唯(やっぱり寒いなぁ…)
唯(毎年、毎年。バカみたいだけど)
唯(でも……)
唯(…………)
唯「迷惑じゃ、ないよね……?」
唯(ずっと、昔からこんな感じだったもん)
唯(変わらないもん……)
――和・帰り道――
和(寒い……)
和(職場の人たちに誕生日パーティなんて開いてもらえるとは思わなかったな)
和(去年入ってきたあの子、なついてくれてるとは思ってたけど、あんなこと考えてたなんて)
和(当日にサプライズで知らされて、夜は予定があるからあんまり遅くまでは居られないんだけどって伝えても、「せめて二時間!一時間半だけでも!祝わせてください!」なんて……あの強引さはちょっと、“あの子”に似てるかも)
和(でも、主役の身で二次会の誘いを断るのはやっぱり、ちょっと申し訳なかったな……)
和(夜は予定が……なんて言っても、別に約束してる訳じゃない)
和(だから今年は居ないかも知れない)
和(無理しなくてもいいんだよって言っても聞かない“あの子”が勝手に始めたことだし)
和(きっと今年もって、私は勝手に期待してるだけだし)
和「はぁ……」
和(社会に出ると、事あるごとに自分の弱さを痛感する。)
和(特にこの時期は、否応なしに“あの子”の影がちらついて……)
和(もうすぐ……)
和(あの角を曲がれば……ッ!)
唯「あ!和ちゃん!!」
唯「和ちゃーーーーん!!」
和「あ……ぇと……」
唯「お誕生日おめでとーー!」
和「ぁぁ、うん。ありがとう」
唯「えへへ、ビックリした?」
和「そりゃあ……てっきり家の前に居るもんだと思ってたから」
唯「鉢合わせしたときの和ちゃんの間抜け面も可愛かっ――」
和「誰が間抜け面よ」
唯「あうっ……」
唯「でもアレだね!今年はサプライズ成功だねっ!」
和「はぁ……。たまたま、ね?あんたに堪え性が無いのが幸いしたのかも」
唯「ひどーい!だって和ちゃん帰るの遅いんだもん!駅の方で待とうと思って――」
唯「うにゅ?」
和「……」
和(ほっぺた冷たい……)
唯「和ちゃん?」
和「……いったい何時間いたのよ……」
唯「ぅ~っんと……」
和「……正直に言ったら、家に着くまでの間 手繋いであげる」
唯「……」
唯「二時間、ちょっと、です」
和「…………」
和「」
唯「!!」
唯「だッ、だだ大サービスだね和ちゃん!」
和「早く家に入るわよ」
唯「来年は三時間待っちゃおうかな!」
和「来年は同僚の家で夜通しパーティかしらね」
唯「和ちゃーーーーん!!」
和「さあ、着いたよ?」
唯「……すぐそこまで来てたからあっという間だね」
和「鍵出したいから離れてくれる?」
唯「ぶーーー」
和「」
和「」
和「毎年ありがとう、唯」
唯「――っ」
唯「うんっ!」
――****――
唯(和ちゃんのことを考えると、胸がいっぱいになる)
唯(和ちゃんの存在を感じると、すごく安心する)
唯(和ちゃんの中に、しっかりと、私が居るんだって実感できると、とっても幸せになれる)
唯(離ればなれになって、会えない時間の方が長くなってきて、今まで当たり前に自分の中にあった、存在すら気付かなかったような色んな気持ちに触れて)
唯(いっぱい不安になって、でもその分、ううん それ以上に会えたときに嬉しくて)
唯(今日 和ちゃんに会って、疲れたみたいな、ちょっと寂しそうな顔が次第に明るくなって、すっごく綺麗な笑顔も見せてくれて)
唯(多分和ちゃんも同じなんだって思えて)
――****――
唯「こうやって、会えない時間が絆を深めていくんだね!」
和「どうしたのよ いきなり」
和「ケーキ食べないの?」
唯「ううん、いやね、食べるけどね、会えない時間が愛を育んでいくんだなぁってね」
和「言ってることが変わってるわよ」
和「でも、そうね。今日は色々気付けた」
唯「ふふっ、やっぱり和ちゃんもだ」
和「」
唯「? どーしたの?」
和「ううん、なんでもない」
唯「わふっ」
和「十数年ぶりに一緒にお風呂に入ってみようかと、今ふと思い付いたんだけど」
唯「なんですとっ!?」
和「さすがに家のお風呂は狭すぎるし、銭湯に行くにも寒すぎるから諦めて?」
唯「ですよねー」
和「あら?大人になって聞き分けがよくなったのね」
和「まあ せめて、一緒の布団で寝ましょう」
唯「和ちゃん……」
和「ささやかなお礼よ」
唯「ありがとーー!」
――****――
和(もし唯が、今年はうちに来ていなかったら、きっと私は寂しくなって唯に電話をしていたんだろう)
和(もしかしたら、泣きながら今日来なかった理由を聞いていたかもしれない)
和(なんだか面倒くさい恋人みたいだけど)
和(そんなことをしたら唯はどう思うだろう)
和(もう二度と来なくなってしまうか)
和(この先ずっとギクシャクした関係になってしまうか)
和(こんなことを考えてしまう程度には、私のなかで唯は大きな存在になってしまっていたんだな)
和(きっと、寂しがって電話なんかしたら、唯は何もかもなげうって私のところに来てくれるだろう。それが良いことか悪いことかは置いておいて)
和(あの子はそういう子だし、それが分かっているから今日からの私は少しくらい寂しくたって、堪らず電話をかけたりしない。あの子が今日、そうしてくれた)
和(そんな歪な関係にならずに済んだ、当たり前のことに気付けた今日は、ちょっとした記念日)
和(だから、少し踏み込んで唯にこの家の合い鍵をプレゼントしよう)
和(本当はもっと早くに、そうしていればよかったんだけど)
――****――
和「寒くない?」
唯「あったかあったかだよ~」
和「ふふふっ、私も」
和「それじゃあ、おやすみ。唯」
唯「うん、おやすみ。和ちゃん」
――おしまい
最終更新:2016年12月27日 16:12