………………………

紬「ん……?」

澪「あ、ムギ!気分はどう?」

紬「うん……なんとか。運んでくれてありがと、澪ちゃん」

澪「はは、いいって。突然倒れてびっくりしたけどね」

紬「だって、澪ちゃんがあんな事言うから……」

澪「あんな事って、お姉ちゃんって呼んだ事?」

紬「う」

澪「?」

紬「いきなりは……ずるい……」

澪「え?何?」

紬「なんでもない!」

澪「そ、そう……」

澪(なんだったんだろ?)

澪「それより、もし疲れたんなら、そろそろ引き返すか?」

紬「うーん、そんなに疲れてはいないし、どこか建物の中に行きたいな」

澪「近くの、まだ開いてる建物……あっ」

紬「?」

………………………

某大手チェーンのレンタルビデオショップ

紬「あったか~♪」

澪「こんな時間でも開いてるもんだな」

紬「わたし、真夜中にこういうお店に来てみたかったの~」

澪「そう?それじゃ、いろいろ見てくか!」

紬「いぇす!」

澪「ムギってどんなのが好きなんだ?曲とか、ドラマとか」

紬「んー、そうねえ……あ、これ!」

澪「これ?」

紬「そう!《茶店部シリーズ》の『消化』ってドラマ♪」

澪「ああ、原作の小説は読んだことあるよ」

紬「私はドラマから。もも姉が主演って聞いて、気になって見始めたらハマっちゃったの」

澪「もも姉って……確か、現役高校生カリスマモデルの?」

紬「好きなの!ファンなの!だからそう呼んでるの!」

澪「い、意外だな」

澪(むしろ予想外だよ)

澪「そ、それでどんなところが好きなの?」

紬「最後の方で黒幕に『私、血になりました!』って叫ぶんだけどね、
  いつも途中で噛んじゃうの!なんか安っぽいグダグダな感じが最高なの!!」

澪「」

澪(私の知ってる話と違う)

紬「今度、DVD見せてあげるね!」

澪「せ、せやな……」

澪(むしろ唯に勧めた方が間違いなくハマるだろうな)

紬「で、澪ちゃんのオススメは?」

澪「私?えーっと……」

紬「澪ちゃんの事だから、案外魔法少女もののアニメとか出てきそうね」

澪「はずれ。っていうか、どういうイメージだそれ」

紬「むむむ。あんなに乙女チックな歌詞が浮かぶくらいだもん。
  そういうのに憧れてると思ったのに」

澪「(遠からず当たってるのが憎い……)
   あ、これこれ!『Trinity』の最新ライブDVD!」

紬「へぇ~、澪ちゃんこういうのも見るんだ」

澪「最近ハマったんだけどな。ダンスのキレがすごくて、とても高校生とは思えないよ」

紬「高校生?!」

澪「ああ。メンバー全員同級生なんだ。
  メジャーになった今でも、地元でよくライブしてるんだって」

紬「てっきりもっと年上だと思ったわ」

澪「あー……」

?「あの、すいません!」

澪「?」

紬「何かしら?」

?「その『Trinity』のライブDVD、先に借りてもいいですか?!」

??「すみません。私たちダンスやってるんですけど、そのDVDが明日どうしても必要なんです」

?「これ以上待たせたらミキたんに怒られちゃう……」

??「もう。連休だからって宿題全然してないから、こんなドタバタする事になるのよ」

?「だって~……」

紬「まぁまぁ」

澪「私も急ぎじゃないし、これどうぞ?」

?「わはっ、ありがとうございます!!急ご、せつな!」

??「あっ!ちょっと、待ってってばぁ!」

澪「……すごいエネルギーだ……」

紬「りっちゃんと澪ちゃんみたいだったね」

澪「そうかなぁ?どっちかって言えば唯と和だと思うんだけど」

紬「どっちも羨ましいわ。……私には、そういう人がいないから」

澪「ムギ……?」

紬「……なんてね。お金もないし、そろそろ出ましょう」

澪「あ、あぁ」

紬「ところで、このあとどうする?」

澪「うーん……結構歩いたよな……
  距離的にはぼちぼち引き返すべきなんだけど」

紬「?」

澪「最後にちょっと寄りたい所があるんだ。ついてきて?」

…………………

紬「ふわぁぁ……」

澪「最近見つけたんだけど、どうかな?」

紬「素敵……街の明かりがあんなに……」

澪「だろ?ここの丘、ちょうど街を見下ろせる所だから」

紬「本当ね!だって、サイレンの光までくっきり見えるんだもん」

澪「……サイレン?」

紬「ほらあそこの、赤いの」

澪「まずっ……!!」

紬「まぁまぁ澪ちゃん、落ち着いて」

澪「落ち着くも何も、さすがに警察は――!!」

紬「よく聞いて?……このサイレンの音、救急車のよ」

澪「………………」

紬「もーっ!澪ちゃんってば、慌てんぼさんなんだから~」コノコノ

澪「…………………」

紬「……澪ちゃん?」

澪「……脅かさないでよぉ……」ヘナッ

紬(可愛い――!!)キュンキュン

紬「あ、安心して?もし澪ちゃんが危ない目に遭っても、私が絶対に守るから」

澪「ほんと?」

紬「ほんとにほんと。何があっても、最後の最後まで守り抜いてみせるわ」

澪「……どうして、そこまでしてくれるんだ?」

紬「それはね……澪ちゃん。
  ……あなたの事が好き。大好き。――ううん、愛してるから」

澪「え……えぇっ?!」

紬「大好きな人には、いつだって笑っていてほしいもの」

澪「ででででもわっ私女だし、その想いはちょっと重いっていうか困るっていうかっ」

紬「………………」グス

澪「わっ?!泣くなって!もっもちろんムギが嫌いなわけじゃないしっ、
  むしろ好きだし、だからこそもう少し建設的にだな……」

紬「……ぷふっ」

澪「へっ?」

紬「あははっ、ごめんなさい!反応が可愛くて、つい……ふふっ」クスッ

澪「は、図ったな?!」

紬「ううん、違うの!そういうことじゃなくて、純粋でいいなー、って思って」

澪「純粋?」

紬「ほら、澪ちゃんってかなりストレートに物事を受け止めるじゃない」

澪「言われてみれば、そうだけど……そのせいでよく貧乏くじ引くし、損な事ばかりだぞ」

紬「そう?どんな事でも真剣になれるって、素敵なことだと思うけど」

澪「逆だよ。馬鹿正直に考えすぎて、先に進めない時だらけでさ」

紬「…………」

澪「変えたいと思ってるんだ。でも、結局変えられなくてさ……時々、こんな自分が嫌になる」

紬「――えいっ」ぎゅーっ

澪「むぎゅっ?!」

紬「いいのよ、そのままで。気に病む必要なんて全然ないわ」

澪「……でも」

紬「大丈夫……私がついてるから。言ったでしょ?何があっても、絶対に守るって」

澪「…………」

紬「私が好きなのは、いつもクールで真剣で、時折見せる子供っぽさが可愛い、とてもまっすぐな女の子なの――」

紬「――だからお願い。そんな素敵な子、嫌いにならないであげて」

澪「……ありがと」

紬「どういたしまして。こんな私のアドバイスでも、役に立つなら嬉しいな」

澪「十分すぎだよ!すごく落ち着いたし……やっぱり、ムギはすごいな」

紬「そんな、全然……それを言ったら、りっちゃんの方がずっとすごいよ」

澪「へ?律?」

紬「ほんとに羨ましいの。いつも隣にいるのが当たり前で、
  澪ちゃんの事ならなんでも知ってる――幼馴染みがね」

澪「……うーん、美化しすぎじゃないか?そんな恋人みたいな奴じゃないってば」

紬「そんなことないよ。私の知らない澪ちゃんをいっぱい知ってて、それを自然に引き出せるんだもん」

澪「……」

紬「澪ちゃんとりっちゃんの仲良しは見てて楽しいんだけど。仲良しすぎるぶん、余計に……ね」

澪「……ごめん」

紬「え?」

澪「こんなに私のこと考えてくれてるのに、何も返せなくて」

紬「いいの、気にしないで?私が勝手にお節介焼いてるだけだから」

澪「でも!私のこと大好きだって、守ってくれるって言ってくれて……嬉しかった」

澪「だから私も、ムギに何かしてあげたい」

紬「うーん……」

澪「お願い!私の気が済まないんだ、何かさせて!何でもするから!」

紬「……ホントに?」

澪「あ、ああ」

紬「じゃあ……して?」

澪「してって、何を――わぁっ!?」

澪(ム、ムギがいつの間に、こんな近くに……!)

紬「もう、わかってるくせに……澪ちゃんのいけず」

澪「あ、あのなムギ、こういうことはだな」

紬「んー?さっき何でもするって言ったよね?」

澪「言ったけど……でも……」

澪(うう……ムギの身体、あったかくて、絡み付いてきて……)

紬「……おねがい」スル

澪「あ……ああっ……」

紬「ね、澪ちゃん……いいでしょ……」スッ……

澪「っ……そんな、待ってっ、心の準備が――」







紬「……でこぴん、くらい」

澪「―――はい?」

紬「でこぴん、して?」

澪「……デコ、ピン?」

紬「そ。でこぴん」

澪「………………」

紬「………………」

澪「……………ぷっ」

紬「…………あれ?」

澪「くっ、あははははははっ!」

紬「?!」

澪「あははははっ……ははは……」

紬「……あの」

澪「………………」

紬「……澪ちゃん?」









澪「……バカぁぁぁぁっ!!」ピシィィィィィッ

紬「あいたーっ!」

…………………………

澪「まったく……ムギの冗談は心臓に悪いよ」

紬「ごめんなさい……。でも、結構真剣だったのよ?」

澪「だからって、あんな迫り方はないだろ」

紬「あら?私は何がしたいって言わなかったのに、先走ったのは澪ちゃんじゃない」

澪「それは……だって」

紬「『そんな、待ってっ、心の準備が――!』」

澪「なっ!!」

紬「うふふ、可愛かったわ♪」

澪「うう……ムギ、ずるいよ……」

紬「いいじゃない、今夜くらいは……ね?」ツン

澪「……ま、そうだな」

紬「………………」

澪「………………」

紬「……そろそろ、着いちゃうね」

澪「……うん」

紬「楽しかった。楽しくて楽しくて……ずっと歩いてたいくらい」

澪「私も――ムギが隣にいたから、こんなに楽しい夜が過ごせたんだと思う」

紬「澪ちゃん……」

澪「これから受験で、どうなるかわからないけどさ」

紬「……うん」

澪「私は……離れたくない。この先何があっても、ムギと一緒にいたい」

紬「……私も!ずっと澪ちゃんのそばにいたい!」ぎゅーっ

澪「わっ?!だから、そんなにくっつかなくても!」

紬「えーっ?恥ずかしがることないじゃない~」

澪「そういうことじゃなくてだな……」

紬「でも、こうしたほうがあったかいでしょ?」

澪「……イエローカード!」ピシッ

紬「あうっ、そんなぁ」

澪「……なんてね。『お姉ちゃん』」

紬「……~~っっ//」

…………………………

澪「やれやれ、なんとか着いたな」

紬「お疲れ様、澪ちゃん」

澪「ムギこそ、お疲れ様」

紬「また、歩こうね」

澪「もちろん。いつでもいいよ」

紬「えへへ、ありがとっ!」

澪「さて、それじゃ中に……」

ガチャッ

澪「……ん?」

紬「どうしたの?」

澪「いや……その……」

ガチャガチャ

澪「……………」

紬「…………まさか?」

澪「……その、まさか」

紬「……………」

澪「………自分ちなのに、なんで……どうして……!」

紬「……まだよ、澪ちゃん」

澪「え?」

紬「まだ残されているはずよ。どんな絶望でも跳ね返す、最後の光が」スッ

澪「……ケータイ、か……!」

紬「私たちならできる。今までだって、そうやって乗り越えてきた……そうでしょう?」

澪「ああ……ああ!」

紬「行くわよ、澪ちゃん!」

澪「うん!
  じゃあ、とりあえず私は梓にかけるから――」

紬「チェインジ!プリキュアッ!ビートアァーップッ!」

澪「いや違うでしょ、って、なんで私までえぇーっ?!」

おわる!





最終更新:2012年11月30日 00:43