く浅くゲームする奴はじっくり腰を据えるゲームは苦手なんだよ。でも格ゲーなら出来るはずだ!」

澪「格ゲーなら、な」

律「なんだよその不吉な言い方……まあいいや、始めるぞ」

ゲーム澪『私の名前は秋山澪。放課後ティータイムの一員だ』

律「声似てるな」

澪「すごいよな」

律「なんか微妙にドット絵が雑だけど」

澪「戦闘中はもっと目立つぞ」

律「嬉しくない情報ありがとう」

ゲーム澪『ある日、朝起きると私のギターが誰かに盗まれていた!無くなっていたんだ!』

律「お前ギター持ってたの?」

澪「ベースの間違いだろうな……」

律「私達に詳しい人が作ってそうなんじゃなかったのかよ……」

澪「実を言うと唯編や梓編もいろいろおかしい。ゲームの唯は過去にバレー部にいたそうだ」

律「……まあ、それくらいならパラレルワールドなんじゃね。ストーリーのために必要な改変ならギリ仕方ない」

澪「梓は夫を交通事故で失って復讐のためにギターを始めたそうだ」

律「考えた奴病院行けよ」

澪「全体的にこんなザマなのに変なところだけ正確なのも怖さがあるよな」

律「私達が自分で声あててたら発狂してたかもしれないな……」

ゲーム澪『きっと律の仕業だ!取り返してやる!タイマンで殴りあうんだ!』

律「そうか、私って一般的にそういうイメージなのか……」

澪「あ、あくまでゲームだから!落ち込むなって!っていうか思い込みと決め付けで暴力を躊躇しない私のキャラ付けも中々だぞ」

律「……今までごめんな、澪。イタズラしすぎたな」

澪「いや、私のほうこそ叩きすぎたかも……ごめん」

ゲーム機『ラウンド1、レディー、ファイッ!』

律「おわっ、始まるし!」

澪「律!攻撃だ!ボタンを押せ!」

律「ゲームとはいえ自分を倒すために頑張るのって変な気分だな……」ペチペチ

澪「敵の必殺技が来るぞ!」ピュイーン

律「っと、防御防御……あれ?喰らったぞ?防御ってキー後ろ方向じゃないのか?ガード不能技なのか?」ペチペチ

澪「そういえば防御はボタン二個同時押しだ」

律「斬新なシステム!説明書にそんなの書いてたか!?」

澪「書いてなかったな。私は自力で見つけた。ドヤ」

律「書いとけよ!つーかそんなところでオリジナリティ出してどうする!あとさっきからイマイチ効果音がしまらねぇよ!」ペチペチ

澪「ところで律、反撃しないと私が死ぬんだけど」

律「ややこしい言い方するなよ。っていうかさっきからCPUが澪を地面に下ろしてくれないんだけど。ずっと空中コンボされてるんだけど」ペチペチペチィィ

ゲーム機『YOU LOSE』

澪「あ、死んだ」

律「必殺技一発から10割ゲーかよ……りっちゃんつえぇ」

澪「ちゃんと防御してれば……」

律「いや防御以前にバランスおかしいだろ、何この私の強さ。せめて難易度調節させてくれよ」

澪「そう言われても無いものは無い」

律「わかってるけどさ……あと今更だけどラウンドコールの声、憂ちゃん役の人みたいだな。かわいすぎて合ってない」

澪「出番ここだけだけどな」

律「唯編にいないの?」

澪「いない。一切出てこない」

律「マジかよ……いろんな意味でもったいねぇ……」

澪「和も出てこない」

律「流石はパラレルワールドの唯だな」

澪「で、まだやる?」

律「難易度調節してぇ……っていうかさ、今思ったんだけどミニゲーム集なんだからそれぞれのタイトル画面にオプションがあるべきじゃね?」

澪「そう言われても無いものは無い」

律「……まてよ、ということはもしかして唯編や梓編もオプション無いのか?プレイ中にスタートボタン押して開くような。私編では短すぎて試す暇なかったが……」

澪「スタートボタン押したらセーブ画面が出たな」

律「それだけか」

澪「それだけだった」

律「読み物ゲームって文字表示速度いじったりとかスキップ機能とかオート機能とか必要なんじゃねえの」

澪「ネットでレビューを調べた結果、一本道らしい。だからスキップ機能はほぼ必要ないんだろう」

律「でも他の機能は……おいまて一本道なのか」

澪「一応私も選択肢を変えて二週してみたが同じエンドだった」

律「おい選択肢の意味ってなんだ」

澪「好意的に言うなら一粒で二度美味しい」

律「それを言っていいのは二つのエンドを作った奴だけだ」

澪「二回も唯に「ごめん、今はバレーが大事だから」ってフラれた私の気持ちもわかるだろ?」

律「まだバレーやってんじゃねえか!バンドやれよそこは!!」

澪「でも声優の演技は良かった」

律「そうか、よかったな……」

澪「ちなみに主人公の性別も選択可能なんだ」

律「マジで?それは評価点なんじゃないか?」

澪「まあ何も変わらないんだけどな。どっちみち唯も梓もずっとプレイヤーを「あなた」って呼ぶし」

律「お、おう……意味無え……やる気削がれる……」

澪「でも声優の演技はいいからそれなりに聞ける」

律「ちなみに梓ルートはどんなエンドなんだ?くっつかないとは聞いたが」

澪「……たいしたもんじゃないよ」

律「まあ元の設定からして期待はできないが、一周回って気になる」

澪「自分でやればいいさ。そのゲーム無期限で貸すから」

律「ん、そうか。まあ澪が相手とはいえ人前で恋愛AVGやるのは照れるしな……気が向いた時にやらせてもらうよ」

澪「くっつかないけどな」

律「それ言っちゃあお終いだ」

澪「まあとりあえず、これで二人合わせれば全てのゲームをやった事になるわけだけど」

律「うむ」

澪「……どう思う?」

律「……ムギがダメって言うからには相応の理由があるんだなーと思った」

澪「……うん、私も」

律「……あ、BGMと声優の演技は良かった」

澪「……うん」

律「………」

澪「……まあ、多分ムギが辛うじて監修したのがその二ヶ所なんだと思うけど」

律「……ほとんどゲーム会社の采配に任せようって決めちゃったもんな」

澪「あまり口を出すのも良くないと思ったし、何より忙しかったからな……」

律「そんな中で少しでも監修してくれたムギには感謝しかない…んだけど…」

澪「完成品を見た時のムギの心境は想像するのも辛いな……」

律「だな……」

澪「………」

律「……このゲーム、買い取ろうか?」

澪「……いや、勉強代と思っておくよ……」

律「そうか……」

澪「うん……」


後日。


律「梓編プレイするか」

律「………」

律「………?」

律「………!」

律「………!?」

律「………」

律「……あ、私告白した」

ゲーム梓『すいません、今は軽音が恋人みたいなものなので』

律「……マジか」

律「………」

律「……さすがの私もこれをネタにして澪をイジる気にはなれないな……」

律「………」

律「……あ、フリーズした」

おわり



最終更新:2015年12月13日 21:30