純「えっ!?」
梓「えっ!?」
純「なんであんたまで驚いてんの」
梓「だって私もいま初めて聞いたし」
純「憂があんな冗談言うわけないでしょ」
憂「二人が出会ったのは入学式が終わった後、誰もいない教室で……」
純「ほら、なんか馴れ初めを語り始めてるよ」
梓「いつの間にか付き合うことになってるとか超怖いんだけど」
純「なんか勘違いされるようなことをしてたんじゃないの?
絶対そうだよ、憂が勘違いしちゃうくらい強烈なことをしたんだよ」
梓「なに面白がってんの」
純「事あるごとにひっついたり、思わせ振りな態度をとってたとか」
梓「私がそんな唯先輩みたいなことするわけないでしょ」
純「おでこをくっつけて熱を測ろうとしたとか、
ジュースを回し飲みする時に間接キスしちゃったとか」
梓「回し飲みなら純ともたまにしてるでしょ」
純「そうだっけ?」
梓「ちょっと、急に意識しないでよ」
純「するか!!」
梓「軽音部じゃ日常茶飯事なんだよ、そんなの」
純「キスなんてあいさつみたいなものだと」
梓「そうじゃなくて」
純「梓にとってはそうかもしれないけどさ、憂はそういうのに慣れてないかもしれないじゃん」
梓「私が手馴れてるみたいに言わないでくれる?」
純「なんで私とはそういうスキンシップが少ないの?」
梓「別に憂とスキンシップ取りまくってたわけじゃないからね?」
純「私とのスキンシップは嫌がるくせにさ」
梓「だって純だし」
純「………」
梓「純に意識されても困るんだけど」
純「してねえよ」
憂「それから私たちは軽音部のライブをきっかけに急接近して……」
純「ちょっと待って憂、一回落ち着いて」
憂「えー」
純「梓が身に覚えがないって言い張ってるんだけど」
憂「私とは遊びだったの?」
梓「いや、二人で遊びに行ったことはあるけどさ」
純「憂に謝っときなよ」
梓「私の言い分は聞く耳持たない感じ?」
純「よくわかんないけど、憂をもてあそんだんでしょ?」
憂「もてあそんだの?」
梓「普通に遊びに行っただけでしょ!?」
純「わかったわかった、デートまではしたのね」
梓「人ごとだと思って……」
憂「私とお姉ちゃん、どっちが好きなの!?」
純「ちょっ、憂、落ち着いて」
憂「純ちゃん、一緒に死のう?」
純「あと私を巻き込まないで」
純「ちなみにどこでデートしてきたって?」
憂「どこだっけ?」
梓「私が聞きたいよ」
憂「二人で初めて行ったのは……駅の近くのファーストフード店だったかな?」
梓「ああ、途中から律先輩が乱入してきたときね」
憂「お姉ちゃんたちの合宿の話してたんだよね」
純「そうなんだ」
純「そのとき私も誘おうとか思わなかったの?」
梓「いや、軽音部の話してたから……」
純「憂だって軽音部じゃないでしょ」
梓「いきなり律先輩が暴れだして大変だったんだよ」
憂「そのあと紬さんの家に電話したら執事さんが出てきたんだよ」
純「私は?」
梓「ジャズ研」
純「そうじゃなくて、なんで私は誘ってもらえなかったの?」
梓「だって携帯つながらなかったし」
憂「家に電話したらフィンランドで避暑中だって言うし」
純「んん?」
憂「澪さんは夏期講習だったみたいだし」
梓「唯先輩は暑さにやられて家でダラけてたし」
憂「ゴロゴロしてるお姉ちゃん、可愛いよね~」
純「私の話は!?」
梓「とりあえず純の話は置いといて」
純「あんたこそ私のこと何だと思ってんの」
梓「そんな事より、なんで私が憂と付き合うことになってたの?」
純「いつの間にそんな関係になってたの?」
憂「梓ちゃんが 『そろそろ唯先輩に告白してあげようと思う』 みたいなことを言っててね」
梓「えっ」
純「なんでそんな上から目線で勘違い発言できるの」
梓「するか!!」
憂「合宿のとき、夜中にお姉ちゃんに押し倒されたとか自慢してたでしょ?」
純「してたしてた」
梓「あれは練習でっ!」
憂「なんの練習だか知らないけど」
純「後ろから抱きしめられたとか、仲直りのキスをせまられたとかね」
憂「ついには 『唯先輩も私に告白されるの待ってるはずだから』 って、自信満々で言い始めて」
純「勘違いって怖いよね」
梓「そこまで言ってない!!」
憂「そこで 『じゃあ私もついていってあげようか?』 ってなって」
純「ほう」
憂「梓ちゃんが 『じゃあ付き合ってくれる?』 って」
純「そして?」
憂「そして二人は付き合うことになりましたとさ」
純「おいっ」
純「さんざん引っ張っといてオチがひどい」
梓「変な言い回しするから純が本気にしちゃったでしょ」
憂「梓ちゃんから言い寄ってきたのに……」
純「んで、梓は本当に唯先輩に告白してあげようとか思ってたの?」
純「っていうか本気で好きなの?ガチなの?」
梓「そっ、思っ……てない、けど」
梓「そろそろ、いいかな……って」
純「もう告白する気まんまんじゃん」
梓「話の流れで結果的にそうなる可能性は否定できないけど、でも」
純「まあ告白するしないは別としてさ、唯先輩が大好きなのは見てりゃわかるよ」
梓「そんなんじゃないしっ!」
純「どうどう」
梓「いや、別に嫌いなわけじゃないよ!?」
梓「先輩として好き……っていうか、放っておけないっていうか、目を離せないっていうか……」
純「わかったわかった」
憂「お姉ちゃんっていうか、ただのタイツフェチなんだよね?」
純「脚フェチだったの?」
梓「フェチの話はどうでもいでしょ」
憂「ヘアピン食べる?」
梓「食べないよ!!」
憂「でもこれ、お姉ちゃんが使ってたやつだよ?」
梓「!」
純「食いついた」
梓「そういう私物で釣るのは卑怯でしょ!?」 シュバッ シュバッ
憂「わぁ、ねこじゃらしみたい」 ヘラヘラ
純「それで憂は梓の告白(?)に立ち会うつもりだったの?」
憂「梓ちゃんの反応が面白くて……」
梓「だからって付き合うことになったとか急に言い出さないでよ!」 ゼェゼェ
憂「私は割と本気だったんだけど……」
梓「えっ」
純「まあ恋愛対象は個人のあれだから、どうこう口出しするつもりもないけどさ」
梓「ちょっと待って、変な感じに納得しないで」
純「愛にはいろんな形があるからさ、お互いが良ければそれでいいと思うよ」
梓「さわやかに微笑むな」
純「二人がどんな性癖だったとしても、私たちはずっと友達だから」
梓「私だって友達のままでいたかったさ」
憂「でも梓ちゃん、よく考えてみて」
梓「いや、憂こそよく考えて発言しなよ……」
憂「見た目がお姉ちゃんそっくりなら誰だっていいわけでしょ?」
梓「憂の中の私はどれだけお花畑なの」
憂「中身なんかもう純ちゃんとかでもいいわけでしょ?」
純「おい」
梓「そんなわけないでしょ!? バカじゃないの!?」
純「そこまで否定しなくてもいいでしょ」
憂「だって私が不意打ちでお姉ちゃんの真似して抱きついてみても絶対気づかないよね?」
梓「さすがに気づくよ!たぶん!」
純「そこはキッチリ言い切りなよ」
梓「いつまでも憂の変装に引っかかると思ったら大間違いだよ」
純「すでに何回か引っかかったの?」
梓「引っかかった」
純「なんで気づかなかったの」
梓「だって髪型とか口調とか真似されると区別つかないんだもん……」
純「いや、雰囲気とかでさ」
梓「唯先輩が憂の真似してたならさすがに気づくんだけど」
純「それなら私でもわかるよ」
純「でも梓はどうだか……」
梓「匂いとか感触でなんとか」
憂「ウソだよ、お姉ちゃんと姿形が同じ子が並んでたら、梓ちゃんはきっと胸の大きなほうを選ぶよ」
憂「人は自分が持っていないものに惹かれる生き物なんだから」
純「なるほど」
梓「納得すんな!!」
純「こればっかりは身長や髪質と同じで遺伝子的なことなんだから、梓のせいじゃないんだよ」
梓「くそっ、最近大きくなってきたからって偉そうに……」
憂「そこまで言うなら試してみる?」
梓「何を?」
純「胸を?」
憂「……私が唯なのか憂なのか、本当に答えられる?」
純「えっ」
梓「いや……え?」
憂「髪をおろして、ヘアピンつけて……と」 バサッ スチャッ
梓「目の前で変装されて騙されるわけないでしょ」
純「そうだよ、いくら梓とはいえ」
憂「あ~ずにゃんっ」 ガバッ
梓「ゆ、唯先輩……!?」
純「まるで成長していない」
憂「あずにゃん可愛いっ」
梓「ちょっ、唯先輩、こんなところでっ……」
純「ちょろい女だなぁ」
憂「あずにゃん、にゃ~んって言ってみて」
梓「に、にゃーん」
純「なんて顔してんの……」
梓「だめですよ、純が見てるし……」 ウヒヒッ
純「しっかりしなよ梓、それは憂だよ」
梓「で、でも、あずにゃんって言ってるし……」
純「そんなんで判別するなら私だって唯先輩になるでしょ、あずにゃんよお」
梓「でも唯先輩はそんな奇妙な髪型してないし……」
純「いまのあんたが いちばん みにくいぜ!」
憂「梓ちゃん」
梓「はっ」
憂「思い切ってボケてみたのに突っ込んでもらえない虚しさが想像できる?」
梓「いくらなんでも似すぎなんだってば!!姉妹だからって何なの!?おかしいでしょ!?」 フシャー
純「いや、普通気づくけどね」
憂「理不尽だよね」
梓「なんかこう、髪型とか変えなよ」
憂「いま変えたんだけどね、目の前で」
梓「じゃあさ、思い切って純みたいに中途半端なパーマかけてみるとか」
純「かけてないっつーの」
梓「憂だったらゆるふわでいい感じに可愛くなると思うよ」
純「おい」
梓「もしくはちょっと染めてみるとか」
純「ムギ先輩みたいに?」
憂「ブロンドはちょっと……」
梓「なんで?巨乳のブロンド女は頭が弱いという偏見があるから?」
純「欧米か」
憂「梓ちゃんは紬さんのことが嫌いなの?」
純「それとも私のことが嫌いなの?」
梓「じゃあ澪先輩くらい伸ばしてみるのはどう?」
憂「そうだね、お姉ちゃんも伸ばしてみるって言ってたから伸ばしてみようかな」
梓「二人とも伸ばしたら意味がないの!」
憂「ほら、梓ちゃんは私とお姉ちゃんの見分けなんてつかないでしょ?」
梓「同じ手は二度と通じないからね」
純「アヘ顔見せられた後じゃ説得力がないけどね」
憂「逆に私と付き合ってみるのも一つの手だと思わない?」
梓「逆にってどういうこと?」
憂「本物のお姉ちゃんだと思い込めば、梓ちゃんに損はないでしょ?」
純「女子高生がそんなドロドロした付き合い方しないでよ」
梓「う~ん……」
純「何であんたは納得しかけてんの」
憂「梓ちゃんを手元で洗脳しておけば私も安心だしさ」
純「洗脳」
憂「お姉ちゃんにこれ以上悪い虫がよってこなくて済むでしょ?」
梓「うーん」
純「悪い虫ってあんたのこと言われてるんだからね?」
憂「こうして考えると、お互いにメリットがあっていい関係でしょ?」
梓「そうなのかな……?」
純「もう付き合っちゃいなよ、面倒くさい」
梓「でも何かが違う気がする」
純「そりゃ本命の相手じゃないからね」
憂「女は打算的な生き物なんだよ」
純「だけど唯先輩の気を引くにはいい手かもね」
梓「!」
純「絶対自分に気があると思ってた子が急に自分以外の人と仲良く……っていうか付き合い始めたらさ」
梓「……」
純「しかも相手は実の妹だよ」
梓「……」
純「急に梓のことを意識し始めて、やきもち焼いたりして、取り返しにきちゃったり」
梓「いや、でも、気を引くとか別にそんな」
純「たとえ話でそわそわしないでよ、気持ち悪い」
梓「いや、気持ち悪いのは憂のほうだよ」
憂「言うねぇ」
梓「急に私を誘惑し始めてどういうつもりなの」
純「言いくるめられそうになってたくせに……」
梓「熱でもあるんじゃない?」
憂「お姉ちゃんにお熱なのは梓ちゃんのほうでしょ?」
純「……ちょっと憂、顔赤くない?」
梓「そういえば妙に身体があったかい気がしたけど……」
純「本当に熱でもあるの?大丈夫?」
憂「そんなことないよ……あれ?」 ヨロッ
ドサッ
梓「憂っ!?」
純「ちょっと、憂っ!?」
どうも憂の言動がおかしいと思っていたら、
昨夜から風邪をひいて熱が大変なことになっていたそうです
さんざん好き勝手なことを言ってくれてましたが、
今日の出来事は全く憶えていないそうです
いつだったか、病み上がりの唯先輩が妙にクオリティの高い演奏をしていた時も、
実は高熱がピークを過ぎてトランス状態で上手いことやってたそうです
なんかそういう家系らしいです
憂「う……ん……」
梓「気がついた?」
憂「お姉ちゃん……」
梓「………」
憂「梓…ちゃん……?」
梓「まだ寝てなよ、熱下がってないんだから」
憂「風邪ひいたの、何年振りかな……」
梓「憂、疲れてるんだよ」
憂「ごめんね、心配かけちゃって……」
梓「唯先輩が大学に行ってから、家でほとんど一人だったんでしょ」
憂「あれ、お姉ちゃんは?」
梓「まだ連絡してないよ、心配かけたくないでしょ?」
憂「でもさっき……」
梓「夢でも見てたんじゃない?」
憂「そっか……」
梓「憂が倒れたなんて聞いたら、こんな時間に大学の寮を飛び出してきちゃうよ」
憂「そのほうが良かったんじゃない?」
梓「どうして」
憂「お姉ちゃんに会える口実ができるよ」
梓「ばか」
憂「梓ちゃん」
憂「私とお姉ちゃん、どっちが好き?」
梓「もう寝てなって……」
憂「お姉ちゃんみたいになれなくて、ごめんね」
梓「なに言ってんの」
憂「代わりになってあげられなくて、ごめんね」
梓「私は、憂が唯先輩にそっくりだから看病してあげたわけじゃないんだよ」
梓「唯先輩の代わりが欲しいわけじゃないんだよ」
憂「梓ちゃん……」
梓「本当にさびしかったのは、憂だったくせに」
梓「熱出して変なことばっか言って、唯先輩の真似して抱きついてきたりして、倒れるまで思い詰めて」
憂「ごめん、あんまり憶えてなくて……」
梓「さびしかったなら、声をかけてよ」
梓「もっと私たちに甘えてよ」
梓「気づいてあげられなかったじゃない、私」
憂「梓ちゃん……」
梓「そばに居てあげるから、もうちょっと寝てなよ」
梓「熱が下がるまで、もう少しだけ付き合ってあげるから」
憂「はい……」
憂「っていうことがあってね、梓ちゃんが付き合ってくれることになったの!」
純「えっ!?」
梓「えっ!?」
おわれ
最終更新:2017年05月14日 19:44