澪「触るな!!」 ゴスッ

梓「ぐっ!?」

梓「……!?」

澪「なんで心外そうな顔なんだよ!」

梓「女子校なんだから少しくらい揉みしだいてもいいじゃないですか!」

澪「どういう理屈だよ」

梓「なんのために女子校に入ったと思ってるんですか」

澪「知るか!」

澪「同性でもセクハラは成立するんだからな」

澪「むしろ殴られただけで済んで良かったと思え」

梓「触った上に殴ってもらえて、一石二鳥ですね!」

澪「………」

梓「なんですかそのゴミを見るような目は」

梓「ご褒美ですか?」

澪「生理的な嫌悪感だよ」

梓「生理なんですか?」

澪「お前が血まみれになればいいのに」



梓「か弱い後輩に暴力をふるっておいて、なんて言い草なんですか」

澪「律かと思ったんだよ」

梓「隠れてイチャイチャしてるから人前で恥をかくんですよ」

澪「お前が恥を知れよ」

澪「マジで」

梓「そんなマジにならなくても」

澪「今回の犯行の動機は何なんだ」

澪「いったい何なんだお前は」

梓「いや、胸元の自己主張があまりにも強かったので……」

澪「なるほど」

澪「やっぱり聞くだけ無駄だった」

梓「本体は引っ込み思案なのに、どうしてそこだけ主張が強いんですか」

梓「どうなってるんですかそれ」

梓「いや、もはやどちらが本体なのかわからないですけど」

澪「私にはお前の思考回路がわからん」



梓「あれですよ、ハロウィンの」

澪「性のモンスターに仮装したってこと?」

梓「誰が性欲モンスターですか」

梓「否定はしませんけど」

澪「しろよ」

梓「トリック・オア・トリートってやつですよ」

梓「知らないんですか?」

澪「それはお前に言いたい」

梓「お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ☆ってやつですよ」

澪「交渉の余地もなく襲われたんだけど」

梓「でも実際お菓子もらえてないですし」

澪「あれじゃただの通り魔

梓「トリック・オア・トリート!!」 ガバッ

澪「!?」 シャッ

ドゴォ

梓「ぐぇっ!?」



澪「次は本気で仕留めるからな」

梓「それはこっちのセリフですよ」 チッ

澪「どういう事だ」

梓「だってお菓子を貰えないならイタズラするじゃないですか!」

梓「そういうイベントじゃないですか!」

澪「今は持ち合わせがないからあっち行け」

梓「澪先輩、例えばの話なんですけど」

澪「いらん」

梓「カツアゲにあって持ち合わせがないからって無傷で見逃してもらえると思います?」

澪「お前はハロウィンをどういうイベントだと思ってるんだ」

梓「レイプ犯に襲われて、今日は生理だからって言えば解放されると思うんですか!?」

澪「例え話っていうか現実になりかけてたんだけど」

梓「かく言う私もお菓子の持ち合わせがなくて」

澪「なんで服を脱ぐんだ」

梓「お望み通りイタズラしていいですよ」

澪「望んでない!」



梓「実は、ハロウィンってどういう行事なのかよく知らないんですよね」

梓「明け方(ハロー)までウィンウィンいわせる日でしたっけ?」

澪「意味不明な動機で人間を襲うんじゃない」

梓「何のためにナニをする日なんですか?」

澪「ナニをする行事ではない」

梓「なんかエロいコスプレしてお菓子を貰うお祭りですよね?」

澪「世間はそういう風潮になってるみたいだな」

梓「お菓子と犯しをかけたイベントですよね?」

澪「おかしいのはお前の頭だよ」

梓「エロいコスプレするのは合ってますよね?」

澪「本来は魔よけの意味で仮装してたらしい」

梓「コスプレが魔よけになるんですか?」

澪「ええと、たしか亡霊的な連中を逆にびっくりさせてやろう、みたいな」

梓「お菓子を貰えるやつは?」

澪「死者に供えるケーキかなんかを集める風習がそんな感じになったらしい」

梓「カボチャのランプみたいなやつも作るんですよね」

梓「なんでしたっけ? ファック for うんたん とかいう」

澪「ジャック・オー・ランタンだよバカ野郎」

澪「この性欲モンスターが」



梓「では吸血鬼とサキュバスのハーフの女子高生、みたいな仮装をします」

澪「好きにしろ」

梓「ではお言葉に甘えて……」 ピラッ

澪「めくるな!!」 ゴッ

梓「……!?」

澪「その心外そうな顔をやめろ!!」

梓「好きにしていいって言うから……」 グスッ

澪「泣きたいのはこっちだよ!!」

梓「いや、処女の生き血をすするモンスターという設定でですね」

澪「何処からすすろうとしたんだよ」

梓「お祭りなのにイライラしてるから、あの日なのかなって思って」

澪「だからってお前、アホなのかお前は」

梓「味見したくなったら言ってね☆ とか言ってたじゃないですか」

澪「承諾するかどうかは別の話だよ」

澪「それこそ私のさじ加減だよ」

梓「つまり場合によっては……?」

澪「なんで今日に限ってお前しか部活に来てないんだ」



唯「おつかれー」 ガチャ

梓「あっ唯先輩!」

梓「トリック・オア・トリート!!」 ガバッ

唯「ふんす!」 バチン

梓「ぶっ!?」 ビタン

澪「無事だったか?」

唯「変態が襲ってきた」

澪「性欲の怪物らしい」

梓「唯先輩、トリック・オア・トリートって知ってます?」

梓「全部英語だからわかるわけないですよね?」

唯「あずにゃんの人間性がわかんない」

澪「女子高生の皮をかぶったモンスターだよそいつは」

梓「お菓子くれるんですか?持ってないですよね?イタズラOKって事ですよね?」 ハァハァ

唯「ふんす!」 バチン

梓「ぶっ!?」 ビタン



唯「ハロウィンの話で盛り上がってたの?」

澪「ひとつも盛り上がってないよ」

澪「ハロウィンにこじつけてアレが襲ってきたんだよ」

梓「お菓子と犯しをかけたイベントだって言ってたじゃないですか」

澪「違うって言ってんだろ」

梓「唯先輩、イタズラされたいならお菓子を与えなくても大丈夫みたいですよ」

唯「そこにトンちゃんのエサがいっぱい入ってるから食べていいよ」

梓「あっ、唯先輩というお菓子を与えてみてもいいんですよ?」

梓「こっちには恋のパティシエがついてますから」

澪「うるさいよ」

澪「こっちって何だ」

唯「そもそも、あずにゃんがお菓子を貰う側っていう前提はどうなの?」

澪「そこに食ってかからなくても」

梓「イタズラする側のほうがいいですか?」

唯「結構です」

梓「イタズラするのかされるのかハッキリしてください」

梓「これは攻めと受けの問題なんですよ」

澪「トリックとトリートの二択は何処に行ったんだ」



唯「ていうかトリックとトリートってどっちがお菓子なの?」

梓「トリックを選ぶとその言葉通り、性的な罠(いたずら)に掛かります」

唯「トリートがお菓子なの?」

梓「トリートは待遇するとかそんな感じの意味で」

梓「やっぱり性的な待遇になります」

唯「お菓子はどこに行ったの?」

梓「だから 『お前の身体をお菓子みたいに美味しく食べちゃうぞ』
  っていう口説き文句みたいなものですね」

唯「そうなんだ」

唯「カボチャのアレみたいに頭の中身をくり抜かれて死ねばいいのに」

梓「笑顔で怖いこと言わないでください」



唯「じゃあここに座って」

梓「どんなイタズラしてくれるんですか?」 ワクワク

澪「服は脱がなくていいから」

唯「アイマスクをつけて……」

梓「目隠しプレイですか!?」

唯「ヘッドホンもつけて……」 スチャ

梓「目隠しヘッドホンプレイですね!?」

澪「服を脱ぐな」

梓「視覚と聴覚を封じて感じやすくなるというアレですね!?」

唯「手を後ろに回して……」 ギチッ

梓「緊縛プレイ!!」

唯「さてと」

澪「帰るか」

唯「帰ろう」

ガチャ

梓「っておい!」

澪「気づかれた」

唯「逃げろ!」



バタン

唯「部室から脱出できればとりあえず大丈夫だね」

澪「ほとぼりが冷めたら出してやるか」

梓『あれっ、開かない!?』 ガチャガチャ

澪「何やってんだあいつは」

澪「っていうかどうやってあの拘束を解いたんだ」

紬「開けちゃダメよ、澪ちゃん」

澪「いつからいたんだよ!」 ビクッ

唯「陽が暮れる前に間に合ってよかった」

澪「何が? 何に?」

紬「唯ちゃん、うまく澪ちゃんを連れ出してくれてありがとう」

唯「澪ちゃん、本当に危ないところだったんだよ」

澪「……?」



紬「ハロウィンって本来は魔よけの行事じゃない?」

澪「え? ああ、うん」

紬「発祥がどうであれ、それは長い年月をかけて、形を変えて受け継がれてきた」

紬「悪霊が集うとされているハロウィンの日は、そういう 『魔』 が集まってきやすいの」

紬「大衆の共通認識は、そういった存在を本当に引き寄せる力を持ってしまうのね」

澪「う、うん……?」

紬「甘いお菓子や音楽、人の笑い声なんかはそういう魔を払う力があるんだけどね」

紬「ほら、この部室っていつもお菓子と音楽が溢れてるじゃない?」

紬「今日みたいに静まり返った部室には、払い続けた悪いものが逆流してきやすくて」

紬「みんなには内緒にしてたけど、そういう日は部室に邪気を払う印をかけていたの」

澪「印って……」

紬「簡単にいうと、部室の扉の存在を封じてしまうような」

澪「いやいや、封印って……普通に部室出れたし……」

紬「人の姿に化けた魔物でもない限りはね」

澪「えっ」

梓『唯先輩ィィィ…… 澪先輩ィィィ……』 ガチャガチャ ガチャガチャ

澪「………」


紬「カボチャのあれも本来は悪霊から身を守るための風習だったの」

紬「昔、悪魔を騙して 『自分が死んでも決して地獄に落ちない』 という
  契約を交わしたジャックという男がいたんだけどね」

紬「悪さばかりしていたジャックは、天国にも地獄にも行けず、
  その魂は永遠に現世を彷徨い続けることになったの」

紬「悪魔から貰った炎で提灯(ランタン)を掲げて、道連れを探し続けるの」

紬「その人に近しい女の子の姿なんかを借りて、あの手この手で道連れを……」

紬「澪ちゃん?」

澪「」

唯「固まってる」

紬「固まっちゃったわね」

律「ムギ、真面目にやりすぎなんだよ」

紬「だって、作り話で怖がらせてやろうって!」

唯「うまく行き過ぎたね」

律「なんで高校生にもなってこんな話を真に受けるんだ」

紬「白目を剥いてる人、初めて見たわ」

律「私が発案のハロウィンドッキリ企画って黙っててくれる?」

律「わりとマジでブチ切れられそうだから」

紬「それはどうかしら」


唯「澪ちゃーん、帰るよー」

律「ていうか帰ってこーい」

唯「怖い話は本当にダメなんだね」

紬「りっちゃん、ずっと面倒みてあげないとね」

律「ほら澪、帰るぞ」

澪「ミエナイ…… キコエナイ……」 カタカタ

律「ったく……」

紬「ふふっ」

唯「あはは……」 キャッキャッ


キーン コーン カーン コーン……



梓「開けろ!!」 ダァン





おわれ


ハロウィンの由来についていろいろ調べた結果がこんなオチという



最終更新:2020年11月21日 07:06