律「なんで?」

澪「なんで?」

澪「なんでってなんで?」

澪「逆になんで?」

律「必死すぎるだろ」

澪「ちょっと熱中症って言うだけだろ」

律「言わせてどうするんだよ」

澪「いいから」

律「熱中症」

澪「ちがう」

律「熱中症」

澪「ゆっくりって言ってるだろ!」

律「………」

澪「………」

律「熱中症」

澪「あああもうっ!!」

律「暑さにやられたのかお前」



澪「リズムが走り気味なのはドラムだけにしておけよ」

律「うるさいよ」

澪「わかった、じゃあ 熱 のところで一回区切って言ってみて」

律「熱」

澪「………」

律「………」

澪「………」 ゴクリ

律「そういえばこの間の話さ」

澪「おい」

律「なんか映画でも観に行こうって言ってたじゃん」

澪「おいっ」

律「やっぱ夏だし、辛気臭い恋愛映画よりアクションとかホラーもののほうが」

澪「恋愛もののほうが都合がいいに決まってるだろ」

律「じゃあ両方観に行くか?」

澪「程度によってはホラーでもいいけど」

律「都合がいいってどういうことだ」



澪「どうでもいいんだよ映画の話は」

律「何を観に行くか決まってなかったし」

澪「今はそれどころじゃないんだよ」

澪「熱中症の話はどうなったんだよ」

律「まあ日陰で水分をこまめにとっておけば大丈夫だろ」

澪「塩分も補給してな」

律「通気性のいい服を選んで」

澪「ぴっちりした服は避けたほうがいいらしいな」

澪「って違うだろ」

澪「ちがうだろ!」

律「対策は合ってるだろ」

律「これでもちゃんと調べてきたんだぞ」

澪「そうじゃなくて」

澪「それを言うなら私だっていろいろ下調べしてきたんだ」

律「何を調べてきてんだよ」

澪「早く熱中症ってゆっくり言えよ!」

律「早く言うのかゆっくり言うのかどっちなんだよ」



澪「逆になんで言いたくないの?」

律「なんで言わせたいんだよ……」

澪「熱中症になった時に困るだろ」

澪「対策も大切だけど、いざ初期症状が出た時に適切な処置をしないといけないんだ」

律「それはわかるけどさ」

澪「お前みたいにやせ我慢して自己申告が遅れると大変なんだぞ」

澪「自分の症状というか自分の状態、気持ちをいち早く相手に伝えないといけないんだ」

律「相手ってなんだよ」

澪「だがお前は知っての通り、リズム感もへったくれもない人間だ」

律「ほっとけよ」

澪「熱中症であることをより正確に、比較的ゆっくりと発音しなければいけない」

澪「ただ、熱中症の 熱 の部分はそこまではっきり言わなくても構わない」

澪「大切なのはその後なんだ」

律「そこまでこだわらなくてもいいだろ」

澪「馬鹿、毎年何人も熱中症で病院に運ばれてるんだぞ」

澪「熱中症を甘く考えるなよ」

律「お前に言いたいわ」

澪「だからさっきから言えって言ってるだろ」

律「そういうことじゃなくて」



澪「まあ律の言い分もわかるよ」

律「嘘つけ」

澪「気持ちの準備が必要なんだろ?」

律「熱中症よりお前の症状のほうが深刻だよ」

澪「言い訳なんて聞きたくない」

律「お前のほうだろ、もっともらしい理屈ばっか並べてきやがって」

澪「熱中症って言ってくれるだけでいいのに……」

律「泣き真似すんな」

澪「一回だけでいいのに……」

律「上目遣いもやめなさい」

律「卑怯だぞ」

澪「………」

律「………」

澪「はやく」

律「……熱中症」

澪「なんでそんな面倒くさそうに言うんだよ!?」

律「面倒くさいからだよ!!」



澪「面倒くさいって何だよ」

律「わかった、わかったから一回落ち着こう」

澪「私のこと、面倒くさい女だって思ってるだろ」

律「思ってるけどちょっと一回座れって」

澪「その倦怠感、もしかして熱中症の症状じゃないか?」

律「お前のせいだよ」

澪「ここまで拒否されるとは思わなかった」

律「言っただろ、一応」

澪「感情がこもってない」

律「感情的に言うのもおかしいだろ」

澪「もうちょっとこう、相手の目を見てさ」

律「お前が試しに言ってみてくれよ」

澪「私が言ってどうするんだよ!」

律「じゃあ私が言ってどうするんだよ!」



澪「逆に私が熱中症かも知れない」

律「それは大変だな」

律「もう大人しく休んどけ」

澪「体温が高い気がするし、少しめまいがするのももしかして」

律「ああ、人の話に対する受け答えもおかしいしな」

澪「熱中症かもしれない」

律「横になって休んでろよ」

澪「おい」

律「うん」

澪「症状を聞けよ」

律「頭大丈夫か?」

澪「熱中症か?って聞けよ!」

澪「熱のところで一呼吸おいて、ゆっくり聞けよ!!」

律「面倒くさい女だなあ」



澪「わかったよもう、私に熱中症だって言いたくないんだな」

律「むりやり言わせても仕方ないだろ」

澪「きっかけ作りにさ……」

律「家に帰ってから寝ろよ」

澪「横になってろって言っただろ」

律「変なとこだけ素直だな」

澪「あーあ、今なら素直に言うこと聞くのになー」 チラッ

律「………」

澪「………」

律「……澪?」

澪「………」

律「ね……ねっ、


ガチャッ


唯「あれっ、今日部活休みって言ってなかったっけ?」

澪「うわああああっ!!」 ガバッ

律「うおおおおおっ!?」 ガバッ

唯「澪ちゃん、具合悪いの?」

紬「唯ちゃん、今日はやっぱり解散しましょう」

唯「えっ、うん……」

律「違うんだよ、あの……」

紬「澪ちゃん、熱中症らしいから」

律「………」

澪「………」





おわれ


大したオチもないけれど

熱中症には気をつけましょう



最終更新:2018年08月16日 21:36