唯「えっ……うん」

梓「なかなか布団から出れないですよね、こういう日の朝って」

唯「まあ」

梓「休みの日なんかずっと起きれなくてゴロゴロしちゃって」

唯「うん」

梓「でも冬休みだからってあんまりダラダラしてちゃダメですよ」

梓「暖かくして身体を目覚めさせて、生活のリズムを崩さないようにしないと」

唯「うん、あずにゃんもね」

唯「他人の家のベッドに潜り込むのは犯罪だから気を付けたほうがいいよ」

梓「なるほど」

唯「ベッドっていうか、部屋っていうか」

唯「……なにやってんの?」

梓「ですから、寒いので温め合おうと思って」

梓「ほら、あったか あったか」 ギュッ

唯「背筋が凍るかと思ったよ」



唯「えっ、何やってんの本当に」

唯「なんで制服着てるの?」

梓「メイド服とかのほうが好みでしたか?」

唯「いや、コスチュームに対する不満じゃなくて」

梓「やっぱり制服のほうが興奮しますよね」

唯「気を使う部分がおかしい」

梓「目覚めたら女子高生が添い寝してくれてるなんてもはや天国じゃないですか」

梓「天使にふれちゃっていいんですよ」

唯「天使っていうか、もはや法にふれちゃってるからね?」

梓「ほう」

唯「顔見知りだから大目に見てあげてるけど、もう完全にストーカー案件じゃん」

梓「顔見知りだなんてそんな他人行儀な」

梓「同じベッドで一夜を共にした仲じゃないですか」

唯「知り合いならではのおぞましさがあるんだけど」

梓「逆に考えて、見ず知らずの他人じゃなくてラッキーだったじゃないですか」

唯「なるほど」

唯「そんなわけあるか!」



梓「えっ、じゃあ知らない人に寝込みを襲われたい願望みたいなのがあるんですか?」

梓「そんな澪先輩みたいな性癖があったなんて……」

唯「澪ちゃんそんな感じなの?」

梓「願望の話ですけどね」

唯「それは澪ちゃんの?あずにゃんの?」

梓「そういえば律先輩もしょっちゅう澪先輩の部屋に侵入してるって聞きましたよ」

梓「なんか脱ぎ散らかされてた下着をネタに脅してるって」

唯「下着……」

梓「いろいろ使い道がありますからね」

唯「下着といえば、そこのタンス開けなかった?」

梓「開いてたんですよ」

唯「見たの?」

梓「目に入った可能性はあります」

唯「何枚くらい盗ったの?」

梓「人を下着泥棒みたいに言わないでください」

唯「本当は?」

梓「2枚だけですよ、失礼な」

唯「他にも余罪が出てきそうだなぁ」

梓「唯先輩の前だと素直になれるのかも……」

唯「それは素直って表現していいの?」



梓「唯先輩はどうやら自分の立場をよく理解できていないようですね」

唯「私が言いたいよ」

唯「後輩に前科がついちゃうなんて……」

梓「いいですか」

梓「私がその気になれば、この布団の中で放尿して逃げ去ることだってできるんですよ」

唯「うっわぁ……」

梓「それが嫌なら大人しく私専用の抱き枕になってください」 ギュ

唯「うわぁ寒気がする」

梓「さっきから黙って聞いてればなんなんですか」

唯「ぜんぜん黙ってないし、大声出されないだけありがたいと思ってよ」

梓「頑張って理性を保って耐えてたのに、そんな言い方ないじゃないですか」

唯「理性があったらまず他人の家に侵入しないよ」

梓「先輩が寝入っている間に一線を越える事もできたんですよ」

唯「不法侵入してる時点でアウトだけどね」

梓「添い寝するだけに留めていたのに、そんな風に思われるなんて納得いきません!!」

唯「この状況で逆ギレされるほうが納得いかないよ」



梓「じゃあ唯先輩、片思いとかした事ないんですか」

梓「自分でもどうしようもなくなるくらい、誰かを好きになった事ないんですか」

梓「いま何してるんだろうって、四六時中その人の事しか考えられなくなったり」

梓「ほんの僅かな時間でも会いたくなっちゃったり」

梓「こんな時間に偶然会えるはずないのに、気が付いたら家の近くまで来ちゃったり」

梓「そんな気持ちになったこと、ないんですか?」

唯「あるよ」

梓「えっ」

唯「可愛い子犬が散歩してたらつい後をつけていっちゃうし」

唯「ノラ猫に目を奪われて何とか近づこうとしてみたりするし」

梓「そういうのと一緒にしないでください」

唯「ノラ猫ってなんで集会するんだろうね」

梓「顔合わせとか縄張り確認とかいろいろあるんですよ」

唯「ノラ猫ですらお互いの縄張りを尊重し合うのに……」

梓「いや、そんな犬畜生どもの話はどうでもいいんですよ」

梓「話を逸らさないでください」

唯「これ以上人の道を逸らさないで」



唯「まあ片思いの気持ちはまだわかるよ?」

唯「今どうしてるんだろうなぁとか、ちょっとだけでも会いたいなあって思うのもわかるよ」

唯「どうしても会いたくなって家の近くに来ちゃうとこまでは理解できるよ」

唯「なんで家の中まで入ってきちゃうの」

梓「中野だけに」

唯「バカなの?」

唯「ていうかどうやって入ってきたの」

梓「とにかく会いたい一心で」

唯「その時の心境じゃなくて侵入の手口を聞いてるの」

梓「気が付いたらベッドインしてました」

梓「いやあ、恋って怖いですね」

唯「私は後輩の言動が怖いよ」



梓「また2人きりの秘密が増えちゃいましたね」

唯「それは私に泣き寝入りしろって言ってるの?」

梓「あっ、やっぱり他の人に私との関係を言いふらしたくなっちゃいます?」

唯「通報を言い換えるとそうなるのかな」

梓「えっ、本当に痴情のもつれごときで通報する気なんですか?」

唯「もつれっていうか、一方的に絡みつかれてるんだけど」

唯「そもそも痴情のもつれじゃないし」

梓「私を捨てるつもりなんですか?」

唯「きっとそれが2人のためになるから……」 ピッ

梓「ちょっ、わかりました!私を好きにしていいですから!何でも言うこと聞きますから!」

唯「だから帰ってよ!?」

梓「そういう命令じゃなくて、肉体関係的な話ですよ!」

唯「まるで私のほうが間違っているかのように……」

梓「私だって寂しかったんです!
  卒業してからぜんぜん部室に来てくれなかったじゃないですか!」

唯「そりゃ卒業したからね」

梓「遥か昔に卒業したのに、いまだに部室に入り浸って
  女子高生気分でだべってる卒業生だっているんですよ」

唯「それはまた特殊なケースだから」

梓「クリスマスの時もプレゼントくれなかったし」

唯「あずにゃん受験勉強とか大丈夫なの?」

梓「付き合って2年経つのに手を出してくれないし」

唯「えっ?」

梓「えっ?」



唯「ええと、もう一回確認するね」

梓「はい」

唯「付き合ってません」

梓「ちょっと何言ってるかわからないです」

唯「外人なの?」

梓「恋人ですよ?」

唯「違うって言ってるでしょ」

梓「じゃあ唯先輩は付き合ってもいない人と一緒に寝るんですか」

梓「そういう女だったんですか」

唯「それは私が言いたいんだけど」

梓「指からめていいですか?」

唯「どのタイミングで何を言い出すの」

梓「いや、手が冷えてきたので……」

唯「私の心も冷めてきたよ」

梓「目線も冷たいですね」

唯「察してるなら早く布団から出て」

梓「手が冷たい人は心が温かいんですよ?」

唯「手クセも頭もおかしいの?」

梓「指入れていいですか?」

唯「本当に通報するからね」

梓「違うんですよ、体温を測ってあげようと思っただけで」

唯「どこに指入れようとし……やめろ!」 バチン

梓「どっちの穴が良いんですか」

唯「熱を測る時って普通おでことかさあ」

梓「じゃあおでこで」

唯「ちょっ……顔の、口の距離がっ、おかしいっ」 グググ

梓「熱、熱を測るだけですから!熱を測るだけですからっ!」 グググ


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最終更新:2022年02月11日 07:52