秋山澪。女子高生らしい可愛さと、大人の女性の美しさを兼ねそろえた魅力的なルックス、
同姓をも魅了するプロポーション。深い音楽知識、演奏の才能。学年トップクラスの学力。
類稀なる作詞のセンス。
本来ならば弱点となる臆病さや恥ずかしがり屋な点も魅力に変えてしまい、ファンクラブまで作られるというカリスマ性。

彼女は完璧なのではないか?事情を知らぬ者ならそう思うのも無理はない。
しかし、澪にはある「秘密」があったのだ……




唯「いやーすっかり寒くなってきたねえ」

律「ちょっと前まで扱ったのに、もう秋だもんな」

唯「もう少しで今年も終わって……」

紬「みんなと過ごしてると時間があっという間にたつわぁ」

梓「なんかちょっぴり切ないですね」

澪「……」

唯「澪ちゃん、どうしたの?さっきから静かだけど」

澪「……え?あ、なんでもないよ。うん」

――――ドクン

澪「来たか……!」

――――ドクン

律「澪!お前まさか!」

――――ドクン

澪「うっ!ごめん律!しばらく学校休むから!みんなにだったら理由を教えても大丈夫だ!」

ダッ

梓「澪先輩!?どこ行くんですか?」

律「待て!」ガシ

唯「りっちゃん!澪ちゃん放っておいていいの?」

律「事情があるんだよ!澪には特別な事情が!」

紬「事情?」

律「そうだな……澪も話していいって言ったし、みんなにはちゃんと話すよ。長い話になるから、一旦家に帰ってから私の家に来て。
  夕飯でもご馳走しながら話すよ」



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唯「じゃあ、行ってきます。夕飯はりっちゃん家で食べてくるからー」

憂「いってらっしゃい。気を付けてね」

バタン

テクテク

唯「澪ちゃん、大丈夫かなあ」

澪「……」

唯「あ!澪ちゃん!」

澪「唯……」

唯「澪ちゃん、これから澪ちゃんのことでりっちゃんの家に行こうとしてたんだけど」

澪「ねえ、そんなことよりこっちきて見てよ」

唯「え?」

猫「ニャァァァ」

唯「わあ!可愛い!」

澪「ね、ね、可愛いでしょ!ほーら、よしよーし、にゃーん」

ナデナデ

唯「澪ちゃんもなんか可愛い……」

猫「フシャー!」

唯「あ!澪ちゃんが触りすぎるから怒っちゃったのかな?」

澪「ひぃ!怖いよぉ!」ブルブル

唯「大丈夫だよ澪ちゃん。猫ちゃんもちょっと驚いただけだよ」

澪「ぐすん……本当?」ウルウル

唯「」ズキューン

澪「そうだ、用事思い出した!ごめん唯、またね」タタッ

唯「澪ちゃん私これから……って、行っちゃった。でも元気そうで良かった。とりあえずりっちゃんの家に行こうっと」

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律「いらっしゃい。遅刻だぞー唯。梓もまだだけど」

唯「ごめんごめん、でも良い知らせがあるよ!澪ちゃんが元気になってたんだよ」

律「!」

唯「来る途中で会ったんだ。そのあとどこかに行っちゃったけど」

律「唯、そいつはどんな感じだった?何かされなかったか!?」

紬「りっちゃん、どうしたのそんなに慌てて」

律「いいから答えてくれ!」

唯「どんな感じって……そういえばいつもの澪ちゃんより女の子っぽいというか、猫ちゃんを夢中になって可愛がってたり、ものすごく怖がりだったけど」

律「……そうか。会ったのがそいつで良かった」

紬「どういうことなの?りっちゃんの言ってることがわからない」

律「唯が会ったやつは澪だけど澪じゃないんだ」

唯「???ますます意味わかんないよ」

律「そいつは『秋山澪』じゃなくて『春山澪』なんだ」

紬「……なんの冗談?」

律「本当の話なんだ!聞いてくれ!だって」

澪「だって本当の私はここにいるから」

律「澪!出てくるなって言ったのに!」

澪「こうなった以上しょうがないだろ。唯、さっき唯が会ったのは、私じゃないんだ。私は帰り道みんなと別れた後、ずっと律の家にいた」

唯「じゃああの澪ちゃんはなんなの?」

澪「『春山澪』。私の中に眠っていた、3つの人格の1人だ」

律「澪、みんなの知ってる秋山澪の中には『春山澪』『夏山澪』『冬山澪』の3人が封印されてたんだよ」

紬「……多重人格ってやつ?」

澪「そうだけどちょっと違う。今までは3つの人格は私の中で沈黙していたけど……今はそれぞれが体を持って動いてる」

律「要するに、この澪を含めて、澪の姿をした奴が4人いるってことだ」

唯「えぇ~」

紬「リアクションが追い付かない」

律「唯が会ったのはきっと春山澪。澪の乙女チックなところや、可愛い物好きで臆病な面が強調された性格だ」

澪「3人の中で唯一無害な奴だから、唯は運が良かったよ」

紬「ということは、夏山澪と冬山澪は害があるの?」

律「うん。奴らは澪の体の支配権を奪おうとしてるんだ。今回のように実体を持ったのは私が澪と出会った時以来だけど」

澪「実体化には莫大なエネルギーが必要だから、今まで沈黙して蓄えてきたんだろうな。呪いの力を」

紬「これからどうするの?澪ちゃんは元に戻れるの?」

澪「もちろん、あいつらと戦わないといけない。今の私は心が抜け落ちた不完全な状態だから、いつおかしくなるかわからない」

唯「そんな!」

律「とにかく、他の澪たちを見つけて、澪の体に戻るように説得しないと!」

紬「説得できるの?」

律「できなくてもやるしかないじゃん!もし説得できなかったら力ずくで澪の体に押し込むしかない」

唯「それもアリなんだ」

澪「ありがとう、律」

律「澪はここで隠れててくれ。逆にあいつらに吸収されたら大変だからな」

唯「それにしても、あずにゃん遅いね~」

律「まさか!他の澪と会ってるんじゃ!」

澪「大変だ!」

唯「あずにゃんを探しに行こう!」

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梓「う~ん、ここは……」

澪「お、起きた」

澪「乱暴なことして悪かったな、梓」

梓「!!み、みみみ澪先輩が2人!?」

澪「ああごめんごめん。私は夏山澪」

澪「冬山澪だ。よろしく」

梓「????」

タタタッ

春山澪「ごめーん、遅くなっちゃって」

冬山澪「遅いぞ!春山!」

春山澪「ひぃ!?か、可愛い猫がいたからつい……」ビクビク

夏山澪「まあまあ、揉めちゃダメだって。今は一時的に同盟を組んでるんだから」

冬山澪「そうだったな。すまない」

春山澪「こ、こちらこそごめん」

梓「これは……夢だ。悪夢だ」

春山澪「お、梓ちゃんだ!ずっと唯みたいに抱っこしたいって思ってたんだよねえ」ギュウウ

梓「ふ、ふにゃああ///」

春山澪「わぁ♪やっぱり可愛い~抱き心地最高!」

冬山澪「それ以上遊んでると本当に怒るぞ?」

夏山澪「気持ちはわかるよ。私も梓ちゃんと音楽の話で朝まで語り明かしたいと思ってるし。
    秋山のやつは周りに遠慮してそういう話題をあまり出さないからね」

梓「わ!私も澪先輩ともっと色々お話ししたいと思ってます!」

夏山澪「今度一緒にライブハウス巡りでもしようよ」

梓「悪夢じゃなくていい夢なのかもしれない」

冬山澪「お前たち、目的を忘れるなよ?」

バァーン!


律「梓!大丈夫か!」

唯「りっちゃんの言ってた公園で正解だったね!」

律「澪と私の思い出の公園だからな!」

紬「すごい、本当に澪ちゃんが3人いる」

梓「わあ、夢がにぎやかになってきたなあ」

冬山澪「よく来たな律。お前ならたどり着くと思ってたぞ」

律「お前ら!おとなしく澪の体に戻れ!」

夏山澪「そんなこと言って素直に戻るようなら、最初から具現化なんかしないよ」

冬山澪「その通り。愚問だな。戻したければかかってこい」

春山澪「喧嘩は怖いよ……やめようよ」

冬山澪「お前は黙ってろ!」

ゴチン!

春山澪「うわーん!ぶったー!」

唯「あの真ん中に立ってる澪ちゃん、怖いね」

律「あいつは冬山澪。澪のクールでかっこよくてちょっと乱暴な面が強調された性格だ」

律「春山澪は知ってるな。もう一人は夏山澪。澪の音楽マニアで博識で凝り性な面が強調された性格をしている」

紬「何か作戦はあるの?」

律「……ない」


冬山澪「来ないのならば、こちらから行くぞ!」

夏山澪「待って!あの子たちは軽音部の仲間。一応私達の仲間なんだから乱暴はやめようよ」

冬山澪「これだから音楽馬鹿は……私は軽音部などに興味はない!いや、無いことはないけど、目的は別にある!」


唯「澪ちゃん同士で何か揉めてるみたいだね」

紬「そういえば、どうしてこういうことになったのか経緯が全然わかってないよね、私達」

唯「そうだった!りっちゃん、どうしてなの?」

律「それは……」

紬「話せないことなの?」

冬山澪「ふっ、言いにくいのも同然だ。そもそもの原因は秋山にあるんだからな!」

唯「え?澪ちゃんが原因なの?」

夏山澪「秋山ってのは秋山澪だけじゃなくて、『秋山家』のことだよ」

冬山澪「私から話してやろう……ちょっと長いから集中して聞くんだぞ」


 私達、冬山・秋山・春山・夏山の争いは1000年前まで遡る。古代の日本には『陰陽師』という職があったのは知っているな?
私達の祖先である『四季山家』は、日本が誕生したころより代々四季を司る陰陽師として朝廷に仕えていた。
しかし、今より1000年ほど前、一族の内部争いにより四季山家は冬山、秋山、夏山、春山の四家に分裂した。
四家はさらに分裂しながら争いは江戸時代まで水面下で続いたが、江戸末期になって大きな転機を迎える。
私達の曾祖父の曾祖父達によって、四家の和解、そして四季山家の復活のためにある契約が結ばれ、計画が立てられた。
それは、数世代に渡って四家の子孫を結婚させ、最終的に四家すべての血を受け継いだ1人の子を誕生させるという途方もない計画だった。


紬「まさか、その1人の子というのが」

夏山澪「私達、澪ってわけだよ」

冬山澪「私は、四家の統合の証であり、希望であり、新たな四季山家の初代としての使命を持っているんだ」

夏山澪「だけど、秋山家は私達を裏切った。我が子にそんな運命は背負わせないと、四季山を名乗らせることを拒否した」

冬山澪「契約では、目的の四家の血を受け継いだ子供が出来たら、四季山姓を復活させるはずだったのに……秋山澪として育てた」

律「それは!現代の日本じゃそう簡単に名字を変えられないからで!」

冬山澪「そんなことは関係ない!重要なのは、裏切られた3家の血の恨みが、私達を生んだということだ!」

秋山澪「その通りだ、律」

律「澪!出てくるなって言ったのに!」

唯「デジャヴ」

冬山澪「ほう。わざわざ来てくれるとは。覚悟が決まったのか?」

秋山澪「知ってほしいんだ。私も、私のパパもママも、3家を裏切るつもりなんてなかったって!」

冬山澪「ならばなぜ四季山を名乗らない!」

秋山澪「だから法律の問題だって!」

冬山澪「法律など知るか!3家の恨みが消えない限り、私たちはお前の体に戻らないぞ!」

秋山澪「それは困る!自分で言うのもなんだけど、私には臆病な面も、クールな面も、マニアックな面も必要なんだ!」

春山澪「ふ、二人とも落ち着いてよ」アセアセ

夏山澪「春山、まだいたの?存在感無くて気づかなかった」

春山澪「ひどいっ」

紬「もうわけがわからない……」

律「ごめん……澪」

梓「澪先輩がいっぱいで幸せだなあ……目が覚めませんように」


唯「四季山を名乗る方法、あるんじゃない?」


「!?」

冬山澪「唯、今なんて言った?」

唯「だから、四季山って名乗る方法ならあるよ」

秋山澪「勝手に名字を変えることは法律でできないって」

唯「そうじゃなくて、芸名として名乗ればいいんだよ!私たちがデビューした時、芸名で!」

夏山澪「……!!そうか!そしてその芸名で売れれば、本名より芸名の方が有名になれば、もはや真の名前は芸名のほうだと考えられないこともない!」

秋山澪「なるほど!それでいいか?」

春山澪「うん!」

冬山澪「ふっ。それしか方法はないようだしな。それで手を打ってやろう。だが、約束だ。絶対にプロデビューするんだぞ」

秋山澪「もちろん。『四季山澪』の名を全国、いや全世界に知らしめてやるさ」

冬山澪「当然だ。そのくらいしないとご先祖様も納得しないだろうからな。約束を破ったら、今度こそ私がお前を乗っ取るからな」

夏山澪「じゃ、そろそろ戻ろうか。一つの体に」

春山澪「ばいばいみんな!」

冬山澪「……頑張れよ」

シュウウウウウウウウンンン

紬「澪ちゃんが一つの体に戻った」

澪「みんな、流れですごい約束しちゃってごめんな。悪いけどこれからも付き合ってくれ」

唯「うん!放課後ティータイムはいつまでも放課後だよ!」

紬「これから楽しみだわー♪」

律「私はもともと武道館目指す予定だったけどな!」

梓「いい夢だ」


こうして、四季山澪と放課後ティータイムは歩き出した。
かけがえのない自分との約束を果たすために。




おわり

最終更新:2012年12月21日 00:04