※シンコの指 → 吉原の遊女が客に「一途であること」の証として送る小指、それをシンコ(新粉)細工の偽物で代用したもののこと。



今日は愛しい君の誕生日

でもなんでかな ぼくは君に何もあげられないよ

本当はわかってるんだ

君の周りにはいつもたくさんの人がいて

君の欲しいものなんてその人達が簡単にあげてしまうんだ

だったらぼくは たったひとつ この身を捧げよう

他の誰にも真似できない 恋人としてのこの身を



律菖「「ってアホかあああああああああ!!」」ビリビリ

澪「ひいっ!?」

律「なんでその発想で小指送るんだお前は!!!」

澪「い、いや、この前講義で習って、「これだ!」って天啓が降りてきた気がして・・・」

律「お前の崇める天は第六天なの?」

菖「しかもこんなイケメン気取って滑った売れないホストみたいなキチガイポエムと一緒に・・・」

律「思わず全力で破いてしまったぞ」

澪「一枚の紙を二人で読みながら破るって地味に凄い技だよな」

律「まるで反省していない・・・」

澪「ちなみにこの指、作り方もネットで調べたんだ。かなり特訓したんだぞ」ドヤ

菖「ダメだこいつ、早くなんとかしないと」

澪「な、なんでだよ! たぶん唯だって講義で習ったなら意味は覚えてると思うし!」

律「こうして唯抜きで集まった意味を理解しろ」

澪「ど、どういう意味・・・?」

晶「恋人からの誕生日プレゼントだってワクワクしながら開けた箱の中に小指が入ってたやつの気持ちを考えたことがあるか?」

澪「・・・」

晶「しかも相手はあのバカで真っ直ぐな唯だ」

澪「あ・・・」

幸「・・・唯ちゃん、泣いてたよ?」

澪「・・・もしかして私、唯に酷いことを・・・?」

律(今更かよ!!!)

紬(口に出さなかったのは偉いわ、りっちゃん!)

澪「ど、どうしよう律! もしかして私やっちゃった!?」ユサユサ

律「あ、あぁ、うん・・・かもな・・・」ガクガク

菖(もしかしなくてもやっちゃってるよ、相手を泣かせた時点で)

澪「どうしようどうしよう、唯に嫌われたらやだよ!!」ユサユサユサ

律「あ、あぁ・・・うぉぇっっぷ」グラグラ

紬「と、とりあえず止めてあげて!」

澪「ハッ!? ムギ! タイムマシン出して! あの時の私を止めてくる!」

紬「ご、ごめんなさい今はまだ持ってないの・・・」

幸「いずれ持つ予定でもあるの?」

晶「・・・とりあえず、こんな風にテンパったが故の思考だったってのは理解できたよ」

幸「澪ちゃんも変なところあるよね」

律「ま、まぁ、小心者の澪が誕生日プレゼントを私たちに相談してこない時点で嫌な予感はしていた」

菖(あんなの相談してきてたら流石の私でも全力で阻止するよ)

澪「だ、だって、恋人としてあげる最初の誕生日プレゼントくらい、ちゃんと自分だけで考えたいじゃないか・・・」

幸「うん、気持ちはわかるよ」

澪「それに、これだけ人数いると普通のプレゼントなんて選んでも絶対被るし」

菖(被っても嬉しいのが恋人からのプレゼントだと思うんだけどなー)

紬(頑張りたい気持ちが完全に裏目に出ちゃったね)

晶「・・・反省してるなら、私からちゃんと唯に伝えておく」

澪「い、いいよ、自分で言いに行くよ!」

晶「ダメだ。澪には別のことをやってもらう」

澪「べ、別のことって・・・?」

晶「誕生日プレゼント、やり直せ。今日中に。絶対間に合わせろ、いいな?」ビシッ

澪「晶・・・」

律「大丈夫、私達も手伝うからさ、澪」

菖「不本意だろうけど、みんなで考えよ?」

澪「皆・・・ごめん、ありがとう」グスッ

紬(イケメンがたくさんいるわ)

晶「律と菖だけじゃ不安だから幸もそっちな」

幸「うん」

菖「ヒドい!」

律「晶からもこんな扱いか、私」

晶「ムギ、唯の居場所わかるか?」

紬「メールしておいたよ。部室にいるって」

晶「要領いいな・・・一緒に来てくれ」

紬「ちなみに今までの会話は澪ちゃんの部屋からお送りしました!」

晶「誰に言ってるんだ早く行くぞ」

紬「はーい」

紬「・・・唯ちゃんが言ってた通りだね」テクテク

晶「なにが」テクテク

紬「晶ちゃん、なんだかんだで優しくて面倒見いいって」

晶「・・・流石にこれを放置はできないだろ」

紬「私は晶ちゃんなら、恋人同士のことなんて二人で解決しろ!って言いそうだと思ってた」

晶「・・・唯な、泣いてたんだよ。泣いたんだよ、三回」

紬「三回?」

晶「最初は、普通に指見てビビって」

紬「うん」

晶「その騒ぎを聞きつけて私が様子を見に行った頃。次は手紙を見て澪のだって気づいて、澪の指の心配して泣いて」

紬「うん」

晶「私が作り物だって教えてやったら、そんな行動に走った澪のこと、ずっと心配してた」

紬「・・・」

晶「澪のことを自分が気づかないうちに追い詰めてしまってたんじゃないかって、ずっと心配して泣いてた」

紬「・・・うん」

晶「・・・さすがに、放っとけないだろ」

紬「優しいね」

晶「そうやって泣ける唯が、だろ」

紬「唯ちゃんも、唯ちゃんの優しさをわかってあげられる晶ちゃんも」

晶「・・・そうかい」

紬「うん」


・・・・・・


律「いやな、私は澪の方向性自体は間違ってないと思うんだ」

菖「そうそう。私もそう思う」

律「というわけで定番の『プレゼントは私!』でいこうと思うんだ」

菖「リボンで自身をラッピングってやつね!」

律「そうそう」

菖「というわけで澪ちゃん全部脱いで」

澪「い、嫌だよ!」

菖「変に捻って小指とか送るより裸の澪ちゃん送られたほうが嬉しいに決まってるでしょ!」

律「唯も興奮するに決まってるだろ!」

澪「私の唯を変態みたいに言うな! そういうの以前に仲直りしたいんだよ私は!」

律「だから身体で仲直りするんだよ」

澪「何言ってるんだお前」

菖「裸エプロンとか黒の下着とか何のためにこの世に存在すると思ってるの、澪ちゃん!」

澪「え、えぇ? えーと、その気にさせるため・・・?」

律「そう! その気にさせて他の事を全部うやむやにするため! 今回もその理屈は使えr」

幸「そろそろいいかな、菖、りっちゃん」

律「あ、はい」

菖「うん」

幸「唯ちゃんは女の子なんだからそんなオッサンみたいな理屈で考えないように。まさか真に受けないとは思うけど」

澪「う、うん。大丈夫・・・」

幸「じゃ本題。澪ちゃんは、何を送りたい?」

澪「え? えーっと、唯が喜ぶもの・・・」

幸「じゃあ唯ちゃんは何を貰えば喜ぶと思う?」

澪「・・・何だろう、可愛いものとか美味しいものとか?」

幸「うん、じゃあそっち方向で考えようか? 街に行って、何か探そ?」

律「もし選んだのが被ってたら私達が教えるし」

菖「そういう意味でも一緒に考えるって言えるよね」

澪「え、ちょ、ちょっと、そんな簡単に・・・」

幸「・・・何でもいいんだよ、『相手を考えて』選んだものなら」

澪「あ・・・」

幸「あと今回は、澪ちゃんからのゴメンネの言葉も付いてれば、唯ちゃんは喜ぶと思う」

澪「・・・うん、わかった。ありがとう、みんな」


・・・・・・


紬(――そして夜、唯ちゃんの部屋――)


澪「唯! 今日は本当にごめん!!」

唯「い、いいよー、晶ちゃんから教えてもらったし。勘違いっていうか、ちょっとした失敗だ、って」

澪「・・・よくないよ。もう一回、誕生日プレゼント、やり直させて欲しい」

唯「澪ちゃん・・・えっと・・・」

澪「私のワガママだけど、唯のこと、ちゃんと好きだって伝えたい。昔の人の真似じゃなくて、私のやり方で」

唯「・・・ありがと。あの、でもね澪ちゃん」

澪「ん?」

唯「すでにその後ろ手に持った大荷物が見えてて断れないんだけど」

澪「あ、あはは・・・ごめん。大荷物っていうか、いろんなのを買ってきただけなんだけど」

唯「いろんなの?」

澪「うん。もし唯がいらないって言ったら自分で使うから、気にしないで」

唯「澪ちゃんからのプレゼントならそんなこと言わないよ! 指みたいな怖いものは別だけど」

澪「ホントごめんどうかしてた」

唯「と、とりあえず、プレゼント見せて欲しいなー、なんて」

澪「う、うん。えっと、私なりに選んだ、可愛い柄の――」

唯「可愛い柄の・・・?」ワクワク

澪「・・・アルバム! っていうかフォトブック!」デンッ

唯「・・・? アルバム?」

澪「――と、コレもセットで! 最初はこれを飾って欲しいんだ!」スッ

唯「? あっ! この写真・・・」

澪「うん・・・」

唯「付き合うことになった日の記念写真・・・」

澪「・・・ダメ、かな?」

唯「・・・」

澪「・・・」

唯「・・・最初は、ってことはさ」

澪「うん」

唯「どんどん増やしていっていいんだよね?」

澪「うん」

唯「私と澪ちゃんの時間で、どんどん増やしていっていいんだよね?」

澪「うん」

唯「このいくつもあるアルバムがいっぱいになるくらい、澪ちゃんは――」

澪「うん、唯と一緒にいたい。さっきはやり方を間違っちゃったけど、気持ちは変わってないつもりだよ」

唯「澪ちゃん・・・ありがとう。すっごく嬉しい」ギュッ

澪「わ、ゆ、唯っ」

唯「・・・よかった。いつもの澪ちゃんだ」

澪「え?」

唯「・・・指も、ちゃんとあるし」

澪「・・・ホント、もう、忘れて」

唯「・・・じゃあ、その分素敵な思い出を、これからたくさん作ってくれる?」

澪「・・・うん、約束する。唯の誕生日に、大切な人の大事な日に誓うよ」

唯「えへへ。相変わらず詩人だよね、澪ちゃん」

澪「・・・放っといてくれ///」


・・・・・・


唯「ところであの指、新粉細工ってことは食べられるの?」

澪「えっ」

唯「えっ」

澪「・・・日付跨いだからもう賞味期限切れってことで」

唯「ちぇっ」



おわr


最終更新:2012年11月28日 19:45