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「ありがとな、さわちゃん」


車内、流していたラジオ番組が丁度終わった頃、不意にりっちゃんがそう呟いた。
りっちゃん達が映画を観終わった後、私達は皆がピクニックしている山に車で向かっていた。
ちなみに聡君はその前に田井中家まで送り届けている。
先を急ぐ身とは言え、その辺の事はきっちりしておかないとね。


「どうしたの、いきなり?」


私は横目でりっちゃんに視線を向けながら、軽い感じに訊ねてみる。
すると、りっちゃんは妙に縮こまって、頬を少しだけ紅潮させて続けた。


「いや、さ。
私が何となく気晴らしって言っちゃったせいで、
さわちゃんや皆に手間掛けちゃったみたいじゃん?
澪が反対するかと思ってたんだけど、まさかあいつも賛成するとは思わなかったんだよな」


「何、言ってるの。
それじゃ、りっちゃんはピクニックに行きたくなかったの?」


「いや、そういうわけじゃないんだけどさ……。
いいのかな、って思っちゃってさ」


「いいのかな、って?」


「皆、大切な時期だって事くらいは私も分かってるんだ。
何だかんだで受験はしなきゃいけないわけだし、将来のためにも大事だもんな。
あの唯だって皆と同じ大学に行くために頑張って勉強してるくらいだしさ。
だから、私の何となくの一言で皆を巻き込んじゃっていいのかな、って思ってるんだよな」


「いいんじゃない?」


「いいのかよ!」



私が軽く言ってみせると、りっちゃんがちょっとだけ普段の様子を取り戻して私に突っ込んだ。
勿論、いつものりっちゃんに戻ってほしくて言った言葉ではあったけれど、それは私の本音でもあった。
タイミングよく、目の前の信号が赤信号に変わる。
私は車を横断歩道前で停めると、左手を伸ばしてりっちゃんのカチューシャに指を沿わせた。


「誰かが嫌がってるんならともかく、皆、乗り気だったでしょ?
受験勉強しなきゃいけない事は分かってる。
皆で揃って同じ大学に合格したい。
でも、それよりも大事にしたい事がある、って事なんじゃないかしら。
それが今回の気晴らしのピクニックだったんだって私は思うんだけど。
一応、先生の私が言う事じゃないんだけどね」


「確かになー……。
それでいいのかよ、私達の担任の先生……」


「いいんじゃない?」


「そっか……、そうだな……。
うん……、いいのかもな……。
ピクニックが終わった後、ちゃんと受験勉強が出来るかはちょっと不安だけどさ」


「何だったら、私が勉強見てあげるわよ。
ほら、私ってやっぱり貴方達の先生だし?」


「それは助かるんだけど……、さわちゃんって勉強出来るのか?
音楽の先生じゃんか」


「私、ちゃんと大学合格してるし、教員免許も持ってるんだけどー……」


「あ、そうだったっけ?
って、うおっとぉ!」


りっちゃんが座席にめり込むような体勢になって軽い悲鳴を上げる。
青信号になったのをいい事に、私が車を急発進させたからだ。
私の事をあんまり先生として見てないりっちゃんへのちょっとした仕返しってわけね。
本格的な仕返しじゃなくて、ちょっとした仕返し。
りっちゃんが私の事をあんまり先生として見てない事は、私にとっては嬉しい事でもあったから。


「いきなりアクセル踏むなよ、さわちゃん……!」


りっちゃんが頬を膨らませて口を尖らせる。
私はその様子を横目で見ながら、何でも無い事みたいに返してあげる。


「いいじゃないの。
りっちゃんも早く皆と合流したいでしょ?
だったら、急がないとね。
そろそろお昼時だし、皆もお腹を空かせて待ってくれてるはずよ?
唯ちゃん、憂ちゃんにお弁当を作ってもらうって言ってたから、私も楽しみなのよね。
憂ちゃんの料理、りっちゃんだって大好きでしょ?」


「あー、確かに憂ちゃんの料理は美味いよなー。
その点に関してはさわちゃんに賛成だよ。
皆、憂ちゃんの弁当を楽しみにしてるはずだし、急がなくっちゃな。
まあ、一応……」


一瞬、りっちゃんが言い淀んだ。
背中から下ろして手に持っていたリュックサックに何度か視線を向ける。
リュックサックの中に何か入っているのかしら?
そうは思ったけど、私は何も訊ねなかった。
耳に掛かる髪を掻き上げ、りっちゃんの言い淀んだ言葉の続きを静かに待つ。


「一応、さ……」


躊躇いがちなりっちゃんの声が車内に響く。
私は軽く微笑んでから、首を傾げて小さく応じた。


「一応、何?」


「弁当……、一応、私も作って来たんだ」


「りっちゃんって料理出来たの?」


「言うと思った!」


「冗談よ。合宿の時、ちゃんとした朝食作ってたものね。
どんなお弁当なのかしら?
ピクニックの楽しみが一つ増えちゃったわね」


「そりゃ憂ちゃんの弁当には敵わないだろうけど、結構頑張って作ったんだぜ?
うちの自慢の炊飯器で炊いたごはんのおにぎりも作って来たしさ。
私の何となくの思いつきに付き合ってくれたせめてものお礼って事で」


りっちゃんのその言葉の最後の方は掠れていた。
それから、私から視線を逸らし、車の窓を開いてほんの少しだけ顔を出した。
どうもちょっと照れちゃってるみたいね。
ライブとかは緊張せずに演奏出来るのに、こういう事は恥ずかしがるのよね、りっちゃん。
何だか可愛い。

考えてみれば、当然だけどりっちゃんはまだ高三なのよね。
高校三年生、女子高生の小柄な女の子なんだもの。
まだゆっくり成長してる途中なのよね……。
だから、迷うし、変わっていく自分に戸惑っているのよね。
私にもそういう時期があったはずなのに、いつの間にか忘れてしまってた。
ううん、忘れようとしてたのかな。
優しくて大人しいキャラで行こうと思うとどうしてもね……。

でも、幸か不幸か、私は生徒全員に対してそのキャラを貫く事は出来なかった。
あっという間に素がりっちゃん達にばれちゃって、
なし崩し的に軽音部の顧問になっちゃって、皆と放課後にお茶するようになっちゃって……。
楽しかった。
楽しかったなあ……。
望んでた教師生活とは全然違ってたけど、すっごく楽しかった。
何だか軽音部の皆ともう一度高校生をやってるみたいだった。
その生活ももうすぐ終わっちゃうんだなあ……。
本当に不思議。
まるで高校を二回卒業するみたい。

私もりっちゃんに倣って車の窓を開いてみる。
少し涼しさが増したけど、肌寒いってほどじゃないわね。
気持ちのいい爽やかな秋風。
絶好のピクニック日和ってやつかしら。
うん、残り少ない二度目の高校生活、最後まで楽しみたくなって来たわ。


「そういや、さわちゃんもさ……」


りっちゃんが風で乱れた髪を整えて、カチューシャを着け直しながら言った。
そのりっちゃんの表情は照れた様子じゃなく、
寂しそうな表情を浮かべてるわけでもなく、とても自然な表情だった。
りっちゃんの続きの言葉は勿論聞きたかったけれど、その前に……。


「ちょっと待って、りっちゃん」


「えっ?」


「駐車場に到着よ。話の続きは車を降りてから、ね」




落ち葉が道路いっぱいに落ちているのに、まだまだ紅葉に溢れている秋の道。
終わりの季節の入口に至った事を予感させる秋の風が私達の髪を撫でる。
その風は寂しさと懐かしさと郷愁を同時に私に感じさせた。
秋はきっと、終わりが近い事を私達に実感させる季節だ。

……それはそれとして。


「なあ、さわちゃん……」


「何、りっちゃん?」


私のすぐ後ろでりっちゃんが声を上げ、私はそれに軽く応じる。
すると、珍しくりっちゃんがかなり不安気な声色で続けた。


「いいのかよ、こんなの?」


「こんなのって?」


「二人乗りだよ、二人乗り!
いくら人通りが少ないからって、これちょっと危ないんじゃないか?」


「若いのにやんちゃが足りないわよ、りっちゃん」


「いや、若さとかやんちゃとか、そんな問題じゃない気がするんだけど……」


言ってから、りっちゃんは見なくても分かるくらいの大きな溜息を吐いた。
そう。私達は今、自転車に二人乗りをしていたりする。
私が漕いで、りっちゃんが荷台に乗っている体勢だ。
りっちゃんの方が体力はあるだろうけど、私達じゃ身長の差もあるし、
流石に小柄なりっちゃんに二人乗りの自転車を漕がせるわけにはいかないしね。
ちなみに自転車は車の荷台に無理矢理詰め込んでいたものだ。
私はちょっとだけ苦笑して、心配そうなりっちゃんに言ってあげる。


「しょうがないでしょ?
皆との待ち合わせ場所は駐車場から結構離れてるんだから。
皆とお弁当を食べるためにも早く合流しないと、でしょ?」


「そりゃそうなんだけどさ……。
最近は二人乗りの取り締まりも厳しいし、
さわちゃんは先生なわけだし、見つかったら怒られるんじゃないか?」


「大丈夫大丈夫。
て言うか、都合よくここって私道だし?
知ってる? 私道なら結構何やってもオッケーなのよ?」


「絶対違う! 全く違う! 死んでも違う!
万一、ここが私道だったとしても、さわちゃんの私道じゃないから関係ねー!」


「ノリのいい突っ込みをありがと。
まあ、きっと大丈夫よ、りっちゃん。
他に誰も居ないし、坂が多い道ってわけでもないしね」


「そんなもんなのか……?
それともう一つ言いたい事があるんだけど、何か荷台の後ろが前の方に曲がってない?
どうしてこんな曲がり方してるんだよ……。
おかげで座りにくくてしょうがないぞー?」


「うふふ、いい事を教えてあげましょう、りっちゃん。
それはね、あらかじめ曲げておいたの。
荷台の後ろが前の方に曲がってると、当然、重心が前に移動しちゃうわよね?
そうなると後ろの人は必然的に漕いでいる人に掴まざるを得なくなる。
密着せざるを得なくなるわけなのよ。
これ二人乗りをする時の常識だから、覚えておくといいわ」


「うわー、特に知りたくなかった知識を得てしまった……。
つーか、自転車で行くなら二台積んどけばよかったじゃんか。
いや、流石に二台積むのは無理だったのかもしれないけどさ」


「二台は辛いわよ、私の車じゃ。
それに私、自転車は一台しか持ってないもの」


「そっか」


りっちゃんは素直に信じてくれたみたいだったけど、実はその言葉は嘘だった。
本当は私は自宅に自転車を二台持っている。
無理をすれば二台とも積めると思う。
でも、私はそうしなかった。
最後になるかもしれないりっちゃんと二人きりになれる機会だもの。
自転車の二人乗りでりっちゃんを身近に感じたかったのよね。
荷台を前に曲げたのは、前好きだった人と二人乗りをするためだったけど……。
その機会は一度も無かったけど……。

あ、何か嫌な気分になってきたわね……。
駄目駄目、今日は嫌な気分を吹き飛ばさないと!
ファイトよ、さわ子!


「何、一人で拳を握り締めてるんだよ、さわちゃん……」


「あれっ? 私、拳握ってた?」


「握ってるよ……。
気を付けてくれよな、さわちゃん。
今のさわちゃんはもうさわちゃん一人だけの身体じゃないんだからさ」


「妊娠したみたいな言い方しないでよ……。
でも、分かってるわよ。
今はりっちゃんの安全を任されてる立場だものね、気を付けるわ」


「そりゃよかった」


りっちゃんはそう言った後、しばらく口を閉じた。
私も口を閉じて、腰に回されたりっちゃんの腕の温かさを感じる事にした。
りっちゃんの体温をじっと感じる。

そういえば。
私が軽音部の中で一番身体的なスキンシップを取ったのもりっちゃんだったわね。
りっちゃんがいつも生意気な事を言うからでもあるけど、
ほっぺを抓ったり、コブラツイストしたり、チョークスリーパーしたり、色々やったものよね。
先生としては褒められた事じゃないけど、何だか懐かしい。

道路が終わり、砂利道に入る。
少しだけ強い風が吹き、落ち葉が舞い、紅葉が踊る。
私達の別れを告げようとしているかのような寂しさを含んだ秋風。
切なさが胸に生まれ、心が震える。

私と同じ様な事を考えたのか、私の腰に回されたりっちゃんの腕に力がこもる。
女の子の柔らかさを背中に感じる。
小さいけれど、確かな膨らみが私を包む。
その膨らみは少しだけ震えてるようにも思えた。
不意に、りっちゃんが小さく言葉を口にした。


「なあ、さわちゃん、さっきの話なんだけど……」


「さっきの話?」


「駐車場に着く前に私が話そうとしてたやつだよ。
忘れちゃった?」


「まさか。
ちゃんと覚えてるわよ。何の話なの?」


「うん……、ちょっとさわちゃんに聞きたい事があってさ。
なあ、当たり前だけど、さわちゃんも高校生だったんだよな?」


「そりゃそうでしょ。高校生すっ飛ばして先生になんかなれないわよ。
大体、りっちゃん達、私が写ってる卒業アルバム見てるじゃない」


「分かってるって、単なる確認だよ。
それで質問なんだけどさ、さわちゃん、高校を卒業する時ってどうだった?
寂しかった? それとも、大学に入るワクワクの方が大きかった?」


「そうねえ……。両方……かな?
皆と会えなくなるのは寂しかったけど、大学生活に憧れてもいたしね。
ちょっと前話したと思うけど、好きな人と同じ大学でのロマンスに憧れてたものよ」


「あー、さわちゃんが振られたっていう……」


「そこには触れないでほしいわね。
でも、結果的によかったとも思ってるのよ?
先生って職業に就けて、こう言うのも何だけど貴方達とも会えたわけだしね」


「えっ……」


りっちゃんが意外そうな声を上げる。
うーん……、私の言葉にしては気障過ぎだったかしら?
でも、本音でもあるのよね、この言葉は。
私は軽音部の皆に会えてよかったって思ってる。
気が抜ける場所が出来たってのもあるけれど、
それ以上にもう一度高校生活を過ごさせてくれた事が本当に嬉しかった。
二度高校生活を送る事で、先生として少しは成長出来た気がする。


「私も……、さわちゃんと会えて面白かった……よ」


りっちゃんが掠れた声で呟いて、「ありがと」と私が返した。
それから手を後ろに伸ばして、りっちゃんのカチューシャに指を這わせる。
大切な私の教え子。
もうすぐ離れ離れになる歳の離れた……友達。
だからこそ、私は自分の想いを伝えておきたいって思った。
静かに口を開いて、想いを言葉に乗せる。


「高校を卒業しても、貴方達なら大丈夫だって思うわよ?
だって、大学でも一緒に居たいくらい、皆の事が大切なんでしょ?
だったら、そんなに卒業を不安に思わなくても大丈夫。
貴方達ならどんな所でものほほんまったりふわふわと元気にやっていけるはずよ」


「何だよ、のほほんまったりふわふわってー……。
それ、ほとんど唯のイメージじゃんかー……」


「そう?
私は貴方達全員に言える事だって思うけどねー」


「くっ、風評被害だ……。
でも、サンキュな、さわちゃん。
さわちゃんがそう言ってくれて、ちょっと安心出来たよ」


「いいのよ。だって私、先生なんだから。
生徒が気弱になってたら、後押ししてあげるのが先生の役目でしょ?」


「べ、別に気弱になんかなってないって!
ちょっと不安だっただけだって!」


「ま、そういう事にしておいてあげましょうか」


「何だとー!」


りっちゃんが怒ったみたいな声を上げて、でも、その声はすぐに笑い声に変わる。
一緒になって私も笑い声を上げる。
不安だったのはりっちゃんだけじゃない。
私だって軽音部の皆が卒業する事が不安だった。
自分が高校に残される立場になるなんて、思ってもみなかったもの。
皆が居なくなっても、ちゃんと先生をやれるか不安が無いって言ったら嘘になる。

でも、今、一番不安なのはきっと軽音部の皆だから。
私よりもずっと不安なのは間違いないから。
私は、頑張ろうと思う。
私は年上で、先生だから。
少しでも皆の役に立てれば、凄く嬉しいから。


「私達が卒業したらさ……」


りっちゃんが私の腰に回す腕に力をまた込めて言った。
でも、その腕はもう震えていなかった。


「梓の事、頼むな、さわちゃん。
私が不甲斐ないから梓に後輩を作ってやれなくて、
来年、あいつを一人ぼっちにしちゃう事になっちゃったんだ。
その私が言うのもおかしいかもしれないけど、梓の事、支えてほしい」


後輩が作れなかったのは、別にりっちゃんのせいじゃない。
この子達は必死に努力していたし、他に後輩が出来なかったのは巡り合わせの問題もあると思う。
そもそも私は二年前、廃部寸前の軽音部を気にしながらも、自分で動こうとはしなかった。
何とかなるだろうし、何とかならなければそれでもいいか、なんて思ってたのよね。
今はそれを後悔していて、同時に軽音部を存続してくれた皆に感謝してる。
だから、私はりっちゃんの言葉に素直に頷いた。
今度は私も一緒に軽音部を守っていく番よね。


「分かったわ。任せて、りっちゃん。
梓ちゃんと一緒に新入部員探すわ。
でも、きっと梓ちゃんなら大丈夫だと思うわよ。
あの子、しっかりした子だし、意外といい部長になるんじゃないかしら。
勿論、梓ちゃんが困った時は手助け出来たら、って思っているわ。
そんなに気になるなら、りっちゃんもたまに顔を出してあげたらどう?
OGが部室に顔を出すのって、そんなに珍しくないわよ?」


「実は私もそれを考えたんだけどさ、
皆と話し合ってそれはしないって決めたんだよな。
そんなの梓は喜ばないと思うんだ。
梓を見てて、思うんだよ。
あいつは一人で軽音部を引っ張ってく決心をしてくれてるんだって。
一人でもやってやるって決めてるんだって。
あいつの演奏とか、最近の態度とか見てたら分かるよ。

だからさ、あんまり顔を出さないつもりなんだ。
あいつが頑張ろうとしてくれてるのに、それに私達が関係しちゃ台無しってもんだろ?」


「そうね……、そうかもしれないわね……」


少し寂しいけれど、りっちゃんがそう言うんなら、私もその意志を尊重するべきよね。
りっちゃん達は迷いながら、不安を抱きながら、それでも未来について考えてる。
やっぱり成長しているのよね、どの子も。
のんびりだけど、少しずつ……。
だったら、私に出来るのは、卒業まで皆と楽しい思い出を作る事だけなんだろう。
作ってあげたい、軽音部の皆の卒業と、私の二度目の卒業の日まで。

そうと決まれば、
もう、
皆で不安になってるのなんて、
すごく勿体無いわ!


「それじゃ、早く皆の所に行かなくちゃね!」


脚に今まで以上の力を込めて、自転車のペダルを踏みしめる。
早く皆に会いたくて仕方ないわ。


「おっ、急にやる気だなー、さわちゃん。
よっしゃ! 唯に憂ちゃんの弁当を摘み食いされない内に急ごうぜ!
私のだって見劣りするかもだけど、ちゃんと食べてやってくれよな!」


「了解よ、りっちゃん!
りっちゃんのお弁当も楽しみにしてるわ!
さあ、飛ばすわよー!」


「おーっ!」


そう言って、私達は笑顔で皆の下に急ぐ。
前に進んでいく。
秋風が吹いて、私達の卒業が近い事を告げる。
卒業って別れが私達の間近に迫っている。
でも、上等よね。
終わりが近いってんなら、それまで皆で楽しい思い出を作ればいいだけなんだから。

私の二回目の卒業の日、もしかしたら私は泣いてしまうかもしれない。
溢れる涙を抑え切れなくなるかもしれない。
それでいいんだと思う。
その涙こそ私達の思い出が大切だったって証拠なんだもの。

寂しさと不安を含んだ秋の風。
だけど、私はその風に爽やかさと不思議に心が躍るのを感じながら、皆の下に急いだ。
今日は皆との最後になるかもしれないピクニック。
だからこそ、りっちゃんと、皆と一緒に思いっきり楽しまなくちゃね!




「ちょっ……! さわちゃん!
あんまり飛ばし過ぎると髪が……!
さわちゃんの髪が目とか口に入る……ッ!」


「ご、ごめんね、りっちゃん!
すぐ髪、結ぶから待ってて!」


自分の中でカッコよく決めたつもりが、すぐにボロが出ちゃったわね……。
成長してるんだか成長してないんだか……。
でも、そっちの方が私達らしいかもね。
それに、まだまだ成長途中の方が楽しみが残ってる気がしてお得じゃない?
だから、これからもカッコ付かなくても、ファイトよ、さわ子!

ううん、そうじゃないわね。



ファイトよ、皆!



おわり



最終更新:2012年12月21日 00:08