唯ちゃああああああああああああああああんん誕生日おめでとおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
唯(ムギちゃんと最初に会った頃のことなんてもうあんまりよく憶えてないよ)
唯(でも特徴的な御嬢様言葉をしゃべってたような気がするね)
唯(歓迎いたしますわ~とか、まるっきり御嬢様口調だよね)
唯(あっ、ムギちゃんは確かに御嬢様なんだけどさ)
唯(今になってみるとムギちゃんらしくないなーと思うんだ)
唯(私だって最初からムギちゃんについてよく知ってたわけじゃないよ)
唯(最初はお菓子をもってきてくれる、心に余裕のある女の子、そんな印象だったかな)
唯(でもね、それが変わったんだ。あの日にね……)
唯(軽音部に入りたての頃。りっちゃんがカラオケに行こうって誘ってくれた時)
唯「琴吹さんも行く?」
紬「今回はご遠慮しておこうと思いますの」
唯「用事でもあるの?」
紬「そういうわけではないのですが……」
唯「じゃあ行こうよ~」
紬「ですがやっぱり今回はご遠慮しておきます」
唯「う~ん。無理強いはよくないかな。次こそは一緒に行こうね」
紬「はい。そうですね」
――――
律「やっぱりムギはこなかったか」
唯「やっぱり?」
律「うん。なんだかさ。みんなで集まって遊ぶことに苦手意識を持ってるみたいなんだ」
唯「琴吹さんが……」
澪「そうか? 私は単に肌に合わないだけだと思うけど」
律「いやいや、あれはそういうんじゃないと思う」
唯「う~ん……。でも琴吹さんとも一緒に遊びたいよね」
律「あぁ、なんとかできないかな」
唯「そうだね~」
唯(このときは偉そうに言ってたけど)
唯(実は私もみんなで遊ぶことに慣れてなかったんだ)
唯(和ちゃんや憂とは一緒にいるだけですごくリラックスできたけど)
唯(こうやってみんなで遊んでるときは、場を盛り上げなきゃいけないとか)
唯(そういうことを考えちゃって、そんなに楽しくなかったんだ)
唯(本当はそんなこと考えなくてよかったんだけどね)
唯(りっちゃんたちとはしゃいでるだけでとっても楽しいんだから)
唯(でもね。あの頃はまだ、私もムギちゃんもそんなこと知らなかったんだ)
唯(軽音部のみんなでボーリングに行こうって話をした時)
紬「ボーリング、ですか?」
唯「うん。琴吹さんも行くでしょ」
紬「ボーリングってなんですか?」
唯「えっ、そこから?」
紬「ごめんなさい。私なんにも知らなくて」
唯「ボーリングっていうのはね、ピンにボールを当てて得点を競うゲームなんだよ~」
紬「ピンってなんですか?」
唯「的のことだよ。こうやってえいっ! って投げるんだ~」
紬「とっても楽しそうですね~」キラキラ
唯「うん。だから琴吹さんも行くでしょ?」
紬「それは、えーっと……」
唯「行こうよ!」
紬「でもやっぱり私は……」
唯「琴吹さん、この前も断ったよね。なんで?」
紬「ごめんなさい」
唯「ごめんなさいじゃわかんないよ。理由を教えて」
紬「えっと……」
唯(あのとき、ムギちゃんはとっても困ってた顔をしてたよ)
唯(もうしわけなさそうで、どうしたらいいんだろ、って顔)
唯(結局ムギちゃんはなんにもしゃべってくれなかった)
唯(だから私は、私のことを話したんだ)
唯「ねぇ、琴吹さん」
紬「はい……」
唯「私も、みんなで遊ぶの得意じゃないんだ」
紬「平沢さんが?」
唯「うん」
紬「とてもそのようには見えませんが……」
唯「そうだよね。見えないようにしてるから」
紬「……どうして苦手なんですか?」
唯「みんなを盛り上げるために何が必要かとか、そういうのを考えちゃうんだ」
紬「私も……」
唯「うん。でもさ、それを差し引いてもみんなで何かやるのは楽しいと思うんだ」
紬「……?」
唯「私が入部する時、みんなで演奏してくれたよね。あのとき琴吹さんもとっても楽しそうだったでしょ」
紬「……はい」
唯「きっとね、あれと同じ楽しさが待ってるるんだと思う」
紬「……」
唯「だから琴吹さ」
紬「私……」
唯「うん」
紬「音楽だけはできるんです。だから演奏は楽しくできるんだと思います」
唯「うん」
紬「だけれども、口調は堅苦しいですし、面白い話もできないですし……」
唯「そんなのはどうでもいいんだよ、と言いたいけど……」
紬「……?」
唯「私もちょっとだけ不安なんだ。自分からすすんで何かをやることって苦手だから」
紬「……」
唯「だからね、ムギちゃんも一緒にがんばろうよ。私も頑張るから」
紬「いまムギちゃんって」
唯「うん! りっちゃんはそう呼んでるでしょ」
紬「……」
唯「ね、今度の日曜日、一緒にいこっ、ムギちゃん!」
唯(そのあとムギちゃんは何をしゃべっても黙ったままになっちゃいました)
唯(私はその後も、何度も何度も来てくれるように頼んだんだ)
唯(それでもムギちゃんは「うん」とは言ってくれなかった)
唯(日曜日。待ち合わせ場所に着いた時)
唯「遅れてごめーん」
澪「気にしなくていいよ」
律「あぁ、2分ぐらい遅刻したってなんてことないさ」
唯「えーっと……琴吹さんは?」
律「さっき断りのメールが来てた」
唯「そっかぁ」
澪「まぁ、仕方ないさ。行こうよ」
唯(この頃になると私もりっちゃんとのつきあいかたがわかってきて)
唯(ストライクが出るとハイタッチしてりっちゃんと盛り上がった)
唯(でも、ちょっとだけ思ってたんだよ)
唯(ムギちゃんがいれば2対2でチーム戦ができるのにな、とか)
唯(結局私の言葉は無力だったのか、とか)
唯(だから心のそこから楽しいとは思えてなかったかも……)
唯(あんまり憶えてないけどね)
唯(でね、ボーリングが終わった後、りっちゃん澪ちゃんと別れたんだ)
唯(それから憂にメールしようとして気づいたんだ)
唯(自分がケータイを持ってないことに)
唯(ボーリング場に忘れたんだと気づいて、急いで戻ったんだ)
唯(そうしたらね。なんとボーリング場の前にムギちゃんがいたんだ)
唯「ムギちゃん」
紬「あっ」
唯「来てくれたんだ」
紬「はい……」
唯「うんうん。きてくれて嬉しいよ。でもりっちゃんと澪ちゃんはもう帰っちゃったんだ」
紬「ごめんなさい……」
唯「二人でボーリングやる?」
紬「でも平沢さんは遊び終わってしまったんですよね?」
唯「うん。でももう一回やってもいいよ」
紬「悪いです」
唯「私はムギちゃんと遊びたいの!」
紬「それなら……カラオケに行きませんか」
唯「うん!」
唯(あのときはムギちゃんが来てくれたことに感激したねー)
唯(本当に嬉しかったんだよ)
唯(私の言葉でムギちゃんが来てくれたから)
唯(カラオケ屋さんを探して、二人で歌ったんだ)
唯(ムギちゃんはとっても上手に古い歌を歌ってくれた)
唯(私はただただ聞き惚れてたんだ)
唯(私が歌う番になると、ムギちゃんは手拍子をしてくれたんだよ)
唯(それがなんだかとっても嬉しくて)
唯(ムギちゃんが私のために頑張ってくれてることがとっても嬉しくって)
唯(ちょっとだけ泣きたい気持ちになったんだ)
唯(一緒に歌ったりもしたよ)
唯(二人で一緒にページをめくって『これ知ってる?』『ごめんなさい。その曲は知らないの』『じゃあこれは?』とか)
唯(『じゃあこれ歌おうよ』『でも私、その曲は音程が低すぎて』『そんなのいいからさっ、ほら!』とか)
唯(途中からはムギちゃんも遠慮が少なくなって、『一緒にこの曲歌いませんか?』と言ってくれたんだ)
唯(そして残り時間が5分になったとき)
紬「あのっ……」
唯「どうしたの?」
紬「……」
唯「ん?」
紬「ゆい」
唯「ムギちゃん?」
紬「ご、ごめんなさいっ」
唯(最初何を言われたかわからなかったけど)
唯(焦ってるムギちゃんを見てわかったんだ。私の名前を呼んでくれたんだって)
唯(だから私は自分の持ってたマイクをムギちゃんの口元に差し出したんだ)
唯(ムギちゃんは最初困った顔をしてたけど、諦めたような言ってくれたよ)
唯(『ゆいちゃん』って)
唯(それからムギちゃんは泣きだしたんだ)
唯(どうして泣いたんだろうね? その理由は今でも分からないよ)
唯(でもね。なぜだか私も泣いちゃったんだ)
唯(二人で泣いてたら、途中で店員さんがきちゃって)
唯(『一時間延長です』って私が言って……それから)
唯「……見られちゃったね」
紬「そうですね」
唯「うう~恥ずかしいよ~」
紬「そうですか?」
唯「ムギちゃんは恥ずかしくないの?」
紬「私は恥ずかしいより、嬉しかったです」
唯「そっかぁ」
紬「唯ちゃん、今日はありがとございます」
唯「ねぇムギちゃん」
紬「なんでしょうか?」
唯「口調も変えてみない?」
紬「口調、ですか?」
唯「うん。私達友達なんだからもっとフランクでいいと思うんだ」
紬「そう……ですね。唯ちゃん。これからよろしく」
唯「うん。よろしく」
唯(二年生の夏休み。実は私、ムギちゃんの家に行ったんだよ)
唯(そこで菫ちゃんに会ったんだ)
唯(菫ちゃんはムギちゃんの妹同然に育ってきた子なんだよ)
唯(私たちは三人で一杯おしゃべりしたけど)
唯(そこで色々知ってしまったんだ)
唯(ムギちゃんは昔から菫ちゃんに対してだけは遠慮がなかったんだって)
唯(私達に接するのと同じようにしてたって)
唯(それを知って、なんだか騙された気がしたんだ)
唯(ムギちゃんにとっても大切な子がいて……)
唯(私が変えたと思ったムギちゃんが、実は昔からちゃんといて……)
唯(おかしいよね……別に誰も騙してなんていないのに)
唯(私は悔しいとか、寂しいとか思っちゃったんだ)
唯(私の誕生日の時のこと)
紬「唯ちゃん、これ私から」
唯「ありがと~ムギちゃん。なにかな」
紬「あけてみて」
唯「これ……ストラップ?」
紬「うん。とってもかわいかったから」
唯「……ありがとうムギちゃん」
唯(私の17の誕生日。私の家にみんなを招いてパーティーをやったんだ)
唯(ムギちゃんがくれたのはストラップ。たぶん500円ぐらいの)
唯(昔の私だったら素直に喜んでたかもしれないけど、この時は喜べなかった)
唯(だって、ちょっと前にやったあずにゃんの誕生日のときは、手作りケーキを沢山作ってプレゼントしてたから)
唯(自分がムギちゃんの一番じゃないと思い知らされた気がしたんだ)
唯(そんな私に気づいてくれたのは和ちゃんだった)
和「唯」
唯「和ちゃん」
和「不景気そうな顔しちゃだめよ。みんな唯のために集まってくれたんだから」
唯「そう見えるかな?」
和「ええ、どうしたの?」
唯「……」
和「言いたくないんだ」
唯「うん……」
和「唯も高校に入った頃に比べるとずいぶん変わったわね」
唯「私が?」
和「ええ、とても変わったわ」
唯「うーん。りっちゃんと一緒にいたからかな~」
和「それだけかしら?」
唯(和ちゃんはそれ以上何も言わずに、優しく笑ってくれたんだ)
唯(きっと和ちゃんには私のことなんて全部お見通しなんだろうね)
唯(私は考えたよ)
唯(和ちゃんは何を言いたかったんだろうって)
唯(私は何をやればいいんだろうって)
唯(そして分かったんだ)
唯(私はムギちゃんの一番になりたいんだって)
唯(ムギちゃんの一番傍にいるのは、私でありたいんだって)
唯(だからムギちゃんに抜け出してもらって、二人でお話をしたんだ)
唯「なんだか私、とってもいらいらしてるんだ」
紬「……唯ちゃん?」
唯「最近ムギちゃん私に優しくないよね」
紬「えっと……」
唯(『私のこと好きじゃないの?』なんて、突然わけのわからないことを言っちゃったと思う)
唯(でもムギちゃんはもっとわけのわからないことを言い始めたんだ)
紬「だって、私は手が暖かいし」
紬「梓ちゃんみたいにかわいくないし」
紬「澪ちゃんみたいに美人でもないし」
紬「りっちゃんみたいに面白くもないし」
唯(なんでそんなことを言い出したのか、全然わからなかった)
唯(だって、そんなのは「私のことを好きじゃない理由」には全然ならないでしょ?)
唯(だから私は必死に考えたんだよ)
唯(そんなによくない頭だけど、いっぱいいっぱい考えたんだ。ムギちゃんの言葉の意味)
唯(そしたら一つの答えにたどり着いた)
唯(ちょっと都合の良すぎる答えだけど)
唯(他には考えられなかったから)
唯(ムギちゃんはちょっとだけ遠慮がちな女の子だ)
唯(昔と比べれば変わったけど、それでも全然だめだめだ)
唯(お揃いのストラップなのに、それを教えてくれないなんて本当にだめだめだ)
唯(気持ちがばれるのを隠すために、私を優遇してくれないのもだめだめだ)
唯(そんなだめだめなムギちゃんは、もう一度壊す必要がある)
唯(だから私は言ったよ)
唯(ムギちゃんを壊すために)
唯(今度こそムギちゃんを完膚なきまで壊すために)
唯(ありったけの思いを込めて)
唯(この言葉を伝えたよ)
唯「――――」
唯(私の誕生日。ムギちゃんはもう一度壊された)
唯(生まれ変わったムギちゃんは、私のために笑ってくれた)
唯(私は手を差し伸べた)
唯(遠慮がちに握り返す手は、暖かだった)
おしまいっ!
最終更新:2012年11月28日 20:24