梓「あとティッシュもつけますよ」

唯「あ、これ、女の子だけもらえるポケットティッシュだ」

梓「わたし、これ集めてるんですよね。あ、ほらここに電話番号書いてるんで、電話すると風俗で働ける仕組みになってるんですよ」

唯「働かないけどね」

梓「ま、それは、もう、わたしからは強制とかはもうぜんぜんできないから……」

梓「でもそれからは学校にも行くようになりましたよ」

唯「ま、そういうふうに人生がいい方向に変わるなら宗教だって悪くはないかもね!」

梓「いや、悪くはないっていうか、もともと悪い面はなにもないですけどね」

唯「まあ、あずにゃんにとってはそうなのかもしれないけどさあ」

梓「それでもクラスではいつもひとりぼっちでした」

唯「ふうん」

梓「あんなバカどもとはいっさい会話する気になりませんでしたからね。アラマブラ神のことを信じようともしない野蛮人とは」

唯「ああ、そう……」

梓「あ、野蛮人だ」

唯「うるさいなあ」

梓「それでずっと教室でひとりでアラマブラ教典を読んでたんですよ」

唯「あーそれでだったんだね!文学少女なのかと思ってた!」

梓「唯先輩、さっきからすごい文学少女って言いますけど、文学少女が好きなんですか」

唯「うん」

梓「どのへんがですか?」

唯「なんか影があるとこかなあ」

梓「影ならわたしにもありますよ、ほら」

唯「きつねだ!」

梓「わんわん」

唯「あ、犬なんだ」

梓「ほら」

唯「ちょうちょ!」

梓「ほら」

唯「東京タワー?」

梓「ほら」

唯「なにそれ?」

梓「ティラノサウルスです」

唯「ま、あずにゃんのこともけっこう好きかな」

梓「やったあ」


梓「ま、そんな感じですね」

唯「たしかに人生変わりまくりだねー、波乱万丈だ」

梓「ええ、まあ」

梓「じゃ、そろそろ帰りましょうか」

唯「そうだね」

唯「あ、そうだ!今日はわたしが奢ってあげるよ、年上だからね!」

梓「まだ気にしてるんですか」

唯「してないっ!」

梓「あざす、先輩まじリスペクトっす」

唯「やっぱ奢んない」

梓「うそです!先輩のこと尊敬してませんよ!」

唯「逆になってる!」

唯「ある意味逆じゃないけど……」

梓「はーなんか今日はいっぱいお話したから疲れちゃいました」

唯「そうだねー。そういえばあずにゃんなんか事後だもんね、風俗帰りだったんだもんねえ」

唯「そりゃ疲れるよ」

梓「そうですねー」

唯「なんかごめんね」

梓「なにがです?」

唯「いやさ、疲れてるとこ急に連れ出しちゃって」

梓「別にいいですけど」

梓「あ、そういえば唯先輩バイトしてるって言ってましたけどなんのバイトなんですか?」

唯「猫カフェだよ」

梓「へー猫好きなんですか」

唯「猫も好きなんだけど、えーとね、あのねえ、わたしが好きなのは……そのぉ…………ぁ…にゃん」

梓「鳴き声が好きなんですか?」

唯「そう!そうだよ!鳴き声が!にゃんにゃん!」

梓「あー、ねえ」

唯「じゃなくて!えーとね……ほら!わたしが好きなのは、あず」

梓「あ、待ってください!」

唯「え?なになに?」

梓「じゃあですよ、じゃあ、ワンワン鳴く猫とニャンニャン鳴く犬だったら、どっちが好きですか?」

唯「えーと、ワンワン鳴く猫?」

梓「えぇー……じゃあ結局ただ猫が好きなだけじゃないですかー」

唯「そうだけど!」

梓「先輩ってうそつきなんですか?」

唯「うそつきじゃないけど!」

梓「嘘つきだからこそ嘘つきじゃないと嘘をつく、もう完璧じゃないですか。完全なる嘘つきじゃないですか」

唯「そうだよわたしは嘘つきだよ」

梓「そうですね」

唯「じゃあ嘘言うけどわたしあずにゃんのこと好き!」

梓「わーまじですか!えーどうしよどうしよ、それって愛してるってことでしょー、あーもー、え?あーだってだってそれって唯先輩はわたしのこと好きってことで、わたしも唯先輩のこと好きだからってことはもうそしたらもーなんかこう、やるっていうか…………あ、そっか!嘘か!嘘なんだ!はー騙されたーっ!ほんと嘘つくのうまいなー、唯先輩は」

唯「ほんとは嘘じゃないもん!ほんとにあずにゃんのこと好き!」

梓「でもそれも嘘だしなあ」

唯「じゃあ、嘘!嘘なんだよ!」

梓「へーやっぱ嘘なのかー」

唯「殺す!」

梓「いった……」

唯「ご、ごめん、つい」

梓「なかなかいいパンチ持ってますね……ふたりで天下取れますよ」

唯「天下って何の天下さ!」

梓「天下、何の天下…………」

梓「あ」

梓「……天下一品」

唯「え?」

梓「いや、なんでもないです」

唯「えー、そこのラーメン屋見て言ったんじゃない?」

梓「ち、ちがいますよ!もー唯先輩はばかみたいなこと言うなあ、ばかだからしょうがないけど」

唯「じゃあ何の天下なのさ!」

梓「隣町の激戦区で日夜行われている抗争の天下ですよ……もとは家同士の抗争らしいですけど、家系の……今はもういろんな勢力っていうか味が入り交じってるみたいですね……そこに唯先輩とわたしで介入して、それで最後には敵の王将をぶっ潰して……」

唯「やっぱラーメンじゃん!」

梓「でも、じゃあ、唯先輩ってわたしのこと好きなんですか?」

唯「そう」

梓「いつからです?」

唯「そ、その……会ったときから……はじめてみたときなんかわかんないけどドキドキして、それで……」

梓「一目惚れですか」

唯「そう……一目惚れ」

梓「ということは」

唯「うん」

梓「唯先輩って面食いなんですか」

唯「ちがうよ!」

唯「むむ」

唯「……そ、そうなのかも」

梓「あ!っていうことははじめて会った中二の夏からずっとわたしのことを好き続けてたことですよね」

唯「まあ、そうなるよね」

梓「軽音部でわたしと過ごした2年間、ずっとわたしのことを好きだという気持ちを隠し続けてたわけですよね」

梓「その間告白とかされてないしそうですよね」

唯「隠してたよ、言えないもん!」

梓「唯先輩ってやっぱばかなんだなあ」

唯「へ?」

梓「だって、もったいなくないですか?」

唯「もったいない……?」

梓「いやあ、それはもったいないなあ。もったいない、かわいそう」

唯「どういうこと?」

梓「軽音部ってすごく楽しかったですよね?」

唯「うん、楽しかった」

梓「わたし人生いろいろ変わりましたけど未だに軽音部が一番楽しかったって思いますし」

梓「でも唯先輩はそのちょー楽しい軽音部の時間なのに別のこと考えてるんですよ?」

唯「別のことっていうか……」

梓「いや、そうじゃないですかー」

梓「だってたとえば」

梓「みんなで仲良く楽しく帰ってるときもわたしと二人で帰れたらいいのにとか思ってちょっと寂しくなってるわけじゃないですか」

唯「でも……」

梓「でもじゃないですよ。いいですか、たとえば軽音部で過ごす時間の楽しさを100としましょう、これはすごくおもしろいテレビ番組が13の基準です」

梓「その100楽しい軽音部の時間にわたしと唯先輩以外の先輩たちは100%全力を出して取り組んでるんです」

梓「そりゃそうですよ、だって楽しいもん。100%でいきますよ」

梓「だから100楽しいんですよ、100楽しい軽音部の時間に100%だから100ですよ、わかりますね?」

唯「うん」

梓「でも唯先輩は100%じゃないです。雑念があるから」

梓「わたしのことが好きだという雑念」

梓「だから60%ですよ、あとの40%はわたしです。わたしにちゅーしたいとかそういうので40%です」

梓「結局、唯先輩は軽音部の時間を60しか楽しんでないわけです。わたしたちは100だから差し引き40の損です、かける2年間です。ああもったいない」

唯「数字の上ではそうだけど!」

梓「あ!思い出した!」

唯「な、なに?」

梓「最後の文化祭のとき唯先輩すごいギター下手くそでしたよね」

唯「え、ま、ちょっとね」

梓「あれも雑念のせいだったんですね!」

梓「隣でギター弾いてるわたしの姿に見惚れてたりこれでもうあずにゃんともお別れなんだと感傷に浸ったたり文化祭のテンションの勢いでこのまま告白しちゃうおうかなあとか悩んでたから下手くそだったんだ!」

唯「ちがうよ!それは病み上がりだったからだし!」

梓「いや、わたしは実力だと思いますけど」

唯「うるさいな、そうだよ」

梓「あとあれだ!」

唯「今度は何?」

梓「卒業式のあと先輩たちわたしに曲をプレゼントしてくれたじゃないですか」

唯「ああ、天使にふれたよ、ね!」

梓「で、あのあとわたし泣いちゃったじゃないですか」

唯「ああ、そうだねー。あのときのあずにゃん子供みたいでかわいかったよね」

梓「いやそれはただ唯先輩がわたしのこと好きだからバイアスかかってるだけだと思いますけど」

梓「実際はけっこう醜かったですよ」

唯「そこはいつもどおりにわたしかわいいです!でいいじゃん……」

梓「だからあのときわたしを励ますためになんかこうみんなで円陣みたいなの組んだじゃないですか」

唯「なんか冷静に言葉にするとちょっと恥ずかしいけどね」

梓「あの時も唯先輩は100%出してませんでしたよ」

唯「出してたよ!」

梓「律先輩がわたしたちは離れ離れになってもずっとひとつだからなって言ったときも」

梓「本当はわたしがひとつになりたいのはあずにゃんなんだけどね、って冷めた目で見てたんでしょ!」

唯「そんなことない!」

梓「あーあ、もったいないですね。すごい楽しかったんですよ、軽音部って」

唯「知ってる!わたしもいたし!」

梓「なんでそんなもったいないことしたんですか」

梓「とっとと告白しちゃえばよかったのに」

唯「できるわけないじゃん!そんなこと!」

梓「なんでですか?」

唯「なんでってそりゃあ……」

唯「なんでだろ?」

唯「……とにかく!できるわけないの!なかったんだよ!わたしには!」

梓「そういう人生を送ってきたからですか?」

唯「そう!わたしはずっとそういう人生でやってきたの!大事な気持ちを心の奥にしまっちゃうの!」

梓「そうですか」

梓「その人生は唯先輩にとてもよく似合ってると思うので、その気持ちはそのまま心の奥にしまっておいてくださいね」

唯「なんでさ!」

梓「確認しますけど今もわたしのこと好きなんですか?」

唯「あたりまえじゃん!」

梓「でもつまり今日話した過去のわたしはお世辞にも唯先輩が好きな感じではないですよ」

唯「たしかにそれはすっごく驚いたし、ショックだった!正直!」

唯「でもね、それ以上にびっくりしたのがね、わたしこんなにあずにゃんと一緒にいたのにあずにゃんのことなんも知らなかったなあって」

唯「わたしあずにゃんのこと大好きだったはずなのになにも知ろうとしなかったんだなあって」

梓「面食いだからですよね、顔がよければそれでいいという」

唯「うるさい!そうだよ!でもこれからはちがうもん!」

唯「だからわたしね」

唯「もっと知りたいな、あずにゃんのこと」

梓「じゃあ、俺たちで調べてみましょうぜ、兄貴。あいつきな臭えから掘ればもっといろいろでてくるっすよ」

唯「だからもうそれはちがうじゃん!ジャンルが!」

梓「任侠ものですもんね」

唯「そうだよ」

唯「とにかく!どんなあずにゃんでもあずにゃんはあずにゃんで、あずにゃんはいつでもわたしの大好きなあずにゃんだよ!」

梓「唯先輩のそういうとこ、まじ、リスペクトすね」

唯「そういうあずにゃんだってわたしの大好きなあずにゃん……かも!」

梓「弱くなってるじゃないですかー」

唯「冗談だよ!冗談!」

梓「でもわたしほんとに先輩のことリスペクトしてるんですよ」

唯「その言い方がどうもなあ」

梓「だから先輩には不幸になって欲しくないんです」

唯「あずにゃんがつき合ってくれたらわたし幸せだよ」

梓「はぁー。でも、ほら、わたしまた人生変えたくなって、他の人とつき合いたいとか思って、そのせいで浮気とか別れたりしたら唯先輩不幸じゃないですかつらいじゃないですか」

唯「まあ、そうだね」

梓「自殺しますか?」

唯「自殺はしない!しないけど」

梓「だから、唯先輩とはつきあえないです」

唯「そっかぁ」

梓「そうですよ」

唯「でも人生が変わらないようにあずにゃんががんばればいいんじゃないかな」

唯「もちろんね、全部じゃなくてちょっとだけ、わたしとの部分だけ!」

梓「ふむ……」

梓「……むむむ」

梓「うーん……」

唯「ほら!ギターだよ」

梓「ギター?」

唯「あずにゃんはいっぱい人生が変わってきたけどギターはずっとやってたでしょ?」

梓「なんでわかるんですか? 話にギターは出てきませんでしたよね」

唯「それくらいは流石にわたしでもわかるよ!」

唯「だってあずにゃんギター大好きじゃん、すごい詳しくて、それに上手だし 」

唯「あれはずっとやってないとそうはならないよ」

唯「音でわかるもん。あれは子どもの頃からずっとギター弾いてた人の音だ」

梓「そういえば、幼い頃からギターしてるって入部した頃に先輩たちに言いましたよね」

唯「そ、そうだったかも……」

梓「音でわかるんですか?」

唯「ごめん」

梓「子どもの頃からずっとギター弾いてた人の音ってどういう音なんですか?」

唯「だからごめんって言ってるじゃん!」

梓「唯先輩絶対音感あるんですから教えくださいよ、ドレミファソラシドで言えばどれなんですか!子どもの頃からずっとギター弾いてた人の音って!」

唯「黙って!」

唯「だけどずっとギターやってたのはほんとだよね?」

梓「ま、そですね」

唯「だから、わたし、あずにゃんにとってのギターになれればいいなって思うんだよ」

梓「でも唯先輩弦ないし……」

唯「たとえ!たとえの話だよ!」

梓「うーん……」

唯「お願い!あずにゃんが人生変えたいって思わないようにわたしがんばるから!」

梓「よしっ、じゃあ付き合いましょう」

唯「ほんとに?」

梓「はい、せっかくだから結婚しちゃいましょう!」

唯「結婚ははやくない?」

梓「結婚ははやいですか?」

唯「ううん!結婚ははやくない!」

梓「ま、結婚はできないですけどね。法律があるから」

唯「じゃあさ、せっかく付き合ったんだからこれからどこか行かない?」

唯「今日は疲れてる?」

梓「いや、いいですよ」

唯「わーい!あずにゃん大好き!」

梓「デートですね」

唯「え、あ、そっかデートになるんだ!デートになるんだよね?」

梓「デートになるっていうか、言い方はまあ唯先輩がお好きに選んでもらっていいんですけど」

唯「じゃあデートにします!わたしはデートを選択します!」

梓「あ、そですか」

唯「デートだよ、あずにゃん!今わたしたちデートしてるんだよ、デート、なんかちょっと恥ずかしいね、えへへ」

唯「あ、じゃあこれ初デートなんだね、初デート!ね?あずにゃん初デートだよ!わたしとあずにゃんの初デートだ!えへへへ」

梓「唯先輩すごい嬉しそうですけど、なんかいいことあったんですか?」

唯「あずにゃんは鶏かっ!鳥頭かー!」

梓「やっぱ付き合うのやめましょうか」

唯「ごめん!もう絶対言わない!」

梓「こけこっこー」

唯「あずにゃんは鶏かっ!」

梓「よし、やめましょうか!」

唯「あずにゃんが言わせたんじゃん!」

唯「ねえねえ、あずにゃんはさ、どっか行きたいとこある?デートに行きたいとこ!」

梓「パチンコ屋とか?」

唯「えー」

梓「じゃあうちでぷよぷよやります?」

唯「言ってそんなに強くないからやだ!」

梓「じゃああれですかね、今日集会の日なんで、教会いきます?」

唯「なんかこわい!」

梓「唯先輩はなんかしたいこととか行きたいとかとかないんですか?」

唯「わたしはね、すごいいーっぱいあるよ!いまここで全部言ってみていい?」

梓「その前にわたしが言いたいことひとつあるので言っていいですか?」

唯「なになに?」

梓「うち、ツレとかぜってぇ幸せにすんで、そこんとこまじよろしくおねがいします」

唯「なにそれ!あぁもうーー!」

唯「ばぁか!ばかばかばか!」

唯「でもあずにゃんのこと好き!」ダキー

梓「わ、きゃっ!や、やめ、やめてくださいっ!」

唯「風俗行ってスキンシップできるよう変わったんじゃないのかー」

梓「でも唯先輩だけは無理なんですよぉ……」

唯「じゃあわたしがへーきになるようにあずにゃんの人生を変えてやるっ!」ギュー

梓「無理です!唯先輩にはわたしの人生は絶対変えられないですよ!」

唯「なにをー絶対変えてやるもん!」

梓「わっ、あ、やめてくださいー!」


おわり


見てくれてありがとうございました。



最終更新:2019年03月29日 22:12