「猫に餌をあげないでください」

テレビのワイドショーで団地で猫を飼いきれないくらい増やして何百万って損害賠償請求されてるってそんなことを確か言ってた。その猫おばさん(きっと近所からそう呼ばれていたに違いない)は最初猫が可哀相だと拾ってきたんだろう。でも結果的に猫を一番不幸にしたのはその猫おばさんだったに違いない。

いのちには責任が伴う。だからきっと私のよく行くコンビニにもこんな張り紙がされてるんだ。
なにかと居るというのは、人間のエゴでわがままなんだ。


にゃぁ、

ぴょこんとはねた大きな耳にガラス細工のような瞳。わたしはついその真っ黒で柔らかな毛並みに指を這わせる。気持ちよさそうに目を細めるその顔が、私は心から嫌いだった。
私は、誰とも居たくなかった。


触れたのは、寒いからじゃなかった。
抱きしめたのは、餌をあげたわけじゃなかった。


昔、齧りかけのフランクフルトを片目のつぶれた茶トラの猫にあげようとした時、お母さんが「うちまでついてくるからやめなさい」って言った。

いのちには責任が伴うから、私はこの子が嫌いだった。


「唯先輩」って鳴いた。

「唯」って鳴いた。

そしてまた「唯先輩」って鳴いた。

私は、この子といたくなかった。
私は、誰ともいたくなかった。


私は、この子といたくなかった。
私は、この子を愛しいと思ってしまった。


「唯先輩、愛してます。大好きです」

「私も大好きだよ、あずにゃん」


餌をあげる。ずっとずっと、餌をあげる。
来年の今日も、再来年も、ずっと。


私はわがままだから、ずっと永遠に餌をあげる。





最終更新:2017年11月29日 08:15