梓「はぁ……でも、渡す勇気がない」

梓「いや大丈夫!友チョコを渡すみたいな感じでやればいいんだから!」

梓「……わたしのばか!ばか!ばか!」

梓「なんでこんなにマジに作っちゃうのよ!こんな友チョコがあるかー!3層重ねの友チョコってなんだよー!わたしはパティシエかー!」

梓「しかも、このLOVEってなんだよー!絶対大好きじゃん!愛してるじゃん!ドン引きだよーこんなのもらったら!」

梓「でもしょうがないじゃん、ほんとに好きなんだし……なんだよ、文句あんのか!」

梓「はぁ……」


唯「あーずにゃんっ、わっ!」

梓「わ、わ、わわわわわわ、唯先輩だ!」

唯「落ち着いて!ごめん!ちがう、ちがうから、びっくりさせようと……」

梓「よかった唯先輩じゃなかったんだ」

唯「いや、わたしだけども!」

梓「や、やや、やっぱり唯先輩だぁああ!もうやだぁ……」

唯「どうしたのさ、あずにゃん」

梓「あ、いや、なんでもないですよ」

唯「ねー、一緒に帰ろ」

梓「え、もう放課後なんですか」

唯「そうだよ!」

梓「まだ朝かと思ってました」

唯「大丈夫!?」

梓「そっか、朝からずっと考えごとしてたからか」

唯「え、ほんとに大丈夫?なにか深刻な悩み事?」

梓「べ、別に唯先輩のことを考えてたわけじゃないんだからねっ!」

唯「うん、知ってるよ」

梓「それでは、わたしはなんのことを考えてたでしょう?」

唯「えぇー…」

梓「さん、に、いち」

唯「え、あ、え、軽音部のこととか!?」

梓「はい、ざんねーん!せいかいはー……」

唯「正解は?」

梓「正解は……」

唯「え、正解は?」

梓「正解は、だから、えーと、ほら……あー、だから、あ!そう、未来です。未来、ふゅーちゃー」

唯「未来?将来のこととか?」

梓「あ、いや、そうじゃなくてもっと漠然とした……」

唯「どういうこと?」

梓「だからー、あのー、つまり……あれですよ!空飛ぶ車とか……モノレールの、なんか、カプセルみたいなやつとか、それです。それが未来です」

唯「えぇ、貧困だぁ」

梓「何がですが」

唯「イメージが」

梓「別にいいじゃないですか!夢ですよ!」

唯「あずにゃんってけっこうばかみたいなとこがあるんだね」

梓「うるさいですうるさい」


テチテチテチテチ

唯「今思ったんだけどあずにゃんの足音ってかわいいね」

梓「え、好きですか!?」

唯「まあ、好きかな」

梓「えへへへ……えへ」

唯「あ、でも靴なのかな」

梓「え、靴?」

唯「ほら、足音って結局靴の音なんじゃない?」

梓「そ、そんなことないですよ!」

唯「いや、靴だよ」

梓「いや、靴じゃないです」

唯「絶対靴!」

梓「じゃあいいですよ、証明してやりますよ」ヌギヌギ

唯「え、やめたほうがいいよ」

梓「ちゃんとわたしの足音を聞いててくださいよ」

唯「あ、待って……」

梓「いきますよ…………………………いてっ!なんか踏んだあいった」ピョンピョン

唯「ほら言ったのに!」

梓「いたいいたまじでいたいぃ痛いよぉ」ピョンピョンピョン

唯「だ、大丈夫!?」

梓「そ、そんなことよりちゃんと聞いてくれたんですか!わたしの足音!」

唯「聞こえなかったよ」

梓「え?」

唯「だから何も音しなかったよ、やっぱ靴なんだよ」

梓「むむむむむ」ムムム

唯「それより足は大丈夫?」

梓「わぁーっ!お前の耳の穴には蜘蛛の巣が張ってんのかーーっ!ばかやろーっ!」

唯「きゃっ、うるさっ、痛い、なに?耳が痛い……なんで急に叫んだの?」

梓「唯先輩の耳の穴に蜘蛛の巣が張ってたら破ってやろうと思いまして」

唯「破れるのは鼓膜だよぉ……っていうかばかって言ったよね!?」

梓「言ってないです、よしんば言ったとしても先輩には聞こえないでしょうね、わたしの足音が聞こえないばか先輩、あ、ちがった、唯先輩にはねーっ!」

唯「わっ……だからいきなり叫ばないで!またばかって言ったし!」

梓「どうせ聞こえないくせに!唯先輩のうそつき!」

唯「わかった聞こえる聞こえる聞こえるよ。あずにゃんの足音はあずにゃんの素足由来でそれはかわいいよ」

梓「わかればいいんです」

唯「はい」


テチテチテチテチ

唯「そういえば、あずにゃん、今日はバレンタインデーだね」

梓「あ、えーとそう……」

唯「え、今日、バレンタインデーでしょ?」

梓「そうでしたっけ? うーん……」

唯「ま、いいや。あずにゃん手出してー」

梓「え、こうですか」

唯「なんでチョキ」

梓「いや、ピースです、ピースの前進」

唯「パー!」

梓「あ、うん」

唯「はい、これあげるね」

梓「あ……」

唯「えへへ、これさあチロルチョコ、いろんなコンビニ行っていろいろ味集めたんだよ!大変だったんだよ!ま、お金は400円程度なんだけどね」

梓「でも、パックのやつが……」

唯「黙って!知ってるから!ていうか知ったから!後にさ」

梓「ふふ、でもありがとうございます。わざわざ、嬉しいです!」ピョンピョン

唯「喜んでくれてよかったよ」

梓「大切にしますね!」

唯「そうだよー、ティータイムのときみたいにがっついて食べちゃわないでよー」

梓「飾りますね、窓際に!こうやって、並べて」

唯「いや飾んないで!溶けちゃうから!」


梓「あ、あの!ひとつだけ聞いてもいいですか」

唯「なに、どうしたの?」

梓「あー、いやね、別にぜんぜんたいしたことじゃないんですけど……これって……あのー、このチョコって、つまり……」

唯「なに? 」

梓「ほんめ……あ、いや、ちがった!こ、国産ですかね!?」

唯「えー……ふふ、わかんないよぉ……え、でも国のなんじゃない?わかんないけど、食べ物だし」

梓「政府が作ってるんですか!これ!」

唯「国で!日本という土地で作ってるの!」

梓「そうですか、なら安心です」

唯「その安心感は伝わんないけど」

梓「はい」

唯「うん、そうだね……」


梓(あ、いま、絶好のわたしのチョコあげるタイミングだ!)

梓(でもなあ……唯先輩に先にもらっちゃってそれがチロルチョコっていうふざけてる感じもありつつのやつだから、わたしのこの3層重ねはもう引かれるなあ、差が浮き出ちゃうからなあ、愛の差が。結局聞きそびれたけど唯先輩のなんて絶好友チョコに決まってるじゃん!ああ、今あれ渡したら、引かれるっていうかこれはもう気持ち悪いな、気持ち悪いって言われるな、いやよしんばそう言われなかったとしても顔には出る、あずにゃんきもちわるいっていうのが顔に、ああもーだめだ)

唯「あずにゃんどうしたの、もじもじして」

梓「あ、いや、なんでもないですよー、あははー。なんでもないときの人ですよ、わたしは」

唯「なんかすごいありそうだけどね」

梓(あーもー時期がだめだな!タイミングが!なんで唯先輩のやつ、先に渡しちゃうのさ!ばか!)

梓(いや、でも、待てよ。もし唯先輩がこれをくれてなかったして、わたしはチョコを渡すことができたんだろうか。少しはましになるだろうけどやっぱりそれだって唯先輩を気持ち悪がらせる行為ではあって……え?じゃあ、なんでそもそもわたしはこんなチョコを作っちゃったんだろう……それはだってわたしが唯先輩のこと好きでその気持ちを伝えたくて、つい……いや、ちがう、気持ちを伝えたいとしたってべつにこんなに過剰にしなくてもよかったんだ……。わたしは自分に酔ってた…!これはエゴ……わかった!エゴなんだ!唯先輩が気持ち悪いと言うのは、愛のこもりすぎたチョコをわたす行為そのものではなく、そうすれば引かれると知りながらそうしようとするわたしのエゴ……わたしは間違ってた……エゴなんだ、知性と引き換えに与えられた人類の罪深いエゴがすべての……)

唯「あずにゃん?怖い顔して、どうしたの?」

梓「断罪チョップ!」

唯「いたっ……え、なに?」

梓「あ、いや、エゴが……エゴのせいです」

唯「エゴ?もしかして、わたしが安物買ったからそのこと?怒ってる?」

梓「あ、いや、ぜんぜんそんなことはないですよっ!違います!悪いのは全部わたしなんです!わたしのエゴなんです!」

唯「ほんとはさーちょっと考えたんだよねー、やっぱ先輩なんだからもうちょっといいの買えばカッコついたかなあ」

梓「だからちがうって言ってるじゃないですかーっ!断罪チョップ!」

唯「いたい……」


唯「そういえば、あずにゃんは誰かにチョコあげた?」

梓「それ催促ですか」

唯「ちがうよー」

梓「あーっもしかしてあれですか!あれですよね!日頃から先輩にお世話になってるからチョコあげますっていうの期待してるんですよね!」

唯「そうじゃなくてさ」

梓「だったら言っときますけど!わたしは!唯先輩に感謝の気持ちなんかぜんぜんないですからねーっ!……だって……あるのは別の気持ち」

唯「だーかーら!ちがうって言ってるじゃんっ!」

梓「な、なにもそんな大声で言わなくてもいいじゃないですかぁ」

唯「なんでちょっと泣きそうなのさ」

梓「だってなんかまるでふられたみたいだったし…」

唯「え?」

梓「な、なんでもないですっ」

唯「ふられた?」

梓「それくらいショックだったってことじゃないですか知らないですよ」

唯「だれにふられたの?」

梓「え? だれとかはべつになくないですか?」

唯「いや、あるよね?」

梓「わたし、ない派です!」

唯「派閥の問題じゃないからね」

唯「え、あずにゃんだれにふられたの?」

梓「いや、もう……。あぁああ、もう! あれです、あいつです!」

唯「あの、歩いてる人?」

梓「そうですよう!」

唯「いつ、ふられたのさ!?」

梓「さっきです!さっき!」

唯「どうやって!?」

梓「こう、手話……手話? みたいな、やつで???」

梓「あ、そうだ! このチョコあげますよ! あいつにあげる予定だったけど、その前にふられてあげられなくなっちゃいましたから!唯先輩が食べちゃってくださいね!じゃっ、ばいばい!」

ダッ

唯「あずにゃーんー! 一緒に帰るんじゃなかったのー?」

キュッ

梓「あ!」

梓「唯せんぱぁいーっ!!」

唯「なに?」

梓「べつにそのチョコは本命チョコとかではないんですからねっ!勘違いしないでくださいよねっ!」

唯「あずに……、、、あ、行っちゃった……」

唯「これ……」

ガサガサガサ

『LOVE ユイセンパイ』

唯「やっぱあずにゃんってばかなんだなー」

おわり



最終更新:2018年02月25日 23:16