ー帰り道ー
律「…というわけで、なんとかお泊まりはできたんだけど…」
澪「…」
律「澪?」
澪「…」
律「みお?」
律「みーおー?」
律「………あれ。もしかして、怒っていらっしゃる??」
澪「……ちがう」
律「……じゃあなに?」
澪「呆れてるの!」
律「……スミマセン」
澪「つまりだ」
澪「わたしが唯を呼び出して二人きりになるチャンスを作ってやって…」
澪「そのおかげで一緒にゲームして料理してパジャマを借りてお泊まりまでできて…」
澪「告白するチャンスは何度かあったのに何もできなかった」
澪「…そういうわけか」ハァ~
律「………モウシワケナイ」
澪「…ヘタレ」
律「……返す言葉もない」
澪「じゃあ三千円」
律「えっ、くれんの? なんで?」
澪「バカッ! なんでわたしが律に小遣いあげないといけないんだよ! 経費だよ経費! 経費を払えって言ってるんだよ!」
律「………経費?」
澪「そう経費」
律「………?」
澪「…こないだ唯を呼び出して駅前のケーキ屋さんに行っただろ? 新しくできたとこ」
澪「そこで使ったお金。引き止め工作代」
律「ちょ、ちょ待てよ。それは澪と唯が食べたものの代金だろぉ! なんでわたしが払うんだよ!」
澪「は? 協力してやったんだから当たり前だろ」
律「う…百歩譲ってお金を出すのはいい…でもおかしーだろその金額! どんだけ食べたらそんな額になんだよ!」
澪「あ、それは…………おいしかったから」ボソ
律「ほら! おいしかったからって食べ過ぎたのは澪と唯だろ! せめて払うとしても半分だ!」
澪「ま、待て! 追加注文してなかったら唯はあんなに引き止められなかったぞ! その分律は憂ちゃんと二人きりでいられたんだ! だから全額払ってもらわないと割に合わない!」
律「……たしかにその理屈はわからなくはない」
澪「……だ、だろ?」
律「だがおかしい!」
澪「なにがだよ…」
律「引き止めるだけならもっと安いメニューを選ぶこともできたはずだ!」
律「もしかしてハナからわたしに払わせること前提でたっかいものばっか注文してたんじゃねーだろーな!?」
澪「……………」
律「図星かよ」
律「じゃあ半分の1500円」ハイ
澪「…もう手伝わないぞ」ボソ
律「…えっ」
澪「全額払ってくれなきゃ金輪際律の相談に乗ることない」
澪「憂ちゃんと二人きりになれるよう協力することもない」
澪「むしろ邪魔する。積極的に唯をけしかけて憂ちゃんと始終一緒にいるように仕向ける」
澪「梓にも伝えておこう。最近憂ちゃんを狙うストーカーがいるから、なるべく一人にしないように、って」
澪「和に頼んで生徒会のほうでもストーカー問題に対処してもらおう」
澪「そうそうムギにも頼んでおかないとな。琴吹家のSPに憂ちゃんの警備をしてもらえるように」
澪「あー、律たいへんだなぁ!(棒」
澪「これじゃさらに二人きりになるチャンスなんてなくなるなあ!(棒」
澪「でもわたしの協力なんていらないんだもんなぁー!(棒」
律「ちょ、ちょちょちょ! ちょまてよ!」
澪「ふん。一人で勝手に頑張るといいさ」
律「おいみおぉ…」
澪「…」ツーン
律「わぁーかったよ、わぁーかったってば」
律「ハイ、追加の1500円。これで全額だろ」ゲッソリ
澪「わたし達親友だもんな! 律の恋が成就するよう全力で頑張るよ!」パァァ
律(うーん、友情の価値、3000円かぁ~…)
ー夜ー
プルルルル…
澪「もしもし」
紬『もしもし澪ちゃん? ごめんね夜遅くに。今大丈夫?」
澪「うん、宿題も一息ついたところだから大丈夫。なにかあった?」
紬『ちょっと相談したいことがあって。りっちゃんのことなんだけど』
澪「律のこと?」
紬『実はね、りっちゃんのことが好き、っていう子がいるみたいなの』
澪「……え?」
澪「律の…ことが………好き?」
澪「ムギ……それホント?」
紬『うん』
澪「ホントにホント?」
紬『ホントにホントよ』
紬『澪ちゃん。…もしかしてショック?』
澪「うん……もし本当ならショックかも」
紬『……りっちゃんを取られちゃうから?』
澪「ううん、そんなんじゃなくて」
澪「もし本当なら随分変わった趣味の人もいるんだなぁーって。そういう意味でショック受けてる」
紬(澪ちゃんヒドい…)
澪「まぁアイツ、あれでいい奴だからな。律を好きになる気持ちはわからないでもないよ」
紬『…………そう』
澪「それで? 相談したいことってなに?」
紬『う、うん。えっとね。りっちゃんに好きな人がいるかどうか気になって。
澪ちゃんならきっと知ってるだろうから聞いてみようかな、って』
澪「あー…」
紬(この反応は…)
澪「ごめん。それは言えない」
紬『そうだよね、友だちの大事な話だもんね。言えるわけないよね。ごめんね、変なこと聞いて』
澪「ううん。こっちこそごめんな、役に立てなくて」
紬『そんなことないよ。そういえばこないだ唯ちゃんとデートしたって本当?』
澪「え? あれはデートとかそんなんじゃなくて二人で出かけてケーキ食べただけだよ」
紬(それをデートって呼ぶんじゃないのかしら…)
澪「すっごくおいしかったから、また今後ふたりで行こうな」
紬『……うん、行こうね。約束だよ』
澪「ああ、約束だ」
紬『ありがと。じゃあ夜遅いしもう切るね。また明日』
澪「うん。おやすみ。ムギの声が聞けてよかったよ」
紬『………わたしも。おやすみ』
ー火曜日ー
紬「というわけだったわ」
梓「ということは…」
梓「律センパイに好きな相手がいるのは間違いない」
紬「澪ちゃんは相手が誰か知ってそうだったから除外」
梓「クラスには他にそれっぽい人とかいないんですか?」
紬「教室でのりっちゃんを見る限りではいないと思うわ」
梓「そうですか」
紬「そうなると一番可能性が高いのは唯ちゃんね」
梓「やっぱりそうかー」
梓「澪センパイと唯センパイはどうなんでしょうか」
紬「それはないわ」
梓「でも、こないだ二人でデートしてたって」
梓「澪センパイと唯センパイができてる、って可能性も…」
紬「ゼッタイないから大丈夫」
梓(なんで断言できるんだろう??)
紬「もしかしたら唯ちゃんとりっちゃんをくっつけるために澪ちゃんが何か工作してたのかも」
梓「うーん…」
紬「とりあえずわたし達はふたりがうまくいくように頑張ろうね!」フンス!
梓「あ、ハイ」
ー二年教室ー
梓「だって」
純「やっぱり二人は両思いかー」
梓「少なくとも律センパイは誰か好きな相手がいるのは間違いないみたい」
憂「おねえちゃんだよ、きっと」
梓「……」
梓「あのさ、憂」
憂「なぁに? どうしたの梓ちゃん?」
梓「唯センパイ、ホントに律センパイのこと好きなのかな?」
憂「そうだと思うけど…」
梓「でもさ、律センパイはともかく、唯センパイには好きな人がいるかどうかもまだよくわかんないよね」
純「律センパイでしょー」
梓「なんとなくそれっぽい、っていう雰囲気だけで動きすぎてる気がしない?」
純「どうしたの梓、今さら」
梓「間違いなく両思い、って決まってるわけじゃないじゃない?」
梓「もし違ったら二人にすっごい悪いことしてるかもしれないなーって思っちゃって……」
梓「それにほら、こういうのって周りがあんまり騒ぐとうまくいかなかったりするでしょ?」
純「…考えすぎじゃない?」
憂「でも梓ちゃんのいう通りかも」
憂「わたし、もうちょっとおねえちゃんの様子探ってみる!」
梓「わたしももうちょっと二人の様子観察してみるよ」
ー夜、平沢家ー
憂「おねえちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
唯「なーにー、アイスなら今日はこれ一本しか食べてないよ」ガリガリ
憂「うん。知ってる。そうじゃなくて…あのね…」
唯「憂の分もちゃあんと残してあるから大丈夫だよ」ガリガリ
憂「う、うん…聞きたいのはアイスのことじゃなくて…」
憂「おねえちゃん。好きな人…っている?」
唯「……」ガリ
唯「……」
憂「……」
唯「……」
憂「……」
憂「…ご、」
憂「ごめんねおねえちゃん! 変なこと聞いちゃって!」
憂「言いにくいなら無理しなくていいから! ちょっと気になって聞いてみただけだから!」
唯「………あ、」
唯「ごめんごめん! いきなりそんなこと聞かれるなんて思ってなかったからびっくりしちゃったよぉー」
唯「す、すきなひとかぁー…うーん、そうだねぇー…うーん……」チラ
憂「……」ドキドキ
唯「……」ウーン
憂「………」ドキドキドキ
唯「ナ、ナイショ!」
憂「……へ?」
唯「ナイショだよっ! 憂にもナイショ!」
憂「そ、そっかぁ~(…ていうことは好きな人いるのかな? おねえちゃん)」
唯「………憂は?」
唯「憂はいるの?」
憂「……わ、わたし?」
憂「……………」
唯「……………」ドキドキ
憂「……………」
唯「……………」ドキドキ
憂「……………いるよ」
唯「……………え?」
憂「いるよ。好きな人」
唯「…………そっか」
唯「じゃあわたしも言うね」
唯「わたしもね、いるんだ」
憂「…………だと思った」
唯「あれ? バレてた?」
憂「うん。だっておねえちゃん、わかりやすいんだもん」
唯「そっかぁ~わかりやすかったかぁ~」テヘヘ
憂「おねえちゃん。きっとうまくいくと思うよ」
唯「ほんとに?」
憂「うん。わたしはそう思う」
唯「ありがと。憂」
憂「ううん。わたしはいつだっておねえちゃんの味方だから」
唯「わたしだって、憂の味方だよ。応援してるから」
憂「………ありがと」
ー水曜日、放課後ー
ガチャ
梓「…………」
唯「あずにゃんおいーっす」ダラー
梓「どもです。…つーかいつにも増してダラけすぎでしょう」
唯「んー、わたしにだってダラけたいときがあるんだよぉ…」
梓「いつもダラけてるじゃないですか…」
唯「違うよ。そうじゃないよ。悩んでるんだよ。だから悩みで練習に手がつかないの」
梓「悩んでなくても普段から練習してないでしょう」
唯「いつも以上にしてないんだよ!」フンス!
梓「自信満々で言わないでください。でも唯センパイでも悩みとかあるんですね?(もしや恋の悩み…? 律センパイのこと…??)」
唯「あるよぉ! あずにゃんわたしのことバカにしすぎ!」
梓「あはは、すみません。ところで悩みってなんですか?
あ、わかりました!
赤点とりそうとか、
卒業無理そうとか、
受かりそうな大学ないとか、
万が一合格しても留年しそうとか、
そもそも唯センパイ、自動車免許すら取れるか不安な感じですよね。
あとは将来就職できる見込みもなさそうですし、
なんとか滑り込んでもお茶汲みすらちゃんとできなくて社会人失格~とか、
つまり未来全般にちっとも希望が見えない、ってことですか?」
唯「あずにゃん……」
梓「ハッ すみません! つい!」
唯「い、いいよぉ…自分でもそれくらいわかってるからぁ~」グスン
梓「だ、だいじょうぶですよ! 唯センパイなら!」
唯「いいよ…いまさら励ましてくれなくても」メソメソ
梓「そんな! わたし唯センパイのいいところいっぱい知ってます!」
唯「……………たとえば?」
梓「…………………えっと」
唯「…………………」
梓「…………………」
唯「…………………」
梓「…………………」
唯「…………………」
梓「…………………や、やさしい…とか!」
唯「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
梓「ああああああごめんなさいごめんなさい!」
梓「ちがうんです! いざ口に出していいところ言うのって難しいし、照れるじゃないですか!」
唯「うそだぁ…あずにゃんはわたしのことキライなんだぁ…」グスグス
梓「違います! そんなことないです!」
唯「あるよぉ…キライだからそんなヒドいことばっかり言うんでしょぉ…」グシュグシュ
梓「…キライだなんて…そんなわけないです」
唯「………ウソ」
梓「ウソじゃないです」
梓「……………好きです。
勉強できなくても、
練習サボってても、
いつもダラダラしてても、
留年しそうでも、
もし大学に落ちたって、
進学出来なくたって、
免許もとれなくて就職もできなくなっても、
そんなことどーだっていいんです。
……………好きです」
律「……………」
澪「……………」
紬「……………」
唯「……………」
梓「……………な、」
梓「なんでセンパイ方がいるんですかぁぁあぁぁぁぁ!?!!??!!!?」
律「いや……唯が泣き叫んでるあたりからいたんだけど」
澪「なんか取り込み中みたいだったし」
紬「そっとしておこうと思ったの~」
梓「声かけてくださいよ!」
律「……………好きです」
梓「マネすんな! このハゲ!」
律「いや、どー考えても声かけられる雰囲気じゃなかったろ」
梓「そういうのじゃないんですって!」
澪「でも邪魔しちゃ悪いかなって」
梓「むしろ積極的に入ってきてほしかったです!」
紬「わたし、愛の告白をナマで見るのはじめて~♪」ルンルン
梓「だからそういうのじゃないって…!」
梓「唯センパイもなんとか言ってくださいよ!」
唯「んも~~~~あずにゃんたら照れちゃって~~、わたしも好きだよ!」
梓「…だから違うって………!!!」
ー30分後ー
澪「話の概要はわかった」
律「ま、最初からそんなこったろーと思ったけどなー」
梓「わかっていただいてなによりです…」
紬「でも梓ちゃんが唯ちゃんを好き、ってことは間違いないのよね?」
梓「だからあれは………もういいです。そういうことにしといてください」
唯「えへへ~…」
紬(ところで…)
律「おアツいですな~おふたりさま~」コノコノ~
唯「照れるからやめてよぅ、もぉ~」ウフフ
梓(この意外な反応…)
紬(りっちゃんがもし唯ちゃんのことが好きなら…)
梓(少しはやきもちを焼いてもいい場面なはず…)
律「ラブラブでうらやましいぞー」
紬(でもりっちゃんにその素振りはまったくないわ…)
梓(一体これは…)
紬梓
澪(……ミルクティーおいしい)ズズー
梓「そ、そういえば唯センパイ」
唯「なんだい? マイハニー?」
梓「キモチ悪いんでやめてください。
さっき言ってた悩みって、結局なんだったんですか?」
唯「ん? ああ、もういいの。解決しちゃったから」
梓「へ?」
唯「あー、でも半分だけかな。もう半分はまだ解決してないや」
梓「はんぶん?」
律「おふたりさーん、二人だけの世界に入らないでくれますー?」
唯「ごめんごめん。そだ、りっちゃん。この後時間ある? ちょっと話したいことがあるんだけど?」
紬(!?)
梓(?!)
紬梓((ついに来た??!!?))
納期澪(きょうも平和な一日だなぁ…)ゴクゴク
最終更新:2016年02月28日 21:34