五郎「うーん…。まいったなあ」

五郎(ヨーロッパの食器を、探しているという人物を紹介され、桜ヶ丘までやってきたはいいが)

五郎(到着し、「さあ」というところで、先方に急用が入り、予定を変更してほしいという)

五郎(おかげで、見も知らぬ町を歩き回るはめになってしまった)

五郎(かなり成功した実業家だというから、急な用事も仕方がないのかもしれないが…)

五郎(所詮、こんな個人商店との商談とは、比べようがないということか)

五郎「時間は…、14時を回ったところか」

五郎(小腹も空いてきたな…。せっかくだから、何か食べてこよう)

五郎(しかし、どの店に入ろう)

五郎(知らない町だと、勝手がわからなくて困る)

五郎(うっかり変な店に入ると、その町の印象まで悪くなってしまう)

五郎(…かと言って、あんなチェーン店もなあ…)

五郎(うーん、どこに入ろう)

五郎「お…。この店は…」

五郎「喫茶店か?」

五郎(なかなか良さそうな感じじゃないか)

五郎(よし、ここにしよう)


律「いらっしゃいませー!」

アハハ… ウフフ…

五郎(なんだ…。女性とカップルばかりじゃないか)

五郎(しまった…。今は、そういう時間か)

五郎(完全に浮いてしまっている…。どうしよう、今更出るとは言えないし…)

律「お一人様ですか?」

五郎「あ…、うん」

律「お好きな席へどうぞ!」

五郎(隅の席で、じっとしていよう)

五郎「ふう…」

五郎(まいったな…。何でこんな思いをしなきゃならないんだ)

五郎(今日は厄日か?)

澪「い、いいいいいらっしゃいませ…」

澪「ご、ごごご、ご注文がお、お、お決まりになりましたら、お、おお呼び下さい…」

五郎(なんだ…。随分、緊張してるな…。アルバイトか?)

五郎(人前に出るのが、苦手なんだろうか?じゃあ、何故この仕事を選んだのだろうか…?)

五郎(…いかんな、わからないことだらけだ…)

五郎(さっさと頼んで、早く出よう)サッ

五郎「…!」

五郎(なんだ…、この値段は…)

五郎(紅茶一杯、800円…!?1000円なんてのもある…)

五郎(800円あれば、一食食べられるじゃないか…)

五郎(なんて店に入ってしまったんだ。どうやら、今日は本当に厄日らしい)

五郎「すいません」

澪「は、はい!」

五郎「ダージリンティーを、ひとつ」

澪「は、はい、ダージリンティーおひとつですね!」アタフタ

五郎(間違って、違うのが出てきたりして…。アハハ)

五郎(それにしても、この人たちは、毎日こんな高いお茶を飲んでいるんだろうか?)

五郎(見たところ、特別裕福にも見えないが…)

五郎(どんな仕事をしているんだろう…?)

五郎(やっぱり、社長とか…。いずれにせよ、かなり成功した人たちなんだろうな)

五郎(俺には、一生縁のない世界なんだろうな)

澪「お、お待たせしました…」カタカタ

澪「ご、ごゆっくりどうぞ!」

五郎「お…、ちゃんと間違えず出てきた」

五郎「さて…。800円のお茶の味は…」ズズ…

五郎「…!」

五郎(うまい…!)

五郎「なんだ…。葉が違うのかな」

五郎(俺は、そんなにお茶には詳しくないが、それでもわかる)ズズ

五郎(厄日どころか、いい店に入ったのかもしれん)

五郎(こうなると、他のお茶も飲んでみたくなる)

五郎(ん…、いつのまにか、他の客が少なくなっているな)

五郎(そうか、俺の入った時間が、ピークだったのか)

五郎「ようし、それなら…」

五郎「すいませーん」

紬「はい」

五郎「アールグレイひとつと…、あとこのケーキセットを」

紬「はい。それではお待ち下さい」


唯「え~と、お会計は4580円です」

五郎「はい」

五郎(随分いっちゃったな)

唯「ありがとうございましたー」

シュボ

五郎(しかし…、あの味なら、この値段も納得だ)

プルルルル

五郎「はい…、はい、それでは…」

五郎(さて、これからひと仕事だ)

五郎(しかし、この急な用事が入らなかったら、この店に来ることもなかった訳だから、人生なんてわからないもんだ)

五郎(今度は、この店にも、食器を売り込みに来てみようかな…)





最終更新:2016年08月21日 03:28