ガチャ


梓「こんにちは……」ハァ

律「おぃーす」

澪「やあ梓」

紬「こんにちは梓ちゃん」

梓「あれ……唯先輩は?お休みですか?」

律「あぁ、唯の奴は体調悪そうだったから今日は部活休ませたよ」

梓「そうですか……大丈夫なんでしょうか……」

澪「軽い風邪みたいだったからすぐ良くなるとは思うけどな」

梓「そうですか……」ハァ・・・

紬「梓ちゃん、なんだか元気ないみたいだけど……もしかして梓ちゃんも具合悪いの?」

梓「い、いえ、私は体調が悪いわけでは……」

律「なんだ?悩みでもあるのか?頼れる先輩が聞いてやるぞー?」

梓「………そうですね。ちょうど唯先輩もいないことですし……皆さん相談に乗ってもらえますか?」



梓「相談って言うのは………憂についてなんですけど」

律「!!」

紬「!!」

澪「ひぃっ!」ガクブル

梓「唯先輩の妹ですし、仲良くしたいとは思ってるんですけど……どうも私、憂に嫌われてるみたいで……」

律「そうか……梓もか……」

梓「えっ!?律先輩もなんですか?」

律「いや、私は憂ちゃんとは仲いいよ。自分で言うのもなんだけど初めて会った時からすごく慕ってくれてる」

紬「私も仲良くさせてもらってるわ」

梓「ということは……」

紬「ええ、澪ちゃんが……」

律「はっきり言って嫌われちゃってるよなぁ」

澪「うぅ……」

梓「澪先輩はなんで憂に嫌われちゃってるんですか?」

澪「わからないんだよ……心当たりはなにもないんだ」

紬「初めて会った時から澪ちゃんには敵意むき出しだったわよね、憂ちゃん」

律「ああ、確か唯のテスト勉強を見てやる為にみんなで唯ん家に行った時だったよな……」


 ―――――――――


唯『みんな、上がって上がって』

律澪紬『おじゃましまーす』

憂『あ、お姉ちゃんおかえりー♪お友達が来てるの?じゃあ先に自分の部屋いってかたづけてきなよ』

唯『ほーい♪』タッタッ

憂『はじめまして、妹の憂です。姉が律さんと紬さんにはお世話になってます』

澪『ん?』

律『えーっと……憂ちゃん、私らのこと知ってんの?』

憂『はい、みなさんのことはちゃんと調べ……ゲフンゲフンお姉ちゃんから聞いてますから。

  ドラム担当で頼れる美少女部長、田井中律さん。そしてキーボード担当の

  見目麗しいお嬢様、琴吹紬さんですよね?あと秋山』

澪『んん?』

憂『今日は律さんと紬さんがお姉ちゃんの勉強を見てくれるんですよね?よろしくお願いします!』

律『い、いや、教えるのは主に澪なんだけど……』

憂『えぇっ?うちのお姉ちゃんが秋山なんかから教わることなんて何一つないですよ!なに言ってるんですか律さん』

澪『え、えっと、は……早く唯の部屋にいかないか?みんな……』

憂『はぁ!?お姉ちゃんの部屋に入る気?秋山が?秋山のくせに?

  あーぁー!昨日お姉ちゃんの部屋掃除したばかりなのになー!また掃除しなきゃなー!』

澪『あ、あの……わ、私、今日は帰るよ!ムギ、唯に勉強教えてやってくれ……』ダッ

紬『あっ、澪ちゃん!』


唯『おまたせー♪部屋かたづいたよー……あれ?澪ちゃんは?』

憂『なんか用事を思い出したみたいで帰っちゃった。勉強は紬さんが教えてくれるって!よかったね、お姉ちゃん♪』

唯『そっかー……用事なら仕方ないね。ムギちゃん、よろしくお願いします!』フンス!

紬『え、ええ……』

律『………………』

憂『えへへ』ニコニコ


 ―――――――――


律「……ってな感じでな」

澪「うぅぅ……」ガクブル

紬「梓ちゃんはどんな感じなの?憂ちゃんと……」

梓「私も澪先輩と似たようなものです……なんで嫌われてるのか全然わからなくて……」


 コンコン ガチャ


和「ちょっといいかしら?律、来週の部長会議のことなんだけど………」

律「おぉ和!いいところに来た!」

紬「そうね、この問題は和ちゃんに相談するのが一番いいかも」


 カクカクシカジカ


和「なるほど、憂が澪と梓ちゃんに、ね……」

律「わかるか?なんで憂ちゃんが二人を嫌うのか」

和「えぇ、もちろんわかるわ。なにしろ私も経験者だからね」

紬「えぇっ!?」

梓「和先輩も憂に嫌われちゃってるんですか!?」

和「今は仲良くしてるけど、昔はね………あの頃のことはあまり思い出したくはないわ……」

澪「お、教えてくれ和!なんで私達は憂ちゃんに嫌われるんだ?」

和「簡単に言うと、憂はお姉ちゃんが大好きなのよ」

律「そりゃまあ唯のこと大好きなのは見てればわかるけど……」

和「そういう意味じゃないわ。もちろん唯のことが大好きなのも間違いないけど

  憂はとにかく『お姉ちゃん』が大好きなの」

律「………………」

澪「………………」

紬「………………」

梓「………………」

澪「えっと、つまり『姉』という立場の人間が無条件で好きってことか……?」

和「そういうことね。小さなころから唯に対して『お姉ちゃん大好き』って言い続けているうちに

  いつのまにか全ての『お姉ちゃん』が大好きになってしまったのよ。そして『お姉ちゃん』以外の存在を

  忌み嫌うように………私も弟達が産まれるまでの何年間はずいぶん冷たくされたものだわ」

紬「あの……それなら私、一人っ子なんだけど……」

律「あ、そうだよな。ムギは別に嫌われてないよな?」

和「ムギには一緒に住んでる妹分みたいな子がいるんでしょ?憂が言うには『お姉ちゃん』である為に大事なものは

  血の繋がりや戸籍上の続柄なんかじゃないらしいわ。『お姉ちゃん』と呼ばれていて『お姉ちゃん』としての

  自覚があればその人は立派な『お姉ちゃん』なんですって」

梓「あの、私のクラスに純って子がいるんですけど……その子は弟も妹もいないし、ムギ先輩みたいに

  妹分って言えるような子もいないはずです。でも憂は普通に接してますよ?」

和「その純って子のことはよく知らないけど……もしかしてお兄ちゃんかお姉ちゃんがいるんじゃない?」

梓「あ、はい。確か兄がいるみたいなこと言ってました」

和「やっぱりね。憂は自分と同じ『妹』には冷たくはしないわ。もちろん『姉』ほど慕うことはないみたいだけど」

律「じゃあ結局澪と梓が憂ちゃんと仲良くなるには……」

和「『お姉ちゃん』になるしかないわね」

澪「そ、そんな……」


 コンコン ガチャ


憂「失礼します。あの、お姉ちゃんの忘れ物を取りに来たんですけど……」

澪「ひぃぃぃっ!!」

梓「う、憂……」

憂「あっ、和さんも来てたんですね。そうだ、今日は久しぶりに一緒に帰りませんか?」

和「ええ、いいわよ」

憂「やったぁ!えへへ、嬉しいなぁ♪」

律「あの、憂ちゃん、ちょっと話があるんだけど……座ってくれないか?」

憂「はい!あ、律さんの隣に座らせてもらってもいいですか?」

律「あ、ああ、もちろん」

憂「わーい♪ありがとうございますっ!」

紬「あっ、ご、ごめんね、憂ちゃん。余ってた唯ちゃんのケーキを和ちゃんに出しちゃったから憂ちゃんの分が……」

憂「いえいえ、大丈夫です紬さん。そのお気持ちだけで嬉しいです!やっぱり優しいなぁ、紬さんは♪

  ………おい秋山、お前のケーキまだ手ぇつけてないな?よこせ」

澪「は、はい!」サッ

憂「わぁっ!このケーキすっごく美味しいです紬さん!モグモグ………中野、ぼーっとしてないで肩でも揉めや」

梓「くっ……!」モミモミ

律「その……う、憂ちゃん、澪や梓と仲良くは出来ないかな……?」

憂「えぇっ!?こいつらとですか?」

律「あ、あぁ。頼むよ」

澪「………」ガクブル

梓「………」モミモミ

憂「うーん……律さんのお願いならなんでも聞いてあげたいんですけど……

  ごめんなさい、こればっかりは無理ですよ」

紬「それはやっぱり二人が『お姉ちゃん』じゃないから……?」

憂「はい。世の中には三種類の人間がいます。『姉』と『妹』と『姉でも妹でもないクズ』です。

  そんなクズ共と仲良くなんてできるはずないですよ!」

澪「ひぃぃ………」ガクブル

梓「………!」モミモミ

憂「さあ和さん、そろそろ帰りましょう!律さんと紬さんとももっとゆっくりお話ししたいですけど……

  あ!今度お二人で家に遊びに来てくださいよ!待ってますからね!秋山中野死ね」

 バタン

律「あー……今日のところは私らも帰るか……?」

紬「そ、そうね……この問題についてはゆっくり考えていきましょう」

澪「………………」

梓「………………」



 秋山邸



澪「ただいまー……」ハァ・・・

澪母「おかえりなさい、澪ちゃん」

澪(はぁ……憂ちゃんとはもう卒業まであまり関わり合いにならないようにするしかないのかなぁ……)

澪母「あ、あのね、澪ちゃん。ちょっと話があるんだけど……///」

澪「なに?ママ」



 翌日



澪「憂ちゃん!憂ちゃん!!」

憂「朝からやかましいぞ秋山!不快な声で話しかけてくんじゃねぇよ!!」

澪「ひぃっ!ご、ごめん……でもこれを見てほしいんだ……」ビクビク

憂「チッ……なんだよこれ?」

澪「マ……お母さんのお腹のエコー写真だよ!妊娠三か月だって!!」

憂「………………わぁっ!そうなんですか?おめでとうございます、澪さん!」

澪「あ……あぁ!ありがとう!!」パァァ

憂「元気な赤ちゃんが産まれるといいですね!私、これから毎日隣の神社にお参りしちゃいます!」

澪「う、憂ちゃぁん………」ジーン・・・



律「やれやれ、これで澪の方は解決か」

紬「あとは梓ちゃんだけね……」

梓「………………」

律「梓も両親に頼んでみたらどうだ?弟か妹が欲しいって」

梓「………やめてくださいよ、この歳になってそんなこと………」

紬「でもそれしか方法が……」

梓「いえ、私にも一つ考えがあります。このまま終わる気は………」

憂「中野ォ!焼きそばパン買ってこい!!」

梓「とにかく諦めたわけじゃないですから。見ててください。

  ……すいません、早くしないと焼きそばパン売り切れちゃうんで失礼します」ダッ

紬(買いにいくんだ………)



 十年後



律「おーす、唯!おめでとー!」

澪「おめでとう、唯」

紬「唯ちゃん、すっごく綺麗よ♪」

唯「えへへ……///みんな、ありがとう……」グスッ


純「おーい梓ー」

梓「あっ!純、憂、来てくれたの?」

純「そりゃ来るよ……しかしまさかあんたと唯先輩がねぇ」

憂「おめでとう梓ちゃん!お姉ちゃんをよろしくね♪」

梓「もう、憂!今日からは『梓ちゃん』じゃないでしょ?」

憂「あっ、えへへ……そうだね……」





憂「お義姉ちゃん大好き!」






 おわり



最終更新:2017年10月29日 17:55