~~~
紬「りっちゃん、これはどうするの?」
律「これはだな、あの動く土台が一番手前まで押し出てくるタイミングでコインを入れるんだ」
紬「ふんふむ」
律「すると、あの土台の奥にコインが溜まるだろ? その状態のまま土台が引っ込むと……」
チャリンチャリン
紬「あ、落ちた!」
律「そしてその落ちたコインは……」
ウィーン チャリン
紬「!! 下にあるコインを一気に押し出すのね」
律「そういうこと。ま、やってみ」
紬「やってみる!」フンス
律「(楽しそうだなあ)」
チャリーン
紬「あっ! 入れるタイミング難しいね……」
律「あるある」
紬「えいっ!」
律「私も最初の方はなかなかうまくいかなかったけど、今では」
テロテロテロリーン!
律「え」
ピロピロピロ ピーンピーンピーン
『777』 5000coin
紬「5000コイン?」
ジャララララララララ!!!!!!
律「うおーっ! ムギ、大当たりだぞ!」
紬「え、ホント? やったー!」
律「(ビギナーズラックの力技だな……まさに『豪運』……)」
~~~
ウィーン
紬「う~ん……やっぱり取れない……」
律「(見えた!)貸してみ」
紬「う、うん」
律「首の部分掴めば……」
ウィーン
紬「あ! 持ち上がった~」
律「そしてゴール! はい、欲しかったんだろ」
紬「りっちゃん、ありがと~! このクマに一目ぼれしちゃって……」
律「どういたしまして。UFOキャッチャーは得意なんだ(自信はあったけど取れてよかったー)」
紬「次はレースのゲームしよう!」
律「わかった」
紬「あ、でも小銭、UFOキャッチャーで使いすぎちゃったから両替してくるね」
律「ついていこうか?」
紬「ううん、そこで待ってて。いってくる!」タタタ
律「(やっぱ無邪気でかわいいな~)」
「あれ、あなたもしかして」
律「(この声はまさか……!? 『秘儀・瞬間変装着脱』!!!)」バッスチャッ!
梓「私です、AZSです!」
律「(やっぱり梓ぁーっ! アイマスクも持って来ておいてよかったー!)ど、どうも」
梓「あれ。帽子はともかく、いつもそのマスク着けてるんですか?」
律「え? ああ、まあいろいろあって」
梓「そうですか」
律「(ヤバイ、やっぱ不自然だよな……)」
梓「そういえばこの間はとても楽しかったです。RTSさんも新店舗チェックですか?」
律「あーうん。そんな感じ」
梓「なるほどです。 ……今日も一勝負しませんか? 『スぺ4』で!」
律「(まずい……ムギがいるというのにこの状況……! ああ、でもゲーマー魂として逃げるわけには……)」ゴゴゴゴゴ
律「わかった……でも今日は『スぺ4』って気分じゃないから、向こうにあるレースゲームにしよう」
梓「わかりました、受けて立ちます!」
律「(変装してるからムギにはバレないはずだ。両替で戻ってくるまでには間に合わないだろうけど、トイレ行ってたとかでごまかそう)」
梓「ふふふ、熱い闘いをもう一度……!」
律「(とはいえ、ダラダラはしていられない……一気に終わらせてやる……)」
【RTS対AZS】
3、2、1 START!
ブンブンブウウウゥン!!!
律「(『弾丸ロケットスタート』! ふつうのロケスタより数段速いぜっ!)」
梓「ふっふっふっ……」
律「?(スタートミスったのか? てか、あんまし飛ばしてない……?)」
ティロリロリロティロリロリロ テッテッテッー
梓「私が欲しかったのはこれです!“三連武装・赤甲羅”!! 『自動追尾で相手を攻撃!』」
律「!!」
梓「そして“イカヅチ”!! 『自分以外のプレイヤーに雷を落とし大幅に減速させる!』」
律「むっ(たしかに強力なアイテムだけど、下位グループにはまず加速系のアイテムが必要じゃ……)」
梓「ふんすっ、ふんすっ!」バッ
ビシッ バァン ビシッ バァン
律「なっ……!(こいつ、アイテムを使わないままプチターボを刻んで少しずつ追い上げてきている!)」
梓「さあ、逃げきれますか……!」
ビシッ バァン ビシッ バァン
律「くっ!(ダメだ、基本非力なCOMキャラには梓のアイテムを削る盾の役割を期待できない。つーか、携帯機ならまだしもアーケードでそのテク披露するのってどうなんだ!?)」
梓「追いつきました、よぉ!」
律「くそっ! くらえ、“バナーナ”! 『踏んだ相手をすべらせるアイテム!』」
ボフッ
梓「!! ピンポイントで私の赤甲羅を狙いましたか……さすがは私を倒しただけのことはあるゲーマー。だけど、あなたを仕留めるには2つで十分!」
ピュンピュン ボボン
律「ぐっ!」
梓「&“イカヅチ”!」
ピシャーゴロゴロ
律「…………」
梓「お先でーす!(ここまでダメージを与えれば……逆転するなんて不可能!)」
ティロリロリロティロリロリロ テッテッテッー
律「これは!! (……可能性は、ゼロじゃない!)」
ポワワワン
律「(“ゴースト”! 『姿を消して他のプレイヤーのアイテムを奪う!』)」
梓「(!! マップからRTSさんの姿が消えた……“ゴースト”か。まだRTSさんの炎は消えていない……!?)」
律「おっし!」
梓「(どのアイテムゲットしたの……)」
シュオオオオオオッ
律「いけえええええええええ!!!!!!」
梓「こ、これは……!(“とげとげ青甲羅”! 『1位のプレーヤーのみ追撃して激しい攻撃!』)」
律「いけっ!」
梓「……が、しかし!」サッ
チュドーン!!!
律「!?」
梓「直撃の瞬間、プチターボで加速すれば避けられる裏技があるんです! 最後の希望も断たれましたね!」
律「……勝負はまだ、わからない……!」
梓「なっ……」
ブンブンブウウウウウウウン!!!!
梓「今の“青甲羅”でアイテムを使い切ったはずじゃ!」
律「さっきのはCOMキャラが使ったアイテム! 私が“ゴースト”でゲットしたのは“パワフルキノーコ”だ!!! 『連打で超加速!』」
梓「(まずい……何かアイテムで防御を整えないと!)」
ボウン
梓「あっ!!(しまった……“偽装アイテムブロック……”!)」
律「追いついた! さては焦ってるな!」
梓「(前回は怒涛の追い上げでまくられた……同じ轍は踏まない!)」グッ
律「(さすがにケツに付いてもスリップはさせてもらえないか……)」
梓「スリップストリームはさせませんよ!」
律「(ゴールまでもうアイテムもない……スピードも梓のマシンの方が性能が良い……さすがに万策尽きたか……)」
梓「このままゴールまで一直線です! あっはっはっはっは~!」
「梓ちゃん?」
梓「え?」
紬「やっぱり梓ちゃんだ~!」
梓「むっ、むむむむ、ムギ先輩っ!!?」ニャーン
律「今だ、スリップストリーム!!!」
ギュイイイイイイイイイン
梓「はっ! しまった!」
律「うおおおおおおおっ!!!!!!」
GOAL!!!!
1st RTS 2nd AZS
律「おっしゃー!」
梓「ま、また負けた……」
紬「梓ちゃん、とってもゲーム強いんだね!」
梓「ああああ、あの……これは……」
紬「何度もゲームセンターには来てるの?」
梓「は、はい……。あの、ムギ先輩……」
紬「じゃあ次はわたしと対戦してくれない?」
梓「え……?」
紬「私も梓ちゃんとレースしてみたいの」
梓「い、いいんですか……?」
紬「もちろん!」
梓「……っ!」バッ
律「……」コクン
梓「はい、やりましょう」
律「(そう、恥ずかしがることじゃないんだ。ましてやムギだ。梓のことをバカになんてしない)」
紬「ここにお金を?」
梓「そうです。メンバーズカードを作れば成績も残せますよ」
律「(さて、一旦退散しなければ)」コソコソ
紬「あれ、どこに行くのりっちゃん?」
律「……え」
梓「は?」
紬「えっと、帽子にマスクして、カチューシャ外してるけど……りっちゃんだよね?」
梓「えええ、え?」
律「ずがびーん!!(しまったーっ! ムギにはモロバレだったー!)」
紬「?」
梓「ぼ、帽子とアイマスク取ってもらえますか……」
律「(ええい! 後輩の梓もがんばったんだ……私も……!)はいっ!」スッ
紬「ね、やっぱり!」
梓「に、に、に、にゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
律紬「!?」
梓「(RTSさんが律先輩!? え? プレイヤーネーム……RITじゃなく!? いつから!? いや、それよりも……『AZS』……)」
『今日は最高に熱い闘いをしましょう……!』
『私こそ、『スぺ4』頂点に立つ覇者! AZSですっ!!!!』
『私です、AZSです!』
『ふんすっ、ふんすっ!』
梓「ぎにゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」」
律「あ、梓」
梓「は、ははっ、恥ずかしいですっ……!!! 顔から火を吹けそうで……」
律「(まずい、はげしく動揺している!)」
梓「いっそ殺しt」
紬「梓ちゃん!」ギュッ
梓「!! ムギ……先輩……」
紬「梓ちゃんに何があったのかはわからない……。けど、落ち着いて……」
梓「……」
紬「何があったの?」
梓「……恥ずかしくて」
紬「恥ずかしい?」
梓「ゲームが……好きなこと……」
紬「梓ちゃんがよければだけど、話してほしいな」
梓「……わかりました」
律「……」ゴクリ
梓「じ、実は……私は中学の頃からゲーセン通うようになって、いつの間にかゲーマーになってました……」
紬「うん」
梓「高校に入って、軽音部に入ってからも、テストや部活の無い日はけっこう通ってて……大きな大会に出場したりとか……」
律「……」
梓「それで……いつも先輩たちにガミガミ言うくせに、自分は重度なゲーマーだってことを知られたのが……その……みんなに幻滅されるんじゃないかと……」
律「(少し耳が痛い)」
紬「気にしなくていいよ、梓ちゃん」
梓「!!」
紬「怒るのは軽音部のことを想ってのことでしょう? それに不真面目だなって思ったことは一度も無い」
梓「……」
紬「ゲームが好きだから、ゲームセンターに通ってるから……それらが原因で部活動に影響が出た、なんてことも無いし」
梓「……」
紬「それに、さっきりっちゃんと対戦していた時の梓ちゃん、本当に楽しそうだった……」
梓「……っ!」
紬「だから、わたしも混ぜてほしいな♪」
梓「本当に、いいんですか……?」
紬「もちろん! 混ぜてくれる?」
梓「……はいっ! ぜひっ!」
紬「やった! ……誰にでも、『人に話していない秘密』はあるものなんだから、思い詰める必要なんてないからね」
梓「はい、肝に銘じます。ありがとうございました」
紬「わたしにも……ね」ボソッ
梓「えっ?」
律「(……?)」
紬「えっ? あっ、ううん、なんでもないの!」
律「(まあ? 一件落着か。よかったよかった)」
梓「律先輩っ」
律「んー?」
梓「次は負けませんよ?」
律「ああ、また返り討ちにしてやる!」
紬「よーし、わたしも負けないんだから! 手加減無しで真剣勝負!」フンス
律梓「おーっ!!」
数日後 ゲーセン メダルコーナー
ジャララララララララ
律「今日は絶好調だっ!」リッツーン
\大当たり~!/
律「カップにメダルが山盛り……ぬへへ」
ジャララララララララ
律「そういえば、この前ムギも大当たりしてたっけか。また誘ってみようかな~……あっ」
『──誰にでも、『人に話していない秘密』はあるものなんだから』
『わたしにも……ね』
律「(ムギに秘密……? あの時は梓の事があったから気にならなかったけど、秘密って何だろう……気になる)」
「あっ、いた!」
タッタッタッ
律「んぇ?」
梓「やっと見つけたよー!」
律「ずがびーん!!(あ、あ、あああ梓ぁーっ!!!??)」
梓「ずっと捜してたんだよ」
律「(に、逃げないと! ……まて、RTSとしての私はもうバレてるから逃げる必要はないのか)
梓「?」
律「(……いやいやいや、干物姉姿じゃん! 今の私!)」リッツーン!
梓「(かわいい……)」
律「(むっ、もしや、前回もバレてなかったみたいだけど、今回もまだバレてないのか……? 基本的にRTSの時と同じゲーセンによく着ていく服装なんだけどな。干物姉姿ばんざい)」
梓「あ、そうだ。これ渡さないと……はい、これ」スッ
律「これは……メダル?」
梓「私のこと覚えてない? この前、ここでぶつかってメダルばら撒いちゃった……」
律「あ、あー……(あったな、そういや)」
梓「それで、拾っている間にキミ、走ってどこかに行っちゃったから私がメダル預かっておいたんだ」
律「……(真面目だなあ)」
梓「またいつ会えるかわからないから、キミがいるかどうか定期的にメダルコーナー立ち寄ったりしてたんだよ」
律「……!!」
梓「まあ、直接手渡せたからすっきりしたかな。それにしても今日もメダルいっぱいだね、もしかしてゲーム上手な」
律「お姉ちゃん、ありがとう!」
梓「っ! はぅぁっ!! あ……」ズキューン
律「(梓め、泣かせるマネしてくれるじゃないか……)」
梓「あ、ああ、あ、……」プルプル
律「…………ん? どうかしたの、お姉ちゃん?」
梓「し……」プルプル
律「し?」
梓「“師匠”って呼んでもいいですかーっ!!?」
律「しっ、“師匠”!? なんでっ!?」
梓「や、その、何というか……あっ、メダルいっぱい取ってるみたいだからゲームが上手なんじゃないかと思って……!」
律「そんなことはないけど……師匠ってなんか落語家みたいじゃあ……」
梓「いやいや、間違いないですよ!(やっぱりかわいすぎる……! なんとか一緒に遊びたい……)」
律「(な、なんか敬語使いだした―っ!?)」
梓「それでですね……これからも、たまに……たまにでいいので一緒に遊びませんか……?」
律「う……」
梓「……」ドキドキ
律「わ、わかった。遊ぼう」
梓「やった! ありがとうございます!」
律「(勢いでOKを出してしまった……RTSはともかく……できるなら、グータラの象徴である『干物姉』=『
田井中律』であることをバレないよう通したい……)」
梓「ふふふ♪」
律「(これから一体どうなるんだーっ!?)」
おわり
最終更新:2016年03月03日 15:38