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最近、よく夢を見る。

私と律がまだ小さかった頃のだ。


あの時の私は引っ込み思案で何をするにも律と一緒じゃないと出来なくて、
いつも後ろに隠れていた。


知らない何かと触れるのが、関わるのが怖くて。

そんな私を見て律は軽く笑いながらこう言うんだ。


『澪は私がいないとダメダメだな。だからずっと一緒にいてやるよ』


そこで夢はいつも終わる。


――――――

――――

――


「澪、澪」


なんだようるさいな、せっかく良い夢だったのに。
ん……律の声……?


「起きろよ、着いたぞ」

「着いた?」

「おいおい、澪が行こうって言ったんだろ? 新曲の歌詞が思いつかないから、
 気分転換しに海に行きたいって」


ちょっとふくれっ面の律。
そういえばそうだった。ごめんって。


まだ眠たくて重い瞼を擦って起きる。


慌てて電車を降りるとそこは海に面した港町のせいか、
既にほんのりと潮風の匂いが漂っていた。


それにテンションでも上がったのか、
後ろでは律が「早く行こうぜ」と、私の肩を叩いて急かしてくる。


こういう所は子供の時からずっと変わってない。



「言っておくけど遊びに来た訳じゃないぞ。
 あくまで歌詞のヒントとかを探しにだな……」

「分かってるって! 早く早く!」


そう言うより早く、律は私の手を取って駆け出す。


思わぬ温もりに一瞬、ドキッとしたけど顔にはギリギリ出さない。


こういうのをしれっとやるんだよな……



それから三十分ばかり律に手を引かれて走らされた。


体力はそこそこある方だとは自分でも思ってたけど、
この町は緩やかとはいえ坂が多くて結構キツい。いやシンドい。


私達が海に辿り着いたのは、私が息も絶え絶え……という所でだった。


「体力無いな澪」

「う……るさい……はぁ……はぁ……」


なんで律はそんな涼しい顔してるんだよ。
やっぱりドラムをやってると体力つくのか?


「はぁはぁ言ってる澪しゃんえろーい」


軽口に言葉を返す気力も無かった私は無言で律の頭に鉄拳制裁を下した。


「澪ー! 見てみてヒトデ!」

「うん、分かったからそれをこっちに持ってくるなよ」


視線は目の前のノートに向けつつ、律をあしらう。


私は歌詞を考えるのに忙しいの!
海……お魚……マグロ……クジラ……イルカ?


「うわ、でっかい貝殻! これ澪の水着に……」

「するか!」


貝殻……貝……あさり……しじみ……ホタテ!


あ、これは駄目なパターンだ……


「歌詞れひたか?」

「いやまだ何も……何食べてるんだ」


律はいつの間にかほっぺをもぐもぐと膨らませている。

なんだかハムスターみたいで可愛らしい。


「たこ焼き。なんか向こうで売ってた。澪も食べる?」


そう言うと律はたこ焼きの一つを爪楊枝に刺して「ほい」と差し出す。


「ありがと。んっ」

「美味しい?」


うーん、まあまあの味かな。

タコがちょっと小さいのがややマイナス。


「普通」

「フツーか。ま、そうだろうな」


お前はたこ焼きの何を知ってるんだーと、
ツッコミそうになったけど口には出さない。


律と最後の一つを半分こして食べた所で「うー」と伸びをする。


「ねぇ、澪。少し歩かないか?」

「やだ。足クタクタだし」

「第一、遊びに来た訳じゃないって言ったろ」


なんとなく今の言い方は少し冷たかったかもしれない。


「いいじゃんよー。きっとこれも気分転換になるって」


その口振りから律が私をどこかに連れて行きたいのが分かる。


「……ちょっとだけだからな」


結局、負けてしまった。


歌詞がまだ閃かないのもあるけど、
律が私をどこに連れてってくれるのか興味もあったからだ。


「よーし、こっちだ澪!」


また、律が私の手を握って歩く。

今度は走らずにゆっくりと私のペースに合わせて。



……日が落ちてきたな。


「ここ、さっきたこ焼きを買った時に見つけたんだ」


律の指差した先には小さな岩のアーチ。


それをくぐり抜けてみるとその先は小高い丘のようになっていて、
眼前には水平線が広がっていた。


「わぁ……!」

「凄いだろ?」


夕日が水面に反射してキラキラ輝いてる。


綺麗……。


「座ろうぜ」


トントンと地面を叩いて私も座るように促す律。


少し律の顔が赤いように見えたのは気のせい……かな?

光に紛れて表情がよく見えない。


「これを見せたかったのか?」


律の隣りに腰を下ろす。


「うん、超奇麗だよな」

「風情もへったくれもない言い方だな」

「へへ、悪いね」


そこで言葉は途切れる。

この景色に見入ってるんだろうか。


「私さ、最近夢を見るんだ」


不意に口を開く律。

ちらっと律に顔を向けると律も私を見ていた。


「どんな?」

「私と澪が子供の頃の夢」


……子供の?


「私が澪と一緒に遊んだり、いじめっ子から澪を守ったりしてんの」

「……でさ、上手く言えないんだけど夢なのに夢のような気がしなくてさ」



「澪、知ってる? ……いや、覚えてる?」


「『澪は私がいないとダメダメだな。だからずっと一緒に――』」


声が波の音でかき消される。


「……律?」


反応は無い。


「……やっぱ何でもない! 恥ずかしーし」


そのままそっぽを向く律。


今度はちゃんと見えたぞ。

柄にもなく、でもとっても愛らしく顔を赤らめた律を。


「そっか」


律に近づいてカラダを寄せる。

そしてこつん、と律の肩に頭を乗せてみた。


「み、澪?」

「いいから」


安心出来る律の香りと温かさを肌で感じながら目を閉じる。


ここは私がほっと出来る場所。


「私もさ、夢を見るんだ」


子供の頃に交わした小さな約束。


「……どんな?」


律が私に問いかける。


「……言わない!」

「なんでだよ?」


だって言わなくても分かるだろ?

ここにこうして私と律がいるんだからさ。


私はすぅ、と大きく息を吸って、海の向こうへと叫んだ。


「りーつ!」


きょとんとした顔の律。

でもすぐにニッと笑って、律も海へ向かって叫んだ。


「みおー!」

「りーつ!」

「みおー!」

「りーつ!」


そして二人で顔を見合わせて笑い合うと、
今度は私から、自分から律と手を繋いだ。


おわり





最終更新:2012年12月13日 01:46