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「それでどうして私の部屋に集まってるんだよ?」

澪が少しだけ困った顔で呟く。
自分の部屋なのに、何となく居心地が悪そうにも見える。
まあ、その気持ちも分からないでもないけどさ。
でも、私はわざと口を尖らせて、澪の肩に手を置いて言ってやった。

「何だよー、澪だって和には世話になってるだろー?
特に澪は高二の頃、和と同じクラスだったわけなんだしさ」

「いや、それはそうなんだけどさ……。
だけど、いくら何でもこれは狭過ぎるだろ……」

また呟きながら、澪が自分の部屋の中を見渡して軽く溜息を吐いた。
まさか自分の部屋の中がこんな状態になるなんて、思ってもみなかったんだろう。
和のためとは言っても、私だってこれが自分の部屋だったらちょっと嫌だ。

「ごめんね、澪ちゃん」

「和ちゃんのためにも、協力お願い!」

幸と菖が自分の胸の前で両手を合わせて、澪に頭を下げる。
和とは一度も会った事もないのに、その表情はとても真剣だ。
よっぽど唯のお目付け役みたいだった和に感情移入してるんだろうな。
何だか私まで嬉しくなってくる。
それはそうと。
澪の言う通り、今の澪の部屋の中は狭過ぎた。
荷物で溢れてるってわけじゃない。
人の波に溢れてるんだよな。
今、澪の部屋の中には、実に計八人の女達が集っている。
私、澪、唯、ムギ、菖に幸と晶、それに曽我部先輩だ。
皆、私の呼び掛けに応えて、澪の部屋に集まってくれたんだ。
あ、いや、曽我部先輩は呼んでないんだけどな。
私が集合を呼び掛けた時、澪が不意に思い出して曽我部先輩を呼んでくれたんだよな。
そういや、曽我部先輩って元生徒会長だったんだよな、すっかり忘れてたけど。
これは呼んでおかない方が失礼だった。
生徒会での和を一番よく知ってるのは、この中では曽我部先輩だろうしな。
グッジョブだぜ、澪!


「いやいや、私だって和には世話になってるから何かお返ししたいんだ。
だから、そんなに頭を下げないでくれよ、二人とも。
二人が和の事をそんなに考えてくれるなんて、私だって嬉しいんだからさ」

苦笑しながら、澪が菖と幸に返した。
それは苦笑ではあったけど、決して困ったり迷惑してる表情じゃなかった。
私の我儘を渋々ながら聞いてくれる時にいつもしてる澪の顔だった。
澪も親友なんだよな、和の。
だから、すぐに曽我部先輩の事も思い出せたんだろう。

「でもさ、律……」

澪が首を傾げて私に訊ねる。
単純に疑問を思ってるだけって感じの顔で、小さく続けた。

「どうして、皆が私の部屋に集まってるんだよ?
いやいや、別に嫌ってわけじゃないぞ?
ただ大人数なんだし、外で集まった方が都合がよかったんじゃないか、って思ってさ」

「何言ってんだよ、澪。
集合掛ける前にも言っただろ?
パソコンを上手く使えるのは、この中じゃおまえだけなんだって。
和とたまにパソコンでメールしてるって前に言ってたじゃんか」

「それなら後からだって一人で作業出来たんだけど……」

「駄目駄目、分かってないな、澪ちゅわんは。
メールや写真の準備やら何やら、全部の作業を皆でやりたいじゃんか。
折角のお祝いなんだし、皆で力を合わせて作っちゃいたいんだよな。
そのためには澪の部屋に集まった方がいいかな、って思ったわけなんだよ。
私だってちゃんと色々考えてるんだぜ?
えっへん!」


最後には腰に手を当てて、偉そうに振る舞ってやった。
自分でも結構無茶を言ってるとは思う。
それでも、私はこの想いを押し通したかった。
皆の力で祝いたかったんだ、和の事を。
これまでの感謝を込めて。

「何を自慢気にしてるのかは分からないけど……」

そこまで言ってから、澪が優しく笑った。
たまに見せる、私の好きな澪の優しい表情だった。

「でも、分かったよ、律。
お祝いなんだもんな、皆の力を合わせないと和にも悪いよな。
一年に一度の大切な記念日なんだもんな……。
よし!
じゃあ、メールの作成と添付画像の修正は私に任せてくれ!
画像の何処を修正したらいいのかは、律と唯に任せるから指示を頼むぞ。
星とか花とか、可愛らしく加工してくれよな。
そういうのは律達の方が得意だろうしさ」

「りょっかーい!
何だよ何だよ、澪もやる気になってきたじゃんか。
そのやる気、グッドだぜ!
グーッド!」

「何だよ、それ」

澪が呟きながら、私と視線を合わせて楽しそうに笑う。
釣られて、私も笑った。
友達のために何かの準備をする……。
その久々の感覚が私と多分澪も嬉しくさせたんだろう。
ふと思い立って、軽く周囲を見回してみる。
皆、思い思いの話をしながらも、楽しそうな顔をしてる。
唯やムギに曽我部先輩は勿論、菖と幸まで楽しそうな顔をしてるのは凄く嬉しかった。
私にも大切な物を共有出来る新しい友達が出来たんだな、って何だか感慨深くなる。
嬉しいな……。


「おい、律……」

不意に私の背後から途轍もない負のオーラを感じる。
あ、一人楽しそうじゃない奴が居た。
いや、負のオーラってのは言い過ぎだけどさ。
とにかく、私は肩を竦めて背中側に振り返ってみる。
予想通り、そこではちょっと不機嫌そうな晶がジト目で私を見つめていた。
私は小さく溜息を吐いて、首を傾げながら訊ねてやる。

「何だよ、晶ちゃん……」

「晶ちゃんじゃねーよ……。
何で私はここに呼ばれてるんだよ……。
私はそんなに暇じゃないんだよ……」

晶がジト目と言うか、ガンを飛ばしながら憎々しげに私ににじり寄って来る。
おわっ、こえー……。
でも、晶の言ってる事は正論でもあるんだよな……。
晶は和と会った事無いどころか何の関係も無いわけだし、
今日この部屋に呼ばれる筋合いなんて、一つも無いんだよな。
正直言って、私だって晶を呼ぶのはどうかと自分でも思った。
だけど、呼びたかったんだ。
私と晶は犬猿の仲って言ってもいいくらいだけど、それでも友達なんだ。
晶からどう思われてるのかは分かんないけど、私は晶の事を友達だと思ってるんだよ。
一人だけ仲間外れになんて、出来ない。
勿論、そんな事を面と向かっては言えない。
私は軽く肩を竦めて、晶に軽口を叩いてやる。

「まあまあ、いいじゃんか、晶。
暇じゃないって言っても、今日は暇だろ?
これでも晶は忙しいだろうと思って、クリスマスには呼ばなかったんだぜ?
晶は忙しかったんだろ、クリスマス?」

「晶がクリスマスに忙しかったなんて……」

私達の会話を横で聞いていた澪が頬を赤く染めて俯く。
きっと晶がクリスマスに彼氏と過ごした想像でもしてるんだろう。
その澪の様子に気付いたらしい晶が頬を染めて叫んだ。

「へ……、変な想像してんなよ、澪!
私は確かにクリスマスには忙しかったけど、バイトで忙しかっただけなんだからな!
単にそれだけなんだからな!」

それは普段のドスの効いた叫びじゃなくて、随分と可愛らしい叫びだった。
晶も女の子なんだよなー、こんな外見ではあるけど。
まあ、晶がクリスマスにバイトて忙しかったのは私も知ってたけどさ。
大体、クリスマス付近は皆のバイトが忙しかったから、集まるのが今日になっちゃったわけだし。
最近、ちょっと髪が伸び始めた晶が、あの適当な先輩にまだ一途なのも知ってる。
やーい、相変わらずの一途キャラ一途キャラ。
あの人はやめといた方がいいと思うけど、恋は盲目って言うしな。
今は好きに恋させてやる方がいいだろうな。
上手くいかなかった時には、ケーキのヤケ食いくらいには付き合おう。
私は苦笑しながら続けてやる。


「たまには私達に付き合ってくれてもいいじゃんかよ、晶。
バンドメンたるもの、友達の要望には応えてやるもんだろ?」

意外とその『友達』って言葉は簡単に口に出せた。
晶には否定されるかもしれないけど、
私が晶をどう思ってるか、って事くらいは伝えておきたかったんだよな。
晶はその結構な決心が込められた私の言葉を特に気にした風でもなく、頭を掻きながら応じた。

「何だよ、バンドメンってのは……。
メンじゃねーし、女だし。
つーかさ、友達っつっても、律はともかく、和って唯の幼馴染みの事はよく知らないしなー。
ん? どした、律?」

多分、私が相当に間抜けな表情をしてたんだろう。
晶が首を傾げて私の顔を覗き込んだから、
私は「何でもねーって」って大きく首を横に振った。
そっか……。
晶も私の事を友達だって思ってくれてたのか。
改めて確認する事じゃないけど、やっぱり嬉しかった。
勿論、それを晶に悟られるわけにもいかない。
そんなのはきっと晶も望んでないだろうからな。
だから、私は満面の笑顔を浮かべてから、言ったんだ。

「ま、晶の言う通りだけどさ、
和はそういうの気にしないタイプだと思うぞ?
祝ってくれるなら、誰だろうと喜んでくれる……。
そういうタイプなんだよ、和って奴は。
それに折角、菖と幸が乗り気になってくれてるんだからさ、
二人のバンドのメンバーとして晶も参加してくれると私も助かるよ。
私も晶達の事……、恩那組の事を和に紹介したいしさ。
宿命のライバルだ! ってな」

「宿命のライバル……ねえ。
対バンじゃ、私達の圧勝だったけどな!」

「うっせ! きっと僅差だ! 時の運だ!
次は必ず晶達を倒しちゃる!」

「やれるもんならやってみな。
って、ぐえっ!」

『ぐえっ!』ってのは、晶の呻き声だった。
何が起こったのかと思ったら、すぐに晶の後ろから菖が姿を現した。
どうやら菖が晶の背後からキックを噛ましたらしい。
その場に倒れ込んだ晶が、菖に恨めしそうな視線を向ける。

「何でいきなり蹴るんだ、菖……」

「晶が喋ってる間に準備が終わっちゃったからだよ。
駄目でしょー、ちゃんと友達のお祝いの準備は手伝わないとー!」

「いや、私はまだその和って子とは友達じゃ……」

「友達だよー。
私達とりっちゃん達は友達!
りっちゃん達と和ちゃんは友達!
そして、友達の友達は友達!
これで証明終了! Q.E.D.ってやつでしょ!」

「おまえ、それ最近覚えた言葉だろ……」

「そんな事はどうでもいいの!
誰かと友達になるって事はね……、
その子の人間関係も丸ごと受け容れるって事なんだよ、晶!」



そう言った菖の笑顔は輝いていた。
輝く金色の髪と同じくらい、眩しく輝いていた。
まったく……、菖は凄いな……。
色んな事に物怖じしないで、大切な事が分かってる。
私も菖に負けないように、今は和の事を大切に考えなきゃな。
私は菖の手を取って笑い掛ける。

「いつの間にか準備が終わってたなんて、悪いな、菖。
本当は皆を集めた私が率先して準備しなきゃいけなかったんだけどさ」

「ううん、気にしないでよ、りっちゃん。
りっちゃん達は後で画像の修正とかするんでしょ?
そっちの方で頑張ってくれたら十分だと思うよ?
何もしなかった晶は、罰として私達の海外旅行に付き合う事!
和ちゃんの留学先で、和ちゃんにちゃんと謝りなよ!」

「はっ?
和って子のお祝いに協力しろとは言われたけど、留学先にまで行くとは聞いてないぞっ?
大体、いくら掛かると思ってんだよ!」

晶が菖に蹴られた背中を擦りながら反論する。
それも正論なんだけど、私は出来れば晶も和に紹介したかった。
直接会わせて、紹介してやりたかった。
これが私達の新しい友達なんだって。
だから、ちょっとずるいとは思うけど、私は晶の耳元で囁いてやる事にした。

「なあ、晶。
和の事について、菖達からどれくらい聞いてる?」

「えっ?
まあ、唯の幼馴染みで、保護者みたいなもんだったって事くらいは……」

「よく考えてみろよ、晶。
あの唯の保護者だぞ?
あの唯の傍で平然と幼馴染みをやれてるような奴だぞ?」

「何が言いたい……?」

「唯の扱い方について、いいアドバイスがもらえるとは思わんかね、晶くん……!」

「なん……だと……!?」

「和のスルースキルは一部ですっげー有名なんだぜ。
これを身に着ければ、唯の扱いに困らなくなるとは思わんかね……!」

「留学先……、行ってやらなくもないな!」

立ち上がって、それはそれはいい笑顔で晶が宣言する。
ふっ、ちょろい奴よの……。
って、まあ、本当に唯の扱い方が知りたいのが半分、
丁度いい大義名分になったのが半分、って所だろうな。
色々言ってはいるけど、晶も唯の幼馴染みの和の事が気になってるんだと思う。
じゃなきゃ、そもそも今日、澪の部屋になんか来ないだろうしな。


「わーい!
晶ちゃん、和ちゃんと会ってくれるんだ!」

傍で聞き耳を立てていたらしい唯が急に晶に抱き着く。
もう流石に抱き着かれ慣れてきたらしい晶が、呆れ顔で唯の言葉に応じた。

「勘違いすんなよ、唯。
折角の大学生活、海外旅行に行くのも悪くないか、って思っただけだ。
宿泊先の当てがあった方が、旅行する身としては助かるからな」

「それでも嬉しいよ、晶ちゃーん!
和ちゃんに大学で出来た可愛い親友だって紹介するね!」

「単なる海外旅行だぞ!
つか、可愛いって何だ!
しかも、親友ってのは何だ!
あーっ、突っ込みが追い付かねーっ!」

ははっ、何だこいつら。
こんな短期間ですっかり親友じゃんかよ。
和も唯にこんな親友が出来たって聞いたら驚くかもしれないけど、きっと喜んでくれるよな?
と。
笑っていたはずの唯が不意に表情を曇らせた。
突然の事に動揺したのか、晶が不安そうに唯に訊ねる。

「いきなりどうしたんだよ、唯。
腹でも痛いのか?
拾い食いはやめろ、ってあれほど言っただろ!」

「ち、違うよー……。
晶ちゃん達を紹介出来るのは嬉しいけど、ちょっと残念だなー、って思ったんだよね」

「残念……って何がだ?」

「本当はね、私、和ちゃんに歌をプレゼントしたかったんだ。
私達から和ちゃんに贈る歌をね……。
でもね、それを思い付いたのが一週間前、
りっちゃんに今日集まるように言われてからだったから、間に合わなかったんだよね……。
だからね、私ってやっぱりのんびりなんだなあ……、って思っちゃって……」

そう言った唯の表情はとても悲しそうだった。
自覚してはいるんだろうけど、そののんびりさを自分でも反省する事があるんだろう。
確かにのんびりまったりしてるのは唯の欠点ではある。
でも、それ以上にそれこそが唯の魅力でもあるんだ、って私は思う。
私はのんびりまったりしてる唯を見るのが好きだ。
一緒にのんびりするのが好きだ。幸せだって思う。
だから、それを気にする必要なんて無いんだよ。
それを私が伝えるより先に……。

「いいんだよ、唯」

澪が唯の頭に手を置いて、静かに撫でていた。
優しい笑顔で、唯に微笑み掛ける。


「のんびりしてたっていいんだよ、唯。
きっと和もそんなのんびりした唯の事が好きなんだからさ」

「そっ……かな……?」

「ああ、ずっと幼馴染みをやってるんだから、おまえが一番分かってるだろ?
和は一人で自分の道を進んでる子だけど、唯や私達の事を待っててくれる子なんだって。
ずっと先で、私達の事を見ててくれてる子なんだってさ。
逆にさ、今日に間に合わせるように歌を作ったって、よくないって思うぞ?
そんなの時間に追われて満足な歌が作れないに決まってるじゃないか。
そんな歌を作るより、じっくり時間を掛けて作ろうよ、唯。
おまえと……、私達から和に贈るメッセージ・ソングをさ」

「そっか……。
うん……、そうだよね!
和ちゃん、そっちの方が喜んでくれるよね!」

「ああ!
だから、メッセージ・ソングを贈るのは、和の留学先に遊びに行くまでお預けだ。
それまでじっくりいい曲を作ろうな!」

唯と自分に言い聞かせるみたいに澪が言う。
まったく……、私の言いたかった事を澪に全部言われちゃったな……。
そう思いながら、私が頭を掻いて苦笑していると不意に肩を軽く叩かれた。
振り向いてみると、ムギが優しい顔で微笑んでいた。
その顔には『私も言いたい事を言われちゃった』って書いてあった。
ムギも同じ気持ちなんだな……。
昔から澪にはいい所を取られちゃうんだよなー。
梓に『天使にふれたよ!』を贈る時も、いい台詞取られちゃったしな。
くっ、ずるいぞ、澪!
でも、まあ、いいか、と私はムギと顔を合わせて微笑む。
それがある意味、私達の放課後ティータイムってやつだ。
大学でも変わらずに楽しくやってる私達の関係。
和もそんな私達の姿を見た方がきっと喜んでくれるだろう。

「はいはい、皆!」

澪の部屋中に響くような高い声が聞こえる。
その声を出したのはカメラを持った曽我部先輩だった。
大きい声だったけど、別に怒ってるわけじゃなくて、
単に皆の注意を自分に集めるために声を張っただけみたいだ。
流石は元生徒会長。
騒ぐ後輩達を静かにさせるのには慣れてるらしい。
私達は皆して曽我部先輩に視線を集める。

「メッセージ・ソングもいいけど、まずは先に今日のプレゼントを贈らないとね。
はいはい、皆、画用紙を持って並んでくれるかしら?」

曽我部先輩に言われるまま、
私達は菖達が用意した三枚の画用紙を分担して手に持って並ぶ。
一枚目は唯と晶、二枚目は澪と幸、三枚目は私とムギと菖って形で分担した。


「あれー?
めぐみん先輩は入らないの?」

唯がちょっと残念そうな顔で訊ねると、曽我部先輩が苦笑して応じる。

「写真を撮る人が居ないといけないでしょ?
私は後で入らせてもらうから安心して、唯ちゃん。
それにね、まずは真鍋さんに唯ちゃん達と新しい友達の姿を贈ってあげたいの」

「そうなんだ、ありがとう、めぐみん先輩!
めぐみん先輩は私が後で可愛く撮ってあげるね!」

「うふふ、ありがと、唯ちゃん。
それじゃあ、早速撮るから皆いい顔でね。
……と、その前に」

「何ですか?」

澪が訊ねると、曽我部先輩が楽しそうに微笑んだ。
普段と違う悪戯っぽい笑顔がとても映える。
知的な生徒会長に見えるけど、澪ファンクラブの会長をしてただけあって、結構お茶目なんだよな。

「実はね、皆の話を聞いてて思い付いたんだけど、
真鍋さんの留学先で貴方達で対バンしてみせるっていうのはどうかしら?
真鍋さんに贈るメッセージ・ソング対決!
悪くないと思わない?」

「わあっ、素敵ですねっ!」

真っ先に反応したのはムギだった。
瞳を輝かせて、凄くワクワクした表情を見せてる。
まあ、ムギってそういう楽しそうなの好きだからなあ……。
かく言う私もかなりワクワクしてるわけだが。
雪辱戦……。
やってやろうじゃないか……!

「うーん……、つってもなあ……」

ちょっと苦々しくそう呟いたのは晶だった。
私は頬をわざと膨らませて晶に言ってやる。

「何だよー、晶は対バン嫌なのかー?」

「別に嫌ってわけじゃないぞ。
対バンやっても私達が勝つしな。
でも、判定はその和って子なんだろ?
言わば律達の身内じゃないか。
律達贔屓の判定が下されちゃうんじゃないか?」

「あー、心配すんな、晶。
それは絶対に無いから」

私が自信満々に言うと、唯、澪、ムギがうんうんと頷いた。
ちょっと驚いた表情で、晶が私にまた訊ねる。


「な、何でだ?」

「和ってそういう事に贔屓とか持ち込まない奴なんだよ……。
むしろ私達の事をよく知ってるからこそ、私達に不利な判定をしかねない……。
和ってそういう厳しい生徒会長なんだよな……」

「そ、そうなのか……。
何て言うか、おまえらも大変だったんだな……」

「うむ……!
まあ、それが和のいい所でもあるんだけどな。
とにかく、それなら対バンしてもいいだろ?
菖も幸もそれでいいよな?」

「うん……!」

「負けないよ、りっちゃん!」

幸と菖が楽しそうに頷き、晶も苦笑してから指でオッケーマークを作った。
ははっ、何だか楽しくなってきたな。
曽我部先輩が私達の様子を満足そうに見渡すと、笑顔でまた宣言するみたいに言った。

「話の腰を折っちゃってごめんね。
それじゃ、そろそろ写真を撮っちゃうわね。
皆、いい顔してねー!」

「はいっ!」

皆で頷いて、カメラの方向に目一杯の笑顔を向ける。
和へのテキスト無しのメールに添付する写真を撮るために。
私達は和の事を考えて笑顔になる。

なあ、和、見てくれよな。
これが大学生活を送ってる私達の姿だ。
おまえほどじゃないと思うけど、頑張ってる私達の姿だ。
ゆっくり見てくれると、嬉しい。
そして、知ってるかもしれないけど、改めて紹介するよ。
この三人が私達の新しい友達だ。


背が高くて髪が長い奴が林幸。
ベース担当で、澪よりベース歴が短いのに物凄く上手いんだ。
大人しく見えるかもしれないけど、意外とアクティブな所もあるんだぜ。
この三人で恩那組ってバンドを組んでるんだけど、そのバンド名を付けたのって幸らしいんだよな。
ははっ、私と同じ感性だなんて意外だろ。
和と会った時にどんな話をするのか私も気になる。

私より小さくて金色の髪をしてるのが吉田菖。
ドラムをやってて元気いっぱいで、私とは凄く気が合ってる。
単純そうに見えるけど、たまに深い事を言ってハッとさせられる事もある奴なんだ。
それと意外とファッションリーダーでもあるんだ。
前に一緒に買い物に行った時、妙に可愛らしい服装にさせられてびっくりしたよ。
でも、ちょっと楽しかった。
今度和に会う時、その恰好をしてみるからさ、感想頼むな。

んで、ガラの悪そうなのがギターの和田晶。
怖そうな奴で、実際にも結構怖いんだけど、中々いい奴でもあるんだ。
寝坊ばかりする唯を毎朝起こしてくれたり、
意外に一途だったり、傍から見てて面白い奴なんだよな。
そうそう、こいつ唯みたいにギターに名前付けてんだぜ。
ロザリー……だったかな?
もしかしたら唯に近い感性を持ってるのかもな、意外と。
唯の扱い方のアドバイスを求めに行くと思うから、その時はよろしくな。

私達は相変わらずだけど、ちょっとずつ変わってる。
ムギはどんどん庶民的になってて面白いし、
澪はちゃんと一人で幸と友達になる事が出来たし、
唯も変わってないようで、知恵熱出すくらいに音楽について考えてたりしてたんだ。
曽我部先輩も元気で面白い所を気軽に見せてくれるようになったよ。

私は……、うん、私も頑張ってる。
和には敵わないと思うけど、ちょっとずつ頑張ってるんだ。
自分がドラムを続けてていいのか悩む事もあったけど、ちょっとずつさ。
出来ればボケ防止になるくらいにまでドラムを続けたいけど、何処までやれるかは分からない。
また挫けそうになる事もあると思う。
でも、そんな時は私よりずっと先を進んでる和の事を思い出すよ。
なにくそ、和は私よりもっと頑張ってるんだ、ってな。

「それじゃあ、撮るわねー!
はい、皆で一緒にー!」

曽我部先輩がそう言ってから、唯達、澪達、私達の順で、
手に持った画用紙に書かれた文字をそれぞれに読んでいく。

「誕生日!」

「おめでとう!」

「和!」




誕生日おめでとう、和!



今のプレゼントはこれだけだけど、いつか必ず留学先に会いに行く。
その時に歌うよ、私達からおまえへ贈るメッセージ・ソングを。
贔屓は別にしなくていいけど、出来れば私達にも公平に聴いてくれよな。
私達はその時を凄く楽しみにしてる。
晶達、恩那組も楽しみにしてくれてる。
和も楽しみにしてくれると嬉しい。


カシャッ!


曽我部先輩が撮影ボタンを押して、シャッター音が鳴る。
私達の想いの込められた写真が撮影される。
まずはここまで。
今はここまで。
今回の誕生日プレゼントは、この写真をちょっとだけ加工しておしまいだ。

本当の誕生日プレゼントは、おまえとまた会えた時に贈るよ、和。
その時にこそ、おまえに私達の感謝とか想いとか……、
おまえに届けたいたくさんの気持ちを全部込めた歌を作るから、待っててくれよな!
それが私達から和に贈る本当の誕生日プレゼントだから……!
貯金はすっからかんだからまだまだ先になると思うけど、絶対皆で会いに行くから。
都合が合いそうなら梓や憂ちゃんも誘って会いに行くから。
腹がよじれるくらい笑顔になって、皆で――



――皆で思いっきり遊ぼうな!


これで終わりです。



最終更新:2012年12月26日 21:41