ケイン「じゃあ、それと似た状況の今なら帰れるって事か?
いや、その余波が残っている今の間に即ワープ? しないとオレ達は帰れなくなるのか?」

キャナル「いえ、その原理も解析済みよ。
このまま即帰るのも可能だし、その力の余波は今回収してるから、
それが必要量に達したらどの場所からでも私達の時代へ帰還出来るわ」

ケイン「なるほどな。回収し終えたら、未来へのワープ機能を持ち運べるって訳だ」

キャナル「そうね。自分だけでは作成出来ないものだから、使い捨てのエネルギーだけど」

ケイン「それを終えるまでの時間は?」

キャナル「……ちょっとかかりそうね。
明日の朝位までかしら。
最高速で恵ちゃん達を送り届けて、最高速でここに戻ってきてから力の回収作業を再開する、って事も一応出来るけど……」

ケイン「…………
そうか。
恵、どうする? このまますぐ帰りたいって言うなら送る。
だがよかったら一晩ここに泊まらねえか?
正直オレはしんどい」

その視線を見るに、完全に恵に決断を任せているようだ。

恵(……帰るのが明日になったら、確実に怒られるわね……
澪たんには門限があるかもしれないし……)

しかし、恵は言った。

恵「いえ、泊まらせて下さい。私もクタクタなので、眠りたいです」

ケイン「……だな。
よし、一つだけだが使える部屋がある。
ってまあ、オレが眠る為にザッと修理しただけの場所だから、部屋と呼んで良いかわからねえレベルの空間だが……
寝るだけなら問題は無いはずだ。
澪と一緒にそこへ行ってくれ」

恵「ケインさんは……?」

ケイン「オレはここで良い。つーかここが良い。
さすがにお前らと一緒に寝る気にはなれねえし、お前らを廊下やこんな所で寝かせたら落ち着かねえ」

それは多分に本心も含まれているのだろうが、それ以上に彼の気遣いが見て取れ、恵はほほ笑む。

彼女は、その気遣いをありがたく受け取る事にした。

恵「わかりました。ありがとうございます」

立ち上がって深々と頭を下げると、恵は澪の前へ行く。

ケイン「っと、さすがにもうキツいだろ。
今回はオレが運ぼうか?」

恵「いえ、大丈夫です。
私にやらせて下さい」

ケイン「……わかった」

穏やかながらも強い意思の瞳を向けられ、ケインは頷いた。

ケイン「じゃあキャナル、すまないが二人を案内してやってくれ」

キャナル「OK」

ケイン「あと例によってボロボロだし、ロクな物はねえが……
シャワーは使えるし、食べ物もちょっとはある。必要なら言ってくれ」

恵「はい。
……あの、ケインさん」

ケイン「ん?」

恵「目が覚めたら、ちょっとだけで良いので宇宙をまわって貰えませんか?
澪たんと……彼女と見たいんです」

──その為だったら、後でいくらでも私が怒られれば良いわ──

ケイン「ああ、わかった」

恵「ありがとうございます」

恵はもう一度頭を下げると、澪を抱えてキャナルと共にコクピットから出て行った。

ケイン「…………」

それを確認すると、ケインはシートの上で再び脱力する。

ケイン「……なあ」

そして、ぽつりと声をかけた。


キャナル『はい?』


どこからか聞こえて来るキャナルの声。

立体映像のキャナルは恵を案内中だが、
『ソードブレイカー』内なら、こうして更に別の場所で他の人物と会話する事も可能だ。

ケイン「力の余波の回収とやらに、本当にそんな時間がかかるのか?」


キャナル『いえ。もう終わりそうよ』


返ってきたのは即答だった。

ケイン「やっぱりな」


キャナル『ふふっ。でも、貴方だって同じ事考えてたんでしょ?』


ケイン「まあな」

あれだけ絆の深い二人だ。こんな事件の後だからこそ、誰にも邪魔されない場所でゆっくりして欲しかった。

もちろんただのお節介になってはいけないので、すぐに地球へ帰る道も示したが。

ケイン「誰も犠牲が出なくて良かったな。
あいつら……良かったな」


キャナル『ええ、本当に……
お疲れ様、ケイン』


ケイン「……お前も、な」

そうぽつりと言い残し、ケインは深い眠りに落ちて行った。


キャナル『……さすがは私のマスター様』


そんな彼に精一杯の労いと信頼を込めて、キャナルは言った。

──お休みなさい──

────────────────────────────

恵「ふう……」

殺風景のボロボロの部屋。それでも一つだけある毛布の上に澪を寝かせ、恵は大きく息を吐いた。

恵「疲れた……
でも良かった」

恵は、澪の頭を愛おしげに撫でる。

振り返れば、よくこんな最高の結末になったと思う。

何度も逃げ出そうと思った。

でも。

恵「逃げなくてよかった……」

恵の瞳から安堵の涙が一粒零れ、澪の頬に落ちた。

澪「……ん……?」

恵「あっ!」

澪「ここは……?
……そっか、私……」

恵「ごめんね澪たん、起こしちゃったかしら……?」

澪「いえ、そんな事はないです」

体をゆっくりと起こしながら、澪は首を振る。

澪「私……覚えてます。
あの怖い場所から、恵先輩が私を助け出してくれたのを」

恵「えっ?」

澪「それにその後、ケインさんとキャナルさんが真っ黒な怖いのと戦ってて、先輩は側で私を守ってくれてたのを……
夢の中で、ずっと見てました」

と、澪は天使のように美しい笑顔を浮かべた。

澪「本当に、ありがとうございました」

恵「そんな……私、何もしてないわ」

澪「そんな事はないです。
先輩は私の側に来てくれました。居てくれました。
それがどれだけ嬉しかったか。心強かったか……」

恵「澪、たん……」

今度こそ、恵は泣いた。

もちろんそれは、歓喜の涙で。


ぎゅっ。


そんな恵を、澪が優しく抱き締める。

恵「あ……」

そして、そのまま甘い口づけを交わす。

恵「ん……」

唇を離した時、澪の顔は真っ赤になっていた。

恵(澪たん……恥ずかしがり屋なのに、勇気を出して……)


『私は、この人が愛しい、愛しい、愛しい』


溢れる想いは、二人同じだった。

澪「先輩……だいすき。
愛してます」

恵「私も……」

──今の私に出来る事──

恵「愛してる」


すっ……


そう、二人はたどり着いたのだ。

────────────────────────────

朝露滴る海辺。

昨日三人で宇宙へと飛び立ったあの場所に、今は四人で立っていた。

あれから明け方まで眠り、少しだけ宇宙をまわって皆で楽しんだ後の事である。

本当はもう少しゆっくりしたかったが、誰にも何の連絡もしていない恵と澪としてはあまり遅くなる訳にもいかなかった。

恵「うーっ、寒いわね!」ガタガタ

澪「は、はい……」プルプル

ケイン「オレは平気だ! なんたってマントがあるからな!
お前達もどうだ!? マント! 永遠のトレンドだぜっ!」

恵・澪『いりません』

ケイン「なんでだぁっ!」

キャナル「はいはい、コントはそこまで」

両掌を『ぽんぽんっ』と叩きながら、キャナルが割って入る。

ケイン「コントじゃねえ!」

キャナル「でも、本当にここで良いの?」

恵「はい。
もう少し、彼女とお散歩して帰りたいから……」

澪「…………///」

ケイン「良いね良いねっ!
こいつぁやっぱり良いものだっ!」

キャナル「今の私にはわかるわ。
胸が暖かくなる感覚がっ♪」

仲良くする恵と澪を見て、ヘヴン状態になるケインとキャナル。

恵「──ともあれ、重ね重ねありがとうございました」

澪「あ、ありがとうございましたっ!」

ケイン「あー、それはもう良いって。
それよりこっちこそサンキューな。
色々学ばせて貰ったよ」

キャナル「私からもお礼を言わせて頂きます」

恵「それこそもう良いですよ」

澪「は、はいっ!」

ケイン・キャナル・恵・澪『…………』

ケイン「……へへっ!」

恵「ふふっ!」

キャナル「あははっ!」

澪「ふふふふっ!」

お互いに同じようなやり取りをした事がおかしくて、四人は笑い合った。

ケイン「──じゃあ、オレ達はそろそろ行くわ」

そして、ケインが言った。

恵「そう、ですか……」

澪「あっ、あの……また会えますか!?」

キャナル「それは……無理ね。
残念だけど……」

ケイン「……もう『ダークスター』は居ねえからな」

澪「そう……ですか……」

ケイン「だが、オレはこの世界での事を──
恵と澪の事を忘れたりしねえ」

キャナル「私もよ」


スッ……


恵「私達も──」

澪「忘れません」

二人が差し出した手を、恵と澪はきつく握った。

────────────────────────────

『ソードブレイカー』が行く。彼らが居るべき場所へと、帰って行く。

やはりステルスをしている為、飛び立つその戦艦の姿はもはや見えない。

それでも、恵と澪はしばらくの間空を見つめ続けていた。

朝日煌めく海辺で、お互いに寄り添い合いながら。

────────────────────────────

恵「……じゃあ、帰りましょうか」

やがて、恵が歩き出した。澪の手を引いて。

澪「はい」

嬉しそうに澪が続く。

しかし、彼女は少しだけ顔を曇らせる。

澪「でも、ママ……お母さんとお父さん、怒ってるだろうなぁ……」

わずかに震えているのは、寒さのせいだけではないだろう。

恵「大丈夫よ。ゆうべも言ったように、私がかわりに怒られてあげるから」

澪「そっ……!///
そんなの悪いですよ……///」

恵「……!///
ちょ、ちょっと、顔赤くしないでよっ///」

ゆうべの『何か』を思い出したのか、二人共立ち止まって顔を真っ赤にする。

澪「と、とにかく駄目ですっ」

恵「……わかったわ。
じゃあ、二人一緒に怒られましょ?
それなら良いわよね」

澪「はい。そうですね」



……………………

…………

ケインとキャナルに続き、恵と澪も帰る。

彼女達が居るべき場所へ。

嫌な事もあるけれど、それ以上に楽しくて、ありがたくも愛しい日常へと。

ただ、その日常にも一つだけ大きく変わった事がある。

それは……

……………………

…………

恵「……澪たん」

澪「はい」

恵「これから、よろしくね」

澪「はいっ!
恵さん……」

……………………

…………

恵の隣には澪が。

澪の隣には恵が居る事。

永遠に、ずっと。



完。




最終更新:2012年12月28日 02:50