梓「あの……」
唯「なぁに?」
梓「この旅行でまだ叶えていない夢がありました」
唯「そうなの?」
梓「ええ、むずかしいやつが残ってるんです」
梓のいつにもまして真剣な表情に淡い期待が生まれる。
唯「……なになに? せっかくの誕生日だし協力するよ?」
唯「これも誕生日プレゼントってことで」
梓「プレゼントですか……でも私が本当に欲しい物ってプレゼントには出来ないんですよ」
唯「ふぅん……そうなんだ」
梓「もちろんこの旅で先輩から貰ったものも嬉しいんですけど、こればっかりはその……」
こんなに緊張してる梓はライブ前でも見た事ない。
けどそれは私も同じだった。
手に汗がにじむ。
唯「……」
梓「私の夢は自分で掴み取らないとダメなタイプっぽいので」
はっきりと言い切った。
確かな意志を持って私を見上げている。
唯「……そっか。それは頑張らないとだね」
梓「はい。だから」
梓「唯先輩、聞いてもらえますか」
梓「私は唯先輩が……好き、です」
うふ。
うふふふふ……。
あの日の事は鮮明に覚えているし、何度思い返してもにやけちゃう。
だってあの梓が、あずにゃんが私に……えへへへ……。
梓「唯先輩……好きです」
えへぇ。
私もだよあずにゃん。
梓「ゆい。ゆいっ」
ゆい、だって。
よびすてにされちゃった。
梓「ゆいってば」
うんうん。
わたしもすきだってばぁ。
梓「なにいってるのよ。はやくおきてってば」
うんうんおきるよー。
……おきる?
梓「唯!」
*
梓「もうライブ始まっちゃうよ!」
唯「……ふあっ!?」
梓「はぁーやっと起きた」
唯「……あ、おはよあずにゃん」
梓「おはよじゃないよ。あと15分でライブ本番なんだよ?」
唯「ライブ……15分……?」
唯「……え」
唯「うそおおっっ!?」
唯「わーーーどうして起こしてくれなかったの!?」
梓「起こしたじゃん」
唯「ど、どうしよっ?! まずは、なに、あっミーティング!? リハ!?」
唯「あれ衣装は!?」
梓「落ち着いてまずは顔でも洗ったら?」
唯「そ、そうだねっ!」
大急ぎで顔を洗って表に出られる準備をした。
私ばっかり急いでて梓は部屋でのんびりくつろいでいる。
唯「ねえっ15分で本番ってぜったいマズいよね!?」
梓「あ、すみません時間間違えちゃいました。今から準備すれば普通に間に合いますね」
唯「へ? …………だまされた!?」
梓「ごめんごめん。でも今日は大事な日なんだし早めに準備した方がいいでしょ?」
梓がニコニコしながら謝ってきた。
やっぱりいじわるになった気がする。
ピュアにゃんカムバック。
梓「こうでもしないと起きないかと思って」
唯「もぉぉーひどいよあずさぁ!」
梓「もしかして楽しい夢でも見てた?」
唯「へ? 何でわかったの?」
梓「寝顔がニヤついてたから」
唯「むっ……まあね」
梓「どんな夢?」
唯「梓が私に告白してくれた時の夢」
梓「う……あ……」
日に焼けて分かりにくいけど顔真っ赤だね。
ふふん。
私だって梓の弱点(?)くらい知ってるんだから。
梓「ゆ、夢と言えば本当にここでライブできるんですね」
この豪華客船でライブをやる。
それは初めてこの船に乗った時私が掲げた夢。
唯「私達の夢が叶うね! でもカバー曲だけなのがなー」
梓「それでも十分凄いと思うけど」
唯「どうせなら放課後ティータイムの曲やりたいじゃん?」
梓「それはまあ……でも今回私達がやる曲って世界的に有名なのばかりですよ。それも何十年も前の」
唯「んー、じゃあ私達がおばあちゃんになるまでにはなんとかしたいね」
梓「ほ、本気?」
唯「もちろん!」
梓「ですよね……」
唯「この船には思い入れもあるし」
梓「それはそうだけど」
唯「カリブ最高だし何回でも来たいじゃん!」
梓「……そういえば私達の旅行先っていっつも南国ばっかりな気が」
唯「えーいいじゃん南国。いっぱい泳げるんだし」
梓「それはそうだけど……旅行先決める時に唯がいっつも泳ぎたいって言うから」
唯「ええー。そういう梓はどこでもいいって言うじゃん」
梓「まあ今回は遊びで来てるわけじゃないからいいけど」
唯「じゃあ次はどこに行こうか」
梓「もう次の旅行の話ですか」
唯「うん! まだまだ行った事ない場所いっぱいあるからね。カリブだって全部回りきれてないし」
唯「梓はどこに行きたい?」
梓「うーん……私はどこでもいいよ」
唯「ほらー。……でも私もどこでもいいかなー。梓が一緒なら!」
梓「……はいはい」
唯「ふふっ」
梓「なんですか」
唯「何でもないよー」
梓「とりあえず旅行の話はライブが終わってからね」
唯「あ、そうだったライブ」
梓「……唯は気楽でいいなぁ」
唯「失礼な、私だってちゃんと色々考えてるんだよっ!」
梓「ふーん」
唯「むー」
梓「確かに有言実行はしてますけど」
唯「でしょー?」
梓「思えば私が見た夢からすごいところまで来ましたね」
唯「その夢がきっかけでここでライブする事になったもんね」
そしてあの日私達が結ばれるきっかけにもなった。
梓はあの日の事を今までで一番素敵な誕生日って言ってくれた。
私もすっっごく素敵な日を過ごせたと思うし……あれ?
梓「そろそろ行こうか」
唯「……ねえねえ」
梓「何?」
唯「今日って私の誕生日じゃない?」
梓「……あ、誕生日おめでとうございます」
唯「えー……ひどいよあずにゃあぁぁ」
梓「いやいや、ここは日本と14時間の時差があるから日本だと……えっと」
唯「日本はもう28日だよっ!」
唯「はぁ……もっとこう、サプライズパーティみたいなのないの?」
梓「へっ!?」
唯「梓? ……あっ、もしかして?」
梓「……」
唯「い、いやーライブ楽しみだねー……」
梓「あともう少しだったのに……」
唯「梓は嘘がつけない子だね」
梓「ああぁ……」
唯「いやーがぜんやる気が出てきたぞ!」
梓「はぁ」
唯「梓」
梓「なに?」
唯「今年もよろしくね」
梓「あ、うん……こちらこそ」
私達の関係はどこまで行っても危うい事に変わりはない。
それは逆に言うといつも緊張感があって、飽きないように愛想を尽かされないようにってお互い頑張って、それが上手くいってるって事でもある。
だから私は毎年この時期が来ると梓に今年もよろしくって言うんだ。
唯「あずさっ」
梓「そろそろ行かないと……ゆい?」
梓の肩を掴んだ。
こちらを見上げる澄んだ瞳の中には私がしっかりと映っている。
それからやっぱり唇に目が行く。
梓「え、と……」
戸惑う梓へ形に出来ない誓いのくちづけを贈った。
永遠のつもりだけどとりあえずは今年一年の幸せを願って。
唯「……よし。じゃあ行こっか」
梓「ん……いきなりですね。何で今?」
唯「んー……誕生日プレゼント的な?」
梓「ふふ、それだと安く済んでいいかも」
唯「それはどうだろうね」
梓「へ?」
唯「よーしライブ頑張っちゃうぞ! 世界よ、これが放課後だ!」
梓「あっ待ってよ!」
素敵な夢を分かち合える存在。
お互いが刺激し合う素敵な関係。
たったひとつの目に見えないもので繋がれている。
この先もずっと――。
長い路を二人で共に歩いてく生き方
終わりのない悲劇でも構わないよ
君といれれば
END
最終更新:2012年12月21日 00:20